テムキン てんかん病医史抄
古代より現代神経学の夜明けまで
てんかん史のバイブルをダイジェストして翻訳
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てんかんは人類の起源とともに存在した最も古い病気のひとつであり,患者と医療者は多くの迷信や強権との戦いを強いられてきた。てんかん史の世界的バイブルである原書を訳者がダイジェストしたうえで翻訳した本書は,多忙な臨床家にとって大きな助けになるだろう。読者は,てんかんの本質のみならず医学の意味をも探求することができる。
原著 | Owsei Temkin |
---|---|
訳 | 和田 豊治 |
発行 | 2001年07月判型:A5頁:208 |
ISBN | 978-4-260-11858-3 |
定価 | 4,180円 (本体3,800円+税) |
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目次
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I 古代
1章 てんかん―神聖病
2章 古代医学のてんかん
II 中世
3章 てんかん―たおれ病い
4章 中世医学の学説
III ルネサンス
5章 神学的,哲学的,社会的な側面
6章 経験の拡大と学説の変更
IV 大体系と啓蒙期
7章 大体系
8章 啓蒙運動
V 19世紀前半
9章 第1期―1800~1833年
10章 第2期―1833~1861年
VI 19世紀後半―Jackson時代
11章 Jacksonの先達たち
12章 J. H. Jackson
13章 「たおれ病い」の終焉?
1章 てんかん―神聖病
2章 古代医学のてんかん
II 中世
3章 てんかん―たおれ病い
4章 中世医学の学説
III ルネサンス
5章 神学的,哲学的,社会的な側面
6章 経験の拡大と学説の変更
IV 大体系と啓蒙期
7章 大体系
8章 啓蒙運動
V 19世紀前半
9章 第1期―1800~1833年
10章 第2期―1833~1861年
VI 19世紀後半―Jackson時代
11章 Jacksonの先達たち
12章 J. H. Jackson
13章 「たおれ病い」の終焉?
書評
開く
他に類をみないてんかんの病史
書評者: 山内 俊雄 (埼玉医大教授・神経精神科学)
原著者のオウセイ・テムキン(Owsei Temkin)は,1902年ポーランドに生まれ,ライプチッヒ大学で医学史を専攻した後,アメリカに渡り,ジョンズ・ポプキンズ大学の医史学教授を務めた人で,「訳者あとがき」によれば,現在なお健在で,白寿(99歳)になるという。
◆生まれかわった好著
本書の基になったのは,テムキンの『The Falling Sickness(たおれ病い)』という本である。初版は1945年であるが,てんかんの病史に関して他に類をみないこの本は,初版当時から,いろいろなところで引用されていた。しかし,原著が手に入らないままにうちすぎていたところ,1971年に第2版がThe Johns Hopkins University Pressから出版されたことを知って,いち早く買い求めたものである。
ところが,原著は大変詳細にして難解,かつ膨大な文献引用や,ギリシャ語をはじめとする原文の援用も多く,400頁に及ぶ原著を読み通すことは到底困難で,折りに触れて,必要なところを拾い読みしてすませていた。そんな折り,和田豊治先生が,『てんかんの歴史(1)(2)』(中央洋書出版部)として,原書を翻訳された時には本当にうれしく,教室で共同購入したほどであった。
まことに残念なことに,この訳書は事情があって,まもなく市場から姿を消してしまった。何とかこの本が再び日の目を見ることはできないものかと密かに願っていた折り,和田先生から再出版の計画のあることを知らされ,その日が来るのを心待ちにしていたのである。
ところがである。手にしたこの本はあっけないほどハンディで,手頃な厚さになっているではないか。いったいどこがどのようになって,これほどコンパクトな本になったのかと,いぶかりながら以前出された翻訳書と見比べると,目次はそのまま変わりがないのに,頁数は437頁から167頁へと減り,文献数も1120件から318件へと少なくなっている。
そこでもう一度,前書と比べてみると,本書は原著の内容の重要なところを余すところなくとらえ,それをわかりやすくこなれた文章にして,著者のいう簡訳,抄訳が施されているのである。それが本書名の『てんかん病医史抄』のゆえんである。なお,このような形で出版することに難色を示した原著の出版社も,原著者と訳者の友情に免じて,抄訳を許可したという。そこで訳者は,テムキンという著者名を書名に入れることにしたという,訳者と原著者の心温まる物語も背景にある。
