看護と医療事故
対応・分析・防止

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ここ数年,医療過誤裁判において看護職の過失が問われることが多くなり,実際,判決でも看護職の過失を認める傾向が強まっている。看護職は臨床の場で日常的に起こりうるミスや,それに連なる事故への不断の対処を求められる。本書は看護の立場で,事故が発生したときの対応から事故の分析,さらに防止対策を示している。
石井 トク
発行 2001年11月判型:A5頁:212
ISBN 978-4-260-33153-1
定価 2,750円 (本体2,500円+税)
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  • 目次
  • 書評

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序章
第1章 医療事故に関する基礎知識
 1. 医療事故に関する用語と定義
 2. 医療事故の実態と訴訟の件数と特徴
 3. 医療事故に適用される法と紛争の解決方法
 4. 医療事故増加の背景
第2章 医療事故と看護婦の法的位置づけ
 1. 医師の注意義務と看護婦の注意義務
 2. 看護行為の注意義務
 3. 医療過誤凡例にみる看護婦の注意義務
 4. 看護職種の資格と業務責任
 5. 看護婦の業務範囲
 6. 訪問看護婦の業務責任
 7. 「助産ケア」の法的意味
第3章 実例からみた看護職の役割と責任
 1. 妊産婦死亡率の評価と医療事故
 2. 「助産ケア」と責任の所在
 3. 事故に対する看護リーダーの役割と責任
 4. 事例からみた看護婦の倫理規定と医療事故
第4章 事故発生時の対応と事故後の対応
 1. 看護事故が発生した場合の対応
 2. 事故発見のパターンと対応
 3. 事故後の被害者,加害者の心理状況
 4. 事故を起こした看護婦に対する教育的援助
第5章 医療事故の分析
 1. 医療事故分析の必要性
 2. 医療・看護体制からみた事故分析
 3. 看護過程分析法
 4. 助産婦による助産過程分析法
 5. 医師による医療過誤の特徴と分析
第6章 医療事故・医療過誤の防止対策
 1. 頻発する医療事故に対するわが国の医療事故防止対策
 2. 医療事故防止対策の基本
 3. 医療事故防止の3大原則
引用・参考文献
<資料>
 1. 訪問看護に関与する職種と業務独占
 2. 保健婦助産婦看護婦法
 3. 医師法
 4. 看護婦の倫理規定(全文と解説)
 5. 看護婦の規律
 6. 医薬品・医療用具関連事故防止対策について
 7. 消毒剤による医療事故防止について

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医療事故に看護職としてどう向き合うべきかを明示
書評者: 江守 陽子 (筑波大社会医学系)
 近年の医療事故増加の背景には,患者の権利意識や社会の医療に対する期待の高まりと同時に医療の高度化,複雑化が幾層にも絡み合い,単に1人ひとりが注意しあえばよいというのではなくなってきている。
 しかしながら,「患者取り違え」,「誤注・誤薬」,「医療機器の誤操作」など,看護職が関与する医療事故は,それが生命にかかわる重大性とともに同職者として,とても他人事としてはすまされない。
 石井トク著『看護と医療事故-対応・分析・防止』は,「医療事故に関する基礎知識」から始まり,「事故の実態」,「看護職の役割と責任範囲」,「医療事故発生時および後の対応」,「被害者,加害者の心理状況」,「事故分析と問題点」,「防止対策」の6章から構成され,「明日はわが身か」と,不安と緊張にさいなまれながら職場で働く多くの看護職に,医療事故にどう向き合うべきかを明確に示してくれている。

◆医療裁判分析からの看護の責任,専門性の追究

 著者は,早くから看護専門職としての倫理観や法的責任に着目し,それらをいち早く看護教育と研究にも取り入れてきた。現在は,岩手県立大学看護学部教授として学科長を務めるかたわら,厚生科学審議会専門委員や科学技術・学術審議会専門委員を歴任するなど,幅広い活動を行なっている。中でも長年医療事故訴訟と取り組み,多くの医療裁判を分析し,看護の責任,看護の専門性を追究する姿勢には,患者に対する強い責任感とヒューマニティが貫かれている。
 著者の論理は,明瞭である。すなわち,誤りがあったら償い正すべきだと。かつて医療訴訟で取りあげられた看護師は,当初はすべて医師の指示のままに働き,医師の単なる手足であるからとして罪を問われることはなく,一切の責任は医師にあると判断された。著者は,これを「看護無責任期」と呼ぶ。
 また,担当看護師が注意義務を怠ったとして,業務上過失致死罪に問われた静脈注射誤薬事件の後は,看護の臨床現場では注射行為だけでなく,診療の補助業務そのものを否定する,いきすぎとも言える「看護ケアの暗黒時代」があったことを指摘する。さらに,千葉大採血ミス事件,北大電気メス事件に代表される医師・看護師の「信頼と相互の責任」を問われた時代,褥そう裁判などの「看護ケアの質」が争われた時代へと,看護師の責任範囲はその時々の社会の状況,国民が望む看護の水準や質によって変化し,拡大するのだと説明する。
 だからこそ,看護職が自らを専門職と主張するのであれば,そして1人前に扱ってもらいたいのであれば,それなりの責任を取る覚悟をもって仕事に臨みなさい。それが専門職の当然の責務であり,また,患者の安全と生命を守ることになり,患者に優しくすることと同じことなのです。
 さらに著者は,看護職が専門職として時代の要求に即した知識,技術,知性,モラルを常に身につけるべく努力するとともに,患者にとって何が必要かを常に考え,患者擁護を阻害する体制や人間関係を打破しなくてはならないのだ,と訴える。
 本書は,臨床の最前線で医療事故防止に取り組む看護師,看護管理者はもちろんのこと,医師,法曹界に向けても積極的に発信する内容となっている。また,専門職としてどうあらねばならないかを勉強中の看護学生,医学生にも必読の1冊である。

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