臨床動作分析

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「正常な姿勢・動作の分析」「臨床での動作分析の展開」「疾患・症状別動作の特徴」を3本の柱に、観察による動作分析の基本を具体的に解説。理学療法士があらかじめ持っている前提知識や印象・予測の上に立ち動作分析を行う点に着目し、その前提知識とは何か、それを如何に展開していくのかという思考過程と、必要となる基本技術についての理解を深めることを目的としている。学生はもちろん、臨床に出てからも十分に役立つ内容。
*「標準理学療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準理学療法学 専門分野
シリーズ監修 奈良 勲
編集 高橋 正明
発行 2001年01月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-26666-6
定価 5,170円 (本体4,700円+税)

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待望した理学療法プログラム立案のための教科書
書評者: 山中 正紀 (北大医療技術短大・理学療法学科)
 私は,講義のはじめに教科書あるいは参考書を何種類か紹介することにしている。私が担当している講義の中の1つに「臨床運動学」があり,動作分析を主体として教授している。しかし,他の講義のように「教科書」や参考書を紹介することができなかった。動作分析あるいは病態運動学といった観点からまとめられた成書がなかったからである。

◆理学療法に最も重要な臨床動作分析

 動作分析は,運動を取り扱う理学療法において最も重要である。動作分析をすることによって対象となる患者の何が問題でどこに原因があるのかを推論し,方針が決定され,理学療法プログラムが立案される。しかし,編集者も述べているが,養成教育においてはその習得が最も困難なものの1つで,学生も教師も難渋しているのが現状である。
 そういった点を鑑み,本書は学生を対象とした教科書として,利用する学生および教師の身になって企画,執筆されている。
 第1章は,異常動作を知る上で基本となる正常動作はどういったものかから始まり,その動作がどのような力により動いているのかといった力学的理解を,写真や図を使用してわかりやすく説明している。
 第2章では,事例を紹介しながら動作分析の思考過程やその事例の問題点,治療指針を提示している。
 第3章では,理学療法の対象となる代表的な疾患の症状や動作が取りあげられている。また,教科書として編纂されているので各項目のはじめに学習目標が提示されており,読む者にとって理解を早める。
 ほめてばかりいるが,ここで少し気になった点をあげたい。
 1つは,理学療法の現状を考えればそれも致し方ないのかもしれないが,第1章で動作分析を力学的観点から説明し,動作が力学的に説明できるとしているが,他の章を見る限りこの点の一貫性がまちまちである。
 2つめは,第2章の動作分析の進め方は概念的内容なので仕方ないと思われるが,学生にとっては抽象的で難易度が高い。
 3つめは,項目の所々にアドバンスコース,あるいはスタディとして解説が示されているが,各項目ごとにあれば助かる。いずれにしても教師による解説が必要であり,学生の自己学習書というよりも,教科書あるいはそれに近い参考書としての利用価値が高いように思う。
 動作分析は修得しにくく,最も重要なものであることから,本書は学生ばかりでなく,臨床家にとっても1冊持っていてよい本だと思う。蛇足だがすでに学生には本書を紹介した。
患者にあった理学療法を創造するために必携
書評者: 山本 泰三 (東京衛生学園専門学校・リハビリテーション学)
 診断名や障害名が同一であっても動作様式は,身体形態やもともとの運動能力によってさまざまである。臨床教育では,「片麻痺の評価をするのではなく,片麻痺を伴っているヒトを評価すべきである」と言われる。治療に結びつく動作の解釈を創造し,そのヒトにあった理学療法を創造する必要がある。マニュアル的な動作分析でなく創造的発想で動作を分析できる理学療法士が切望されている。
 創造的であるためには,環境や強いモチベーションの他,既存のアイデアの組み替えが必要であると言われている。既存のアイデアを模倣し,それを組み替えることで新たな発想が生まれる。「物理学の世界は,『創造的剽窃行為』によって進歩した」と言われ,数学者のガロアは,「創造は先駆者の業績に源泉がある」としている。
 教育学には,「自由放任で学生の自主性に任せることは創造教育ではない」という意見がある。創造的であるためには,多くの模倣とわずかな工夫(組み替え)が必要である。本書は,ヒトの動作を分析する過程で模倣すべき模範となる内容に満ち溢れている。

◆動作分析の必読書

 本書は,大きく3部門からなる。第1章は,「正常動作の観察と分析」について書かれている。動作を客観的に捉えるために有効な自然科学の理論を説明し,それに基づき正常動作を観察から分析へ深めていく過程がていねいに解説されている。自然科学の理論は,動作と絡めて説明され,正常動作が論理的に説明されており,創造性を発揮するために最も基礎となる章である。第2章は,「臨床における動作分析の進め方」について,的確なキーワードのもと分析を深めていく過程が説明されている。第3章には,「疾患の異常動作の特徴」が多くの写真とともに解説されているのでわかりやすい。第2章と第3章の大きな特徴は,臨床で患者の動作を見ている時の“理学療法士が頭の中で思考している過程”が説明されていることである。こだわりをもって,粘り強く動作分析を行なっている理学療法士の思考過程を模倣しながら,若干の工夫を加えることで患者の新たな潜在能力を発見することができると考えられる。
 本書は,患者の動作を理解し,患者にあった理学療法を創造するための必読書であり,動作分析を学び始める学校教育の場から臨床の場まで,常に手元に置いておきたい書籍の1つである。

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