ECTマニュアル
科学的精神医学をめざして

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精神科身体療法の代表的な治療法であるECT(electroconvulsive therapy、電気けいれん療法)は、薬物治療抵抗性の精神疾患が問題となるなかで、世界的に再評価されている。本書では、修正型ECTを中心に、より安全にECTを施行するための実践的な記述に加え、ECTの生理学的基礎やインフォームド・コンセントの重要性についても詳述した。精神科臨床医必携の書。
本橋 伸高
発行 2000年12月判型:A5頁:112
ISBN 978-4-260-11851-4
定価 3,300円 (本体3,000円+税)
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  • 目次
  • 書評

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第1章 ECTの歴史と再評価
第2章 ECTの臨床
第3章 ECTの基礎
第4章 ECTの実際
第5章 ECTの倫理的問題と今後の課題
第6章 ECTの新たな展開

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日本の臨床の場にECT治療の導入を
書評者: 樋口 輝彦 (国立精神・神経センター総長)
◆欧米で常識となるECT

 電気けいれん療法(ECT)はわが国では長い間表舞台に立つことはなかった。だからといって,まったく過去の治療法になってしまったわけではない。一方,欧米では早い時期からECTの有効性,適応,安全性に関して学会を中心に検討が重ねられ,エビデンスをもとにしっかりした指針が作成されてきた。米国精神医学会(APA)のTask Force Reportが1990年に作成され,最近改訂版が発行されたと聞く。英国においてもRoyal College of Psychiatristsが1995年にsecond reportとしてECTハンドブックを出版している。
 この間の欧米の努力は指針の作成にとどまらず,より安全性の高い装置と方法を開発してきたのである。すでに1970年代には短パルス矩形波の治療器が開発され,欧米では今やこの装置を用いることが常識になっているのである。また,筋弛緩剤を用いた無けいれんECTが単科の精神病院においても行なわれている。なぜ,このような欧米との落差ができてしまったのであろうか。
 このたび,医学書院より出版された本橋伸高著の『ECTマニュアル-科学的精神医学をめざして』は,わが国ではじめてのECTに関するまとまったマニュアルである。著者はわが国のECT治療の遅れを最も嘆いている医師の1人である。しかし,著者はただ嘆くのではなく,自ら短パルス矩形波の治療器を輸入し,率先して臨床の場への導入に努力している。本書では第1章においてECTの歴史と現況,特に欧米とわが国のECTに対する姿勢の違いを述べている。先に述べた欧米での科学的態度がいかに大切かが理解される。第2章では具体的な症例をあげ,適応と禁忌,副作用が著者の経験と文献をもとに明確にされている。第3章はECTの基礎と題して,ECTの作用機序について総説している。
 第4章と第5章が本書のマニュアルの部分であり,最も著者が力を入れて執筆した部分と思われる。第4章はECTの実際が詳しく書かれており,臨床の現場で大いに役立つものである。第5章はECTの大前提であるインフォームド・コンセントを扱っている。著者の所属する施設における説明文書や同意文書が示されており大いに参考になる。また,入院形態と同意の取り方の問題についても言及されている。第6章は「ECTの新たな展開」と題して,著者自身がパルス波治療器を用いた経験が述べられている。

◆治療抵抗性の患者に対する責任

 本書を通読して,日本におけるECT治療の未発達を早期に克服することが,薬物療法や精神療法で改善の得られない治療抵抗性の精神疾患患者に対する精神科医の責任であるという,著者のメッセージが伝わってくる。同時に,1日も早くパルス波治療器が医療機器として認められ,現在使用されている原始的なECT治療器に置き換わることを切に願う著者の姿が浮かびあがる。

ECTを安定かつ効果的に精神科臨床に導入
書評者: 佐藤 光源 (東北大教授・精神神経医学)
◆mECTを適正に行なう手順

 電気けいれん療法(ECT)には長い歴史があるが,修正型ECT(modified ECT,mECT)以前のECTは,患者や治療者にとって非常に衝撃的な治療法であった。著者の本橋氏自身も「あとがき」に“強直間代性けいれんが続く時の恐ろしさ,発作が消失して自発呼吸が回復するまでの緊張感から,こんな治療法は決して行なうまいと研修医時代に心に誓った”と書いている。その著者がECTに対する負のイメージが非常に強いわが国で,ECTのマニュアルを発刊したのはなぜだろうという素朴な疑問もあった。また,私どもの教室でも薬物不耐性で重症の老年期うつ病患者に緊急救命措置としてmECTを行ない,劇的な効果がみられることを報告してきたが,インフォームドコンセント(IC)が得られないほど重度の症例にmECTを行なう倫理的な手続きに関心があったので,早速読ませていただいた。そして,現在のmECTが,家庭用コンセントから旧式の通電装置につないで患者の前額部に通電していた一昔前のECTとは比較にならないほど進歩していることが再確認され,mECTを適正に行なう手順を日本初のマニュアルとして示した文章の端はしに「科学的精神医学をめざして」と副題をつけた著者の意気込みが感じられた。
 欧米では,治療抵抗性の気分障害や精神分裂病に対して,どの治療アルゴリズムにもECT(=mECT)が最終的な治療手段として推奨されている。それはmECTの実施マニュアルが完成しているからでもある。米国では米国精神医学会(APA)の実行委員会レポートに従って行なわれ,精神病院のmECTユニットに麻酔科医が派遣されること,心電図,脳波,脈拍,血圧,酸素飽和度がモニターされ,治療後も呼吸が回復するまで酸素を補給し,意識が回復したあと30分間程度は安静を保たせるのが一般的であることなどが本書で述べられている。
 一方,日本ではmECTを行なえる施設は限られており,mECTのマニュアルもなく,電圧だけ変えるスライダックしか通電装置として国が認可していないという現状である。本書では,通電量や波形がECTに伴う認知障害に関係することや,矩形波の電流量で発作誘発閾値を定めて過大な通電による危険を避けることなどが具体的に記載されている。欧米と日本の現状にみられる大きなギャップを解消しなければ,mECTの劇的なベネフィットを患者に提供できないし,そのリスクから患者を守ることも難しい。

◆ECTの本格的な再評価を提唱

 本書はA5判112頁で6章からなり,「ECTの歴史と再評価」に始まり,「ECTの臨床」,「ECTの基礎」,「ECTの実際」,「ECTの倫理的問題と今後の課題」,「ECTの新たな展開」の順に述べられている。なかでも「ECTの実際」が具体的な実技マニュアルとなっており,準備,術前検査(ICを含む),前処置,モニタリング,麻酔,通電方法,治療手順,記録の保存などが簡潔に整理されている。副作用や反応性が不十分で薬物療法の効果を期待できない難治例に,即効性のあるmECTの効果を期待したいのは当然のことである。本書はわが国のECTの本格的な再評価を提唱しており,精神医療関係の多くの方に推奨できる。
 昔のこととはいえ,ECT乱用への反省を忘れてはならない。本書には同意の条件,説明の内容,同意書の実例が提示されているが,米国ではそうした同意能力のない重症患者の場合には,地域の司法が定める代理人同意のための書式に従った手続きが定められているようである。日本でも関連学会が,このあたりの整備を急ぐ必要がある。

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