服部リハビリテーション技術全書 第3版
名著の全面改訂、リハビリテーションのあらゆる技術がここに結集
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かつて服部一郎らがリハビリテーションの基本技術の実際を集大成し、多くの人に愛読されてきた書物が、その意思を継ぐ著者らの手によって全面改訂。600以上にもおよぶ図の豊富さはそのままに、さらに今日の実地診療に対応できるよう最新の知見が盛り込まれた。初学者から熟練者にまで役立つ、まさにリハビリテーション技術の百科全書といえる1冊。
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- 目次
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序文
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第3版序
『服部リハビリテーション技術全書 第3版』は,改訂の企画が持ち上がったのが1999年11月,発刊が2014年4月なので14年5か月間という異例の長期間を要してしまいました.
初版の『リハビリテーション技術全書』は,わが国のリハビリ医療の先駆者である服部一郎先生および細川忠義先生・和才嘉昭先生らにより,リハビリ医療の理論ではなく訓練方法や道具・装置に重点を置く実践の書として1974年2月に出版されました.服部先生はリハビリテーションという用語やリハビリ医療システムもまだなかった終戦後まもないころ,九州労災病院に赴任して訓練道具や装置を自作し,試行錯誤を繰り返しながら理学療法部門を立ち上げ運営し,そのスタッフ教育の一環として書きためた資料がこの技術全書の原点となりました.1965年福岡市に長尾病院を開院して地域医療に取り組みリハビリ医療を実践しながら,九州労災病院と九州リハビリテーション大学校の協力のもとで夜はひたすら技術全書の執筆に専念し,約10年の歳月を費やして958頁の技術全書を書き上げました.そして全国のリハビリ養成校関係者や実地リハビリ医療に取り組む医師や理学療法士,作業療法士,言語聴覚士から標準的な教科書として愛読されていました.特に適切で明解な挿絵はこの技術全書の特徴であり,養成校の試験問題や国家試験問題にもしばしば引用されるなど,確固たる地位を築きました.
第2版は,初版と同様に服部先生が九州労災病院と九州リハビリテーション大学校の協力のもとで,3年を費やし随所に改訂を加え1984年5月に発行されました.長尾病院を引き継がれた服部文忠理事長・院長の話によれば,改訂作業中は外出も控え毎晩遅くまで執筆作業に没頭されていたとのことです.第2版も幅広い読者に支持され,また服部先生のリハビリ医療に対する熱い思いと穏やかな人柄が伝わってくる名著でした.
第2版発行から十数年が経過して,時代の流れと乖離してきた箇所や追加すべき新しい技術が散見されるようになり,1999年7月末に医学書院横田公博氏より改訂の相談がありました.そのため,長尾病院:服部文忠理事長・院長,産業医科大学リハビリテーション医学講座:蜂須賀研二,佐伯 覚助教授,大峯三郎技師長,湯之児リハビリテーション病院:浅山 滉院長が集まり,以下の基本方針で改訂をお引き受けすることにしました.(1)服部先生の基本概念を継承する.(2)可能な限り第2版の記載や挿絵は残し,特に挿絵の様式は堅持する.(3)使われなくなった手技を削除し,新しい概念や治療法の実際を追加する.この基本方針を遵守するため,服部先生と面識のあった少人数の先生方で分担執筆することにしました.当初,服部先生が1人で執筆されたので,数名程度で分担すれば改訂は期限内に苦も無くできると信じて疑いませんでした.しかし,実際に改訂作業を始めてみると極めて広範囲に渡る内容であり,執筆量も多く,執筆者の多くは予定の期間内に原稿が仕上がらず,出版が延び延びとなり挫折しかかっていました.
その後2011年4月に再度,医学書院坂口順一氏より,あらためて第3版完成への相談と激励があり,6月から医学書院塩田高明氏も新たに編集に参加して,改訂内容や執筆者選択を議論する改訂チームを拡大し〔産業医科大学リハビリテーション医学講座:蜂須賀研二,佐伯 覚診療教授,和田 太准教授,同リハビリテーション部:舌間秀雄技師長,明日 徹副技師長,武本暁生療法科長,九州栄養福祉大学(旧九州リハビリテーション大学校):橋元 隆教授,大峯三郎教授,木村美子教授,長尾病院:浅山 滉参与〕,最終的には執筆者を全体で62人に増やして,専門性を尊重するとともに1人分の負担を軽減することにしました.これらの経過のもとで漸く発行の運びとなりました.
まず,当初既に原稿を提出していただきながら完成に至らなかった先生方に心よりお詫び申し上げます.また今回,著者として参加いただいた先生方には,服部先生の基本概念を継承して記載や挿絵を活用しながら執筆するという面倒な条件を快くお引き受けいただいたことに感謝します.これまで技術全書は服部先生がほとんど1人で執筆されていたので,第3版は分担執筆ですが,文章や図表に統一感が出るように校正し調整することにエネルギーを費やしました.これらの作業の多くは医学書院塩田・富岡信貴両氏によるものです.なお,改訂にあたり古い文献は新しいものに入れ替えるか,または割愛しましたので,旧版の文献表記が一部あいまいになった点があることをご了承下さい.
今回の改訂で技術全書が蘇り,引き続き診察机や治療台の横に常備される本となり,医師はセラピストの手技を理解して適切なリハビリテーション運営の一助となり,セラピストは標準的な手技を理解し修得する機会になれば幸いです.
