困ったときの糖尿病患者の看護
糖尿病患者の看護で,具体的に解決策を述べたすぐに役立つ実地書
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日常の糖尿病患者の看護を行うなかで、(1)治療や診断時、(2)患者の疾病や障害、(3)日常生活上、(4)患者指導の場面で、しばしば遭遇する問題や、困ったと感じるケースを取り上げ、看護上の問題を解決するための具体的方策を解説している。問題やケースは、現場で実際に起こっているものを取り上げ、すぐに役立つ実地書となっている。
監修 | 貴田岡 正史 / 菅野 一男 |
---|---|
編集 | 西東京糖尿病療育指導研究会 |
発行 | 2001年01月判型:A5頁:208 |
ISBN | 978-4-260-33103-6 |
定価 | 2,750円 (本体2,500円+税) |
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書評
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事例から学ぶ臨床看護の知
書評者: 冨重 佐智子 (日本看護研究支援センター所長)
◆ベテラン看護師の「臨床の知」
本年度より日本看護研究支援センターを開設し,今まで以上に臨床看護師と看護や研究について語る機会を得た。そんな中,最も活気があるはずのベテラン看護師にいまひとつ活気がないことに一抹の不安を抱いた。どうも彼らは,看護研究や看護理論といった昨今の看護の趨勢に,日常的な看護の重要性を実感できなくなっているようであった。
しかし実際に彼らの看護を垣間見ると,コミュニケーションを駆使しながら,細やかに観察し,知識と勘を総動員して瞬時に問題の本質に迫ってしまう。彼らのほとんどがこのようなすばらしい能力(臨床の知)を持っているのである。また,この能力の背景には,「患者の回復を心より願うねばり強さ」など,看護師自身の強い信念や意気込みが感じられる。そしてこの信念や意気込みこそが,真に患者を癒すものではないかとさえ思われた。残念なことにベテラン看護師の多くは,この「臨床の知」を当たり前のこととして扱い,特別なこととして他者に論じてこなかった。「臨床の知」の中にこそ,看護理論では表現しきれない,生き生きとした「看護の原点」が存在するといっても過言ではないのに。
◆「臨床の知」を言語化したシリーズ
『困ったときの○○看護』シリーズの最大の特徴は,これまであまり論じられてこなかった看護師の「臨床の知」を,事例を通して余すことなく言語化した点にある。「困ったときの○○」のタイトルにあるように,事例はどれも1度は病棟カンファレンスで取り上げられるような身近なものばかりである。これらの事例の1つひとつをみると,どれもが科学的であり,情熱的である。すなわち看護師たちが,科学的かつ丹念な情報収集をもとに問題の本質を絞り込み,他職種や患者の家族と連携をとりながらねばり強く看護を繰り返していった様子がありありと示されているのである。紹介されている事例は,「問題解決」に到達したものばかりではない。「問題解決」をめざしながら,患者の死によって終わってしまった事例もある。しかしどちらの事例も,同じような事例に悩む看護師に,さまざまな課題を提起する力強い余韻を持っている。
このシリーズの第2の特徴は,事例を理解する上での病態生理や各病期の患者の問題点・看護の基本原則など,基礎知識に関わる資料が充実していることである。それらは,すぐにでも実践に役立つように整理されており,学校で教えられる内容とは性質を異にする。これらの基礎知識は,ケースカンファレンスや学習会で活用されることによって,個々の看護師の臨床判断を鍛えるのに大いに役立つことだろう。現在のところ,シリーズは,『消化器疾患患者の看護』,『心疾患患者の看護』,『呼吸器疾患患者の看護』,『糖尿病患者の看護』,『リハビリテーション看護』の5つが出版され,いずれも好評である。
このシリーズを特に読んでほしい対象に,経験の浅い看護師があげられる。最近はローテーションの影響で,特定領域のベテラン看護師が少なくなり,経験の浅い看護師が,彼らから「臨床の知」を継承する機会が激減してしまった。しかしこのシリーズが,その機会を補う役割を果たしてくれるのではないかと考える。また,ベテラン看護師にもぜひ読むことを勧めたい。このシリーズは,ベテラン看護師たちの日頃の実践に自信と価値を与え,自らの「臨床の知」を生き生きと表現するきっかけを与えてくれることだろう。
