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ヘルスケアリスクマネジメント
医療事故防止から診療記録開示まで

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医療は医学であると同時に、統計であり倫理でもあり、そして法律に規制されながら行うビジネスである。本書は米国での医療事故防止のための試行錯誤や、公衆衛生学的手法に学び、法律、経済、倫理など多くの視点から医療事故の問題に迫り、日本におけるリスクマネジメントを提案するものである。多発する医療事故の防止のため病院管理者をはじめとする医療従事者必読の書。
中島 和江 / 児玉 安司
発行 2000年10月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-33100-5
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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  • 目次
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第1章 医療事故に関する科学的知見
第2章 米国の病院における医療事故防止方策
第3章 わが国の医療機関におけるリスクマネジメント
第4章 医事紛争からのレッスン
第5章 診療情報管理

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今,まさに主役となる公衆衛生学
書評者: 中島 伸 (中河内救命救急センター)
 「渡米してまず驚かされたことは,日本では医学部の中の一講座である公衆衛生学が,米国では公衆衛生大学院として医学部に匹敵する規模と影響力を持っていることでした」これは本書の「はじめに」にある著者の言葉である。

◆米国のエネルギーの一端を感じる

 わが国の基礎医学や臨床医学が世界にひけをとらないばかりか,リードさえしているのに対し,社会医学である公衆衛生学の分野では,残念ながら米国のパワーに圧倒されてしまっているのが現実であろう。
 本書『ヘルスケアリスクマネジメント』は,その米国のエネルギーの一端を感じさせるものである。
 著者の中島和江氏は,研修医時代にわが国の医療現場が抱えるさまざまな矛盾に直面し,これらの問題に正面から取り組むべく米国に留学した。ハーバード公衆衛生大学院で待ち受けていたのは,法律学や倫理学はもとより,統計学,経済学,そして医療政策にいたる厳しい授業と実習であったという。もちろんこの中に医療事故や医事紛争に関する講義も含まれていたことは想像に難くない(何といっても医療事故/医事紛争研究の第一人者,ブレナン教授を擁するハーバードである!)。
 再び著者の言葉を借りよう。
 「医療は医学であるとともに統計であり倫理でもあります。そしてまぎれもなく法律に規制されながら行なうビジネスなのです。これら多くの分野を学ばなければ医療の全体像を理解し,その本質的な問題に迫ることはできません」

◆米国流公衆衛生学の方法論を学ぶよいお手本

 医療の問題を理解するには単に医学を応用させるだけでは不十分であり,法律や経済など多くの分野を関連づけて学ぶことが必要であるという,言われてみればあたり前の著者の言である。
 本書は医療事故や医事紛争を理解するためのテキストであるが,それと同時に米国流公衆衛生学の方法論を学ぶよいお手本でもある。医療が巨大ビジネスであるがゆえに,また医療が訴訟のターゲットであるがゆえに,進化せざるを得なかった米国の公衆衛生学ではあるが,今まさに旬であることは間違いない。
 専門を問わず,わが国の公衆衛生学を担う研究者たちに,ぜひ読んでもらいたい教科書である。

医療事故防止へ元気を与えてくれる
書評者: 福岡 富子 (阪大附属病院看護部長)
 今や社会的な問題であり,すべての人々の関心事である医療事故防止は,医療現場における最大の課題である。各々の医療機関では,独自の方策で事故防止に最大の努力を払っているところであろうが,これは,医療事故に関する科学的な知識を得たり,医療事故を取り巻くさまざまな問題を理解する手立てが十分でない状況下での,手探りの努力であると感じていた。つまり,医療事故防止には,もっと科学的でもっとアカデミックな要素が不可欠であると感じていたのである。
 このような時,前述の要素を満たしてくれる書籍『ヘルスケア リスクマネジメント』が出版された。この書の魅力は,まず著者が中島和江氏だということである。氏は当院のジェネラルリスクマネジャーであり,現場でのつき合いの中から思うのは,米国の公衆衛生大学院で,医療事故を取り巻く諸問題を理解するためのさまざまな学問を修められたことはいうまでもないが,なによりも臨床現場をよく理解している人間性豊かな優秀な医師であり,魅力的な女性であるということである。わが国の医療事故防止の中心的役割を果たしておられるのは周知の事実である。この著者の実力と魅力が見事に統合された本書は,当然のことながら他に類を見ない。これが本書のもう1つの大きな魅力である。
 本書の特徴は,全体を通して,医療事故を取り巻く諸問題に対する米国での取り組みが詳細かつ明快に紹介され,併せてわが国の実態や取り組みの方向性および今後の課題が述べられている点である。加えて,法律,倫理,経済といった側面からもアプローチされていて,米国のエネルギーを端々で感じながら,興味深く読み続けることができる。とにかく,医療事故防止から診療録開示まで,知識,情報,方策などが満載されている。他方,充実した内容とともに,編集の方法も卓越している。表や図の挿入,MEMOの活用は,読者の理解を促し,読者を飽きさせない効力がある。
 臨床現場では,医療事故防止を推進する上で,焦りやジレンマを感じる場面も少なくない。本書を読み終わった後の充実感は,そんなマイナスのイメージを払拭し,元気を与えてくれること間違いなしである。

◆現実の問題点を解決するために

 以上述べたように,本書は,いわゆる医療事故防止の方法論のみを述べたものではない。とかく看護の世界は,「how to」ものが好まれる傾向にあることは否めないが,リスクマネジメントの概念や具体策,病院内での位置づけなどが確立されているとはいえない現状だからこそ,医療事故というものの本質を理解することが重要であろう。各々の医療機関で現状の問題点や課題を整理し,解決方法を検討する時,本書はかけがえのないテキストになると確信する。

