糖尿病のケアリング
語られた生活体験と感情
糖尿病をめぐるケアリングの諸相をいきいきと描く
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診断後の葛藤やストレス,治療と自己管理,生活の再構築,合併症の出現――これらに伴う心理・感情面での問題を,語られた生活体験と感情を通して明らかにする。対処すべき事態を,本人のみならず医療職者,家族,同僚らによる毎日の生活と人間関係のダイナミズムにおいてとらえ,糖尿病をめぐるケアリングの諸相をいきいきと描く。
原著 | Jerry Edelwich / Archie Brodsky |
---|---|
著 | ジェリー・エーデルウィッチ / アーチー・ブロドスキー |
訳 | 黒江 ゆり子 / 市橋 恵子 / 寳田 穂 |
発行 | 2002年04月判型:A5頁:328 |
ISBN | 978-4-260-33192-0 |
定価 | 3,520円 (本体3,200円+税) |
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開く
序章 糖尿病にまつわる人間的側面
第1章 最初の驚き
第2章 糖尿病とは
第3章 心配事や悩みの共有
第4章 適応の段階
第5章 選択と賭け
第6章 医師とナース
第7章 糖尿病と家族
第8章 親と子
第9章 性,セクシュアリティ,および妊娠
第10章 仕事と遊び
第11章 技術とその限界
第12章 サポートグループ
文献リスト
ウェブ・サイト
第1章 最初の驚き
第2章 糖尿病とは
第3章 心配事や悩みの共有
第4章 適応の段階
第5章 選択と賭け
第6章 医師とナース
第7章 糖尿病と家族
第8章 親と子
第9章 性,セクシュアリティ,および妊娠
第10章 仕事と遊び
第11章 技術とその限界
第12章 サポートグループ
文献リスト
ウェブ・サイト
書評
開く
今までにない患者中心の視点からの糖尿病教本
書評者: 日野原 重明 (聖路加国際病院名誉院長)
◆語られた生活体験と感情を通して糖尿病患者ケアに対処
このたび,医学書院から『糖尿病のケアリング―語られた生活体験と感情』が発刊された。米国のハーバード大学医学部やジョスリン糖尿病センターのスタッフと密なる関係を持つDr. J. EdelwichとDr. A. Brodskyの2人が,糖尿病専門家としてだけでなく,患者のケアをするためのカウンセリングの教育的ならびに行動科学的技術を持つ専門家として執筆しており話題を呼んでいる。今までにない患者中心の視点から,糖尿病患者の身体的ならびに精神的,社会的ケアの方法が解説的に書かれており,その内容と様式においては類い稀な糖尿病教本と言えよう。
1型糖尿病とか2型糖尿病という診断を受けた時,患者はどう心の反応を見せるかという心理的立場からアプローチする章が第1章である。実際の症例を用いて述べられており,医師にとっては診断名の伝え方,そして患者のもつ誤解や幻想にはどんなものがあるか,患者は果たして病名をどう受容するのかの実態が興味深い。
第2章は,糖尿病の診断から症状,合併症と治療までが要領よく述べられている。第3章には,発病についての患者の不安や悩みをどう医療者が共有するかという大切な点がとりあげられている。第4章は,病気を患者が受容する心理過程,それが末期の癌の病気を宣告された患者の病名や死をどう受容しているか,との対比で書かれている。
第5章では,「選択と賭け」という題で,糖尿病の患者には何が治療上のよい選択か,何が患者にとってよいか悪いかの道を自ら決定できるように誘導している。第6章の「医師とナース」という題の章では,医療従事者の診断や治療を正しくさせるための働きが,多方面の立場から述べられている。
第7章では,糖尿病は家族にどのような影響を与えるかが述べられ,家族のためのガイドラインまでが語られている。第8章では,親と子との関係,遺伝に関する罪悪感などが扱われている。第9章には,性,セックス,妊娠との関係が述べられ,成功した症例があげられている。
