透析専門ナース
透析医療に携わるナース必携の書
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透析医療においてナースに求められる役割は多岐にわたる。透析室で起こるさまざまな事態に,自分で判断して適切な対処ができるためには,マニュアル的な知識ではなく,論理的で体系的な知識と技術を身につけることが必要である。長年,透析室に勤務するナースの教育に力を注いできた著者が,専門ナースに必要な知識と技術レベルを示すテキスト。
著 | 稲本 元 |
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発行 | 2002年07月判型:B5頁:232 |
ISBN | 978-4-260-33225-5 |
定価 | 4,180円 (本体3,800円+税) |
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第1章 透析医療の基礎知識
第2章 透析の理論
第3章 透析治療の専門技術
第4章 透析治療の観察点
第5章 事故,トラブル
第6章 薬物療法
第7章 食事療法
第8章 透析医療と教育
第9章 透析医療と連絡・管理
第2章 透析の理論
第3章 透析治療の専門技術
第4章 透析治療の観察点
第5章 事故,トラブル
第6章 薬物療法
第7章 食事療法
第8章 透析医療と教育
第9章 透析医療と連絡・管理
書評
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詰め込まれた透析専門ナースへの熱い情熱とメッセージ
書評者: 江川 隆子 (阪大教授・保健学)
現在,私が慢性疾患看護領域に身を置いているのは,20数年前に慶応病院の透析室で稲本元先生にお会いしたことがきっかけです。私のように思ったナースは,たくさんいるでしょう。その稲本先生の新しい著書『透析専門ナース』に接し,あらためて先生の透析看護師にかける熱い思いに触れることができて非常に喜んでいます。この著書は,序で著者が述べているように透析専門ナースが誇り高く透析領域で働くための,幅広い基礎知識や技術の習得のための初本として,30年余りの経験を基に書きあげられたものです。そうした先生の透析専門ナースへの情熱とメッセージが,すみずみに詰め込まれています。
◆マイナーな透析看護への応援
看護教育に携わって15年余りになりますが,最も専門看護師であるべき透析看護は,看護カリキュラムの中では,マイナーな領域とされています。ですから,腎不全や透析看護について教授する大学や看護学校は,残念ながら少数です。一方,臨床では,年々増加する透析人口に対して,看護師の知識や透析技術の不足や未熟さ,また準看護師の採用比が多いことなどが指摘されています。1998(平成10)年に創設された日本腎不全看護学会もそうした透析看護師の知識や技術の向上を含め,腎不全看護学を学問的に立証するために設立されました。しかしながら,このような看護界の中で透析看護師の手本となる透析基礎知識や透析理論,透析専門技術,透析治療の観察といった系統的な看護師のための教科書本は,皆無にひとしいものでした。したがって,この著書の登場は,透析看護の専門性の向上と確立をめざしているわれわれにとって大きな手助けになると信じています。
◆うかがえる透析看護への深い洞察
本書は,9章からなります。1章は「透析医療の基礎知識」,2章は「透析の理論」,3章は「透析治療の専門技術」,4章は「透析治療の観察点」,5章は「事故,トラブル」,6章は「薬物療法」,7章は「食事療法」,8章は「透析医療と教育」,9章は「透析医療と連絡・管理」について書かれています。そして,それぞれの章は,読者の疑問に答えるかのように細項目に分けて詳しく説明されています。例えば,1章の基礎知識の「ブラッドアクセスの観察」では,その観察として,見る,触れる,スリル,駆血による変化,など血管の状態を図に示しながら説明しています。また,3章の専門技術の項では,われわれが苦労する「穿刺」についても,穿刺方向,穿刺針固定,回路の固定などこれらも図を用いてわかりやすく説明しています。特に目を引いたのは,第4章の観察点の項で,「患者の観察」について,表情や声,歩き方,訴え,家族の会話など看護において必須の事柄に触れていることに著者の看護への洞察がうかがえます。また,第8章の透析医療と教育では,実際の新人看護師の教育課程が図表を用いて教育内容が細やかに論じられています。このような内容から,きっとこの本が透析看護師の知識や技術の向上,教育や管理の参考になるでしょう。
