医師とクリニカルパス
臨床各科の実際例

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クリニカルパス―of the doctors, for the doctors, by the doctors。これまで主として看護領域で語られ実践されてきたクリニカルパスは、医師の関与が少なかったため充分臨床現場では広がらなかった。今ここにNTT東日本関東病院の内科および外科の第一線臨床医が、各科におけるパスの具体例をもとに、如何に臨床応用可能かを語る。
編集 小西 敏郎 / 深谷 卓 / 阿川 千一郎 / 坂本 すが
発行 2000年11月判型:A4頁:160
ISBN 978-4-260-13871-0
定価 3,300円 (本体3,000円+税)
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日本に適したクリティカルパスを
書評者: 小林 寛伊 (関東病院長)
 関東病院においては,1997年以来,クリティカルパス(クリニカルパス)の導入を開始し,爾来,関係各位の研鑽により約100種類のクリティカルパスが作られてきました。2000年12月4日より新病院開院に伴って,電子診療録およびpicture archiving and communication systems(PACS)を全面的に導入しましたが,2001年3月末までには,電子診療録にクリティカルパスを組み込む予定です。

◆クリティカルパスによる効果

 クリティカルパスは,本書の第1章に示されている通り,アメリカ合衆国においてdiagnosis related groups/prospective payment system(DRG/PPS)の導入に伴って,入院期間の短縮および医療費の削減を目的に導入されました。当院におきましても,日本におけるDRG/PPS導入を念頭において検討を開始しましたが,クリティカルパスを実際に使い始めて,当初考えたのとは異なった次のようなうれしい効果がわかってきました。
1.クリティカルパスは,患者中心のチーム医療のツールとして大変有効であること
2.医師ですら退院日を予め計画せず,ましてや,看護婦,患者さまおよびご家族は,知るすべもなかったパターナリズムの医療の時代から,patient-focused careに大きく変換していくツールとなること
3.患者さま自身の入院治療計画に関する理解を深め,患者さま自らが治療の主役として積極的に社会復帰に向けて努力され,ご自身のquality of lifeを大きく高めること
4.クリティカルパスに基づいた入院治療のアウトカム評価とヴァリアンスに関する検討が次の改善に大きく役立つこと
5.それらの必然的結果として,在院日数短縮および経済的効果がもたらされること
 特に3.に関しましては,本書の120-121頁に患者さまの声として紹介されております通り,思いもよらなかったすばらしい効果があることが判明しました。そのことは,過日,NHKのテレビ番組でも紹介されました。また,医療チーム全員が,入院治療計画を予め理解して,チームとして患者のケアにあたれるようになったことも大きな収穫でした。

◆入院治療における工程表

 クリティカルパスは,入院治療における工程表に喩えることができます。自宅の建築にあたって,施主に工程表を示さずには工事を受注することはできない時代です。医療においても,その主役である患者さまに工程表を示さずに診療を行なうことは許されない時代となっています。そして,患者さま自身が診療の中心であり,ご自分の力で病と戦ってQOLを高めていかれるのを,医療チームが全員で協力してお助けしていくケアが望ましい医療と考えます。
 こんな観点から検討を重ね,日本に適したクリティカルパスを開発してきました経緯が本書に盛り込まれています。1人でも多くの方が,本書を読まれてご参照いただき,併せまして,日本医療マネージメント学会など関連学会の場等におきまして活発なご議論を賜りますとともに,忌憚のないご意見,ご教授を賜わることができましたら,これからの日本の医療の質と患者サービスとの向上に大きく貢献するものと確信しております。

