不整脈
ベッドサイド診断から非薬物治療まで
本書1冊で不整脈診療の全貌を知ることができる
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不整脈診療に携わるすべての医療者にとって、バイブルとよぶにふさわしい名著。研修医にはベッドサイドで役に立つ知恵を授け、専門医、あるいはこれから専門医をめざす人々には、不整脈の最先端について深い理解を得られることはもちろん、専門医ならではの視座をも与えてくれる。長年にわたって、日本の不整脈の臨床・研究をリードしてきた“まさに第一人者”による渾身の力作、必読の書。
著 | 大江 透 |
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発行 | 2007年03月判型:B5頁:536 |
ISBN | 978-4-260-00208-0 |
定価 | 9,350円 (本体8,500円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
執筆者/大江 透
私が本書を書こうと思ったのは,13年前に国立循環器病センターから岡山大学に赴任したその1年後のことである。国立循環器病センター時代は不整脈の知識は欧文誌の論文や学会から得るものと考えていたが,岡山大学に来て医学生,研修生,若い教室員に不整脈の講義をして,系統的にやさしく解説する不整脈の本の必要性を痛感した。
特に,不整脈は難しいと思い込んでいる学生・研修医には,(1)心電図以前の身体所見を基本にした考え方,(2)心電図所見を基本にした考え方,(3)心臓電気生理検査を基本にした考え方,を系統的に教える必要性を実感したのである。この考えに基づいた不整脈の本であれば,一人で執筆したほうが一貫した解説が可能と考え,私一人で執筆することになった。当初は2~3年で書き上げる予定だったが,夏休み,冬休み,5月のゴールデンウィークをすべて本の執筆にあてても,10年以上もかかってしまった。
本の構成は,I. 不整脈の基礎,II. 不整脈の検査,III. 不整脈の治療,IV. 徐脈性不整脈,V. 上室性不整脈,VI. 心室性不整脈,VII. 特殊な不整脈,VIII. 疾患・病態と不整脈の8篇に分けた。個々の不整脈では,学生・研修医・若手医師が不整脈患者を受け持った場合を想定して,身体所見,12誘導心電図,ホルター心電図,運動負荷心電図,加算平均心電図,臨床電気生理検査と順次に解説した。不整脈の身体所見は心電図以前の診断法だが,不整脈の病態を理解するのに有益なので,できるだけ記述するように心がけた。心電図はEinthovenが発明しLewisが不整脈の診断学に応用してから100年以上経過しているが,今日でも不整脈診断の基本である。したがって,本書でも心電図による診断と心電図を基にした考え方を特に重んじたつもりである。
一方,臨床電気生理検査は不整脈の機序を解明し不整脈の非薬物治療への道を開いた重要な検査だが,循環器専門医が行う検査なので,この部分は主に循環器専門医を目指す医師を対象にして解説した。しかし,学生・研修医でも不整脈患者を専門医に紹介する際に,電気生理学的検査の適応・限界などの知識が必要となる。その意味から学生・研修医にも理解できるようできるだけ平易に解説するよう心がけた。
今日の不整脈治療は,不整脈の発生機序から論理的に治療法を選択する場合と,大規模臨床試験の結果を参考にして選択する場合がある。したがって,治療法の選択ではできる限り両方の立場から解説した。大規模臨床試験は紹介のみでなく,その解釈と臨床的意義を合わせて記述するよう心がけた。また,大規模臨床試験の結果は欧米およびわが国のガイドラインに反映されており,参考資料としてAHA/ACC/NASPEおよび日本循環器学会のガイドラインを紹介した。
本書では,できるだけ私自身が担当した患者さんのデータを用いた。したがって,国立循環器病センターで昼夜を問わず不整脈患者の診断・治療を共にした下村克朗先生,鎌倉史郎先生,相原直彦先生,栗田隆志先生,清水渉先生,須山和弘先生にまず御礼を申し上げたい。また,毎朝のカンフェレンスおよび日頃の診療を通じて,学生・研修医・若手医師が疑問に思う点や難解なポイントを指摘してくれた岡山大学循環器内科の教室員の皆に感謝したい。
さらに,本書の作成にあたり多くの先生から貴重なご意見とご指摘を頂戴した。特に,不整脈専門医の立場からは森田志保先生,循環器専門医の立場からは尾形仁子先生に各章ごとに詳細に検討を頂いた。お二人のご協力がなければこの本は完成しなかった。心から感謝したい。