◆求められる透析専門ナースの充実
読めば読むほど,この本が透析専門ナースの透析知識や技術の向上のために必須本であることは間違いありません。この本を読めば,透析看護師になろうとするものに勇気を,ベテラン透析看護師には透析治療の基本的な知識と技術の再確認とスタッフ教育に勇気を与えてくれるものであると感謝いたします。
ただ,感謝しながら,一言希望を言わせていただくと,腎不全および透析看護も学問的に発展しています。そこで,透析看護でもこうした透析医療の知識や技術を基礎にした医療援助とともに,看護独自のケアに対する看護診断やその目標,援助,評価といった学問体系が発展しているということを認識していただだければと思います。
しかし,私も7年余りの透析看護を経験していることから,この書の中に書かれているすべての知識や技術が患者のために必須であることは身をもって実感しています。ですから,透析看護の基礎知識として,透析に興味のある看護師もベテラン看護師もぜひ本書を読んでいただいて,明日からの看護に,また将来の透析専門ナースの確立に寄与していだだくことを希望します。
看護師にとって理想の透析医療を追求
書評者: 今田 聰雄 (近畿大堺病院教授・腎・透析科/2003年6月開催第48回(社)日本透析医学会学術集会・総会会長)
◆透析医療スタッフにとって恐怖の本誕生
透析を専門とする看護師だけではなく,透析専門医をめざす医師や透析に携わろうと考えている臨床工学技士,あるいはその他の医療スタッフにとって,恐怖の本が出ました。
この『透析専門ナース』を読めば,今日の透析現場で,30年以上の透析歴を持つ透析者とも,また透析を専門とする医療スタッフとも,透析医療について,突っ込んだ議論がすぐにできると思います。書かれていることが理解できたら透析専門の医療スタッフです。
わが国の透析者数が22万人を超え,日本人の580人に1人が透析者である現状でも,看護師を中心とした透析スタッフが透析現場で透析医療に関して悩むことはつきません。透析療法,血液浄化療法に関する専門書は,今日では積み上げることができるほど出版されています。しかし,1冊で知りたいことが得られる書籍は少ないようです。この『透析専門ナース』を読ませてもらって,「恐怖」を感じたのは,現在の透析現場で,その中心である看護師の専門性のために,著者が理想とする透析専門の看護師像をはっきりと打ち出していることに対してです。わが国の透析施設のすべてが,透析専門の看護師の存在を望むか,あるいはすでに存在していると思いますが,専門性を認める基準がありませんでした。本書は,その基準となる教科書です。
第1章の「透析医療の基礎知識」にまとめられている内容の中で透析関連機器やブラッドアクセスなどは,臨床工学技士や医師の専門分野ですが,いきなり透析室に配属された看護師でも理解できるように図や写真を多用して,わかりやすく説明・解説がされているのは,1960年代後半の透析療法の黎明期から,透析現場で活躍し続けている著者でなければできないことであると思います。第2章の「透析の理論」にあるドライウエイトもこれほど明快に書かれると,読めばわかるとしか言いようがありません。さらに第3章の「透析治療の専門技術」は,これがわかれば並の医師や臨床工学技士が相手なら指導もできると思われる内容が見事にまとめあげられています。特に第4章の「透析治療の観察点」では,これこそ透析専門ナースと言える,看護師にとって必須の項目が,著者の透析医療に対する哲学を踏まえて書き込まれています。この章を実践してくれる看護師がいてくれたら,医師の仕事がなくなるであろうと思われる内容です。
◆透析医療の中心に坐る看護師として
最終の第9章「透析医療と連絡・管理」は,事務の仕事であると考えていましたが,現在では透析医療の中心に坐る看護師が扱うか,指示をしてこそ透析専門の看護師であるという著者の声が聞こえてくるような気がしました。