2014年2月
蜂須賀研二
『服部リハビリテーション技術全書 第3版』は,改訂の企画が持ち上がったのが1999年11月,発刊が2014年4月なので14年5か月間という異例の長期間を要してしまいました.
初版の『リハビリテーション技術全書』は,わが国のリハビリ医療の先駆者である服部一郎先生および細川忠義先生・和才嘉昭先生らにより,リハビリ医療の理論ではなく訓練方法や道具・装置に重点を置く実践の書として1974年2月に出版されました.服部先生はリハビリテーションという用語やリハビリ医療システムもまだなかった終戦後まもないころ,九州労災病院に赴任して訓練道具や装置を自作し,試行錯誤を繰り返しながら理学療法部門を立ち上げ運営し,そのスタッフ教育の一環として書きためた資料がこの技術全書の原点となりました.1965年福岡市に長尾病院を開院して地域医療に取り組みリハビリ医療を実践しながら,九州労災病院と九州リハビリテーション大学校の協力のもとで夜はひたすら技術全書の執筆に専念し,約10年の歳月を費やして958頁の技術全書を書き上げました.そして全国のリハビリ養成校関係者や実地リハビリ医療に取り組む医師や理学療法士,作業療法士,言語聴覚士から標準的な教科書として愛読されていました.特に適切で明解な挿絵はこの技術全書の特徴であり,養成校の試験問題や国家試験問題にもしばしば引用されるなど,確固たる地位を築きました.
第2版は,初版と同様に服部先生が九州労災病院と九州リハビリテーション大学校の協力のもとで,3年を費やし随所に改訂を加え1984年5月に発行されました.長尾病院を引き継がれた服部文忠理事長・院長の話によれば,改訂作業中は外出も控え毎晩遅くまで執筆作業に没頭されていたとのことです.第2版も幅広い読者に支持され,また服部先生のリハビリ医療に対する熱い思いと穏やかな人柄が伝わってくる名著でした.
第2版発行から十数年が経過して,時代の流れと乖離してきた箇所や追加すべき新しい技術が散見されるようになり,1999年7月末に医学書院横田公博氏より改訂の相談がありました.そのため,長尾病院:服部文忠理事長・院長,産業医科大学リハビリテーション医学講座:蜂須賀研二,佐伯 覚助教授,大峯三郎技師長,湯之児リハビリテーション病院:浅山 滉院長が集まり,以下の基本方針で改訂をお引き受けすることにしました.(1)服部先生の基本概念を継承する.(2)可能な限り第2版の記載や挿絵は残し,特に挿絵の様式は堅持する.(3)使われなくなった手技を削除し,新しい概念や治療法の実際を追加する.この基本方針を遵守するため,服部先生と面識のあった少人数の先生方で分担執筆することにしました.当初,服部先生が1人で執筆されたので,数名程度で分担すれば改訂は期限内に苦も無くできると信じて疑いませんでした.しかし,実際に改訂作業を始めてみると極めて広範囲に渡る内容であり,執筆量も多く,執筆者の多くは予定の期間内に原稿が仕上がらず,出版が延び延びとなり挫折しかかっていました.
その後2011年4月に再度,医学書院坂口順一氏より,あらためて第3版完成への相談と激励があり,6月から医学書院塩田高明氏も新たに編集に参加して,改訂内容や執筆者選択を議論する改訂チームを拡大し〔産業医科大学リハビリテーション医学講座:蜂須賀研二,佐伯 覚診療教授,和田 太准教授,同リハビリテーション部:舌間秀雄技師長,明日 徹副技師長,武本暁生療法科長,九州栄養福祉大学(旧九州リハビリテーション大学校):橋元 隆教授,大峯三郎教授,木村美子教授,長尾病院:浅山 滉参与〕,最終的には執筆者を全体で62人に増やして,専門性を尊重するとともに1人分の負担を軽減することにしました.これらの経過のもとで漸く発行の運びとなりました.
まず,当初既に原稿を提出していただきながら完成に至らなかった先生方に心よりお詫び申し上げます.また今回,著者として参加いただいた先生方には,服部先生の基本概念を継承して記載や挿絵を活用しながら執筆するという面倒な条件を快くお引き受けいただいたことに感謝します.これまで技術全書は服部先生がほとんど1人で執筆されていたので,第3版は分担執筆ですが,文章や図表に統一感が出るように校正し調整することにエネルギーを費やしました.これらの作業の多くは医学書院塩田・富岡信貴両氏によるものです.なお,改訂にあたり古い文献は新しいものに入れ替えるか,または割愛しましたので,旧版の文献表記が一部あいまいになった点があることをご了承下さい.
今回の改訂で技術全書が蘇り,引き続き診察机や治療台の横に常備される本となり,医師はセラピストの手技を理解して適切なリハビリテーション運営の一助となり,セラピストは標準的な手技を理解し修得する機会になれば幸いです.
