あなたの知らない「家族」
遺された者の口からこぼれ落ちる13の物語

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それはケアだろうか。幼子を亡くした親、夫を亡くした妻、母親を亡くした少女たちは、佇む看護婦の前で、やがて「その人」のことを語り始める。人はなぜ語るだけで新たな力を得ることができるのだろう。ためらいがちな口と、傾けられた耳によって紡ぎだされた物語は、語る人を語り、聴く人を語り、誰も知らない家族を語る。

*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ シリーズ ケアをひらく
柳原 清子
発行 2001年03月判型:A5頁:204
ISBN 978-4-260-33118-0
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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●『シリーズ ケアをひらく』が第73回毎日出版文化賞(企画部門)受賞!
第73回毎日出版文化賞(主催:毎日新聞社)が2019年11月3日に発表となり、『シリーズ ケアをひらく』が「企画部門」に選出されました。同賞は1947年に創設され、毎年優れた著作物や出版活動を顕彰するもので、「文学・芸術部門」「人文・社会部門」「自然科学部門」「企画部門」の4部門ごとに選出されます。同賞の詳細情報はこちら(毎日新聞社ウェブサイトへ)

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I 幼い子をなくして
 しゃぼん玉/ドライブ/ひまわり/野球少年/卒業 
II 成人した子をなくして
 約束/遠き山々/同行二人 
III 配偶者をなくして
 城跡にて/「みー」と「たっちゃん」 
IV 親をなくして
 うす紅色のカーネーション/日なたとインクのにおい 
V 旧家
 父と母(健一の語り)/息子と嫁(ハル子の語り)/百か日(イトの語り)

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「物語」の力を探る試み
書評者:細谷 亮太(聖路加国際病院部長・小児科)

親の話にのめり込む
 「遺された者の口からこぼれ落ちる13の物語」という副題がついているこの本の「はしがき」で著者は,《「がんターミナル期の家族」というテーマのもとに調査をくり返し,データをまとめて,研究会で説明してみたが,参加メンバーからは首をかしげられ,指導教授からは,「言わんとしていることがよくわからないし,人に伝わらない」と言われ,それが1つのきっかけとなって,家族の語ったことばで,家族の姿を描き,「家族の困難性」を浮きぼりにしてみようと思った》という趣旨のことを述べている。
 「子ども」を見送った親の話,「配偶者」をなくした人の話,そして「親」をなくした子どもの話がそれぞれに分けられて何篇かずつ載せてある。そして最後に大家族の中での何人かの死を,家族のうちの何人かに語らせてある。
 私は小児がんを専門に仕事をしてきたので,「子ども」を見送らなければならなかった親の話にいちばんのめり込んだ。小さいうちになくなった子の話,成人してからなくなった子の話,どちらもとてもうまくまとめてある。実際,私が在宅のターミナルケアを行なった男の子のご両親も,この本の中に登場して話をしている。その子の章は読んでいて,またもう一度ご両親からお話をうかがっているような気さえした。

書き分けの難しさ
 しかしこの著者のねらいがすべて成功しているわけではない。1例ずつ話してくれた人は違う人なはずなのに,そんな空気の違いがあまり伝わってこないのだ。家族それぞれの言葉をそのまま読み手に伝えるということの難しさを感じる。もう少し,著者の思いを,プロローグの部分にだけではなく,エピローグ風にうしろにもくっつければ,症例ごとのめりはりがついたかもしれない。
 書き分けの難しさをもっとも感じさせることになったのは,最後の章「旧家」である。でも著者はプロの書き手ではないのだから,これはいたし方のないことである。それよりも著者がどれだけの時間を悲しみの淵にいる人々と過ごしたかに注目したい。

話を聞くことがなぜ「ケア」になるのか
 以前,ノンフィクション作家の柳田邦男氏が,自死なさったご子息と家族のことについて書かれた『犠牲(サクリファイス)』という作品が文春文庫になったときに,ご依頼に応じて解説を書いたことがあった。
 その作品の中で柳田氏は《がんのターミナルケアの場合は,何日,何か月というゆるやかな「時間」の経過の中で,家族はそれぞれに物語をつくり,現実を受け入れてゆく。「彼はこういう運命を背負って生きてきたんだ」という物語を》と述べておられる。
 解説の中に私は《「なぜ,あの子が」という問いに答えるのは困難である。これを解決するのには,それぞれの親が,十分な時間を使って,それぞれの物語を見出すのが,1つの方法であると柳田さんは考え,それを本著を書きあげることで実行している。賢明な方策である》と書いた。
 ともあれ,著者がこの本を上梓したことで直接的,また間接的に物語のとっかかりをえた遺族は多いはずである。そして,こういうふうに話を聞いてあげることが,本当のケアになるということに思いあたった医療者も少なくないはずである。

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