EBM時代の症例報告
時代に合致した症例報告のために
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症例報告は,研究デザインとしては決して高いランクにはないが,EBM全体からみるとメタ分析の出発点になるなど重要な位置付けがされている。本書では,EBM時代における症例報告の今日的な位置付けや活用法,EBMに効果的に活かすための症例選択の基準,上手なレポート作成について解説する。
原著 | Milos Jenicek |
---|---|
訳 | 西 信雄 / 川村 孝 |
発行 | 2002年01月判型:A5頁:224 |
ISBN | 978-4-260-13885-7 |
定価 | 3,850円 (本体3,500円+税) |
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第1章 現代の症例報告すなわち医学的決疑論の重要性
第2章 エビデンスに基づく医療:症例報告の落ち着き先.EBMにおける症例報告の役割
第3章 人間科学と医学文化における症例研究,決疑論,決疑法
第4章 「学術性」をもたない日常の症例報告
第5章 一例報告をどうまとめるか:文学的随筆からエビデンスの報告へ
第6章 症例報告の注釈つき実例
第7章 複数症例の観察をもとにしたエビデンスの評価:症例集報告と症例の系統的レビュー
第8章 単一症例研究や症例集研究の拡張:観察事項の単純な報告を超えて
第9章 次は何か
第2章 エビデンスに基づく医療:症例報告の落ち着き先.EBMにおける症例報告の役割
第3章 人間科学と医学文化における症例研究,決疑論,決疑法
第4章 「学術性」をもたない日常の症例報告
第5章 一例報告をどうまとめるか:文学的随筆からエビデンスの報告へ
第6章 症例報告の注釈つき実例
第7章 複数症例の観察をもとにしたエビデンスの評価:症例集報告と症例の系統的レビュー
第8章 単一症例研究や症例集研究の拡張:観察事項の単純な報告を超えて
第9章 次は何か
書評
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EBM時代における症例報告の重要性と価値を解説
書評者: 井村 洋 (飯塚病院・総合診療科)
『EBM時代の症例報告』というタイトルから,EBMと症例報告を無理やり結びつけたEBM便乗本かもしれない,と反射的に感じてしまった。しかし,著者の経歴は,あのEBM総本山のカナダ・マックマスター大学教授である。何かがありそうだ,という好奇心で本書を読み進める内に,「エビデンスとは大規模臨床試験からのみ得られるものではない,症例報告によってしか得られないものもある」という事実を忘れていたことに気づいた。私のような読者がたくさんいることを想定して,著者は全編を通してメッセージを送り続けている。「臨床家ならば真剣な症例報告者であれ。エビデンスとなりうる症例報告を行なえ。その方法は本書に示してあるから心配するな」と。
なんといっても本書の特徴は,症例報告の方法が57頁にわたって割かれていることであろう。特に,学術論文としての症例報告の方法について十分な説明が行なわれている。症例報告の理由や動機,要約,緒言,症例提示,考察という構成要素の,それぞれの意義と記載するべきことについての指針が示されており,ここを利用するだけでも症例報告の内容が格段によくなるような気がしてくる。初めて学会報告を担当する人には,強くお勧めする。幸いにも,著者は学会報告や症例記述に迫られた医師が,途中の章から読むことを想定して記載している。また,著者の厳密な要求基準を満たした実際の論文(食道食物嵌頓における心臓虚血を示唆する心電図変化)を全編提示していることは,本書のユニークな点である。しかも,その論文の症例報告における優れた要素についての注釈が,読者の理解を助けてくれる。症例報告を発表した経験のない者でも,著者の提示した方法をなぞらえることで質の高い報告を作れそうな気持ちにしてくれる。学会報告や論文執筆に限らず,退院時サマリーを書く際にも参考にするべきヒントがたくさん含まれていることは,ありがたい。
◆価値を生み出す症例報告の作り方を伝授