2014年2月
蜂須賀研二
目次
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第1部 リハビリテーション総論
第1章 リハビリテーションの概念
第2章 医学的リハビリテーション
第3章 障害診断と評価
第4章 リハビリテーション処方
第5章 問題患者
第6章 リスク管理
第7章 施設と設備
第8章 身体障害
第9章 障害評価表
第2部 リハビリテーション技術総論
第1章 理学療法総論
第2章 作業療法総論
第3章 言語聴覚療法総論
第4章 補装具療法総論
第5章 地域リハビリテーション総論
第3部 理学療法総論
第1章 理学療法概説
第2章 評価
第3章 測定機器
第4章 訓練用具
第5章 運動療法室
第4部 理学療法の実際
第1章 筋力強化訓練
第2章 筋弛緩訓練
第3章 全身調整訓練
第4章 協調性訓練
第5章 関節可動域訓練
第6章 姿勢回復(調整)訓練
第7章 座位・歩行訓練
第8章 ADL訓練
第9章 温熱療法
第10章 寒冷療法
第11章 水治療法
第12章 電気療法
第13章 光線療法
第14章 牽引療法
第15章 マッサージ療法
第16章 そのほかの物理療法
第5部 作業療法総論
第1章 作業療法概説
第2章 評価と測定機器
第3章 訓練用具
第4章 作業療法室
第6部 作業療法の実際
第1章 筋力強化訓練
第2章 関節可動域訓練
第3章 協調性・巧緻性訓練
第4章 ADL・IADL訓練
第5章 失行症・失認症
第6章 高次脳機能障害
第7章 職業前訓練
第8章 レクリエーション,そのほか
第7部 言語聴覚療法の実際
第1章 失語リハビリテーション
第2章 摂食・嚥下障害
第8部 福祉用具
第1章 福祉用具概説
第2章 義足・義手
第3章 四肢・体幹装具
第4章 移動補助具
第5章 自助具,そのほかの福祉用具
第9部 地域リハビリテーション
第1章 在宅訓練と生活指導
第2章 施設訓練
第3章 住環境整備
第4章 介護保険
第10部 疾患別リハビリテーション
第1章 脳卒中
第2章 外傷性脳損傷
第3章 脊髄損傷
第4章 脊髄小脳変性症
第5章 パーキンソン病
第6章 多発性硬化症
第7章 筋萎縮性側索硬化症
第8章 末梢神経障害
第9章 進行性筋ジストロフィー
第10章 多発性筋炎
第11章 筋痛・捻挫・靭帯損傷
第12章 骨関節疾患
第13章 骨粗鬆症
第14章 関節リウマチ
第15章 脊椎疾患
第16章 閉塞性動脈硬化症
第17章 切断
第18章 脳性麻痺
第19章 二分脊椎
第20章 呼吸器疾患
第21章 循環器疾患
第22章 糖尿病
第23章 がん
第24章 感覚障害と疼痛
第25章 熱傷
第26章 廃用症候群
第27章 褥瘡
第28章 高齢者と認知症
第29章 障害者スポーツ
和文索引
欧文索引
第1章 リハビリテーションの概念
第2章 医学的リハビリテーション
第3章 障害診断と評価
第4章 リハビリテーション処方
第5章 問題患者
第6章 リスク管理
第7章 施設と設備
第8章 身体障害
第9章 障害評価表
第2部 リハビリテーション技術総論
第1章 理学療法総論
第2章 作業療法総論
第3章 言語聴覚療法総論
第4章 補装具療法総論
第5章 地域リハビリテーション総論
第3部 理学療法総論
第1章 理学療法概説
第2章 評価
第3章 測定機器
第4章 訓練用具
第5章 運動療法室
第4部 理学療法の実際
第1章 筋力強化訓練
第2章 筋弛緩訓練
第3章 全身調整訓練
第4章 協調性訓練
第5章 関節可動域訓練
第6章 姿勢回復(調整)訓練
第7章 座位・歩行訓練
第8章 ADL訓練
第9章 温熱療法
第10章 寒冷療法
第11章 水治療法
第12章 電気療法
第13章 光線療法
第14章 牽引療法
第15章 マッサージ療法
第16章 そのほかの物理療法
第5部 作業療法総論
第1章 作業療法概説
第2章 評価と測定機器
第3章 訓練用具
第4章 作業療法室
第6部 作業療法の実際
第1章 筋力強化訓練
第2章 関節可動域訓練
第3章 協調性・巧緻性訓練
第4章 ADL・IADL訓練
第5章 失行症・失認症
第6章 高次脳機能障害
第7章 職業前訓練
第8章 レクリエーション,そのほか
第7部 言語聴覚療法の実際
第1章 失語リハビリテーション
第2章 摂食・嚥下障害
第8部 福祉用具
第1章 福祉用具概説
第2章 義足・義手
第3章 四肢・体幹装具
第4章 移動補助具
第5章 自助具,そのほかの福祉用具
第9部 地域リハビリテーション
第1章 在宅訓練と生活指導
第2章 施設訓練
第3章 住環境整備
第4章 介護保険
第10部 疾患別リハビリテーション
第1章 脳卒中
第2章 外傷性脳損傷
第3章 脊髄損傷
第4章 脊髄小脳変性症
第5章 パーキンソン病
第6章 多発性硬化症
第7章 筋萎縮性側索硬化症
第8章 末梢神経障害
第9章 進行性筋ジストロフィー
第10章 多発性筋炎
第11章 筋痛・捻挫・靭帯損傷
第12章 骨関節疾患
第13章 骨粗鬆症
第14章 関節リウマチ
第15章 脊椎疾患
第16章 閉塞性動脈硬化症
第17章 切断
第18章 脳性麻痺
第19章 二分脊椎
第20章 呼吸器疾患
第21章 循環器疾患
第22章 糖尿病
第23章 がん
第24章 感覚障害と疼痛
第25章 熱傷
第26章 廃用症候群
第27章 褥瘡
第28章 高齢者と認知症
第29章 障害者スポーツ
和文索引
欧文索引
書評