◆精神の病,脳の病気の医史として
このようにして,難解な原著はその趣旨を損なうことなく,読みやすく,必要なことが盛られた,好著として生まれ変わったわけであるが,このような形にするには翻訳以上の苦労があったものと,訳者に心から感謝したい。
ところで,原著が「たおれ病い」という曖昧な概念の題名であるのは,古くからさまざまな病がてんかんという名の下に包含され,扱われていたものを医学的だけでなく,文化的,社会的,政治的な立場から光を当てようとの意図もあってのことである。そのために本書を読むと,精神の病いが時代によってどのように取り扱われてきたかを知ることができ,その意味でも本書は,「古代より現代神経学の夜明けまで」という副題が示すように,てんかんの歴史というだけでなく,精神の病,脳の病気の医史ともなっている。
西洋てんかん史のバイブル再登場
書評者: 佐藤 光源 (東北福祉大大学院教授・精神医学/東北大名誉教授)
日本に「てんかん学」を確立した和田豊治名誉教授(東北大学)の念願の訳書が,ついに出版された。ハーバード大学に留学中にLennox教授が,必読の書として推薦されたのが本書との出会いであり,訳者がてんかんを専攻する契機となった。本書なくしては,世界のてんかん史に疎い研究になるおそれがあると考えて翻訳し,1989年に『てんかんの歴史』と題する2分冊を刊行した。それは,「古代から18世紀まで」の第1部と,「19世紀からジャクソンまで」の第2部からなっていた。総数1120編の論文を引用した,本文470頁の詳細な専門書であり,てんかん研究の専門家に“てんかん史のバイブル”と評価され,座右の書となっていた。特に,古代からジャクソンに至るまでの魔術と神経学の織りなす歴史は興味深く,実に示唆に富んでいる。てんかんへの想像を絶する迷信と偏見,スチグマを担い不治とラベルされた病人の過去の社会生活,言語に絶した惨憺たる差別と苦難のドラマと,それが医学で救済されていく経緯は,訳者自身が驚くほどのものであった。しかし,まもなく出版社が倒れ,再版できなくなっていた。
◆てんかん史を理解するための労作
この名著が実に読みやすい1冊の本に姿を変えて,このたび医学書院から出版された。原著の内容を現在のてんかん学からみた重要事項に限定し,てんかんに関心をもつ多領域の方にわかりやすいように工夫を凝らした訳者の労作である
本書は9章からなり,時代順に「古代」,「中世」,「ルネサンス」,「大体系と啓蒙期」と「19世紀前半」に分かれている。古代の神聖病や中世の憑依,“たおれ病”が,19世紀後半の医学,特にジャクソンによって終焉を迎えるまでの経緯が記載されている。しかし,著者のテムキンが言うように,本書は歴史の本であって医学の本質的な問題を解決するためのものではない。それぞれの時代の政治,経済,社会,文化といった多次元に光を当てて,医学的な思想を解釈しようとしている点が特徴的であり,それが本書のスケールを一段と大きくしている。
てんかん患者の社会参加(normalization)や社会的生命の回復のために,いま何をすべきなのか。てんかん学を志向する若い医師はもちろんのこと,臨床心理や保健・福祉の領域の方々に,本書は多くの示唆を与えるに違いない。西洋のてんかん史を理解するための必読の書として推奨したい。
書評者: 山内 俊雄 (埼玉医大教授・神経精神科学)
原著者のオウセイ・テムキン(Owsei Temkin)は,1902年ポーランドに生まれ,ライプチッヒ大学で医学史を専攻した後,アメリカに渡り,ジョンズ・ポプキンズ大学の医史学教授を務めた人で,「訳者あとがき」によれば,現在なお健在で,白寿(99歳)になるという。
◆生まれかわった好著
本書の基になったのは,テムキンの『The Falling Sickness(たおれ病い)』という本である。初版は1945年であるが,てんかんの病史に関して他に類をみないこの本は,初版当時から,いろいろなところで引用されていた。しかし,原著が手に入らないままにうちすぎていたところ,1971年に第2版がThe Johns Hopkins University Pressから出版されたことを知って,いち早く買い求めたものである。
ところが,原著は大変詳細にして難解,かつ膨大な文献引用や,ギリシャ語をはじめとする原文の援用も多く,400頁に及ぶ原著を読み通すことは到底困難で,折りに触れて,必要なところを拾い読みしてすませていた。そんな折り,和田豊治先生が,『てんかんの歴史(1)(2)』(中央洋書出版部)として,原書を翻訳された時には本当にうれしく,教室で共同購入したほどであった。
