1型糖尿病と歩こう
“この子”への療養指導

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「子育ての視点」にたって考えたらどうだろう? ――乳児から学童へ,学童から思春期へ。小児1型糖尿病をもちながら日々成長する子どもたちを,家族と共にサポートする,すべての医療従事者に伝えたい療養指導のエッセンス。糖尿病外来で20余年,子どもたちを見つめてきた著者が編む,マニュアルと経験則を超えた糖尿病教育の実践書。
青野 繁雄
発行 2003年06月判型:A5頁:184
ISBN 978-4-260-11919-1
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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第1部 小児1型糖尿病の療養指導とは
 A. 成長期における療養指導(基礎的なこと)
 B. 療養指導の効果を上げるために(実践のための具体策)
第2部 小児1型糖尿病の療養指導の実際
 A. 治療・管理のスタンダード
 B. 患者教育に必要な知識
 C. 治療
 D. シックデイ,旅行など特別な状況での対処
参考文献・参考書籍
あとがき
索引

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目の前の“この子”と一緒に開く,糖尿病療養指導の実践書
書評者: 中村 慶子 (愛媛大教授・看護学科)
 『1型糖尿病と歩こう』この小さな1冊に出会ったのは,平成15年5月,第46回糖尿病学会,糖尿病サマーキャンプのこれからについて語り合うシンポジウムの打ち合わせ会で,著者である青野繁雄先生と同席させていただいた時でした。福岡ヤングホークスキャンプを指導されている岡田朗先生が笑顔でこの1冊を掲げて,「これ」と青野先生に合図を送っていました。さっそくその会場で求めました。ページを開いた最初の章から,子どもとその家族が目の前にいるような情景が浮かんできました。子どもたちの表情が,ご家族の変化していく様子が。彼らの声さえも聞こえてくるように思えました。青野先生の診察室の情景に加えて,成長していく子どもたちの姿が時空を超えて見えるようでした。

◆糖尿病教育の現場には正しく新しい学問知識が不可欠

 日本糖尿病療養指導士の誕生は,糖尿病の教育やそれにかかわる人達に多くの学習の機会を与え,その質的向上に大きく貢献していると思います。しかし,その人達の集まりでは,「子どもの糖尿病はよくわからない……」「1型糖尿病の子どもを看るのは初めてのことで……」ということがあります。そんな人はぜひ,今,目の前にいる“この子”と一緒にこの本を開いてくださいとお薦めします。1型糖尿病の子どもではなく,子どもの糖尿病でもなく,“今のこの子”に必要な支援を見出すためには,不可欠な教科書であり,実践書になってくれると思います。

 青野先生は,「糖尿病教育の現場では学問的知識に加えて,経験に基づく知識,あるいは知恵も大切……」と第1部の冒頭で述べています。私は確かに経験と知恵は大切な要素であると思いますが,それらの根底には,正しく新しい学問的知識の存在が不可欠であると考えています。糖尿病教育にかかわる者にはそのための学習や研鑽は義務であり,経験と知恵はこれらの知識と相互に関係し,円環的な効果を示すものであると思います。この本の中では,“この子”のための知識として,代謝や思春期の内分泌機能の影響,検査データの判断など,私たちにとっては難解な知識の部分がわかりやすく解説され,CSIIや間もなくわが国で発売される超遅効型インスリン製剤,さらに小児の内服薬の治療や合併症への対応など最も新しい知識が網羅されています。そして,何よりも心強いのは示された1型糖尿病をもつ子どもたちへの療養指導や治療の1つひとつに根拠があることです。やさしく示された指導方法とその根拠には,青野先生とそのグループの先生方の経験に基づく知識と知恵,研究成果の裏づけが伺えます。

◆改めて問われる“この子に必要な支援”