患者さん1人ひとりのパートナーでありたい
書評者: 馬場 茂明 (国際糖尿病教育学習研究所理事長,神戸大名誉教授)
この本を読んでの第一印象は,毎日糖尿病患者さんと向き合っている看護婦さんでなければ書けない内容だということであった。題名通りの困ったときの糖尿病患者さんの看護記録であるといってよい好著であり,広く関係者にお勧めしたい。
近年の糖尿病学の進歩はめざましく,病因解明は遺伝子レベルまでになり,遺伝子治療や新しい創薬,予知,予防にまで希望が持てる時代となった。また,精密科学やITの進歩は,そのスピードと予期しないほどの影響を臨床にもたらしつつある。しかし進歩発展の中にあっても,未だ糖尿病患者さんは減らないし,むしろ増加している。
少子高齢化社会はますます拡大し,便利さ,情報の氾濫,環境の激変,運動不足,ストレス社会はむしろ糖尿病を増加させていると思われる。
◆多様な背景を持つ個々の患者さんにいかに対応するか
このような複雑な社会の中で日常生活を送っている糖尿病患者さんは,決して一律一様ではない。個性も,嗜好も,感情も,家庭事情もすべて異なっていると言ってよい。
糖尿病患者さんの個々人に,適切な看護や医療と,的確な対応が必要なことは言うまでもない。私たちは教育や療養指導者としての立場にあるのではなく,常に患者さんのパートナーであるべきと考えている。
本書はそれぞれの症例を提示し,問題点を浮き彫りにして,その対処法がきわめて丁寧に書かれている。
例えば,糖尿病患者の検査時の問題と課題,食事療法上の問題点,薬物治療,インスリン治療上の問題点,糖尿病合併症患者の問題点,治療困難になる前のケースと事例,さらにシックデイ,海外旅行時の注意まで記載されている。このような実際に即した内容は実践臨床のテキストであるとともに,今まで医学教育になかった重要点を指摘し,なおかつその方策を示した点において,特筆すべき名著であると思う。
看護にあたる方々はもちろん,チーム医療としてのすべての専門職の方々,さらに学生諸君にも読んでもらいたい本である。
医療はヒューマニズムに基づくもので,人生経験を多く積むことによって人間らしく,また,病気の人たちの気持ちもわかるようになるものである。医療哲学は健康に携わるすべての人と近代社会に最も必要とされる部門であると言える。
最後に糖尿病看護について指導し,ともに働いている貴田岡正史・菅野一男両先生の日頃の熱意が伝わってくる思いがしたことも付け加えたい。
書評者: 冨重 佐智子 (日本看護研究支援センター所長)
◆ベテラン看護師の「臨床の知」
本年度より日本看護研究支援センターを開設し,今まで以上に臨床看護師と看護や研究について語る機会を得た。そんな中,最も活気があるはずのベテラン看護師にいまひとつ活気がないことに一抹の不安を抱いた。どうも彼らは,看護研究や看護理論といった昨今の看護の趨勢に,日常的な看護の重要性を実感できなくなっているようであった。
しかし実際に彼らの看護を垣間見ると,コミュニケーションを駆使しながら,細やかに観察し,知識と勘を総動員して瞬時に問題の本質に迫ってしまう。彼らのほとんどがこのようなすばらしい能力(臨床の知)を持っているのである。また,この能力の背景には,「患者の回復を心より願うねばり強さ」など,看護師自身の強い信念や意気込みが感じられる。そしてこの信念や意気込みこそが,真に患者を癒すものではないかとさえ思われた。残念なことにベテラン看護師の多くは,この「臨床の知」を当たり前のこととして扱い,特別なこととして他者に論じてこなかった。「臨床の知」の中にこそ,看護理論では表現しきれない,生き生きとした「看護の原点」が存在するといっても過言ではないのに。
◆「臨床の知」を言語化したシリーズ