最後に,岡山大学循環器内科の秘書の藤原美由起さんには,図表や参考文献の整理・訂正を手伝って頂いた。この場を借りて御礼申し上げたい。なお,本書の企画・編集にあたっては医学書院の安藤恵さんに,そして制作にあたっては川村静雄さんに大変お世話になった。特に安藤さんの辛抱強い激励があったお陰で刊行に至ったと思う。心から感謝申し上げたい。
本書が学生,研修生,若手医師および専門医を目指す医師にとって,不整脈の理解に少しでもお役に立つことを心から願ってやまない。
2007年 1月
執筆者/大江 透
私が本書を書こうと思ったのは,13年前に国立循環器病センターから岡山大学に赴任したその1年後のことである。国立循環器病センター時代は不整脈の知識は欧文誌の論文や学会から得るものと考えていたが,岡山大学に来て医学生,研修生,若い教室員に不整脈の講義をして,系統的にやさしく解説する不整脈の本の必要性を痛感した。
特に,不整脈は難しいと思い込んでいる学生・研修医には,(1)心電図以前の身体所見を基本にした考え方,(2)心電図所見を基本にした考え方,(3)心臓電気生理検査を基本にした考え方,を系統的に教える必要性を実感したのである。この考えに基づいた不整脈の本であれば,一人で執筆したほうが一貫した解説が可能と考え,私一人で執筆することになった。当初は2~3年で書き上げる予定だったが,夏休み,冬休み,5月のゴールデンウィークをすべて本の執筆にあてても,10年以上もかかってしまった。
本の構成は,I. 不整脈の基礎,II. 不整脈の検査,III. 不整脈の治療,IV. 徐脈性不整脈,V. 上室性不整脈,VI. 心室性不整脈,VII. 特殊な不整脈,VIII. 疾患・病態と不整脈の8篇に分けた。個々の不整脈では,学生・研修医・若手医師が不整脈患者を受け持った場合を想定して,身体所見,12誘導心電図,ホルター心電図,運動負荷心電図,加算平均心電図,臨床電気生理検査と順次に解説した。不整脈の身体所見は心電図以前の診断法だが,不整脈の病態を理解するのに有益なので,できるだけ記述するように心がけた。心電図はEinthovenが発明しLewisが不整脈の診断学に応用してから100年以上経過しているが,今日でも不整脈診断の基本である。したがって,本書でも心電図による診断と心電図を基にした考え方を特に重んじたつもりである。
一方,臨床電気生理検査は不整脈の機序を解明し不整脈の非薬物治療への道を開いた重要な検査だが,循環器専門医が行う検査なので,この部分は主に循環器専門医を目指す医師を対象にして解説した。しかし,学生・研修医でも不整脈患者を専門医に紹介する際に,電気生理学的検査の適応・限界などの知識が必要となる。その意味から学生・研修医にも理解できるようできるだけ平易に解説するよう心がけた。
今日の不整脈治療は,不整脈の発生機序から論理的に治療法を選択する場合と,大規模臨床試験の結果を参考にして選択する場合がある。したがって,治療法の選択ではできる限り両方の立場から解説した。大規模臨床試験は紹介のみでなく,その解釈と臨床的意義を合わせて記述するよう心がけた。また,大規模臨床試験の結果は欧米およびわが国のガイドラインに反映されており,参考資料としてAHA/ACC/NASPEおよび日本循環器学会のガイドラインを紹介した。
本書では,できるだけ私自身が担当した患者さんのデータを用いた。したがって,国立循環器病センターで昼夜を問わず不整脈患者の診断・治療を共にした下村克朗先生,鎌倉史郎先生,相原直彦先生,栗田隆志先生,清水渉先生,須山和弘先生にまず御礼を申し上げたい。また,毎朝のカンフェレンスおよび日頃の診療を通じて,学生・研修医・若手医師が疑問に思う点や難解なポイントを指摘してくれた岡山大学循環器内科の教室員の皆に感謝したい。
さらに,本書の作成にあたり多くの先生から貴重なご意見とご指摘を頂戴した。特に,不整脈専門医の立場からは森田志保先生,循環器専門医の立場からは尾形仁子先生に各章ごとに詳細に検討を頂いた。お二人のご協力がなければこの本は完成しなかった。心から感謝したい。
最後に,岡山大学循環器内科の秘書の藤原美由起さんには,図表や参考文献の整理・訂正を手伝って頂いた。この場を借りて御礼申し上げたい。なお,本書の企画・編集にあたっては医学書院の安藤恵さんに,そして制作にあたっては川村静雄さんに大変お世話になった。特に安藤さんの辛抱強い激励があったお陰で刊行に至ったと思う。心から感謝申し上げたい。