透析専門の看護師「透析専門ナース」あるいは,「エキスパートナース」を育成し,認知しようとしても,その基準作りが難しいと思いましたが,この『透析専門ナース』があれば,育成のためのカリキュラムから,試験の実施までもが容易にできると思いました。
看護師だけではなく,医師も臨床工学技士も,透析医療に携わろうと思う医療スタッフ,加えるなら透析者でも,今日の透析医療から取り残されたくなければ,『透析専門ナース』を熟読すべきであると思います。
透析医療におけるナースに必要な知識と技術を詳述
書評者: 宇田 有希 (日本腎不全看護学会理事長)
◆約21万人に達した透析患者とナースへの期待
透析医療が,腎臓病患者の治療法として定着しておよそ30年以上が経過した。現在,透析患者は約21万人に達し,1960年代に始まった救急・延命の治療から,今や患者個々の生活の質を維持する治療へと変貌をとげた。それは必ずしも順風満帆な道程ではなかった。
人工臓器を用いた先端技術に対する偏見と差別によるさまざまな障害があったが,その最も大きな問題は,スタッフの育成であった。従来の医療体制に比べて,ナースとしての主体性を求められる業務と,人工臓器によって生きる患者への新しいケアの開発に魅力を感じながらも,数年ごとの配置交代により透析看護から離脱していくナースが多かった。その結果,現場では,一から教育しなおすことを繰り返さざるを得ず,看護の継続性がいちじるしく損なわれた。そのために各施設において,新人教育のための透析治療と看護のマニュアルが作られた。
マニュアルは,一度作ればそれでよしというわけではない。装置の改良,技術革新にともなうシステムの再構築,患者への新しいケアの開発などにあわせて作り変えられるものであろう。しかしながら,多忙な日常業務に追われる医師やナースには,そう簡単にはいかないジレンマに悩まされる現状がある。『透析専門ナース』というタイトルには,そうした著者の思いが込められているように感じられた。
◆求められる透析専門ナース育成の教育的基盤
本書は,一透析施設のマニュアルというよりも,透析室を運営する上で中心的役割を果たすナースの具備すべき条件を踏まえて,系統的に緻密に描かれており,いずれの透析施設にも共通する設計図のようなものである。それだけに,チーム医療の主役である患者への具体的なアプローチの方法や,患者の全体像をどのように把握すれば効果的なケアにつなげることができるのかといったトータルケアの実践例があれば,より立体的な看護のイメージが得られるのではないかと思うのである。これを元に透析患者への血の通った,生き生きとしたトータルケアを実践するのでなければ,透析専門ナースとして患者の信頼を得ることはできないであろう。どれほど多くのHow toものを読もうと,ナース自身が腎不全看護の専門職者として自律的に行動しなければ,社会的認知は得られないことを自覚するとともに,専門看護師を育成する教育基盤の確立が今後の課題であると思う。
透析医療従事者のための最適参考書
書評者: 中本 雅彦 (済生会八幡総合病院腎センター・主任部長)
◆目覚ましい透析医療の進歩,大変喜ばしい本書の登場
わが国における透析医療の進歩は目覚ましく,1万人以上の患者が透析治療により20年以上生存している。これは医療スタッフの高度な治療技術と良質な透析機器によるものである。その中でも,ナースを中心としたコメディカルスタッフの果たしている役割は大きい。しかし,ナースが透析療法について勉強しようとすると,医師向けの難解な医学書か患者用のやさしすぎる本のいずれかで,適当な参考書がなかった。われわれも透析ナースの教育のために使用する教科書がなく難渋していたが,このたび,稲本先生が『透析専門ナース』を医学書院から出版されたのは大変喜ばしいことである。本書は著者の長年の経験を基にして書かれているため,コメディカルスタッフにとって必須な知識や技術がわかりやすく系統立てて示されている。
◆わかりやすく実践的な内容