このような具体的な方法についての説明をはさむようにして,EBM時代における症例報告の重要性と,症例報告の価値と研究への可能性についての提言が述べられている。そこでは,「大半の臨床医は,コホート研究や症例対象研究あるいは複雑な診療試験を行なうことは決してないだろう。それでも最大限熟練した症例報告者ではあるべきである」に代表される刺激的で率直な意見が,豊富に散りばめられている。
2001年11月「JAMA」誌上に,生物テロに関連した肺炭疽症の症例報告が2編掲載された。あの時期,最前線に立つ臨床医にとって,これほど公表価値が明白な論文はなかったであろう。予言とも言える本書の提言が,まさしく実証されたケースであった。本書の価値は,序文の推薦文がすべてを言い表している。「症例報告は,真剣に学問的に考慮する値があり,著者は症例報告に受けてしかるべき光を当てたのである」。価値を生みだす症例報告を作りたいすべての人に,本書をお勧めいたします。
さらに成熟したEBM確立のための必読書
書評者: 中山 健夫 (京大大学院助教授・医療システム情報学)
このたび,Milos Jenicek教授による『Clinical Case Reporting in Evidence-based Medicine』(Arnold)第2版の邦訳『EBM時代の症例報告』が,西信雄先生,川村孝教授の手によって邦訳,刊行されました。Jenicek教授は,モントリオール大学,マクマスター大,マギル大学というカナダを代表する名門大学で教授を務められた著名な臨床疫学者であり,その前著は『疫学・現代医学の論理』(名古屋大学出版会)として邦訳版も出版され好評を博しています。
本書は,EBMの到達点を膨大な文献レビューにより鮮やかに俯瞰するとともに,「症例報告」の方法論をとらえなおす視点から果敢な再構成に挑んだ意欲作です。224頁の本書で引用されている文献は,実に500編を超え,臨床試験やメタ分析はもちろん,1人N回試験,対照なしの症例対照研究,質的研究,遺伝子疫学,さらには法廷におけるエビデンスの役割まで言及され,その視野の広さとバランスのよい問題点の整理には,感嘆するばかりです。これまで「症例報告」が,これほど立体的な枠組みの中で記述の対象となったことを寡聞にして知りません。まさに,「宇宙の中にはわれわれだけがいるのではない」(本書44頁)のでしょう。
◆確実に姿を現しつつあるEBMにおける症例報告
本書は,すでにEBMを実践し,量的な情報と質的な情報の両方への目配りの大切さを再確認されつつある読者にとって,特に有用と思われます。EBMにおける症例報告という「ミッシング・リンク」は,本書によって確実にその姿を現しつつあるようです。
以前,訳出に関わったRoseの『予防医学のストラテジー』(医学書院)を手にした時,真に社会の幸福を願う疫学者の志に感銘を受けました。本書もきっと同じように,多くの読者の新しい知識と展望を与えることでしょう。西先生,川村教授にはそのご慧眼のみならず,この密度の濃い著作を訳出するご苦労と,それを超えて本書をわが国に広く紹介されようとしたそのご情熱に改めて敬意を深めております。
EBMが患者志向の医療を実現する実践的知識,そして知恵の体系として,さらに成熟していくための必読書として本書を推薦する次第です。
書評者: 井村 洋 (飯塚病院・総合診療科)
『EBM時代の症例報告』というタイトルから,EBMと症例報告を無理やり結びつけたEBM便乗本かもしれない,と反射的に感じてしまった。しかし,著者の経歴は,あのEBM総本山のカナダ・マックマスター大学教授である。何かがありそうだ,という好奇心で本書を読み進める内に,「エビデンスとは大規模臨床試験からのみ得られるものではない,症例報告によってしか得られないものもある」という事実を忘れていたことに気づいた。私のような読者がたくさんいることを想定して,著者は全編を通してメッセージを送り続けている。「臨床家ならば真剣な症例報告者であれ。エビデンスとなりうる症例報告を行なえ。その方法は本書に示してあるから心配するな」と。