本書が学生,研修生,若手医師および専門医を目指す医師にとって,不整脈の理解に少しでもお役に立つことを心から願ってやまない。
2007年 1月
目次
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I 不整脈の基礎
II 不整脈の検査
III 不整脈の治療
IV 徐脈性不整脈
V 上室性不整脈
VI 心室性不整脈
VII 特殊な不整脈
VIII 疾患・病態と不整脈
索引
II 不整脈の検査
III 不整脈の治療
IV 徐脈性不整脈
V 上室性不整脈
VI 心室性不整脈
VII 特殊な不整脈
VIII 疾患・病態と不整脈
索引
書評
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臨床医の視点で有用性を評価した不整脈教科書
書評者: 杉本 恒明 (関東中央病院名誉院長)
立派な装幀の不整脈教科書である。大江透教授がお一人で書かれている。評者も実はかねて,こうした本を書きたいという願いはもっていた。しかし,いざ書くとなると,不得手な分野が目につき,それぞれの専門家に依頼するのが妥当と思われて,結局は分担執筆になってしまっていた。それを大江教授はお一人でおやりになった。大江教授でなくては書くことができなかった教科書であり,また,このような本の執筆者としてもっとも適切な人は大江教授であるとは誰もが認めるところであろう。
大江教授は国立循環器病センターという臨床研究の場に長くあって,後に岡山大学内科教室という教育研究の場に移られた。この間にご自身がもたれた経験が本書執筆の動機となったもののように思われる。
不整脈の予後が健康な集団にみられた場合と末期患者にみられる場合とでは異なることを400年も昔の医学がすでに教えているということから本書は始まる。不整脈の分類には,心電図上の分類,原因・経過上の分類,電気生理学的検査による分類,発生機序による分類,有効薬剤による分類,日内変動による分類などと独自の分類がある。基礎的知識の解説がこれに続いて,次が検査である。基礎疾患の検索は本書ならではの章といえよう。診断は日常的な問診,身体所見,心電図によって行われる。この章ではティルト試験,圧反射感受性検査にもふれられている。ついで,電気生理学的検査である。電気生理学的検査は不整脈の機転を明確にし,診療に役立つ多くの知見を提供してきた。治療には薬物治療,デバイス治療,外科的治療,アブレーション,そして,さらに大規模臨床試験の成績が整理された問題点に私見を併せて紹介されている。各論では不整脈の種類別にこれらの知見が再度,まとめられていて,わかりやすい。ことに頻拍における興奮旋回路の同定,アブレーション部位の決定などについては流石に説得性がある。心室頻拍,心室細動が先にあって,これに心室期外収縮が続くのは,その意義を考えると理解しやすい。
本書に一貫しているのは,つねに臨床医としての視線があるということである。すべてが臨床的有用性によって評価されている。治療に役立つか,予後を改善するか,が評価の基準にある。アブレーション成功率別の不整脈の分類などはこの意味での独自の工夫であろう。
実にコンパクトによくまとめられている。単独執筆のよさであろう。また,大江教授の学識の深さを感じさせる。文章的には,独特の調子を帯びた表現もあって,講義風景が想像される。そして,このような大江教授の名講義が岡山大学の学生諸氏から,広くわれわれにも開放されたことを嬉しく思った。
大江ワールドの集大成,新著「不整脈」
書評者: 栗田 隆志 (国循センター・心臓血管内科)
評者は20数年前,レジデントとして赴任した国立循環器病センターにて本書の著者,大江 透先生に出会った。昼夜を問わず嬉々として患者のもとに赴き,精力的に診察する姿勢に惹かれ,評者は迷わず大江門下生のひとりになった。先生は日頃より診療で得られた心電図や臨床所見を臨場感溢れるストーリーに仕上げ,ファイルに留めておられた。これが知る人ぞ知る「大江ノート」である。難解で興味深い心電図があると先生は必ず「大江ノート」を持って現れ,過去の症例と比較しながら病態の本質へと迫るのである。私たちは目の前で繰り広げられる大江ワールドの虜になった。