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専門職種間の橋渡しのツールとなる本
書評者: 水間 正澄 (昭和大教授・リハビリテーション医学)
このたび,故・服部一郎先生の名著『リハビリテーション技術全書』が1984年の第2版から30年ぶりに『服部リハビリテーション技術全書』として改訂出版されました。新たな書は,その重厚さは変わりなく,イラストなどのスタイルも継承されており,わかりやすく親しみのある名著が戻ってきたというのが第一印象でした。蜂須賀研二先生を編者として企画から発刊まで14年以上をかけたとのことですが,初版からの理念や体裁を残しながら現在のニーズに沿ったものとして編集されました蜂須賀先生のご苦労に敬意を表します。
本書の初版が出版されたのは1974年ですが,服部一郎先生は初版の序文に「本書を橋渡しとして,医師とセラピストが容易に対話できることを信じて……」「この本は図書室の棚の上に並べて置かれるものではなく,診察机や治療台の上に手垢にまみれて置かれるべき性質の本である」と記されておられます。
私が初めて本書を手にしたのはリハビリテーション医療にかかわり始めて間もない頃でしたが,その存在は理学療法士の方から知らされました。当時から理学療法士また作業療法士の養成課程のテキストとしても活用されていましたが,臨床に役立つ貴重な実践書でもありました。以来,常に手元に置き,リハビリテーション処方を考えるとき,リハビリテーションに必要な機器やその使い方など治療内容を確認するときなどにも活用させていただきました。また,本書は幅広くかつ豊富な内容はもちろんのこと,豊富な図表は理解を深める大きな助けとなり,患者や家族への指導などにも役立たせてもらった記憶があります。そして,もちろんセラピストたちとの対話の橋渡しともなっておりました。
今回の第3版として再び出版されるにあたって,蜂須賀先生は服部先生の基本概念を継承しつつ時代とともに進歩するリハビリテーション医学に対応すべく随所に工夫をされたとのことです。内容については,使われなくなった手技は削除され,言語聴覚療法や地域リハビリテーションといった治療や新しい概念や疾患も追加され,リハビリテーション医学の現状やニーズに即したものとなっています。
この30年間に,リハビリテーションに関わる専門職資格や制度が大きく変わり,介護保険制度の導入,回復期リハ病棟の新設などに伴い施設数や事業が拡大され,セラピスト数も大幅に増加しました。一方で,リハビリテーション科医が訓練室でセラピストとともに過ごす時間が以前より少なくなり,リハビリテーションの現場での医師とセラピストとの距離が広がってしまった印象もあります。このような時代であるからこそ,服部先生が本書の目的の一つに掲げた医師をはじめとしたリハビリテーション医療専門職種間の相互理解を促すツールとしても役立つものと思います。
極めて実用的な辞書,基本的技術の原点
書評者: 網本 和 (首都大学東京教授・理学療法学)
◆名著の復活
35年前,裏庭に枇杷の樹がゆれる清瀬のリハビリテーション学院(2008年閉校)のまだ紅顔の学生であった評者(今では厚顔といわれる)は,臨床実習に向けて理学療法について,一生で一番と思えるぐらいに勉強していた。当時の唯一無二のテキストといえば服部一郎先生,細川忠義先生,和才嘉昭先生の名著『リハビリテーション技術全書』であり,学生の間では「技術全書」あるいはその広範な領域にちなんで「なんでも全書」と呼ばれ,それこそボロボロになるまで熟読(あるいは熟見)したのである。当時からわかりやすい「線画」のイラストの助けを借りて,来るべき実習と国家試験に立ち向かおうとしていたことが昨日のことのようである。
◆最新の知識とエッセンスの継承
評者が読んでいたのは1974年発刊の初版であるが,その10年後に第2版が上梓され,今回30年ぶりに第3版が蜂須賀研二先生(産業医科大名誉教授)編集により,その書名を『服部リハビリテーション技術全書』として発刊されたのである。その帯には「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」とあり,このキャッチコピーを読むだけでも期待が高まってくるのは評者だけではないだろう。そしてページを繰り読み進めば,内容の充実ぶりだけではなく,初版・第2版に使われていたイラストがそのエッセンスをそのまま継承していることに驚嘆することになる。第2版と比べると,第7部「言語聴覚療法の実際」,第9部「地域リハビリテーション」が追加され,第10部「疾患別リハビリテーション」では,第22章「糖尿病」,第23章「がん」,第27章「褥瘡」,第28章「高齢者と認知症」,第29章「障害者スポーツ」などが新たに記述されている。さらに今回の第3版では,最新の医療技術の進歩を背景とした理論的解説が加えられていることも,特筆すべき点であることを強調したい。
◆座右の書
服部先生自身が初版の「序」に記されているように,本書は「図書室の棚の上に並べて置かれるものではなく,診察机や治療台の上に手垢にまみれて置かれるべき性質」のものであり,極めて実用的な「辞書」として活用されるに違いない。臨床の場で何気なく使われている基本的技術の原点は本書にあるといってもよい。限られた紙幅の中では,30年間に培われた臨床マインドがどのように実を結んだかを伝えることは困難であり,ぜひ手に取りその果実を味わっていただきたい。風雪に耐えたリハビリテーション技術の骨格を礎として,現在の発展をちりばめた本書はまさに座右の書となるだろう。
