アウトブレイクの危機管理
感染症・食中毒集団発生事例に学ぶ

もっと見る

伝染病、結核、O157、食中毒など、主な感染症や原因不明の疾病の集団発生があった場合の感染症対策、原因究明の技術、危機管理の対応について実践的に学べるようにまとめた一冊。実践編、演習編、標準対応編、施設対応編、平常時編の構成となっている。目前の緊急対応だけでなく、平常時、緊急時の危機管理から再発予防までを解説する。
感染症・食中毒集団発生対策研究会
発行 2000年10月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-33097-8
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

第1章 【実践編】 

 [事例1] アウトブレイク発生時における医療の確保

 [事例2] 広域流通汚染食品によるO157のdiffuse outbreak

 [事例3] 水系感染によるクリプトスポリジウム症集団発生

 [事例4] 細菌性赤痢の大規模集団発生

       ―市保健所と県保健所の管轄地域をまたがった事例

 [事例5] 透析施設での劇症肝炎集団発生

 [事例6] 院内感染による中耳結核多発事例

 [事例7] 介護職員を巻き込んだ疥癬の集団発生

 [事例8] 精神科病院におけるインフルエンザ集団感染

 [事例9] 予防接種健康被害

 [事例10] 保育園における赤痢集団発生が3か月にわたり遷延した事例

第2章 【演習編】 

 [紙上シミュレーション実習1] 原因不明の皮膚炎の流行調査事例

 [紙上シミュレーション実習2] 原因不明の集団胃腸炎の流行調査事例

第3章 【標準対応編】 

 0. アウトブレイクの危機管理

 1. 診断の点検 病原体診断はされたか?

 2. アウトブレイクの確認

 3. 既存情報を点検し基礎知識を得る

 4. 症例の定義を文書化

 5. 調査準備

 6. 発生場所や環境の調査

 7. 患者の調査

 8. 他に病気の人がいないか探す 積極的患者発見 Active Casefinding

 9. 時  時・場所・人の特徴による流行状況の確認

 10. 場所 時・場所・人の特徴による流行状況の確認

 11. 人  時・場所・人の特徴による流行状況の確認

 12. 情報を集約して仮説を作りだす

 13. アウトブレイクをコントロールする

 14. 仮説の検証(分析疫学)

 15. 分析疫学的検討結果の解釈

 16. 提言を行う

 17. 対策の評価・発生状況の確認

第4章 【施設対応編】 

 施設における感染症危機管理の心得

  ―地域ケアの現場で日常の感染症対策の質を高めよう

 1. 感染症予防は介護の質を左右する

 2. 感染症の危機管理は平常時の取り組みから!

第5章 【平常時編】 

 平常時対策としてのサーベイランス

【平常時の感染症・食中毒対策】

 1. サーベイランス

 2. 感染症・食中毒集団発生マニュアルとシミュレーション

 3. 職員研修

 4. 事前対応型危機管理

【感染症・食中毒集団発生時の対応】

 1. 組織対応,体制作り

 2. 情報管理,情報公開,マスコミ対策

●付録

 1. 主要感染症の潜伏期間

 2. 保健所における4類全数把握感染症の対応

開く

感染症・食中毒に遭遇した時,医療関係者は何をすべきか
書評者: 岡部 信彦 (国立感染症研究所・感染症情報センター長)
 感染症コントロールのためには,的確な臨床診断とこれをサポートする病原診断,そして正しい診断に基づいた正しい治療の選択,さらに日常からの予防が重要であることは言うまでもない。最近は,これに加えてサーベイランスの重要性に関する認識が高まっている。
 サーベイランスには,担当者が情報の収集をその他の人や機関に依頼し,収集されたデータにつき分析,還元する受動的サーベイランス(passive surveillance)と,担当者が直接感染症の発生現場に出かけ,一定期間,患者への接触などを含め現場での調査を行なう能動的/積極的サーベイランス(active surveillance)がある。前者は日常的に行なわれている点が重要で,いわばサーベイランスの基礎的な部分であるが,後者は何らかの感染症の発生(アウトブレイク)に対して直ちにその対策をとるために必要なサーベイランスである。
 わが国では1999年4月より感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)が施行され,感染症サーベイランスの新しい体制が整備された。その中で,「サーベイランスは国の責務である」と法律で明記されている。同法には,都道府県知事は積極的疫学調査を実施できることも明記されている。地域において何らかの感染症のアウトブレイクが日常的サーベイランスなどから感知された時には,直ちにその対策をとることが必要なものであるかどうかを見極め,法律の規定による行動に限らず,積極的なサーベイランスを,いつでも行なえる体制を日頃から整えておく必要がある。

◆アウトブレイクの危機管理のバイブル

 本書は,いくつかの感染症アウトブレイクを経験してきた自治体における感染症対策担当者によってまとめられた,いわば感染症の危機管理に関する実用的な書である。内容は,結核,O157,赤痢,インフルエンザ,予防接種副反応事例など,いつわれわれが遭遇してもおかしくない疾患の実践について知ることができるよう述べられている。発生現場も保健所において主にかかわるものだけではなく,老健施設,保育園,病院など広く取り上げられており,自治体における保健担当者のみならず,医療現場で感染症対策に取り組む人々すべてに対して役に立つ構成となっている。
 また現場における経験を述べるだけではなく,アウトブレイクに関する紙上でのシミュレーション,一般論としての対応の実際についてそれぞれ項目を立てて解説してあるので,どのような感染症のアウトブレイクであっても本書によってactive surveillance実施の道筋が立てられるようになっている,いわばガイドライン的な役割も本書は果たしている。

◆マスコミへの対応,協力も提示

 感染症のアウトブレイクがあれば,それを調査することは当然であるが,真の感染症対策のためには,その調査に基づいた提言を行なうことが重要である。さらにマスコミへの対応,協力なども実際の現場ではきわめて重要なこととなる。本書ではアウトブレイクに対する調査研究方法を提示するだけではなく,これらの重要な点についても触れられており,実際的である。
 以上より,本書は公衆衛生現場における感染症担当者のみならず,第一線の医療現場など感染症対策にかかわる人々に広く一読をおすすめしたい良書である。また実際のアウトブレイクに遭遇した際には,本書を資料の1つとして現場に携えていくことも併せておすすめしたい。
 現在わが国では,このような積極的なサーベイランスを行なう専門家の数はきわめて限られており,これを養成する2年間の研修コース(Field Epidemiology Training Program,FETP)が,国立感染症研究所感染症情報センター内に設置された。本書の著者の1人は,このFETPコースでさらなる研鑽を積んでいるところである。今後の研修の成果,アウトブレイクの経験などが集積され,さらに本書がより優れたものに発展していくことを心から願っている。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。