老年者ケアを科学する
いま,なぜ腹臥位療法なのか

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人口の4分の1を“老人”が占める未曾有の超高齢社会が目前に迫りつつある。臨床の最前線で活躍してきた老年医学の第一人者が,来るべき“ケア不足”の超高齢社会をどう乗り越えればよいのかを世に問う。老年者がもつ複数の疾患を診るための「病態構成評価」を提案するとともに,それを有効にする腹臥位療法の実践を提唱。
並河 正晃
発行 2002年04月判型:B5頁:112
ISBN 978-4-260-33201-9
定価 2,200円 (本体2,000円+税)
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  • 目次
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第1部 老年者の実体と老年者ケア・診療の新たな展開の可能性
 第1章 老年者ケアは,ほんとうに,どうしようもなく大変なのだろうか
 第2章 疾患の優先から生活より生じる疾患の予防へ-若年患者と老年者の対比
 第3章 老年者のADLはなぜしだいに低下するのか
 第4章 腹臥位療法とは
第2部 積み木崩しでない老年者ケア・医療を目指して
 第5章 老年者の自立度を高める,きつくない介護・看護方法を考える
 第6章 適切な老年者診療構築への苦言と提言-各分野の諸問題と,わが国の研究,施策の現況から

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ある老年科医が託した「遺書」
書評者: 日野原 重明 (聖路加国際病院理事長)
◆闘病のなかの執筆

 本書の著者,並河正晃博士は1968年に京都大学医学部を卒業。4年後に米国に渡り,内科学を2年研修の後,ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学の老年科でさらに2年,フェローとして老年医学を修め,帰国後の1976年からは京都桂病院,近江温泉病院にて老年者診療を行なう傍ら,京都大学医学部講師および同大学医療技術短大の講師として,教育・研究も続けられた方である。

 1999年に不幸にも胃癌に罹患していることがわかり手術を受けられたが,2000年12月に再発のために再入院。その後,入退院を繰り返す闘病生活が続き,本書を上梓して間もない2002年7月,死去された。同年12月には,私が理事長をしている聖路加ライフサイエンス研究所の主催で第4回腹臥位療法セミナーを開催することになっており,その講師として出席を依頼しようと計画していた矢先の訃報であった。

 このように,本書は癌との厳しい闘病のさなか,30余年にわたる老年医学者としての臨床と思索をまとめ,後世に託した「遺書」ともいうべき書である。

◆腹臥位療法によせる思い

 日本では急速に老齢化が進んでおり,2025年にはケアを必要とする老人は500万人にも及ぶと予想されている。マンパワーに頼る現在の老人ケアでは,人手と経済の両面から立ち行かなくなるのは目に見えており,そのことへの強い危機感が,病を押して本書の執筆に著者を駆り立てたのである。著者の提案する新しい老年者ケアの方法は,臓器別診療を主流とする現在の医学的手法には馴染み難く,むしろ身体と併せて生活全体への視点をもつ看護的アプローチに近いものであり,看護に対する期待の大きさが本書の随所にうかがわれる。

 本書は2部構成になっている。第1部では若年患者と老年者との差を述べ,老年者へのケアでは「『生活に起因する疾患群(生活習慣病を含む)』の芽が,生活の段階で摘み取られ,大事(疾患)に至らないようにする予防がことに重要」である,と情熱的に述べられている。その具体的方法として提案されているのが,本書の副題である,腹臥位療法なのである。

 著者は,脊椎動物の進化に伴い,脊椎と内臓の位置がどう変化してきたかを人の体位と比較して説明し,心身の休息・休養に好ましい仰臥位やファウラー位を昼間もとり続けることにより,容易に発現する病態(拘縮,誤嚥,尿失禁,便秘・糞づまり・便失禁,褥瘡,周囲への反応性・注意力の低下)を「寝たきり廃用症候群」と名づけ,注意を喚起する。そして,それらが起こる機序と,腹臥位によってなぜ予防または治療が可能なのかを,主に重力が体位に及ぼす影響から解明していく。この間の説得力に富む論理展開は圧巻である。

 第2部には,老年者ケアと医療の革新についての自説が記されている。介護・看護方法を考える視点から,より少ない介護量で老年者の自立度を上げる具体的な方法を,著者はまず提案する。そして最後に,適切な老年者診療体系の構築に,看護学,理学療法学・作業療法学が果たすべき役割に言及している。特に医学の体系の中で,老年科医が健全に育ち難い状況にあることを,自らの体験を交えて論じ,むしろ,老年科を包摂する老年学の構築には看護学が首座を占める最短距離にある,と述べ,看護への大きな期待をにじませて本書を結んでいる。

◆目からウロコの老人ケア

 本書はすべての考えが理路整然と,しかも臨床的応用への方途が具体的に示されており,実践書としての特長を持ちつつ,考え方を整理するのにも最適な,思索の書といえよう。

 老年者ケアを目指す医師,ナース,理学療法士,作業療法士などは,本書を読まれれば,目からウロコが落ちる思いをもたれると思う。今は亡き並河正晃医師の教示により,日本の老人ケアが一段と前進することを望んでやまない。

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