引き継がれるリハビリテーション医療の開拓精神
書評者: 吉尾 雅春 (千里リハビリテーション病院副院長)
『リハビリテーション技術全書』初版が発刊されたのは1974年。私が理学療法士になった年でした。当時,九州リハビリテーション大学校は九州労災病院に併設されていたため,同病院のリハビリテーション科で見る光景がリハビリテーション医療そのものであるという認識がありました。その光景が一冊の分厚い本になったという印象をもって,『リハビリテーション技術全書』を買い求めたのを覚えています。私が九州リハビリテーション大学校に入学した頃には,服部一郎先生は同病院からは退任され長尾病院を開設されていましたが,九州においてリハビリテーションの世界を切り開かれたその熱い存在は学生の間でも知れ渡っていました。故に,『リハビリテーション技術全書』は私にとって「聖書」というイメージがありました。1984年には,随所に改訂がされた第2版が出版されました。
1987年には第22回日本理学療法士学会が神戸で開催され,「日本における理学療法の独創性」を主題に服部先生にご講演いただきました。情報のない戦後間もない時代から取り組んでこられたわが国のリハビリテーション医療の開拓では,服部先生自らの提案が荒野を拓く原動力になっていたのだと,そのときあらためて強く感じたものです。
第2版が出版された後10年経過しても改訂の様子は伺えず,これでこの技術全書は途絶えるのだろうかと思っていたのですが,実は不死鳥でした。北九州市にある産業医科大学医学部教授として多くのメッセージを社会に発していただいた,蜂須賀研二先生の想像に絶するご尽力によって見事に甦ったのです。編集執筆作業に携わっていない私が「想像に絶するご尽力」というのもおかしな話ではありますが,その構成をご覧いただければ納得できます。第2版が発刊されて30年も経ちましたから,その内容は抜本的に改訂せざるを得なかったのです。リハビリテーションの中身も,そしてそれを取り巻く環境も大きく変遷しています。現在への変化を余すところなく含むことが第3版には求められました。それに十分応えた構成,内容になっています。内容は手にとってご覧いただきたいと思います。
しかし,細かく図に目を向けると,初版,第2版に用いられたものが数多く採用されています。服部一郎先生を中心に想いを込めてお創りになったリハビリテーションの世界を,そして『リハビリテーション技術全書』を次代にしっかり引き継ごうとされた蜂須賀先生をはじめとする関係諸氏の心が,この『服部リハビリテーション技術全書 第3版』にはみられます。また蜂須賀先生が引き継ぐだけにとどまらず,精力的に更新していくことこそ開拓者たる服部一郎先生の意に沿う編集であるという,強い意志をもって取り組まれたお仕事であると感動しました。
待望の第3版! 着目すべき点がわかりやすいリハテキスト
書評者: 芳賀 信彦 (東大大学院教授・リハビリテーション医学)
東大病院リハビリテーション部の本棚に,『リハビリテーション技術全書 第2版』(1984年発行の第1刷)がある。おそらく今までに東大に所属した多くのスタッフが手にしたであろう汚れ具合で,勉強会に使用したと思われるプリント類も挟み込まれている。私と同世代のセラピストに聞くと,皆学生時代からこれで勉強してきたという。「いよいよ第3版が出たのですか」という声も聞こえてきた。
『リハビリテーション技術全書』は九州帝大医学部から九州労災病院の初代リハビリテーション科部長を経て長尾病院を開設された服部一郎先生が,約10年かけて医師とセラピスト両方に向けて書き上げた教科書で,1974年に初版が出版されている。第2版までは服部先生が中心となり執筆されたが,亡くなられた服部先生に代わり,第3版は蜂須賀研二先生(産業医科大名誉教授)がまとめられた。北九州地区を中心に60名を超える先生方が執筆されており,まさに九州魂が込められた大作である。
第3版では内容は一新されているが,服部先生の当初のコンセプト,すなわち自身が永年の経験から築き上げた理論と技法に,他の専門家の方法を追加引用し,多くの図表と共にわかりやすく解説する,という方針は守られている。特筆すべきは,服部先生のオリジナルの図が多く継承され,さらに進化していることである。本書には写真が全くない。写真でなければ伝わりにくいこともあるが,イラストであるがゆえに着目すべき点が強調され,読者の頭にすっと入ってくる。例えば片麻痺患者の起立訓練の図では,第2版では麻痺側の左に色が塗られているのみであったが,第3版ではこれに加えて違う色に塗られ,セラピストがどこに力を入れるかが矢印で示されている。細かい工夫であるが,読者の視点に立った見事な対応である。
総論は蜂須賀先生を中心として,時代に即した内容に大幅に書き換えられている。「問題患者」というユニークな章もあるが,これは第2版の「問題のある症例の取り扱い方」の章を発展させたものであろう。総論の中で私の興味を引いたのは,リハビリテーションカンファレンスに関する記述である。「カンファレンスはよいことばかりではなく,高いコスト,効果が不明確,長い時間の確保という問題を合わせもっている」として,コストをどう考えるかが説明されている。私自身もカンファレンスのあり方に悩んできていたので,蜂須賀先生の考え方は大変参考になった。