第10章には,糖尿病患者のもつ保険や障害支払金や糖尿病の医療費の問題が具体的にあげられている。第11章には,インスリンの自己注射やインスリン・シリンジポンプの使い方が述べられている。第12章は,患者のサポート・グループについての紹介やガイドラインが示されており,最後に文献リストやウェブ・サイトがあげられている。
◆病む人間の心に入り込んだ新しい糖尿病患者ケア
この本にはさまざまの症例が集められて,その分析の中に症例から教えられるケアのためのアートが上手に紹介されている。症例を読んでいるとその文脈に引き込まれ,自分でこの病気を解決するノウハウが自然と知らされるようである。その場合の,患者家族の心理状態の把握とそれをどう誘導すべきかの技術が紹介されている。
著者らが数多い医療従事者や心理療法士,精神医学者,患者層に接する中で遭遇した事態がよくとりあげられ,これを読む者には,ケアの立場からうまく患者の問題に焦点のあっていることがよく体感される。診断を受けた患者の,病名をもらった時の生活体験と感情が克明に表現され,その症状や所見に対して,医療者が深い感性をもってどうアプローチすべきかが,述べられている。
日本の在来の糖尿病の本は,一方的な,言わばdidactic teachingの本であるが,本書は病む人間の心に入り込んで,心理的にどう上手に患者を誘導すべきかが述べられている。本書を読むと,最近Narrative Based Medicineといっている臨床の知が,この刷新された心理学的または行動科学的アプローチによって,よく理解できると言えよう。
本書訳文は,黒江,市橋,寳田諸氏によって推敲され,きわめて読みやすく,糖尿病患者を新しく診るきっかけとしてすばらしい書だと思う。
糖尿病患者の心理・感情面からアプローチしたケア指針
書評者: 津田 謹輔 (京大教授・人間・環境学)
訳者の代表である黒江ゆり子さんは,京都大学人間・環境学研究科に在学中,同大学病院病態栄養部の糖尿病外来や病棟で臨床研究を行ない,「慢性疾患におけるアドヒアランスに関する研究」という論文で学位をとられた看護師さんである。この間,糖尿病患者の心理学では,日本の第一人者である天理よろづ相談所病院の石井均先生のところでも研鑽を積んだ。人間・環境学研究科は,理系,文系の教官が所属するところで,黒江さんは医学と同時に,心理学,哲学,社会学なども学ばれた。このようなバックグラウンドがあるので,ジェリー・エーデルウィッチらによる『Diabetes; Caring for Your Emotions as well as Your Health』(Perseus Books)を訳したいと,考えるに至ったのはごく自然のことと思える。訳書を『糖尿病のケアリング-語られた生活体験と感情』とされた。訳者らは,すでに数冊の翻訳書を出版されているためか,読み終えて翻訳ということを意識しない本であった。一部,コーピングなど患者さんが読むには,専門用語が含まれているが,日本語に適当な言葉がなくやむを得ないと思う。
◆特出する糖尿病患者の生の声
「そう,糖尿病があなたの人生を変えようとしているのです」で始まるこの本は,患者さんに向かって書かれている。患者さんが読んでももちろんよいが,糖尿病医療スタッフが読むと,もっとおもしろいのではないだろうか。患者さんが,いろいろな思いを語っている。これほど患者さんの生の声をまとめた本を,他に知らない。初めて糖尿病と告げられた時,患者さんなら誰もが経験する糖尿病をもって生きていく人生への不安ととまどい,糖尿病を自分の中で受け入れるまでの過程,つい食べ過ぎてしまった時など,日常臨床で出くわすごく普通の場面での患者さんの思いが語られている。さらに,医師やナースなど医療スタッフとの間で起こる不平・不満や医療スタッフへの期待,糖尿病のために生じてくる親子や家族関係などについて,患者さんは素直に気持ちを表現している。これらが,場面場面で1つずつ章としてまとめられている。日本の書物では,正面から取り上げられることが少ない「性,セクシュアリティ」の章や保険や医療費の問題も取り上げられている。
各章で,患者さんの思いと同時に,著者がそれらの思いに対するコメントを述べている。読みながら「ああこういう患者さんいるいる」と思ったり,著者のコメントに「そこは同感だが,ここは少し私の考えとは違う」といった調子で読んだ。
◆求められる患者と医療スタッフの全人間的信頼関係