本書の特徴は,ほとんどの図表は著者が考え抜いて作製しており,非常にわかりやすく,実践的である。透析医療の現状の項では透析患者数の推移は当然のことながら,医療スタッフ数の推移まで書かれており,透析医療が置かれている現況が手に取るようにわかる。また,コメディカルスタッフが比較的理解しづらいブラッドアクセスに関しては多くの紙面を割き,症例にそってわかりやすく書かれている。第7章の食事療法には代表的な外食の蛋白量,食塩量,リン含有量が一目でわかるような図が収載されていて,患者を指導する際に便利である。加えて,身体障害者福祉法などの社会医療制度についても簡潔に述べられている。
本書は,新人の透析スタッフにとっては透析医療が系統的に理解できるように,中堅の透析スタッフにとっては理解を一層深めることができるように書かれている。本書は,透析医療に従事するナース,臨床工学技士,栄養士,事務職員にとって最適な参考書と思われる。
書評者: 江川 隆子 (阪大教授・保健学)
現在,私が慢性疾患看護領域に身を置いているのは,20数年前に慶応病院の透析室で稲本元先生にお会いしたことがきっかけです。私のように思ったナースは,たくさんいるでしょう。その稲本先生の新しい著書『透析専門ナース』に接し,あらためて先生の透析看護師にかける熱い思いに触れることができて非常に喜んでいます。この著書は,序で著者が述べているように透析専門ナースが誇り高く透析領域で働くための,幅広い基礎知識や技術の習得のための初本として,30年余りの経験を基に書きあげられたものです。そうした先生の透析専門ナースへの情熱とメッセージが,すみずみに詰め込まれています。
◆マイナーな透析看護への応援
看護教育に携わって15年余りになりますが,最も専門看護師であるべき透析看護は,看護カリキュラムの中では,マイナーな領域とされています。ですから,腎不全や透析看護について教授する大学や看護学校は,残念ながら少数です。一方,臨床では,年々増加する透析人口に対して,看護師の知識や透析技術の不足や未熟さ,また準看護師の採用比が多いことなどが指摘されています。1998(平成10)年に創設された日本腎不全看護学会もそうした透析看護師の知識や技術の向上を含め,腎不全看護学を学問的に立証するために設立されました。しかしながら,このような看護界の中で透析看護師の手本となる透析基礎知識や透析理論,透析専門技術,透析治療の観察といった系統的な看護師のための教科書本は,皆無にひとしいものでした。したがって,この著書の登場は,透析看護の専門性の向上と確立をめざしているわれわれにとって大きな手助けになると信じています。
◆うかがえる透析看護への深い洞察
本書は,9章からなります。1章は「透析医療の基礎知識」,2章は「透析の理論」,3章は「透析治療の専門技術」,4章は「透析治療の観察点」,5章は「事故,トラブル」,6章は「薬物療法」,7章は「食事療法」,8章は「透析医療と教育」,9章は「透析医療と連絡・管理」について書かれています。そして,それぞれの章は,読者の疑問に答えるかのように細項目に分けて詳しく説明されています。例えば,1章の基礎知識の「ブラッドアクセスの観察」では,その観察として,見る,触れる,スリル,駆血による変化,など血管の状態を図に示しながら説明しています。また,3章の専門技術の項では,われわれが苦労する「穿刺」についても,穿刺方向,穿刺針固定,回路の固定などこれらも図を用いてわかりやすく説明しています。特に目を引いたのは,第4章の観察点の項で,「患者の観察」について,表情や声,歩き方,訴え,家族の会話など看護において必須の事柄に触れていることに著者の看護への洞察がうかがえます。また,第8章の透析医療と教育では,実際の新人看護師の教育課程が図表を用いて教育内容が細やかに論じられています。このような内容から,きっとこの本が透析看護師の知識や技術の向上,教育や管理の参考になるでしょう。
◆求められる透析専門ナースの充実
読めば読むほど,この本が透析専門ナースの透析知識や技術の向上のために必須本であることは間違いありません。この本を読めば,透析看護師になろうとするものに勇気を,ベテラン透析看護師には透析治療の基本的な知識と技術の再確認とスタッフ教育に勇気を与えてくれるものであると感謝いたします。