このように医師,セラピストの両者に大いに役立つテキストは,日本はもちろん海外にも存在しないであろう。ぜひ手元において,日常診療に役立てることをお薦めする次第である。
初学者から熟練者にまで役立つ百科全書
書評者: 中村 春基 (兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部長)
帯にある「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」「今,リハビリテーションにかかわる全ての人へ」の言葉は,編集に携われました皆さまの素直なお気持ちを代表していると思う。
私は,1977年に作業療法士になり現在まで主に兵庫県立リハビリテーションセンター働いているが,病院では図書室で,また自宅には手垢が付いた状態で初版を活用している。それを見ると初版第1刷は1974年2月15日発行で,価格は22,000円,入職後しばらくしてから購入したのを覚えている。学生時代には,欲しくても買えない貴重な書籍であった。
あらためて初版の第1章は「医学的リハビリテーションの順序」から始まり,その章の最後は転帰設定で復職に関して,手書きの検査結果,総括意見書などが掲載されている。当時のニーズが復職にあったことが読み取れる。そのようにして初版と読み比べると,帯の「30年の時を越え」というフレーズが納得できる。
さて,本書では初版の600以上に及ぶ手技や訓練・福祉用具のイラストはそのままに活用され,さらに今日の実地診療に対応できるように最新の知見が盛り込まれている。
第1部から第10部で構成され,リハビリテーション総論・技術総論,理学療法,作業療法に関して総論と実際,言語聴覚療法の実際,福祉用具,地域リハビリテーション,疾患別リハビリテーションからなる。この中で,言語聴覚療法の実際と福祉用具(旧版では自助具,車椅子などは個別に掲載),地域リハビリテーションは,新たに加えられた部である。
本書の良さを一言で述べると,帯の裏に記されているように,「リハビリテーション技術についての最もスタンダードなテキストとして,初学者から熟練者にまで役立つ,先達の智慧と情熱がつまった百科全書」となる。まさにぶれない30年の重みを読み取ることができる。
また,冒頭の第3版序から初版謝辞をぜひお目通しいただきたい。服部一郎先生お一人で10余年をつぎ込んで958項に及ぶ初版への思いとそれを支援された数々の先輩諸氏,そして改版に挑戦された蜂須賀先生はじめ62名の諸先生方の労にあらためて敬意を表したい。
社会保障制度や診療報酬制度が激変する中で,リハビリテーション医学とは,理学療法,作業療法,言語聴覚療法の役割,機能を示す良書である。
最後に「服部リハビリテーション技術全書」は,30年間の実績と思いが詰まった書籍であり,「今,リハビリテーションにかかわる全ての人に」活用していただければ幸いである。
書評者: 水間 正澄 (昭和大教授・リハビリテーション医学)
このたび,故・服部一郎先生の名著『リハビリテーション技術全書』が1984年の第2版から30年ぶりに『服部リハビリテーション技術全書』として改訂出版されました。新たな書は,その重厚さは変わりなく,イラストなどのスタイルも継承されており,わかりやすく親しみのある名著が戻ってきたというのが第一印象でした。蜂須賀研二先生を編者として企画から発刊まで14年以上をかけたとのことですが,初版からの理念や体裁を残しながら現在のニーズに沿ったものとして編集されました蜂須賀先生のご苦労に敬意を表します。
本書の初版が出版されたのは1974年ですが,服部一郎先生は初版の序文に「本書を橋渡しとして,医師とセラピストが容易に対話できることを信じて……」「この本は図書室の棚の上に並べて置かれるものではなく,診察机や治療台の上に手垢にまみれて置かれるべき性質の本である」と記されておられます。
私が初めて本書を手にしたのはリハビリテーション医療にかかわり始めて間もない頃でしたが,その存在は理学療法士の方から知らされました。当時から理学療法士また作業療法士の養成課程のテキストとしても活用されていましたが,臨床に役立つ貴重な実践書でもありました。以来,常に手元に置き,リハビリテーション処方を考えるとき,リハビリテーションに必要な機器やその使い方など治療内容を確認するときなどにも活用させていただきました。また,本書は幅広くかつ豊富な内容はもちろんのこと,豊富な図表は理解を深める大きな助けとなり,患者や家族への指導などにも役立たせてもらった記憶があります。そして,もちろんセラピストたちとの対話の橋渡しともなっておりました。
今回の第3版として再び出版されるにあたって,蜂須賀先生は服部先生の基本概念を継承しつつ時代とともに進歩するリハビリテーション医学に対応すべく随所に工夫をされたとのことです。内容については,使われなくなった手技は削除され,言語聴覚療法や地域リハビリテーションといった治療や新しい概念や疾患も追加され,リハビリテーション医学の現状やニーズに即したものとなっています。
この30年間に,リハビリテーションに関わる専門職資格や制度が大きく変わり,介護保険制度の導入,回復期リハ病棟の新設などに伴い施設数や事業が拡大され,セラピスト数も大幅に増加しました。一方で,リハビリテーション科医が訓練室でセラピストとともに過ごす時間が以前より少なくなり,リハビリテーションの現場での医師とセラピストとの距離が広がってしまった印象もあります。このような時代であるからこそ,服部先生が本書の目的の一つに掲げた医師をはじめとしたリハビリテーション医療専門職種間の相互理解を促すツールとしても役立つものと思います。
