劇症型心筋炎の臨床

もっと見る

日本循環器病学会学術委員会ガイドライン班「心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎の治療と予後に関する調査研究」で集積した臨床データを中心に,ガイドライン,治療成績や長期予後などを示す貴重な具体的症例も盛り込み,現時点で臨床医が踏まえておくべき知識を提示している。
編集 和泉 徹
発行 2002年04月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-10258-2
定価 6,050円 (本体5,500円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

I 総論
 A 劇症型心筋炎とは
II 劇症型心筋炎を診断する
 A 劇症型心筋炎の臨床像
 B 劇症型心筋炎の診断
III 劇症型心筋炎を知る
 A 劇症型心筋炎の病理
 B 劇症型心筋炎の病因
 C 劇症型心筋炎の病態生理
 D 劇症化へのメカニズム
 E 劇症型心筋炎の慢性期病態と長期予後
IV 劇症型心筋炎の治療
 A 急性期治療のプロトコール
 B 慢性期治療のプロトコール
 C ステロイドパルス療法
 D γグロブリン大量療法
 E IL-10療法
 F 抗ウイルス療法
 G 補助人工心臓使用
V 私の劇症型心筋炎経験例
 A PCPSにより急性期は救命できたが重症心不全で死亡した1例
 B PCPSを必要とした劇症型心筋炎-慢性期にリンパ球浸潤を認めた1例
 C 急性期をPCPSで乗り切り慢性心筋炎に移行して死亡した劇症型心筋炎の1例
 D γグロブリン大量療法が有効と考えられた劇症型心筋炎の1例
 E 劇症型心筋炎に対する機械的治療と臓器灌流
 F 長期間の補助体外循環にもかかわらず心機能が全く回復しなかった劇症型心筋炎例
VI 特異な病態を示した劇症型心筋炎例
 A 拡張型心筋症類似病態に移行した劇症型心筋炎例
 B 心筋細胞が消失した劇症型心筋炎例
 C 心筋が石灰化した心筋炎例
 D 巨細胞性心筋炎の劇症化症例
 E 左室壁肥厚と心嚢液貯留により心原性ショックに陥った好酸球性心筋炎の1例
 F ウイルス性心筋炎の劇症化例

開く

劇症型心筋炎の最新知見を提示
書評者: 河村 慧四郎 (阪医大名誉教授・内科学)
◆心肺補助循環療法の導入による救命率の向上

 劇症型心筋炎は,初発症状として感冒様症状に消化器症状を伴うことが多く,急激な心不全,心原性ショック,不整脈ないし心静止をきたし,従来の内科的療法には抵抗性を示し,大抵は致死的転帰をとる急性心筋炎として理解されてきた。しかし近年,心肺補助循環療法〔経皮的心肺補助装置(PCPS)や補助人工心臓(LVAD)など〕の導入により救命され社会復帰が可能となった症例の報告が増加し,本疾患に対する新たな救急医療のあり方が問われる事態になった。この趨勢に呼応し,日本循環器学会学術委員会は,和泉徹教授を班長とし全国規模の「心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎の治療と予後に関する調査研究」を展開し,計52症例の調査結果を基に心肺補助循環装置の運用ガイドラインをも含めた報告(1997―1999年度報告)を行なった(Jpn Cir J 2000; 64 Suppl III: 985―992, Cir J 2002; 66: 133―144)。
 今回新刊の『劇症型心筋炎の臨床,和泉徹編集』は,上述の調査研究の基盤となった詳細な臨床データの内訳を中心に,診断,病因,病理,劇症化の要因,治療,長期予後などの諸項目につき,適切な文献的考察を加えて解説したもので,劇症型心筋炎の基礎と臨床の現状を理解し,今後の問題点を検討する上にも役立つまことに時宜にかなった書物である。なお,巻末に多数の症例報告が提示され,本疾患が多様多彩な臨床像を呈することを理解しやすい編集となっている。
 本書の目次は,「I.総論」,「II.劇症型心筋炎を診断する(A.臨床像,B.診断)」,「III.劇症型心筋炎を知る(A.病理,B.病因,C.病態生理,D.劇症化へのメカニズム,E.慢性期病態と長期予後)」,「IV.劇症型心筋炎の治療(A.急性期治療のプロトコール,B.慢性期治療のプロトコール,C.ステロイドパルス療法,D.γグロブリン大量療法,E.IL―10療法,F.抗ウイルス療法,G.補助人工心臓使用)」,「V.私の劇症型心筋炎経験例(A. PCPSにより急性期または救命できたが重症心不全で死亡した1例,他5例)」,「VI.特異な病態を示した劇症型心筋炎例(A.拡張型心筋症類似病態に移行した劇症型心筋炎例,他5例)」と,索引(和文,3頁;欧文,1頁)よりなる。
 各章の執筆は,上述した調査研究班の構成員が分担し,随所に3年間の調査研究の豊富な経験と討議内容の反映がうかがわれる。

