CABGのサイエンス

もっと見る

CABGをめぐる様々な問題の中から,グラフト選択の考え方と方法,吻合の仕方,mid-CABGを含む心拍動下CABGの実際,体外循環と心筋保護の方法,脳合併症を予防する方法の5つの命題にしぼって,多数の症例を手がけてきた経験豊富な5名の著者たちが具体的に解説した。明日からの手術に,すぐに役立つ実践書である。
天野 篤 / 川上 恭司 / 坂田 隆造 / 高橋 賢二 / 南淵 明宏
発行 2001年07月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-12236-8
定価 10,450円 (本体9,500円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

I. CABGにおけるグラフト選択のロジック 
II. 吻合糸のかけ方と吻合形態 
III. 心拍動下CABG 
IV. CABGにおける体外循環と心筋保護 
V. CABGと脳合併症

開く

確信した21世紀の日本の心臓外科医のあり方
書評者: 藤松 利浩 (浦添総合病院循環器センター長・心臓血管外科部長)
◆強烈な印象を与える教科書

 本書『CABGのサイエンス』は,南淵明宏先生が1997年に出版された『CABGテクニック』(医学書院)の同シリーズの最新版とも言える著作である。『CABGテクニック』は,手術手技-アートの教科書と言える名著であるが,この『CABGのサイエンス』は,まさにアートにサイエンスを加えたCABG(冠動脈バイパス手術)のテキストブックであり,読む者に「いまだかつて見たこともない」という強烈な印象を与える教科書である。
 天野篤先生の「CABGにおけるグラフト選択のロジック」では,CABGにおけるグラフト選択の戦略が歴史を含めて懇切ていねいに解説されている。あくまでも動脈グラフトのみで完全血行再建を行なおうという姿勢は,症例数の多い日本の外科医に共通するものであるが,ここで特にすばらしいのは,読む者に氏の動脈グラフトとその造影上のできあがりへのこだわりを感じさせる点である。また,豊富な文献を引用してその歴史を探り,サイエンスとしてまとめあげられている点も称賛してやまない。
 高橋賢二先生の「吻合糸のかけ方と吻合形態」では,冠動脈吻合において結節吻合を中心に,基本的技術が多くの図と写真を用いて懇切ていねいに解説されており,これから心臓外科をめざす若き外科医たちにも,また経験ある外科医にも改めて吻合の基礎を教える秀逸の章となっている。ぜひ,熟読をお勧めしたい。
 南淵明宏先生の「心拍動下CABG」は,この分野におけるパイオニアとして君臨する氏の風格をも感じさせる章となっている。心拍動下CABGの歴史に始まり,豊富な症例から抜粋した多くの写真を用いた技術解説は,読む者を惹きつけずにはおかない魅力がある。またそれだけにとどまらず,氏自身の苦い経験も含めて経験に基づいた自身の技術でわれわれに呼びかける,プロフェッショナルな心臓外科医としての姿勢には心打たれるものがある。本書がすべての心臓外科医にとっての座右の書,さらにはバイブルとなろうことを確信する。
 川上恭司先生の「CABGにおける体外循環と心筋保護」は,氏の常温手術に到達してゆく過程を体外循環と心筋保護とに分けて解説されたものである。他の先生方同様,氏の動脈グラフトへの飽くなきこだわりを感じさせる章であり,現在の心停止下CABGにおいて主流の常温手術の基本と実際を簡潔にまとめたこの論文は,すべての外科医にとって必読である。

◆戦略が凝縮された名著

 坂田隆造先生の「CABGと脳合併症」を一読して感じることは,氏のモータリティを下げるための圧倒的な執念とも言える意欲である。現場での実践を学術的に理論化し,臨床に応用していく氏の姿勢には頭が下がる。また,氏のように上行大動脈スコアリングを行ない,成績向上のためにここまで徹底して理論を現場での実践に生かす外科医は,世界的にも稀であろう。モータリティを下げるべき戦略が凝縮された名著である。
 本書を読ませていただき,小生は日本人心臓外科医のはしくれとして,正直なところホッとしている。1990年代,症例数において欧米の施設に圧倒的に溝を開けられた中で,卓越した才能と地道な努力で症例を増していき,今や多くの症例をすばらしい成績でこなしている5名の著者の先生方が,確実に21世紀の日本の心臓外科のあり方を語りかけてくれたと確信したからである。
 最後に,本著を刊行するために注がれた5名の先生方の努力と情熱に敬意を表するとともに,その才能に心から賞賛を贈る。

より質の高いCABGをめざす手術操作・手技の全貌を開陳
書評者: 川副 浩平 (岩手医大附属循環器医療センター長/教授・外科学)
◆年々増加する冠動脈バイパス手術(CABG)

 冠動脈バイパス手術(CABG)は年々増加し,現在日本では年間2万件を超え,心臓外科手術のおよそ半数を占めるようになっている。全国どこの施設でも,循環器内科があればごく日常的に要求される手術であり,現役の心臓外科医には今や避けて通れない手術手技である。
 一方では,冠動脈形成術(PTCA)が長足の進歩をとげ,冠血行再建法の有力なalternativeとして発展してきた。特に日本では,PTCA施行施設数はCABGのそれの約2倍,施行件数は約6倍と,諸外国の実状とは大きくかけ離れている。この異常とも言えるPTCAの普及にはいくつかの共通した理由があり,またそれぞれの施設に固有の事情があるのであろうが,その1つに外科医に対する不信感が現に存在することも事実である。
 このような現実に奮起して,何人もの外科医がそれぞれの方法で自己研鑽に励み,CABGの成績の向上に力を尽くしてきた。そして,この10年間に,少なからぬ施設で欧米の先進国と比肩し得る手術成績が得られるようになっている。その中の若い世代の外科医たちが今日まで培った自らのアートを,その背景となるエビデンスをもって著したのがこの『CABGのサイエンス』である。本書を単なる手術書とせず,質の高いCABGを完遂するための,理論を伴った手術操作・手技の解説書として位置づけようとした意図がタイトルに込められている。

◆随所に手技のコツあるいは落とし穴の解説

 「第 I 章:CABGにおけるグラフト選択のロジック」では,静脈グラフトと4種類の動脈グラフトの特性が要領よくまとめられている。選りすぐった文献に一流の外科的見識が加えられて,グラフトの順位づけと使用法が明快に示され,大いに参考となる。
 「第 II 章:吻合系のかけ方と吻合形態」と「第 III 章:心拍動下CABG」は,CABGのテクニックを噛み砕くように,随所に手技のコツあるいは落とし穴を散りばめて,懇切ていねいに解説している。豊富な経験を基にした技術論で裏づけされたテクニックは,数少ない手術書としての価値を本書に与えている。
 「第 IV 章:CABGにおける体外循環と心筋保護」と「第 V 章:CABGと脳合併症」は,体外循環下のCABGを安全に行なうために,いかなる方策を取るかについて基礎から解説されている。いずれも,自らのデータをもって科学的に述べられて,誰にも納得でき,CABGに限らずすべての体外循環下手術に役立つ実践的内容である。
 また,「あとがき」をはじめ本文中のところどころに心臓外科医としての,著者それぞれの思いが率直かつ情熱的に語られていて,読者にほのかな親近感を与えている。
 手術書によって外科手術ができるようになるものではもちろんないが,本書には,手術のイメージが他の参考書以上に浮かびやすい要素があるように思われる。完成された外科医が改めて気づくところも少なくなく,発展途上にある外科医にはぜひ読んでもらいたい1冊である。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。