ただ,感謝しながら,一言希望を言わせていただくと,腎不全および透析看護も学問的に発展しています。そこで,透析看護でもこうした透析医療の知識や技術を基礎にした医療援助とともに,看護独自のケアに対する看護診断やその目標,援助,評価といった学問体系が発展しているということを認識していただだければと思います。
しかし,私も7年余りの透析看護を経験していることから,この書の中に書かれているすべての知識や技術が患者のために必須であることは身をもって実感しています。ですから,透析看護の基礎知識として,透析に興味のある看護師もベテラン看護師もぜひ本書を読んでいただいて,明日からの看護に,また将来の透析専門ナースの確立に寄与していだだくことを希望します。
看護師にとって理想の透析医療を追求
書評者: 今田 聰雄 (近畿大堺病院教授・腎・透析科/2003年6月開催第48回(社)日本透析医学会学術集会・総会会長)
◆透析医療スタッフにとって恐怖の本誕生
透析を専門とする看護師だけではなく,透析専門医をめざす医師や透析に携わろうと考えている臨床工学技士,あるいはその他の医療スタッフにとって,恐怖の本が出ました。
この『透析専門ナース』を読めば,今日の透析現場で,30年以上の透析歴を持つ透析者とも,また透析を専門とする医療スタッフとも,透析医療について,突っ込んだ議論がすぐにできると思います。書かれていることが理解できたら透析専門の医療スタッフです。
わが国の透析者数が22万人を超え,日本人の580人に1人が透析者である現状でも,看護師を中心とした透析スタッフが透析現場で透析医療に関して悩むことはつきません。透析療法,血液浄化療法に関する専門書は,今日では積み上げることができるほど出版されています。しかし,1冊で知りたいことが得られる書籍は少ないようです。この『透析専門ナース』を読ませてもらって,「恐怖」を感じたのは,現在の透析現場で,その中心である看護師の専門性のために,著者が理想とする透析専門の看護師像をはっきりと打ち出していることに対してです。わが国の透析施設のすべてが,透析専門の看護師の存在を望むか,あるいはすでに存在していると思いますが,専門性を認める基準がありませんでした。本書は,その基準となる教科書です。
第1章の「透析医療の基礎知識」にまとめられている内容の中で透析関連機器やブラッドアクセスなどは,臨床工学技士や医師の専門分野ですが,いきなり透析室に配属された看護師でも理解できるように図や写真を多用して,わかりやすく説明・解説がされているのは,1960年代後半の透析療法の黎明期から,透析現場で活躍し続けている著者でなければできないことであると思います。第2章の「透析の理論」にあるドライウエイトもこれほど明快に書かれると,読めばわかるとしか言いようがありません。さらに第3章の「透析治療の専門技術」は,これがわかれば並の医師や臨床工学技士が相手なら指導もできると思われる内容が見事にまとめあげられています。特に第4章の「透析治療の観察点」では,これこそ透析専門ナースと言える,看護師にとって必須の項目が,著者の透析医療に対する哲学を踏まえて書き込まれています。この章を実践してくれる看護師がいてくれたら,医師の仕事がなくなるであろうと思われる内容です。
◆透析医療の中心に坐る看護師として
最終の第9章「透析医療と連絡・管理」は,事務の仕事であると考えていましたが,現在では透析医療の中心に坐る看護師が扱うか,指示をしてこそ透析専門の看護師であるという著者の声が聞こえてくるような気がしました。
透析専門の看護師「透析専門ナース」あるいは,「エキスパートナース」を育成し,認知しようとしても,その基準作りが難しいと思いましたが,この『透析専門ナース』があれば,育成のためのカリキュラムから,試験の実施までもが容易にできると思いました。
看護師だけではなく,医師も臨床工学技士も,透析医療に携わろうと思う医療スタッフ,加えるなら透析者でも,今日の透析医療から取り残されたくなければ,『透析専門ナース』を熟読すべきであると思います。
透析医療におけるナースに必要な知識と技術を詳述
書評者: 宇田 有希 (日本腎不全看護学会理事長)
◆約21万人に達した透析患者とナースへの期待