なんといっても本書の特徴は,症例報告の方法が57頁にわたって割かれていることであろう。特に,学術論文としての症例報告の方法について十分な説明が行なわれている。症例報告の理由や動機,要約,緒言,症例提示,考察という構成要素の,それぞれの意義と記載するべきことについての指針が示されており,ここを利用するだけでも症例報告の内容が格段によくなるような気がしてくる。初めて学会報告を担当する人には,強くお勧めする。幸いにも,著者は学会報告や症例記述に迫られた医師が,途中の章から読むことを想定して記載している。また,著者の厳密な要求基準を満たした実際の論文(食道食物嵌頓における心臓虚血を示唆する心電図変化)を全編提示していることは,本書のユニークな点である。しかも,その論文の症例報告における優れた要素についての注釈が,読者の理解を助けてくれる。症例報告を発表した経験のない者でも,著者の提示した方法をなぞらえることで質の高い報告を作れそうな気持ちにしてくれる。学会報告や論文執筆に限らず,退院時サマリーを書く際にも参考にするべきヒントがたくさん含まれていることは,ありがたい。
◆価値を生み出す症例報告の作り方を伝授
このような具体的な方法についての説明をはさむようにして,EBM時代における症例報告の重要性と,症例報告の価値と研究への可能性についての提言が述べられている。そこでは,「大半の臨床医は,コホート研究や症例対象研究あるいは複雑な診療試験を行なうことは決してないだろう。それでも最大限熟練した症例報告者ではあるべきである」に代表される刺激的で率直な意見が,豊富に散りばめられている。
2001年11月「JAMA」誌上に,生物テロに関連した肺炭疽症の症例報告が2編掲載された。あの時期,最前線に立つ臨床医にとって,これほど公表価値が明白な論文はなかったであろう。予言とも言える本書の提言が,まさしく実証されたケースであった。本書の価値は,序文の推薦文がすべてを言い表している。「症例報告は,真剣に学問的に考慮する値があり,著者は症例報告に受けてしかるべき光を当てたのである」。価値を生みだす症例報告を作りたいすべての人に,本書をお勧めいたします。
さらに成熟したEBM確立のための必読書
書評者: 中山 健夫 (京大大学院助教授・医療システム情報学)
このたび,Milos Jenicek教授による『Clinical Case Reporting in Evidence-based Medicine』(Arnold)第2版の邦訳『EBM時代の症例報告』が,西信雄先生,川村孝教授の手によって邦訳,刊行されました。Jenicek教授は,モントリオール大学,マクマスター大,マギル大学というカナダを代表する名門大学で教授を務められた著名な臨床疫学者であり,その前著は『疫学・現代医学の論理』(名古屋大学出版会)として邦訳版も出版され好評を博しています。
本書は,EBMの到達点を膨大な文献レビューにより鮮やかに俯瞰するとともに,「症例報告」の方法論をとらえなおす視点から果敢な再構成に挑んだ意欲作です。224頁の本書で引用されている文献は,実に500編を超え,臨床試験やメタ分析はもちろん,1人N回試験,対照なしの症例対照研究,質的研究,遺伝子疫学,さらには法廷におけるエビデンスの役割まで言及され,その視野の広さとバランスのよい問題点の整理には,感嘆するばかりです。これまで「症例報告」が,これほど立体的な枠組みの中で記述の対象となったことを寡聞にして知りません。まさに,「宇宙の中にはわれわれだけがいるのではない」(本書44頁)のでしょう。
◆確実に姿を現しつつあるEBMにおける症例報告
本書は,すでにEBMを実践し,量的な情報と質的な情報の両方への目配りの大切さを再確認されつつある読者にとって,特に有用と思われます。EBMにおける症例報告という「ミッシング・リンク」は,本書によって確実にその姿を現しつつあるようです。
以前,訳出に関わったRoseの『予防医学のストラテジー』(医学書院)を手にした時,真に社会の幸福を願う疫学者の志に感銘を受けました。本書もきっと同じように,多くの読者の新しい知識と展望を与えることでしょう。西先生,川村教授にはそのご慧眼のみならず,この密度の濃い著作を訳出するご苦労と,それを超えて本書をわが国に広く紹介されようとしたそのご情熱に改めて敬意を深めております。
EBMが患者志向の医療を実現する実践的知識,そして知恵の体系として,さらに成熟していくための必読書として本書を推薦する次第です。
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