極めて実用的な辞書,基本的技術の原点
書評者: 網本 和 (首都大学東京教授・理学療法学)
◆名著の復活
35年前,裏庭に枇杷の樹がゆれる清瀬のリハビリテーション学院(2008年閉校)のまだ紅顔の学生であった評者(今では厚顔といわれる)は,臨床実習に向けて理学療法について,一生で一番と思えるぐらいに勉強していた。当時の唯一無二のテキストといえば服部一郎先生,細川忠義先生,和才嘉昭先生の名著『リハビリテーション技術全書』であり,学生の間では「技術全書」あるいはその広範な領域にちなんで「なんでも全書」と呼ばれ,それこそボロボロになるまで熟読(あるいは熟見)したのである。当時からわかりやすい「線画」のイラストの助けを借りて,来るべき実習と国家試験に立ち向かおうとしていたことが昨日のことのようである。
◆最新の知識とエッセンスの継承
評者が読んでいたのは1974年発刊の初版であるが,その10年後に第2版が上梓され,今回30年ぶりに第3版が蜂須賀研二先生(産業医科大名誉教授)編集により,その書名を『服部リハビリテーション技術全書』として発刊されたのである。その帯には「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」とあり,このキャッチコピーを読むだけでも期待が高まってくるのは評者だけではないだろう。そしてページを繰り読み進めば,内容の充実ぶりだけではなく,初版・第2版に使われていたイラストがそのエッセンスをそのまま継承していることに驚嘆することになる。第2版と比べると,第7部「言語聴覚療法の実際」,第9部「地域リハビリテーション」が追加され,第10部「疾患別リハビリテーション」では,第22章「糖尿病」,第23章「がん」,第27章「褥瘡」,第28章「高齢者と認知症」,第29章「障害者スポーツ」などが新たに記述されている。さらに今回の第3版では,最新の医療技術の進歩を背景とした理論的解説が加えられていることも,特筆すべき点であることを強調したい。
◆座右の書
服部先生自身が初版の「序」に記されているように,本書は「図書室の棚の上に並べて置かれるものではなく,診察机や治療台の上に手垢にまみれて置かれるべき性質」のものであり,極めて実用的な「辞書」として活用されるに違いない。臨床の場で何気なく使われている基本的技術の原点は本書にあるといってもよい。限られた紙幅の中では,30年間に培われた臨床マインドがどのように実を結んだかを伝えることは困難であり,ぜひ手に取りその果実を味わっていただきたい。風雪に耐えたリハビリテーション技術の骨格を礎として,現在の発展をちりばめた本書はまさに座右の書となるだろう。
引き継がれるリハビリテーション医療の開拓精神
書評者: 吉尾 雅春 (千里リハビリテーション病院副院長)
『リハビリテーション技術全書』初版が発刊されたのは1974年。私が理学療法士になった年でした。当時,九州リハビリテーション大学校は九州労災病院に併設されていたため,同病院のリハビリテーション科で見る光景がリハビリテーション医療そのものであるという認識がありました。その光景が一冊の分厚い本になったという印象をもって,『リハビリテーション技術全書』を買い求めたのを覚えています。私が九州リハビリテーション大学校に入学した頃には,服部一郎先生は同病院からは退任され長尾病院を開設されていましたが,九州においてリハビリテーションの世界を切り開かれたその熱い存在は学生の間でも知れ渡っていました。故に,『リハビリテーション技術全書』は私にとって「聖書」というイメージがありました。1984年には,随所に改訂がされた第2版が出版されました。
1987年には第22回日本理学療法士学会が神戸で開催され,「日本における理学療法の独創性」を主題に服部先生にご講演いただきました。情報のない戦後間もない時代から取り組んでこられたわが国のリハビリテーション医療の開拓では,服部先生自らの提案が荒野を拓く原動力になっていたのだと,そのときあらためて強く感じたものです。
第2版が出版された後10年経過しても改訂の様子は伺えず,これでこの技術全書は途絶えるのだろうかと思っていたのですが,実は不死鳥でした。北九州市にある産業医科大学医学部教授として多くのメッセージを社会に発していただいた,蜂須賀研二先生の想像に絶するご尽力によって見事に甦ったのです。編集執筆作業に携わっていない私が「想像に絶するご尽力」というのもおかしな話ではありますが,その構成をご覧いただければ納得できます。第2版が発刊されて30年も経ちましたから,その内容は抜本的に改訂せざるを得なかったのです。リハビリテーションの中身も,そしてそれを取り巻く環境も大きく変遷しています。現在への変化を余すところなく含むことが第3版には求められました。それに十分応えた構成,内容になっています。内容は手にとってご覧いただきたいと思います。
しかし,細かく図に目を向けると,初版,第2版に用いられたものが数多く採用されています。服部一郎先生を中心に想いを込めてお創りになったリハビリテーションの世界を,そして『リハビリテーション技術全書』を次代にしっかり引き継ごうとされた蜂須賀先生をはじめとする関係諸氏の心が,この『服部リハビリテーション技術全書 第3版』にはみられます。また蜂須賀先生が引き継ぐだけにとどまらず,精力的に更新していくことこそ開拓者たる服部一郎先生の意に沿う編集であるという,強い意志をもって取り組まれたお仕事であると感動しました。
