事例から学ぶ保健活動の評価

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近年,保健活動は,自治体の財政難や行政活動の情報公開の流れにより,保健行政もその成果の説明責任が問われる時代となった。今後は,保健活動の科学的評価による有効性や,計画づくりに基づく地域保健活動を展開しなければならない。本書では保健活動の評価を体系的に整理し,様々なレベルで評価を実施している事例を紹介する。
編集 平野 かよ子 / 尾崎 米厚
発行 2001年11月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-33167-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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第1章 事例から学ぶ保健活動の評価
【保健活動を総合的に評価する】
 A. 母子保健活動の評価事例
 B. 脳卒中対策の評価事例
【保健事業評価】
 A. 保健所における精神保健福祉活動の評価
 B. セルフヘルプグループの発展過程評価のための視点の検討
 C. 発達障害児療育教室の評価
 D. 保健活動の発展過程の測定
 E. 市町村における母子保健活動の評価項目の作成
 F. グループ育成を目的とした保健事業評価
 G. 思春期保健における性教育モデル事業の評価
 H. 保健所が支援した高齢者の健康づくり事業の展開
第2章 保健活動の評価
 1. 評価の考え方と方法
 2. 保健活動(事業)評価の対象
 3. 定量的評価と定性的評価
 4. 評価の諸側面
 5. 効果評価の倫理性
 6. 評価の体制
 7. 評価の時期
 8. 評価の枠組みと活用例
 9. 実際の組織における評価手順
【座談会】 保健活動の評価
第3章 評価の展開と課題
 A. 質的研究方法の適用
 B. RAPの解説と適用
 C. 住民参加のPlan-Do-See
 D. 保健活動の経済的評価
 E. EBMと公衆衛生活動の限界
 F. 事業評価
【コラム】 ヘルスプロモーション活動の評価

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待望の保健活動評価に関する実践本,保健関係者必見
書評者: 星 旦二 (都立大大学院教授・都市科学)
 保健関係者が望んでいた,待望の評価に関する実践本の出版です。編者の1人尾崎先生があとがきで述べているように,「公衆衛生活動に関する,事例から学ぶ評価に関する」本書は,わが国初なのだと思います。「やっと今頃になって……」なのかもしれませんが,事業の実施量を主な評価指標とする時代が過ぎ去り,実施事業によってもたらされた効果を明確にする評価事例が数多く提示されている意味でも,保健関係者必見の本だと思います。
 全体は,大きく分けて3章から構成されています。第1章は,実践の場で実施された評価事例が紹介され,第2章は編者の平野先生らが国立公衆衛生院で開発した評価の枠組みが示されています。第3章では,新しい評価手法が紹介されています。ここでは,質的評価,人類学的方法を活用した評価,経済評価も提示されていますが,その実践事例に基づいて体系化するのは,今後の課題なのでしょう。また,WHOが示した新しいヘルス・プロモーションに関する評価システムも紹介しているのも本書の特徴です。
 書評するように原稿依頼を受けたものの,事例に対する書評と個別の詳細なコメントは,今後の課題を含めて「EBMと公衆衛生活動の限界-保健活動の評価の事例を読んで」(本書172頁)で林謙治先生が,総括的にわかりやすく述べられていました。

◆必要な「評価」の概念整理

 今後の課題でしょうが,全体的に見て,執筆者1人ひとりがとらえる「評価」の意味するところは,多少なりとも異なっているように思われました。これからも保健活動の場での評価を進展させていくためにも,編者が示した「評価」の概念整理を共有して活用する必要があるように思います。具体的には,事例そのものが,事前なのか事後評価なのか,評価する主体は誰なのか,評価の対象が企画や計画策定ないし実践,成果,基盤,はたまたプロセスなのか,評価の主なねらいをどこにおいたのか,評価指標が理念なのか指標なのか,評価した結果を踏まえた改善につなげる事例なのかその寄与度などを区分してまとめることです。もちろん,調査研究との関連が明確になるともっと理想的なのでしょう。
 ところで,評価する真の目的は何だろうか。Stephan Isaacは,「The purpose of evaluation is not to prove, to improve」と紹介しています。評価の最終的な目的は,課題を実際に解決することであって,効果や効率を明らかにする(to prove)調査研究それ自体は,1つの手段にすぎないと述べています。
 保健活動現場における実践的な評価事例を体系的にまとめあげたこの本は,狭義の評価と広義の評価のシステム改善事例がともに示されていましたが,その類型化はされていないように思いました。また評価のねらいが改善にあるのですから,改善につながった事例とともに,うまくいかなかった事例も取りあげてほしかったと思いました。このほうが,事例提供者と事例をメタ評価する当事者との協働での学びが多くなるに違いないからです。また編者の平野先生も,はじめにの中で,「評価する主体と客体との双方向やりとりのある評価を探りたい」と述べられています。

◆数々の優れた事例の紹介

 評価の対象は,「Plan Do See」だけでなく,「Show Publish」との関連でとらえたり,システム改善である「Integration」「Version Up」レベル,つまり評価計画段階レベルも含まれますが,1章の牧野由美子先生らの事例は,活動効果を含めてその改善プロセスを示した公衆衛生学的にみて優れた事例だと思います。
 初期の評価計画段階である企画計画立案レベルの評価指標例としては,「住民参画度」,「目的の共有度」があり,実施段階レベルと活動効果レベルでの評価指標とともに,情報提示・出版の評価指標例としては,「学会報告度」,「情報公開度」がありますが,尾崎先生らは,母子保健の事例で,上記の住民への情報提供を含めた評価指標を体系的に紹介していました。
 本書で示された各事例には,公衆衛生学の視点からみた公的責任は,「組織連携度」,「環境改善度」,「精度管理度」,「モデル開発度」など評価尺度の開発を含む,意欲的で優れた個別の事例も数多く報告されていますが,次の改訂では,実践例を増やした考察によって,より体系化されることを大いに期待したいと思います。
 いずれにしても,保健活動に関わり,計画や評価や調査研究に関心のある皆さんには必見の書であると考え,より多くの方に推薦したいと思います。

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