◆社会復帰可能な症例に伴う社会的関心の高まり

 劇症型心筋炎の疫学は不詳であり,心筋炎劇症化の成因も不明である。近年,本疾患の症例報告数は少なくないが,実際の患者数はさらに多いと考えられる。劇症型心筋炎の根治療法のめどはまだ立っていないが,PCPSで急性期を乗りきれば心機能改善が望め,社会復帰可能な症例もあることに社会的関心が高まり,最近は本疾患患者の早期対応に関連した医療訴訟の事例も稀ではない。既往歴に心疾患のない健常者が,感冒様症状から緊急に循環器専門の救急救命医療を迫られることになるので,プライマリケアにおいても,本疾患の早期診断の技量が問われる時代である。なお,本書で詳述されているPCPSを用いた本疾患52名については,30名(58%)が社会復帰可能であったが,その後3年間の追跡で再入院3名(10%),再燃1名(3%),死亡3名(10%)がみられ,本疾患の長期予後の改善についても今後検討を要する。
 本書は,劇症型心筋炎の現状と近未来の臨床的・基礎的課題に関する情報が豊富で,循環器専門医をはじめ,プライマリケアから3次救急医療の担当医,さらに循環器疾患の病理学,免疫学,感染症などに関心のある研究者にも広く推奨される好著である。
浮き彫りにされた劇症型心筋炎の全貌
書評者: 岡田 了三 (群馬パース学園短大学長)
劇症型心筋炎は,Fiedlerの「びまん性間質性心筋炎」4例の剖検報告(1899年)により,経過の短い致死的心筋炎として確立された疾患概念である。3例の小円形細胞の浸潤する型と,1例の巨細胞が目立つ例が含まれている。後にP. D. Whiteが著書『The Heart』の中にその英文要約を紹介して,ウイルス性心筋炎として矛盾するものはないと記載したことにより,広く世界的に認知されてfulminant myocarditisと称されるにいたった。

◆心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎治療の集大成

 発症してから重症化への経過が,急速でショックまたは不整脈死に終る症例と,何とか急性期を切り抜けると見事に回復して,ほぼ正常の生活を長期にわたって続けることが可能な症例に分かれることは,評者も繰返し経験している。その経過の特異性のため急死例では,医療訴訟に持ち込まれることもあり,病者の家族,受持医ともども苦慮する事態を招くことになる。
 和泉徹教授が,1997―2000年の3年間に日本循環器学会学術委員会「心肺補助循環を用いた劇症型心筋炎の治療に関する調査研究班」の班長として,本邦における52例を蒐集,整理された結果が本書に結実したわけである。
 分担執筆の著者たちは,この研究班の班員であり,本書には貴重な経験が十分に書き尽くされており,現時点での劇症型心筋炎の全貌が浮き彫りにされているので,循環器専門医を標榜する臨床医および研究者にとって必読すべき1冊である。

◆どこにあるのか単なる急性心筋炎と劇症型の分岐点

 心筋炎は,病原となるウイルスなどの性質とホストの免疫能が両々あいまって複雑な病態を示す厄介な疾患であるが,心筋内の小細血管またはリンパ管経由で病原が働くと,まず間質炎が始まり,激しい炎症が発生して心機能が低下しても,実質の構成成分である心筋細胞への深達度が浅く,その病変が可逆性であるか,心筋細胞の脱落が最少限に留まれば,心機能回復の望みがあるわけで,1―2週間の機械的循環補助装置の使用意義が存在することになる。本書では,単なる急性心筋炎と劇症型の分岐点がどこにあるのか? 臨床例のみならず動物実験で得られた心筋傷害を促進する各種サイトカインやNOなど各種生理活性物質の役割がわかりやすく解説されており,今一歩で劇症型の早期診断が可能になりそうな迫力を感じさせる点,真に心強い次第である。
 機械的循環補助装置を使用できるのは,今日では習熟したスタッフを抱える循環器専門病院に限られるので,劇症型の疑いを生じた時点で早急の救急搬送が必要であるが,ステロイドなど心筋炎の内科的早期治療に使用,ことに議論のある薬物についても触れられている。その上動物実験から有効性が示唆されて人体へも応用可能な新しい治療法に方向性が与えられている点,貴重な指摘と言える。また末尾に症例提示があることは,これから循環器専門医を指向する若い医師にとっても実践上役立つ情報が満載されているので,ぜひとも一読をお勧めしたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。