透析医療が,腎臓病患者の治療法として定着しておよそ30年以上が経過した。現在,透析患者は約21万人に達し,1960年代に始まった救急・延命の治療から,今や患者個々の生活の質を維持する治療へと変貌をとげた。それは必ずしも順風満帆な道程ではなかった。
人工臓器を用いた先端技術に対する偏見と差別によるさまざまな障害があったが,その最も大きな問題は,スタッフの育成であった。従来の医療体制に比べて,ナースとしての主体性を求められる業務と,人工臓器によって生きる患者への新しいケアの開発に魅力を感じながらも,数年ごとの配置交代により透析看護から離脱していくナースが多かった。その結果,現場では,一から教育しなおすことを繰り返さざるを得ず,看護の継続性がいちじるしく損なわれた。そのために各施設において,新人教育のための透析治療と看護のマニュアルが作られた。
マニュアルは,一度作ればそれでよしというわけではない。装置の改良,技術革新にともなうシステムの再構築,患者への新しいケアの開発などにあわせて作り変えられるものであろう。しかしながら,多忙な日常業務に追われる医師やナースには,そう簡単にはいかないジレンマに悩まされる現状がある。『透析専門ナース』というタイトルには,そうした著者の思いが込められているように感じられた。
◆求められる透析専門ナース育成の教育的基盤
本書は,一透析施設のマニュアルというよりも,透析室を運営する上で中心的役割を果たすナースの具備すべき条件を踏まえて,系統的に緻密に描かれており,いずれの透析施設にも共通する設計図のようなものである。それだけに,チーム医療の主役である患者への具体的なアプローチの方法や,患者の全体像をどのように把握すれば効果的なケアにつなげることができるのかといったトータルケアの実践例があれば,より立体的な看護のイメージが得られるのではないかと思うのである。これを元に透析患者への血の通った,生き生きとしたトータルケアを実践するのでなければ,透析専門ナースとして患者の信頼を得ることはできないであろう。どれほど多くのHow toものを読もうと,ナース自身が腎不全看護の専門職者として自律的に行動しなければ,社会的認知は得られないことを自覚するとともに,専門看護師を育成する教育基盤の確立が今後の課題であると思う。
透析医療従事者のための最適参考書
書評者: 中本 雅彦 (済生会八幡総合病院腎センター・主任部長)
◆目覚ましい透析医療の進歩,大変喜ばしい本書の登場
わが国における透析医療の進歩は目覚ましく,1万人以上の患者が透析治療により20年以上生存している。これは医療スタッフの高度な治療技術と良質な透析機器によるものである。その中でも,ナースを中心としたコメディカルスタッフの果たしている役割は大きい。しかし,ナースが透析療法について勉強しようとすると,医師向けの難解な医学書か患者用のやさしすぎる本のいずれかで,適当な参考書がなかった。われわれも透析ナースの教育のために使用する教科書がなく難渋していたが,このたび,稲本先生が『透析専門ナース』を医学書院から出版されたのは大変喜ばしいことである。本書は著者の長年の経験を基にして書かれているため,コメディカルスタッフにとって必須な知識や技術がわかりやすく系統立てて示されている。
◆わかりやすく実践的な内容
本書の特徴は,ほとんどの図表は著者が考え抜いて作製しており,非常にわかりやすく,実践的である。透析医療の現状の項では透析患者数の推移は当然のことながら,医療スタッフ数の推移まで書かれており,透析医療が置かれている現況が手に取るようにわかる。また,コメディカルスタッフが比較的理解しづらいブラッドアクセスに関しては多くの紙面を割き,症例にそってわかりやすく書かれている。第7章の食事療法には代表的な外食の蛋白量,食塩量,リン含有量が一目でわかるような図が収載されていて,患者を指導する際に便利である。加えて,身体障害者福祉法などの社会医療制度についても簡潔に述べられている。
本書は,新人の透析スタッフにとっては透析医療が系統的に理解できるように,中堅の透析スタッフにとっては理解を一層深めることができるように書かれている。本書は,透析医療に従事するナース,臨床工学技士,栄養士,事務職員にとって最適な参考書と思われる。
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