待望の第3版! 着目すべき点がわかりやすいリハテキスト
書評者: 芳賀 信彦 (東大大学院教授・リハビリテーション医学)
東大病院リハビリテーション部の本棚に,『リハビリテーション技術全書 第2版』(1984年発行の第1刷)がある。おそらく今までに東大に所属した多くのスタッフが手にしたであろう汚れ具合で,勉強会に使用したと思われるプリント類も挟み込まれている。私と同世代のセラピストに聞くと,皆学生時代からこれで勉強してきたという。「いよいよ第3版が出たのですか」という声も聞こえてきた。
『リハビリテーション技術全書』は九州帝大医学部から九州労災病院の初代リハビリテーション科部長を経て長尾病院を開設された服部一郎先生が,約10年かけて医師とセラピスト両方に向けて書き上げた教科書で,1974年に初版が出版されている。第2版までは服部先生が中心となり執筆されたが,亡くなられた服部先生に代わり,第3版は蜂須賀研二先生(産業医科大名誉教授)がまとめられた。北九州地区を中心に60名を超える先生方が執筆されており,まさに九州魂が込められた大作である。
第3版では内容は一新されているが,服部先生の当初のコンセプト,すなわち自身が永年の経験から築き上げた理論と技法に,他の専門家の方法を追加引用し,多くの図表と共にわかりやすく解説する,という方針は守られている。特筆すべきは,服部先生のオリジナルの図が多く継承され,さらに進化していることである。本書には写真が全くない。写真でなければ伝わりにくいこともあるが,イラストであるがゆえに着目すべき点が強調され,読者の頭にすっと入ってくる。例えば片麻痺患者の起立訓練の図では,第2版では麻痺側の左に色が塗られているのみであったが,第3版ではこれに加えて違う色に塗られ,セラピストがどこに力を入れるかが矢印で示されている。細かい工夫であるが,読者の視点に立った見事な対応である。
総論は蜂須賀先生を中心として,時代に即した内容に大幅に書き換えられている。「問題患者」というユニークな章もあるが,これは第2版の「問題のある症例の取り扱い方」の章を発展させたものであろう。総論の中で私の興味を引いたのは,リハビリテーションカンファレンスに関する記述である。「カンファレンスはよいことばかりではなく,高いコスト,効果が不明確,長い時間の確保という問題を合わせもっている」として,コストをどう考えるかが説明されている。私自身もカンファレンスのあり方に悩んできていたので,蜂須賀先生の考え方は大変参考になった。
このように医師,セラピストの両者に大いに役立つテキストは,日本はもちろん海外にも存在しないであろう。ぜひ手元において,日常診療に役立てることをお薦めする次第である。
初学者から熟練者にまで役立つ百科全書
書評者: 中村 春基 (兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部長)
帯にある「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」「今,リハビリテーションにかかわる全ての人へ」の言葉は,編集に携われました皆さまの素直なお気持ちを代表していると思う。
私は,1977年に作業療法士になり現在まで主に兵庫県立リハビリテーションセンター働いているが,病院では図書室で,また自宅には手垢が付いた状態で初版を活用している。それを見ると初版第1刷は1974年2月15日発行で,価格は22,000円,入職後しばらくしてから購入したのを覚えている。学生時代には,欲しくても買えない貴重な書籍であった。
あらためて初版の第1章は「医学的リハビリテーションの順序」から始まり,その章の最後は転帰設定で復職に関して,手書きの検査結果,総括意見書などが掲載されている。当時のニーズが復職にあったことが読み取れる。そのようにして初版と読み比べると,帯の「30年の時を越え」というフレーズが納得できる。
さて,本書では初版の600以上に及ぶ手技や訓練・福祉用具のイラストはそのままに活用され,さらに今日の実地診療に対応できるように最新の知見が盛り込まれている。
第1部から第10部で構成され,リハビリテーション総論・技術総論,理学療法,作業療法に関して総論と実際,言語聴覚療法の実際,福祉用具,地域リハビリテーション,疾患別リハビリテーションからなる。この中で,言語聴覚療法の実際と福祉用具(旧版では自助具,車椅子などは個別に掲載),地域リハビリテーションは,新たに加えられた部である。
本書の良さを一言で述べると,帯の裏に記されているように,「リハビリテーション技術についての最もスタンダードなテキストとして,初学者から熟練者にまで役立つ,先達の智慧と情熱がつまった百科全書」となる。まさにぶれない30年の重みを読み取ることができる。
また,冒頭の第3版序から初版謝辞をぜひお目通しいただきたい。服部一郎先生お一人で10余年をつぎ込んで958項に及ぶ初版への思いとそれを支援された数々の先輩諸氏,そして改版に挑戦された蜂須賀先生はじめ62名の諸先生方の労にあらためて敬意を表したい。
社会保障制度や診療報酬制度が激変する中で,リハビリテーション医学とは,理学療法,作業療法,言語聴覚療法の役割,機能を示す良書である。
最後に「服部リハビリテーション技術全書」は,30年間の実績と思いが詰まった書籍であり,「今,リハビリテーションにかかわる全ての人に」活用していただければ幸いである。