糖尿病は,自己管理の病気であり,動機づけが大切であると言われる。糖尿病の治療は,エビデンスに基づいた科学であるが,実際に治療を行なうのは複雑な感情を持つ1人の人間である。患者さんが,どのような思いで治療に取り組んでいるのかに思いをはせることは大切なことである。これは,結局のところ患者と医療スタッフが,全人間的な信頼関係を築き上げることを意味しているのではないだろうか。これが,読み終えた感想である。
立花隆氏によると,本の評価はその本に何を期待するのかによって読む人により違い過ぎるほど違って当たり前である。書評子にできることは,「店頭で本を手に取ってみるきっかけ」作りをすることだと言う。糖尿病医療チームの方には,一度手に取ってみてほしい。また医学書院から出版されているが,せっかくの本であるから患者さんの目にもとまるよう,そして手に取ってみられるよう一般の書店でも扱えることが望まれる。
書評者: 日野原 重明 (聖路加国際病院名誉院長)
◆語られた生活体験と感情を通して糖尿病患者ケアに対処
このたび,医学書院から『糖尿病のケアリング―語られた生活体験と感情』が発刊された。米国のハーバード大学医学部やジョスリン糖尿病センターのスタッフと密なる関係を持つDr. J. EdelwichとDr. A. Brodskyの2人が,糖尿病専門家としてだけでなく,患者のケアをするためのカウンセリングの教育的ならびに行動科学的技術を持つ専門家として執筆しており話題を呼んでいる。今までにない患者中心の視点から,糖尿病患者の身体的ならびに精神的,社会的ケアの方法が解説的に書かれており,その内容と様式においては類い稀な糖尿病教本と言えよう。
1型糖尿病とか2型糖尿病という診断を受けた時,患者はどう心の反応を見せるかという心理的立場からアプローチする章が第1章である。実際の症例を用いて述べられており,医師にとっては診断名の伝え方,そして患者のもつ誤解や幻想にはどんなものがあるか,患者は果たして病名をどう受容するのかの実態が興味深い。
第2章は,糖尿病の診断から症状,合併症と治療までが要領よく述べられている。第3章には,発病についての患者の不安や悩みをどう医療者が共有するかという大切な点がとりあげられている。第4章は,病気を患者が受容する心理過程,それが末期の癌の病気を宣告された患者の病名や死をどう受容しているか,との対比で書かれている。
第5章では,「選択と賭け」という題で,糖尿病の患者には何が治療上のよい選択か,何が患者にとってよいか悪いかの道を自ら決定できるように誘導している。第6章の「医師とナース」という題の章では,医療従事者の診断や治療を正しくさせるための働きが,多方面の立場から述べられている。
第7章では,糖尿病は家族にどのような影響を与えるかが述べられ,家族のためのガイドラインまでが語られている。第8章では,親と子との関係,遺伝に関する罪悪感などが扱われている。第9章には,性,セックス,妊娠との関係が述べられ,成功した症例があげられている。
第10章には,糖尿病患者のもつ保険や障害支払金や糖尿病の医療費の問題が具体的にあげられている。第11章には,インスリンの自己注射やインスリン・シリンジポンプの使い方が述べられている。第12章は,患者のサポート・グループについての紹介やガイドラインが示されており,最後に文献リストやウェブ・サイトがあげられている。
◆病む人間の心に入り込んだ新しい糖尿病患者ケア
この本にはさまざまの症例が集められて,その分析の中に症例から教えられるケアのためのアートが上手に紹介されている。症例を読んでいるとその文脈に引き込まれ,自分でこの病気を解決するノウハウが自然と知らされるようである。その場合の,患者家族の心理状態の把握とそれをどう誘導すべきかの技術が紹介されている。
著者らが数多い医療従事者や心理療法士,精神医学者,患者層に接する中で遭遇した事態がよくとりあげられ,これを読む者には,ケアの立場からうまく患者の問題に焦点のあっていることがよく体感される。診断を受けた患者の,病名をもらった時の生活体験と感情が克明に表現され,その症状や所見に対して,医療者が深い感性をもってどうアプローチすべきかが,述べられている。
