人間発達学

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人間発達学は文字どおり人間を「発達」という視点から捉え、整理した知識体系といえる。人間は誕生から死までの全生涯をとおして常に発達の途上にあるといえ、各段階に応じた状態像と発達の課題を知ることは、臨床で子どもを対象とする職業のみならず、成人や老人を対象とする医療者にとっても不可欠である。本書は人間発達の基本的な捉え方を示す教科書。
*「標準理学療法学・作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野
シリーズ監修 奈良 勲 / 鎌倉 矩子
執筆 岩崎 清隆 / 花熊 暁 / 吉松 靖文
発行 2010年03月判型:B5頁:372
ISBN 978-4-260-00824-2
定価 5,720円 (本体5,200円+税)
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 人間発達学は,理学・作業療法を専攻する学生にとって,各領域の治療学など専門分野の授業の基礎学として位置づけられている.カリキュラムのなかでは,人間発達学は第1学年,つまりコースの入り口あたりで教えられることが多い.したがって,本書は高校を卒業したばかりの学生が理解できるように,「わかりやすさ」を念頭において書いたつもりである.
 「わかりやすさ」を優先させるために,記述にいくつかの配慮が必要であった.最新の情報や研究成果を紹介する研究書であれば,厳密な引用や参照が必要である.しかし入門書であれば,文脈の理解を妨げないよう,文章の流れを単純,明晰にする必要がある.そのため本書では,引用の多用を控え,筆者が理解した内容を筆者の言葉で記述するように心がけた.さらに抽象的な内容の理解を助けるために,図,表,イラストをなるべく多く用いたり,専門的な用語も必要に応じて解説を加えた.
 「わかりやすさ」に加え,本書の記述で常に念頭においたことは,その知識が臨床の場面で利用されることである.筆者らは発達を専門としている研究者ではないが,3人とも現在でも発達障害の臨床に携わっている.岩崎は重症心身障害,肢体不自由,知的障害をもつ子どもや成人,花熊は言語障害や軽度発達障害をもつ子ども,吉松は自閉症を中心とする幼児のグループ指導,保護者指導の経験をもっている.
 発達の知識の利用に関しては,治療的な働きかけや教育の目標として,単に典型的な発達指標を追えばいいというものでもない.発達障害をもつ子どもたちは,特定の領域で典型的な発達とは異なるみちすじをたどるかもしれないからである.したがって,発達の知識を発達障害の臨床にどのように応用すればよいかは,それほど自明なことではない.それはむしろ,臨床家がどのように発達を理解するかにかかっていることかもしれない.そういう意味では,臨床的視点から発達が描かれることがあってもよいと思われる.
 発達においては,それに必要なさまざまな基盤が整うと,初めてその何かができるようになる.したがって発達の知識は,発達の診断のみならず,障害の構造の理解をもたらす.つまり,何が子どもに整っていないかを明らかにし,臨床でどういう支援をしたらよいかのヒントを与えてくれる.本書では発達の各機能の相互作用性に着目しているが,そのことが本書の第2の特徴である.そういう意味では,本書は卒業して4,5年の発達障害の臨床現場で格闘している理学・作業療法士にも役立つ内容をもっていると思われる.
 本書では人間発達が3つの視点から描かれている.第1は,行動の要素となる,①身体,姿勢・移動動作,②目と手の協調,③認知機能,④言語などの機能ごとに発達が描かれている(第II部).第2は,社会生活活動の発達と題して,①食事動作,②排泄行動,③更衣・整容動作,④遊び,⑤仕事などの総合的な活動の発達が記述されている(第III部).最後は,それら総合的な活動を,①胎生期,②乳児期,③幼児期,④児童期,⑤青年期,⑥成人期,⑦老年期の発達段階から眺めた描写である(第IV部).
 これらの視点は,WHOの国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health; ICF)の依拠する視点に同調している.つまり,第\RN{3}部で描かれる総合的な活動はICFでの活動(activities)であり,第\RN{2}部の要素的機能は心身の機能,身体の構造(body functions and structures)に相当するものである.それらは総合的な活動を構成し,その不具合の原因や理由を説明する機能ともいえる.第\RN{4}部の発達段階から見る視点とは,総合的な活動が,どのように統合され,社会に適応されるかを社会・心理的な視点から描くもので,ICFの参加(participation)という視点に酷似している.通読してみると同じ記述が繰り返される箇所もあるが,それは発達という1つの実態を複数の視点から重層的に眺めているからと考えていただきたい.重層的に見ることによってのみ深い理解が得られるのが,発達といってもよい.
 本書は,各学校の授業時間内で教え切るには,多くの内容を含んでいるかもしれない.そのため,さまざまな利用のしかたが考えられる.第1学年では第IV部を中心に,それとのかかわりのなかで第II部にふれ,第3学年ころから本格的に始まる専門領域の治療学のなかで復習や副読本として利用してもよい.いずれにしても,人間発達は1回で覚え切る知識体系というより,何度も折にふれて振り返ることによって定着がはかられる学問と思われる.

2010年1月
岩崎 清隆

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第I部 人間発達学総論

第II部 人間発達における各機能の発達
 第1章 身体,姿勢・移動動作の発達
 第2章 目と手の協調の発達
 第3章 認知機能の発達
 第4章 言語の発達
 第5章 社会性の発達

第III部 社会生活活動の発達
 第1章 日常生活における諸活動の発達
 第2章 食事動作の発達
 第3章 排泄行動の発達
 第4章 更衣・整容動作の発達
 第5章 遊びの発達
 第6章 仕事をする能力の発達

第IV部 発達の諸段階と発達課題
 第1章 胎生期(受精~40週)
 第2章 乳児期
 第3章 幼児期
 第4章 児童期
 第5章 青年期
 第6章 成人期
 第7章 老年期

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