日本における医療事故防止の方法論を提示
書評者: 坪井 栄孝 (日本医師会長)
 「私の患者の健康を私の第一の関心事とする」という,世界医師会ジュネーブ宣言の一文や,ヒポクラテスの誓いにある「患者の利益になることを考え,危害を加えたりしない」という一節は,「医療それ自体が持つ危険性」を明確に意識したものである。したがって,「患者の健康を守る」という医師の使命は,医療が人類の幸福に大きな貢献を果たす可能性とともに,それに伴う危険性の存在とその回避という側面とを元来併せ持っていると理解することができる。当然これまでも医療過誤は,それ自体避けられない宿命を持ってはいるが,われわれ医師はその発生を最小限に抑えるために,英知の集結と共有・伝達に努めてきたはずである。
 近年になって,日本だけでなく世界中の医療の現場で患者の安全と医療過誤の問題が取り上げられ,国民的な関心を集めている。患者の安全を守るためには,医療事故の本質を理解し問題発生の背景とメカニズムを明らかにすることが前提であり,責任を追及する体質からの脱却と経験を予防に生かす努力への変革が必須である。

◆患者の安全確保のために

また,医療事故の発生とその被害を最小にするという意味での「患者の安全確保」の重要性を認識するとともに,医療事故を忌避するあまり適切な医療提供の機会が失われてしまうことや,進歩した医療技術による国民の健康を向上させる可能性の否定に繋がるというネガティブな面にも注意を払う必要があると考えている。
 「患者の安全」の問題は,単に事故を回避する,あるいは発生した事故にいかに対応するかという側面が強調されがちであるが,これだけで解決するものではない。単に「事故の防止」という側面だけでなく,事故回避を最優先にすることによる逸失利益についても十分に考慮・検討する必要がある。そのため,この問題の解決に当たっては,基本的な哲学について医療従事者,患者など関係する多くの人たちの間で議論することによって,国民的なコンセンサスを得る努力がまずもって重要であると認識している。
 当然ながらこれらの一連の活動は,法的な拘束や公的権力によるものではなく,医療提供の責任を持つわれわれ医師を中心とした自主的で実効のあがるものでなければならないと考えている。その意味で,最近頻繁に医療機関に対する司法当局の介入が目立ってきていることに関して危機感を持っている。あるべき医療の姿と患者の安全確保を第一に考え,責任追及ではなく再発防止に軸足を持った法制度のあり方や,不幸にして不利益を受けた患者の救済をどう考えるかという問題を避けて通ることはできない。

◆混乱する医療現場の解決の糸口

 本書,『ヘルスケア リスクマネジメント-医療事故防止から診療記録開示まで』は,日本医師会の医療安全対策委員会の委員でもある中島,児玉の両先生の手になるものである。米国における取り組みや両氏の米国での経験を下敷きとして,日本における医療事故を防止し,患者の安全を確保するために具体的にどうすればよいかという方法論までを網羅しており,それぞれの医療機関が取り組むべき方策を考えるヒントを与えてくれる。医療の現場がこの問題をめぐって大きな混乱の中にあり,さまざまな主張が交錯してしまい問題解決の糸口を見出すことを難しくしている現在,時宜を得た本書に大きな期待を寄せている。患者の安全確保対策が,すべての医療従事者が共通の認識を持って取り組まれ,より効果的に実行されることを期待している。
 私は,今こそ医療従事者すべてがこの問題の重要性を認識し,意識改革に取り組み,積極的な診療情報の開示や,医療過誤を最小化するためのさまざまな工夫と努力,患者や一般市民との対話を通じて,患者と医師双方が「医療過誤」という魔物に食われてしまわないことに細心の注意を払わなければならないと考えている。

医療事故をシステムの問題として改善する視点を提示
書評者: 山浦 晶 (千葉大附属病院長)
 まず著者らの高学歴に驚く。お二人とも,国内で少なくとも2つの大学を卒業し,中島氏はハーバード公衆衛生大学院,大阪大学医学部大学院博士課程を修了,児玉氏は司法研修修了後,シカゴ大学ロースクール修了,ニューヨーク州司法試験に合格とある。
 中島氏は留学中に,医療過誤保険会社(Harvard Risk Management Foundation)で2年間の実践的な経験を積み,大きな医療事故をつぶさに見る機会を持たれたことは,その後の活動に大きな影響を与えていると思う。私が国立大学病院長会議の常置委員長として「医療事故防止方策に関する作業部会」に出席する折に,中島氏の豊富な経験を拝聴し感嘆したものである。中島氏の執筆や発言の内容は,単なる机上の空論でなく,常に実践に基づく強いインパクトをもっている。
 わが国においては,1999年1月に起きた「患者取り違い事故」がきっかけとなり,メディアも医療事故を大々的に取り上げることとなった。
 医療界も医療事故の予防には,最大の努力を試みるものの,なかなかその効果が目に見えて上がらないのが実状である。このような現状にあって,本書の果たす役割はきわめて大きい。

◆医療事故は「ヒューマンエラーの科学」

 わが国においては,医療事故を「ヒューマンエラーの科学」としてとらえ,かつ「医療のシステムの問題」として改善しようという認識が十分でなかった。そのためにわが国における基盤となるデータが乏しく,本書ではアメリカで積み重ねられた知見が,わかりやすく紹介し解説されるのはたいへん貴重である。

◆医療事故を生きた教材として改善のエネルギーに

 中島氏が自ら驚嘆された,アメリカにおける「医療事故を生きた教材としシステム改善のエネルギーとしてしまう風土」を,十分に本書に感じることができる。
 医療の世界に呼吸をするものにとって,この著書は必読と言えよう。タイムリーな出版を大いに歓迎したい。

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