医療資源の有効利用の立場から生まれた最新の方法論
書評者: 山内 豊明 (大分看護大助教授・看護アセスメント学)
◆なぜクリニカルパスは普及しないのか

 われわれを取り巻く種々の環境の変化は,ケア提供体制の変革や改善を余儀なくさせている。クリニカルパスは現代の医療資源の有効利用の立場から生まれるべくして生まれてきた最新の方法論である。このクリニカルパスはマネージドケアの台頭が著しい米国で誕生し,医療が提供される社会環境の変革に対応すべく,わが国でも昨今急速な勢いで拡がりをみせつつある。
 本来果たし得る機能の可能性からすれば,クリニカルパスはもっと普及してもおかしくはないはずである。しかしながらわが国の多くの医療現場ではクリニカルパスに対しては必ずしも十分に認知されているとは言いがたい。その大きな理由の1つには,多くの医師のクリニカルパスについての理解不足とそれによる誤解があろう。
 これまで出版されたクリニカルパスに関する書籍は,クリニカルパスの基本的な理論や本質的な考え方,あるいは地道な開発経過についての論考にはあまり紙面を割かずに,とにかく最終産物である2次元平面に展開されたパス図表そのもののプレゼンテーションに終始しているものがほとんどである。このこともクリニカルパスへの誤解の一因になっているという印象は否めない。
 またクリニカルパス導入のいくつかの事例をみていると,とにかくクリニカルパスを「導入する」というイベント自体にエネルギーが集中し過ぎていて,そこまでの経過について十分な注意が払われていない例も少なくないようでもある。つまりなぜ導入する必要があるのか,また導入するためには何をすべきなのか,ということに十分な検討と議論と合意がなされておらず,とにかく導入したい,あるいは導入すれば何とかなるであろう,という思いだけで進んでしまった場合も少なくないようである。
 しかし,クリニカルパスは導入することがゴールではないはずである。やりたいからやる,ということだけでは関係者の納得は得られまい。あたかも結婚生活において,結婚式あるいは結婚披露宴が究極の目的ではなく,結婚に至るまでのプロセスの積み重ねと結婚後の生活への体制作りこそが大切であるように,クリニカルパスも導入に至る適切な経緯と,導入後の継続的な維持向上の担保が必要である。
 そのうえ,新しいパラダイムへ変化するということ自体についての相当の労力,すなわちこれまでの習慣からの脱却という心理的なバリアを越えるエネルギーが必要となる。つまりパラダイムシフトは応分の痛みを伴うものであることには疑いはなかろう。それらを見越してまでもクリニカルパスの導入を決断し説得するには,それなりに十分な根拠が必要となるのである。

◆実際の導入過程をそのまま述べる

 本書では,これらの課題について誠実かつ着実に取り組んできた自らの姿そのものとして,実際の導入過程をそのまま詳細に述べている。そして過分に気負うことなく事実を淡々と記すことから,かえって何よりの説得力をもってこれらの課題への解決策を示唆している。これからクリニカルパスの導入に関わるすべての人に,ぜひとも一読を期待したい比類のない1冊である。

クリニカルパス導入のためのたしかな指針
書評者: 武藤 徹一郎 (癌研附属病院副院長)
 最近でこそクリニカルパス(パス)という言葉は,医療関係者なら誰でも知っている用語になった。もし知らなければ時代遅れと笑われても仕方がないであろう。本来,工業界における品質管理,生産コスト管理のために用いられたクリティカルパスの概念が,医療界に導入されたのはごく最近のことであり,アメリカでのDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)の導入がそのきっかけであった。医療界の流れの常として,アメリカから日本へと輸入されたこの概念は徐々に日本に広まり,クリティカルパスよりはクリニカルパスの名称で親しまれるようになってきた。癌研究会附属病院でも一部ながらパスが導入されているが,それも,本書執筆者の中心人物である小西敏郎博士の学会での講演を2年前に拝聴したのがきっかけであった。入院患者のほぼ100%が悪性疾患である癌研病院で,医療の標準化をめざすパスの導入が可能かという危惧があったが,看護部がすでに前から興味をもって準備を進めていたことと,医師の中にも導入に積極的な人が何人かいたことが幸いして,導入に成功し2年目を迎えようとしている。これも,小西博士をはじめとして何回か講演会を開き,病院見学も行なっての結果であった。
 導入までとその後の苦労を振り返ってみると,本書は実によく書かれた本であると感心するばかりである。導入時にこの本があればどれだけ有用であったかと思わざるを得ない。