『困ったときの○○看護』シリーズの最大の特徴は,これまであまり論じられてこなかった看護師の「臨床の知」を,事例を通して余すことなく言語化した点にある。「困ったときの○○」のタイトルにあるように,事例はどれも1度は病棟カンファレンスで取り上げられるような身近なものばかりである。これらの事例の1つひとつをみると,どれもが科学的であり,情熱的である。すなわち看護師たちが,科学的かつ丹念な情報収集をもとに問題の本質を絞り込み,他職種や患者の家族と連携をとりながらねばり強く看護を繰り返していった様子がありありと示されているのである。紹介されている事例は,「問題解決」に到達したものばかりではない。「問題解決」をめざしながら,患者の死によって終わってしまった事例もある。しかしどちらの事例も,同じような事例に悩む看護師に,さまざまな課題を提起する力強い余韻を持っている。
このシリーズの第2の特徴は,事例を理解する上での病態生理や各病期の患者の問題点・看護の基本原則など,基礎知識に関わる資料が充実していることである。それらは,すぐにでも実践に役立つように整理されており,学校で教えられる内容とは性質を異にする。これらの基礎知識は,ケースカンファレンスや学習会で活用されることによって,個々の看護師の臨床判断を鍛えるのに大いに役立つことだろう。現在のところ,シリーズは,『消化器疾患患者の看護』,『心疾患患者の看護』,『呼吸器疾患患者の看護』,『糖尿病患者の看護』,『リハビリテーション看護』の5つが出版され,いずれも好評である。
このシリーズを特に読んでほしい対象に,経験の浅い看護師があげられる。最近はローテーションの影響で,特定領域のベテラン看護師が少なくなり,経験の浅い看護師が,彼らから「臨床の知」を継承する機会が激減してしまった。しかしこのシリーズが,その機会を補う役割を果たしてくれるのではないかと考える。また,ベテラン看護師にもぜひ読むことを勧めたい。このシリーズは,ベテラン看護師たちの日頃の実践に自信と価値を与え,自らの「臨床の知」を生き生きと表現するきっかけを与えてくれることだろう。
患者さん1人ひとりのパートナーでありたい
書評者: 馬場 茂明 (国際糖尿病教育学習研究所理事長,神戸大名誉教授)
この本を読んでの第一印象は,毎日糖尿病患者さんと向き合っている看護婦さんでなければ書けない内容だということであった。題名通りの困ったときの糖尿病患者さんの看護記録であるといってよい好著であり,広く関係者にお勧めしたい。
近年の糖尿病学の進歩はめざましく,病因解明は遺伝子レベルまでになり,遺伝子治療や新しい創薬,予知,予防にまで希望が持てる時代となった。また,精密科学やITの進歩は,そのスピードと予期しないほどの影響を臨床にもたらしつつある。しかし進歩発展の中にあっても,未だ糖尿病患者さんは減らないし,むしろ増加している。
少子高齢化社会はますます拡大し,便利さ,情報の氾濫,環境の激変,運動不足,ストレス社会はむしろ糖尿病を増加させていると思われる。
◆多様な背景を持つ個々の患者さんにいかに対応するか
このような複雑な社会の中で日常生活を送っている糖尿病患者さんは,決して一律一様ではない。個性も,嗜好も,感情も,家庭事情もすべて異なっていると言ってよい。
糖尿病患者さんの個々人に,適切な看護や医療と,的確な対応が必要なことは言うまでもない。私たちは教育や療養指導者としての立場にあるのではなく,常に患者さんのパートナーであるべきと考えている。
本書はそれぞれの症例を提示し,問題点を浮き彫りにして,その対処法がきわめて丁寧に書かれている。
例えば,糖尿病患者の検査時の問題と課題,食事療法上の問題点,薬物治療,インスリン治療上の問題点,糖尿病合併症患者の問題点,治療困難になる前のケースと事例,さらにシックデイ,海外旅行時の注意まで記載されている。このような実際に即した内容は実践臨床のテキストであるとともに,今まで医学教育になかった重要点を指摘し,なおかつその方策を示した点において,特筆すべき名著であると思う。
看護にあたる方々はもちろん,チーム医療としてのすべての専門職の方々,さらに学生諸君にも読んでもらいたい本である。
医療はヒューマニズムに基づくもので,人生経験を多く積むことによって人間らしく,また,病気の人たちの気持ちもわかるようになるものである。医療哲学は健康に携わるすべての人と近代社会に最も必要とされる部門であると言える。
最後に糖尿病看護について指導し,ともに働いている貴田岡正史・菅野一男両先生の日頃の熱意が伝わってくる思いがしたことも付け加えたい。
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