まことに残念なことに,この訳書は事情があって,まもなく市場から姿を消してしまった。何とかこの本が再び日の目を見ることはできないものかと密かに願っていた折り,和田先生から再出版の計画のあることを知らされ,その日が来るのを心待ちにしていたのである。
ところがである。手にしたこの本はあっけないほどハンディで,手頃な厚さになっているではないか。いったいどこがどのようになって,これほどコンパクトな本になったのかと,いぶかりながら以前出された翻訳書と見比べると,目次はそのまま変わりがないのに,頁数は437頁から167頁へと減り,文献数も1120件から318件へと少なくなっている。
そこでもう一度,前書と比べてみると,本書は原著の内容の重要なところを余すところなくとらえ,それをわかりやすくこなれた文章にして,著者のいう簡訳,抄訳が施されているのである。それが本書名の『てんかん病医史抄』のゆえんである。なお,このような形で出版することに難色を示した原著の出版社も,原著者と訳者の友情に免じて,抄訳を許可したという。そこで訳者は,テムキンという著者名を書名に入れることにしたという,訳者と原著者の心温まる物語も背景にある。
◆精神の病,脳の病気の医史として
このようにして,難解な原著はその趣旨を損なうことなく,読みやすく,必要なことが盛られた,好著として生まれ変わったわけであるが,このような形にするには翻訳以上の苦労があったものと,訳者に心から感謝したい。
ところで,原著が「たおれ病い」という曖昧な概念の題名であるのは,古くからさまざまな病がてんかんという名の下に包含され,扱われていたものを医学的だけでなく,文化的,社会的,政治的な立場から光を当てようとの意図もあってのことである。そのために本書を読むと,精神の病いが時代によってどのように取り扱われてきたかを知ることができ,その意味でも本書は,「古代より現代神経学の夜明けまで」という副題が示すように,てんかんの歴史というだけでなく,精神の病,脳の病気の医史ともなっている。
西洋てんかん史のバイブル再登場
書評者: 佐藤 光源 (東北福祉大大学院教授・精神医学/東北大名誉教授)
日本に「てんかん学」を確立した和田豊治名誉教授(東北大学)の念願の訳書が,ついに出版された。ハーバード大学に留学中にLennox教授が,必読の書として推薦されたのが本書との出会いであり,訳者がてんかんを専攻する契機となった。本書なくしては,世界のてんかん史に疎い研究になるおそれがあると考えて翻訳し,1989年に『てんかんの歴史』と題する2分冊を刊行した。それは,「古代から18世紀まで」の第1部と,「19世紀からジャクソンまで」の第2部からなっていた。総数1120編の論文を引用した,本文470頁の詳細な専門書であり,てんかん研究の専門家に“てんかん史のバイブル”と評価され,座右の書となっていた。特に,古代からジャクソンに至るまでの魔術と神経学の織りなす歴史は興味深く,実に示唆に富んでいる。てんかんへの想像を絶する迷信と偏見,スチグマを担い不治とラベルされた病人の過去の社会生活,言語に絶した惨憺たる差別と苦難のドラマと,それが医学で救済されていく経緯は,訳者自身が驚くほどのものであった。しかし,まもなく出版社が倒れ,再版できなくなっていた。
◆てんかん史を理解するための労作
この名著が実に読みやすい1冊の本に姿を変えて,このたび医学書院から出版された。原著の内容を現在のてんかん学からみた重要事項に限定し,てんかんに関心をもつ多領域の方にわかりやすいように工夫を凝らした訳者の労作である
本書は9章からなり,時代順に「古代」,「中世」,「ルネサンス」,「大体系と啓蒙期」と「19世紀前半」に分かれている。古代の神聖病や中世の憑依,“たおれ病”が,19世紀後半の医学,特にジャクソンによって終焉を迎えるまでの経緯が記載されている。しかし,著者のテムキンが言うように,本書は歴史の本であって医学の本質的な問題を解決するためのものではない。それぞれの時代の政治,経済,社会,文化といった多次元に光を当てて,医学的な思想を解釈しようとしている点が特徴的であり,それが本書のスケールを一段と大きくしている。
てんかん患者の社会参加(normalization)や社会的生命の回復のために,いま何をすべきなのか。てんかん学を志向する若い医師はもちろんのこと,臨床心理や保健・福祉の領域の方々に,本書は多くの示唆を与えるに違いない。西洋のてんかん史を理解するための必読の書として推奨したい。
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