理学療法の本質を問う

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社会の要請の変化に伴い,理学療法士の業務が拡大するなかで,その基盤となる教育,実践的理学療法,研究におけるサイエンスの構築と,自己と他者(対象者)を含む総体的な人間観察について,著者自らの経験を踏まえて考察。学生・若手PTへの道案内としてだけでなく,これからの理学療法を真摯に問うすべてのPTにとっての必読書。
奈良 勲
発行 2002年07月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-24410-7
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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  • 目次
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第1章 ひとりの理学療法士として-国際的視野で考え行動してみたい
 1. 私が理学療法士を志向した背景
 2. アメリカでの留学生活(1966~1969年)
 3. アメリカでの実務体験(1969~1971年)
 4. 日本理学療法士協会,WCPTとのかかわり
第2章 理学療法の概念と枠組み
 5. 理学療法の概念と枠組み
 6. 日本の理学療法の歴史的概要
 7. WHO国際障害分類の改定
第3章 理学療法の本質
 8. 理学療法-その倫理的・哲学的背景
 9. 一般的理学療法業務の流れ
 10. 理学療法の介入手段
 11. 理学療法と医学的リハビリテーション
 12. 学問的・科学的であることの意義
 13. 科学としての理学療法(学)
 14. 研究のすすめ
第4章 理学療法士であるということ
 15. 理学療法学教育
 16. 臨床におけることば-哲学的リハビリテーション人間学の観点から
 17. 理学療法士のアイデンティティー-理学療法体系の再構築
 18. 理学療法士としての適性
 19. 組織としての日本理学療法士協会とWCPTの意義
 20. 理学療法におけるサイエンスとアート-あとがきに代えて

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理学療法士集団の未来に向けての真摯なメッセージ
書評者: 沖田 一彦 (広島県立保健福祉大助教授・理学療法学)
◆わが国の理学療法士の強力なリーダーとしての活躍

 組織とか社会といった集団の性格は,ひと括りにして語られることが多い。しかし,集団の持つ性格や方向性は,そこでリーダーシップをとる人間のそれに強く影響されている。逆に,そうでない集団が長続きしないことを,われわれはよく知っている。
 本書の著者は,1989年に日本理学療法士協会の会長に就任して以来,今日に至るまでわが国の理学療法士の強力なリーダーとして活躍してきた人物である。本書を読めば,著者がどれほど個性的な考え方で時代をリードしてきたかがわかる。
 本書は,全4章20節からなる。おもしろいのは何と言っても第1章と第4章である。なぜなら,その文章の多くが,一人称,すなわち「私は」で書き始められているからだ。医学・医療の業界で少しでも文章を書いた人間であれば,これにどれほど勇気がいることかおわかりだろう。それには“責任”が伴い“自信”が要求される。しかし,1960年代においてすでに,著者にはその両方が備わっていた。そうでなければ,(あの時代に)アメリカの大学の理学療法学部を卒業し州の資格試験に合格した後,せっかく就職が決まった病院を,「職員のヒゲ(著者のトレードマーク)は許可されていないので剃ってほしい」と言われたことで辞職したりはしない。読者は,第1章においてすでに,著者がリーダーとなる必然があったことを了解する。

◆後進に残した課題

 考えてみて欲しい。30年前のわが国の理学療法がどのような状況にあったかを。筆者の覚えている20数年前ですら,少なくともそれは,哲学だの大学院だのと言う状況とは程遠かった。当時,アメリカから帰国した著者には,その状況を変えなくてはならないという強い信念があったはずである。そのあたりの事情は,第2章に詳しい。また,それを実現するために,理学療法(士)にどのような科学的背景が必要になるかを論じたのが第3章である。
 この第3章に書かれた内容については,妥当なものもあればそうでないものもあるように感じる。浅学を省みずに言えば,こんな時代だからこそ,第4章に「理学療法士の詩」として掲載されている自作の詩の一節として,「それでも修行に修行を重ね痛みも分かる感性が養われ 患者の信頼をときたま受ける そのときの感激が忘れられず 安い給料に泣き泣き耐えてきた」と表現されている理学療法(士)の哲学や価値を,第3章の内容と区別せずに表現してほしかったという思いはある。
 しかし,それは著者が後進に残した課題なのだと思う。『理学療法の本質を問う』とは,われわれ自身に向けて発せられた言葉にほかならない。だから,本書は単なる“読み物”ではない。われわれには,1人の人間が「愛している」と表現する集団の未来に向けて書かれた本書に対峙し,そこに込められたメッセージを読み解くことで,自分たちの手で未来を切り開いていく責任がある。

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