精神科医療のストラテジー

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精神保健政策・管理の専門家である著者が,精神科医療の質改善のための種々のツールとその実際を解説。「機能分化」「チーム医療」「説明責任」を大きな柱に,「クリニカルパス」「リスク・マネジメント」「アウトカム」に言及。精神科医療の現状を分析し,将来像を明らかにした。すべての精神科医療関係者必読の書。
伊藤 弘人
発行 2002年03月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-11864-4
定価 3,630円 (本体3,300円+税)

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  • 目次
  • 書評

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第1部 現状と課題
 第1章 3世代が受ける精神科入院医療
 第2章 精神科医療の現状
 第3章 克服すべき課題とこれからの方向性
第2部 機能分化
 第4章 精神科医療が担う機能:機能分化試論
 第5章 長期在院者
 第6章 これからの精神科入院医療
 第7章 通院医療・相談活動
第3部 チーム医療
 第8章 クリニカルパス:過程からの質改善
 第9章 診療録・活動記録
 第10章 リスク・マネジメント
 第11章 連携
第4部 説明責任
 第12章 アウトカム測定
 第13章 患者満足度
 第14章 行動制限
 第15章 第三者評価

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今後の日本の精神科医療への心強い提言
書評者: 樋口 輝彦 (国立精神・神経センター総長)
◆求められるわが国の精神医療システムの改革

 日本の精神医療は,これまで緩やかに変化してきた。いや,緩やかにしか変化し得なかったのかもしれない。その間に急速に高齢化社会が到来し,少子化が進み,産業構造は変化し,ストレス社会と呼ばれる時代になった。このことと精神医療の中身がどう関係するかは別にして,これまでの緩やかな精神医療の変化の速度では,対処しきれなくなっているのは確かである。伊藤弘人氏は,この事実をもっとも敏感に感じとった者の1人である。彼は,国立保健医療科学院室長すなわち,行政と深い関係にある研究者の立場で,これから大きな変化をとげなければならないわが国の精神医療のシステムのあるべき姿を描くための材料を,われわれに提供してくれた。
 本書は,4部で構成されている。「第1部 現状と課題」は,そのタイトルのとおり,わが国の精神科医療の現状分析と課題の整理である。彼の基本的視点は,「はじめに」の中で述べられている。すなわち,「日本の精神科医療の優れている点を維持・推進しながら,改善すべき点の現状と原因を把握し,よりよい医療を提供できる方法を提示することである。そのために,日本の精神科医療の利点と問題を公平に評価し,問題点をいかに改善するのかについて考える」という視点である。

◆日本の精神科医療の現状・課題・方向性を詳述

 著者は,日本の精神科医療の現状を次の3点に要約している。(1)入院患者層の二極化,すなわち,長期在院と短期入院の二極化,(2)高齢化,(3)診療報酬上や看護基準による機能分化,このような現状認識に立って,著者はやはり3つの課題を設定している。
 第1の課題は,精神科医療の機能分化をどのように行なうかであり,第2は,長期在院者対策,第3は,精神科医療の内容や成果を説明するツールをいかに見つけるか(作るか),であるとする。著者は,これらの課題を克服するために3つの方向性を提示している。それは,(1)機能分化の方法,(2)チーム医療の確立,(3)説明責任をいかなる方法を用いて果たすか,である。この3つの方向性を第2部以下で詳述している。
 本書の特徴は,まず,第1に大変わかりやすく書かれている点である。難解なところは,まったくといってよいくらいにない。精神科医療に携わる人にとどまらず,多くの医療,福祉の関係者が読んで役立つ内容である。
 第2に,用いたデータが最新であり,またさすがに厚生労働省のお膝元の研究機関に所属されているだけあって,厚生労働省の専門委員会の資料が用いられているので説得力がある点である。
 第3に,具体的提言が盛り込まれている点である。クリニカルパスの有用性,診療録のあり方,リスク・マネジメントの取り組み方など,すぐに医療現場にフィードバックできる内容ばかりである。著者は,精神科医ではないが,精神科の医療現場はかなりよく知っておられる。したがって,著者の提言は机上のものに終わらない。このような若手の研究者に積極的に日本の精神科医療のあり方を提言してもらえるのは,大変心強いことである。
今後の精神科医療グランドデザイン構築に一石
書評者: 仙波 恒雄 ((社)日本精神科病院協会長)
 現在,日本は医療制度改革の最中にあり,精神科医療に関しても,これまでの医療法改正,精神保健福祉法改正を通じ,これからの精神医療福祉政策のあり方について議論が続けられてきた。しかしながら,現在までに明確な形での改革の精神科医療グランドデザインは,いまだできていない。

◆将来の精神科医療供給体制は,いかにあるべきか

 少子高齢化を迎えて,社会保障制度の抜本的構造改革に迫られ,医療福祉領域においても聖域なし,と医療費の抑制が行なわれ,2002(平成14)年度の診療報酬改定は,史上初めてのマイナス改定が行なわれるなど,将来が見えない不安な状況におかれている現状であるが,それだけにむしろ将来の精神科医療供給体制は,いかにあるべきかを明示することが,緊急課題となってきている。この時にあたり非常にタイムリーに,『精神科医療のストラテジー』という本書が出版された。著者は,新進気鋭の精神科医療政策通である伊藤弘人氏である。
 著者は,現在のホットな課題について,きわめて明快に日本の精神科医療を解析し,その特質と問題点を多くの資料を持って簡潔明瞭に述べている。また,著者はハーバード大学マクリーン病院での留学体験から,最新の諸外国の精神医療のあり方を紹介し,「日本の精神科医療の優れている点を維持・推進しながら,改善するべき現状と原因を把握し,よりよい医療を提供できる方法を提示することである。そのために,日本の精神科医療の利点と問題を公平に評価し,問題点をいかに改善するかについて考える」と述べ,読者をして納得させるものがある。現状と課題については,「1.入院患者層の2極化」,「2.高齢化」,「3.機能分化」をあげ,特に長期在院者問題を詳細に取りあげその対策を述べている。

◆精神科医療・相談活動に関わる実務家に最適

 ストラテジーとしては,よりよい医療を提供する方法として,機能分化の視点から時間軸・患者特性から急性期医療と慢性期医療の問題をとりあげ,チーム医療については,クリニカルパスの問題,根拠に基づく説明責任ではアウトカム測定,患者の満足度について述べている。全体で4部,15章にわたり日本の精神科医療の全体像にわたり,積極的かつ具体的な実践書となっている。したがって,本書は,精神科医療・相談活動に関わる実務家に最適の書であるし,また,精神科医療政策を論じるにも最適の好書である。本書が,精神科に関心のある方々にも広く読まれることをお勧めする。

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