老人ケアの元気ぐすり

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お年寄りにもケアワーカーにも”心の元気”を吹き込む「ケアの元気ぐすり」。第I部は、医療・リハビリテーションの現場で、個々の患者さんやお年寄りと関わりながら、人間味あふれるケアを実践するケアレポート。第II部は、理学療法士を経てリハビリ医として再出発するまでの紆余曲折の半生を通して、人の生き死にへの関わりやケアすることの意味を問う自伝的なエッセイ。
稲川 利光
発行 2001年03月判型:B5変頁:168
ISBN 978-4-260-33125-8
定価 2,200円 (本体2,000円+税)
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I部 老人ケアの元気ぐすり
 1章 心が動けば体も動く―Fさんの「博多にわか」
 2章 関わりが人を変える―Sさんの形見の腕時計
 3章 行きたい所・会いたい人―ミツさんの外出
 4章 手作りの道具で自立へ―堀田さんの「八戒杖」と「万能フック」
 5章 新聞作りは“関係づくり”―リハビリ患者会新聞『希望』
 6章 「たそがれハイツ」のお隣さんとお向かいさん
 7章 感情の記憶が持つ力―「プラスの感情」と「マイナスの感情」
 8章 笑顔が咲かせる“元気の花”
 9章 生活を支えるリハビリ―吉田のばあちゃんと三島さん
 10章 関わりが生への意欲を支える―塩田さんの生きる力
 
II部 寄り道人生リハビリ航路
 1章 なつかしい日々のぬくもり―祖父母と城野のばあちゃん
 2章 大陸のロマン―祖父のぼけと尿瓶
 3章 なむあみだぶつ―祖父母の入院と死
 4章 人生の岐路―理学療法士をめざす
 5章 あぁ青島(チンタオ)―わが家のルーツをたどる旅
 6章 デイケアと遊びリテーション―障害老人へのアプローチ
 7章 バリアフリーの医療―医師をめざす
 8章 パンの耳―医大生時代の貧乏暮らし
 9章 かたばみの花―ハンセン病の島の詩人
 10章 寝たままの受験―リハビリ医としての出発

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人への思いが凝縮した「ケアの元気ぐすり」
書評者: 大田 仁史 (茨城県立医療大学附属病院長)
 著者の稲川君とのつきあいは,1984年に広島で開催された「全国地域リハビリテーション研究会」が始まりだと思う。当時,彼は理学療法士で,その会では三好春樹,鳥井浩司,安永道生,村上重紀君など,大勢の傑出した理学療法士や作業療法士と出会った。またその頃,彼が「辛く苦しい訓練でなく,明るく楽しいリハビリを」という主張をこめて提唱した「E・T」(Entertainment Therapyの略)という新語が老人ケアの世界で話題となり,1988年に福井で「第1回ET学会」が旗揚げされた折,稲川君は「博多にわか」のおもしろい芸を見せてくれた。
 その後,彼は医師をめざして香川医科大学に入り,医学生時代にも「四国老人ケア研究会」を結成して老人の地域ケアにかかわっていたが,私はその第1回大会に招かれて講演した際,「おむつ外し」をテーマにした寸劇仕立てのプログラムで,彼におむつ外しに挑戦する老人の役をもらったりしたのを覚えている。
 余談になるが,四国・高松にはわが家の先祖の墓があり,東京の私ども家族はたびたび墓参もかなわぬので,彼に墓守りを頼んだ。よく面倒を見てくれて,92歳になる母親は彼に本当に感謝している。
 本書 II 部には彼の生い立ちが述べられているが,医学生時代の貧乏ぶりはいまの時代では相当なもので,その苦心の貧乏対策は直接聞くと笑い出してしまう。本人は辛かっただろうが,聞くほうにはほとんど漫談に近かった。それは彼の人柄による。彼は情に厚く,心豊かで芸達者。それにとびっきりやさしい。しかも40歳になって医者になるほどの元気もある。しかし年には勝てず,暗記物が多い医者になる苦労をイヤと言うほど味わった。それを支え続けたのは実は奥さんだ。「おじいちゃん子,おばあちゃん子」だったので,一面甘えん坊のところがあるが,今は奥さんに甘えきっている。本人はそう思っていないだろうが,外から見ていると微笑ましくもある。

◆ユニークな著者の人柄と魅力が一杯

 本書には,そんなユニークな経歴をもつ稲川君の人柄と魅力が一杯詰まっている。
 本書は2部構成で,それぞれ10章で構成されている。I 部は,理学療法士時代から病院・地域で積み重ねてきた「遊びリテーション」などの人間味あふれる先駆的な実践のケアレポートで,前に勤めていた病院や現在勤務している病院でのお年寄りや患者さん・家族との出会いが記されている。今の医療に欠けている人間への分け隔てのない関わりの大切さが,登場する1人ひとりを通して深い思いで書かれている。10章(関わりが生への意欲を支える)に登場する「塩田さん」というおばあちゃんの話は何回も聴かせてもらった。そのたびに涙をさそわれ,また心が豊かになる。この塩田おばあちゃんとの関わりに彼の人に対する思いの本質が凝縮しているように思う。
 医者になった彼を,故郷・福岡市から遠い伊豆逓信病院(現・NTT東日本伊豆病院)に勤めるようにと誘ったのは私だが,1人ひとりの患者さんに学びつつすばらしい医者に育っているので安心だ。
 II 部は,理学療法士を経てリハビリ医として再出発するまでの紆余曲折の半生を通して,人の生き死にへの関わりや,ケアすることの意味を問う自伝的なエッセイである。先にも少し述べたが,貧乏の中でも天真爛漫に育てられたのであろう。それは彼の今の生活ぶりや子育てぶりに反映しているように思う。愛する祖父母が貧しい医療環境の中で無念の亡くなりかたをした姿が,いまなお彼の目蓋に残り続け,それがリハビリテーションへの気持ちをかりたて,エネルギッシュな診療,やさしさを生む原体験になっていることがよくわかる。
 稲川利光が医者を越え,人間として大きくなっていく姿が楽しみである。

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