日本の在来の糖尿病の本は,一方的な,言わばdidactic teachingの本であるが,本書は病む人間の心に入り込んで,心理的にどう上手に患者を誘導すべきかが述べられている。本書を読むと,最近Narrative Based Medicineといっている臨床の知が,この刷新された心理学的または行動科学的アプローチによって,よく理解できると言えよう。
本書訳文は,黒江,市橋,寳田諸氏によって推敲され,きわめて読みやすく,糖尿病患者を新しく診るきっかけとしてすばらしい書だと思う。
糖尿病患者の心理・感情面からアプローチしたケア指針
書評者: 津田 謹輔 (京大教授・人間・環境学)
訳者の代表である黒江ゆり子さんは,京都大学人間・環境学研究科に在学中,同大学病院病態栄養部の糖尿病外来や病棟で臨床研究を行ない,「慢性疾患におけるアドヒアランスに関する研究」という論文で学位をとられた看護師さんである。この間,糖尿病患者の心理学では,日本の第一人者である天理よろづ相談所病院の石井均先生のところでも研鑽を積んだ。人間・環境学研究科は,理系,文系の教官が所属するところで,黒江さんは医学と同時に,心理学,哲学,社会学なども学ばれた。このようなバックグラウンドがあるので,ジェリー・エーデルウィッチらによる『Diabetes; Caring for Your Emotions as well as Your Health』(Perseus Books)を訳したいと,考えるに至ったのはごく自然のことと思える。訳書を『糖尿病のケアリング-語られた生活体験と感情』とされた。訳者らは,すでに数冊の翻訳書を出版されているためか,読み終えて翻訳ということを意識しない本であった。一部,コーピングなど患者さんが読むには,専門用語が含まれているが,日本語に適当な言葉がなくやむを得ないと思う。
◆特出する糖尿病患者の生の声
「そう,糖尿病があなたの人生を変えようとしているのです」で始まるこの本は,患者さんに向かって書かれている。患者さんが読んでももちろんよいが,糖尿病医療スタッフが読むと,もっとおもしろいのではないだろうか。患者さんが,いろいろな思いを語っている。これほど患者さんの生の声をまとめた本を,他に知らない。初めて糖尿病と告げられた時,患者さんなら誰もが経験する糖尿病をもって生きていく人生への不安ととまどい,糖尿病を自分の中で受け入れるまでの過程,つい食べ過ぎてしまった時など,日常臨床で出くわすごく普通の場面での患者さんの思いが語られている。さらに,医師やナースなど医療スタッフとの間で起こる不平・不満や医療スタッフへの期待,糖尿病のために生じてくる親子や家族関係などについて,患者さんは素直に気持ちを表現している。これらが,場面場面で1つずつ章としてまとめられている。日本の書物では,正面から取り上げられることが少ない「性,セクシュアリティ」の章や保険や医療費の問題も取り上げられている。
各章で,患者さんの思いと同時に,著者がそれらの思いに対するコメントを述べている。読みながら「ああこういう患者さんいるいる」と思ったり,著者のコメントに「そこは同感だが,ここは少し私の考えとは違う」といった調子で読んだ。
◆求められる患者と医療スタッフの全人間的信頼関係
糖尿病は,自己管理の病気であり,動機づけが大切であると言われる。糖尿病の治療は,エビデンスに基づいた科学であるが,実際に治療を行なうのは複雑な感情を持つ1人の人間である。患者さんが,どのような思いで治療に取り組んでいるのかに思いをはせることは大切なことである。これは,結局のところ患者と医療スタッフが,全人間的な信頼関係を築き上げることを意味しているのではないだろうか。これが,読み終えた感想である。
立花隆氏によると,本の評価はその本に何を期待するのかによって読む人により違い過ぎるほど違って当たり前である。書評子にできることは,「店頭で本を手に取ってみるきっかけ」作りをすることだと言う。糖尿病医療チームの方には,一度手に取ってみてほしい。また医学書院から出版されているが,せっかくの本であるから患者さんの目にもとまるよう,そして手に取ってみられるよう一般の書店でも扱えることが望まれる。
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