 バッグにすっぽり入ってしまう小さな本『1型糖尿病と歩こう』は,糖尿病の療養指導にかかわる私たちに求められる能力や有り様から,子どもたちや家族の方々にわかりやすく説明できるための資料や方法論までを支援してくれています。さらに,子どもの糖尿病の療養指導を専門に担当してきた者には,うっかりと陥りやすい落とし穴を警告し,改めて“今,この子に必要な支援とは?”を問いかけてくれるものであると思います。そして,子どもの思い,親の思い,医療スタッフの姿勢やものの見方を問い直してくれています。つまり「1型糖尿病と歩こう――“この子”への療養指導」とは,特別な環境を作ることではないこと,子どもの話を聞くこと,コントロールが不良な子には改めて単純な質問をすること,そして,子どもの自己管理能力の向上を待ってやること……。

 1型糖尿病をもつ子どもたちにとっては,糖尿病であることが特別ではなく普通のことであると言えます。そんな1型糖尿病をもつ子どもたちみんなのための環境づくりと,子育ての視点に立った1人のための療養指導の継続に,青野先生からのメッセージが,この小さいけれど賢い本を介して発展していくことを期待しています。

1型糖尿病児の生活を支えるすべての人に
書評者: 松浦 信夫 (北里大教授・小児科)
◆認知されにくい1型糖尿病

 わが国の子どもの1型糖尿病の発症率は低く,結果として社会的認知が得られにくい状況にあります。そのため,1型糖尿病の子どものための解説書は非常に少なかったのですが,最近では日本糖尿病学会,日本小児内分泌学会,国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)などのコンセンサスガイドブック,外国の翻訳本,小児糖尿病専門医による解説書が出版されてきています。このような中,青野繁雄先生による『1型糖尿病と歩こう―“この子”への療養指導』が出版されました。青野先生はご夫婦で大阪市立大学小児科の糖尿病部門の責任者として,長い間小児1型糖尿病の診療にあたられてきました。現在は寺田町こども診療所を開設され,多くの糖尿病患者さんの診療にあたっておられます。さらに,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会小児糖尿病対策委員会,厚生労働省糖尿病研究班など数々の公的な仕事もされ,また近畿地方の糖尿病小児のサマーキャンプにもかかわってこられました。

◆心の問題を核とする著者の思い

 青野先生が糖尿病児並びにそのご家族の心の問題を核にして診療されている様子は,学会の発表などからも十分に伺えます。1型糖尿病のように,慢性の病気をもった本人並びにご家族の心理的な負担は計り知れないものがあります。あまりに厳格にしても,また放任にしても,療養上うまくいきません。これまでの小児1型糖尿病の解説書の多くは1型糖尿病とは何か,インスリン量の調整法,シックデイの対応など,日常の診療に必要なことの解説が中心でした。子ども本人並びにご家族の心理的な面を含めた解説書は少なかったように思います。一方,先生の姿勢が十分に表された本書は,子ども本人並びにご家族の心理的な面を含めた解説書です。冒頭の“はじめに”に書かれている言葉には,まさしく出版にあたってのこの点における青野先生の気持ちが表われています。

 1型糖尿病のような慢性疾患に対する治療の動機付けで最も大切なのは,最初に診断したときの主治医の話し方,説明にあると言われています。それが,その後の病気に対する気持ち,態度を決めると言っても過言ではありません。この本の中にみなぎっている思いは,長い間にたくさんの患者さん,ご家族の方々から受けた経験からにじみ出てきたエッセンスのように思われます。タイトルで1型糖尿病の「治療」ではなく,「療養指導」という語を使用されたのも,そのような思いが背景にあるようです。療養指導の基礎的なことをこの本の前半部分にお書きになられたのも,先生の気持ちを表しているものと思います。

 目次構成も乳児,幼児,学童,思春期と,成長過程にある各年齢層の子どもへのアプローチの仕方から入っていて,とても解かりやすく読みやすい本です。特に医療者が一番診療に苦慮する「問題のある子ども」への対応の仕方は,1型糖尿病を専門にしているわれわれにも大いに参考になる点です。

 この本が思春期以上の患者さんおよびそのご家族はもちろんのこと,将来糖尿病の専門医をめざす若い小児科医,現在小児糖尿病を診療している小児科医,あまり小児糖尿病を経験していない内科糖尿病専門医など多くの方に読まれることを願っています。また,学校の現場で1型糖尿病児の生活を支える養護教諭,担任教師にもぜひ読んでいただきたいと思います。

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