◆役立つパス導入に必要なノウハウの数々

 本書は,NTT東日本関東病院のパス導入に直接携わった医師・看護婦が中心になってまとめられたもので,パスの概念,意義,メリット,デメリット(きわめて少ない)が詳しく記述されている。パス導入・作成の実際を医師と看護婦の立場から述べ,具体的な内科系疾患,外科系疾患についての記述があり,最後にパスによる医療システムの変革についても言及されている。パスの導入に必要なノウハウの,ほとんどすべてが含まれていると言っても過言ではない。著者らも指摘しているように,パス導入の最大のメリットは,医療人の認識向上と医療システムの変革にあり,治療法の単なるマニュアル化ではないことは明らかである。それは情報公開と,医師・看護婦の協調によるチーム医療の遂行によってもたらされるものである。NTT東日本関東病院でも,病院長の強力なリーダーシップのもとに,医師・看護婦・事務が一致協力してパス導入が行なわれた様がよくわかる。これからパスの導入を計画している施設は,本書に記載されている疾患別パスの実例をそのまま取り入れることから始めるのが早道であろう。ただ胃癌・食道癌のパスがあるのに大腸癌のそれがないのは気になったが,おそらく紙面の関係で除かれたのだろう。

◆パス導入とその継続は必須

 著者らも指摘するように,パス導入の最大の障害は,医師の反対または無関心であるが,これは著者の病院でも経験していることである。しかし,今後わが国の病院が患者中心の本来の病院としての機能を取り戻すためには,パス導入とその継続は必須のものになるであろう。
 本書はパス既存の有無を問わず,あらゆる病院の医師・看護婦にとってクリニカルパスに関する確固たる指針を示してくれる名著である。

患者中心の標準的医療の実践をめざす医療従事者に必携
書評者: 高橋 俊雄 (都立駒込病院長)
◆臨床現場にクリニカルパスを導入した医師たちの記録

 これまでクリニカルパスに関する参考書はいくつかあったが,本書はこれまでのものと異なり,実際にわが国の実情に応じてクリニカルパスを作成し,これを臨床の現場に導入・実践してきた医師たちの苦労と成果を記載した実際的な書である。
 本書でも述べられているように,クリニカルパスは,医療の質の向上,治療・看護の標準化,医療経営の効率化,医療費の適正化,チーム医療の推進,患者満足度の向上など多くの利点がある。しかし,わが国のクリニカルパスの導入は,看護・コメディカルは積極的であるが,全体的には必ずしも十分進んでいない。これは医師の協力が得られないのが最も大きな理由である。医師の多くは,クリニカルパスは経営効率をあげるための一手法にすぎないなどと,本来の意義を誤解しているためである。
 本書では,実際クリニカルパスを各疾患に導入・実践した医師の立場から,クリニカルパスの利点,欠点について分析を行なっている。その結果,クリニカルパスは患者中心の医療を行なう上で,必須であると結論している。医師の視点から豊富な具体例を通して作成されたpatient orientedなクリニカルパスが示されており,ただちに臨床の現場に応用できる好著である。

◆病院管理・運営にも大きな示唆

 激動する医療情勢の中で,21世紀の医療はInformed Consent(IC),Evidence-based Medicine(EBM),情報開示などが強く求められ,また,DRG/PPSも近く導入されることになるものと思われる。そして,これまでのような個々の医師の裁量権に基づいた医療ではなく,医師・看護婦・薬剤師・栄養士・検査技師などが協調して,患者中心の標準的医療が求められるであろう。このような医療を実践するに当たって,クリニカルパスがきわめて有用であることが,本書を一読すれば理解することができる。
 また,クリニカルパスの導入は在院日数短縮や医療費の削減はもとより,病院の機能評価や医師の評価判定にも応用が可能であり,病院管理・運営の上でも大きな示唆を与えるものと編者らは期待している。
 このような意味から,本書は実際の臨床に携わる医師,院長をはじめとする病院管理にあたられる先生方などにとって,ぜひ目を通していただきたい,21世紀の最新書である。

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