新著「不整脈」は先生の独創的なアイデア・発見のルーツとも言うべき「大江ノート」の集大成であり,宝物のように珍重されていた心電図や心内電位図が惜しげもなく展開されているものである。20年前,評者が深夜までお供しながら記録した心電図も掲載されており,懐かしい気持ちで胸が一杯になる。
先生は美しく,そして示唆に富む心電図を記録することにきわめてどん欲であった。例えば「図8―12房室回帰性頻拍の食道誘導心電図記録」,「図17―1心房頻回刺激(経食道ペーシング)による発作性上室性頻拍の停止」,「図17―3Wide QRS頻拍の鑑別診断」,「図40―16Vaughan―Williams分類のIA群薬の追加で心室細動になった症例」などは,もう二度と記録されないであろう貴重な心電図である。さらに本書の驚くべきところは,あらゆる臨床不整脈を網羅する内容のすべてが自験例をもとに述べられている点である。膨大な「大江ノート」の中から,それぞれの内容に最も適した心電図を選りすぐった努力にはただただ頭が下がるばかりである。
最後に,特記すべきは,日本語で書かれた論文が数多く引用されていることである。これも骨の折れる大変な作業であったに違いない。わが国において,わが国の臨床研究者によってなされた仕事を高く評価し,暖かく育もうとする先生の深い愛情が感じられる一冊でもある。
評者は今,この新著「不整脈」を心に抱き,大江先生と同じ時を過ごせたこと,そして不世出の名著に出会えたことの幸せに深く浸っている。
不整脈診療のすべてをこの一冊に
書評者: 相澤 義房 (新潟大大学院教授・循環器学)
この度,医学書院から,大江透教授(岡山大学大学院・循環器内科)の手による『不整脈――ベッドサイド診断から非薬物治療まで』が上梓された。
氏は医学部卒業後米国での臨床研修トレーニングを受けられ,帰国後は国立循環器病センターの循環器部門の創設に加わられた。同センターでは,不整脈領域の診断と治療に専念されるとともに,不整脈専門医をめざす若い医師の育成に当たられてきた。その後,岡山大学循環器内科の第2代目の教授として赴任された。
大江教授は,国立循環器病センター赴任当初から日本における心臓臨床電気生理検査の確立に多大な貢献をされ,また温厚な推進者の一人であった。その臨床での成果はCirculationなどに発表してこられ,氏は国際的にも評価されている。
岡山大学に赴任後は,医学生や若い医局員に不整脈をどうやさしく教えるかに腐心されていたと聞く。それが結実したものが本書である。本書の特長はいくつかあげられる。それは序にあるように,一人で一貫性をもって書かれたことがある。その結果,不整脈そのものを教えるのではなく,不整脈を有する患者さんについて,心電図で得られた所見(不整脈)の考え方について,そして不整脈の解決のための電気生理検査への考え方について,これらを包み込むように著わされていると思われる。
構成を工夫されつつも,一般的な不整脈の基礎,不整脈の症状と身体所見,検査および治療に続いて,代表的な不整脈をとりあげ,再度その特長から治療までを解説されている。
通常の教科書は,不整脈の詳細は記述で済まされることが多いが,本書は不整脈の歴史とともに,患者さんを総合的あるいは全人的に捉えたいとの意図があるように思える。
本書は著者の構成された順序で読み進んでもよいし,また個々の不整脈から読み出して,随時不整脈の基礎や検査法に戻ってもよい,読みやすい書になっている。図も臨床的に重要かつ必須なものが提示されているが,これらはこれまでの著者の長い臨床経験で得た自前のものであり,図の解説も根拠に基づいているので説得力がある。心電図や電気生理検査所見の図をみて,著者の意図する所を推理するという読み方も,自己の実力がどのレベルかを判断するのによい材料になる。本書でもそのような読み方をぜひ推奨したい。
重症不整脈や重症心不全では,植え込み型除細動器(ICD)や再同期療法(CRT)をどう用いるかのガイドラインについて,わが国ではまだ未完成な面がある。このような新しい治療法に対しても,現状が十分に紹介されている。
著者が意図されたように,医学生,不整脈専門医をめざす初心者および不整脈非専門医の医師以外に,われわれ不整脈専門医にとってもいつでも開けば参考になる好著である。
書評者: 杉本 恒明 (関東中央病院名誉院長)
立派な装幀の不整脈教科書である。大江透教授がお一人で書かれている。評者も実はかねて,こうした本を書きたいという願いはもっていた。しかし,いざ書くとなると,不得手な分野が目につき,それぞれの専門家に依頼するのが妥当と思われて,結局は分担執筆になってしまっていた。それを大江教授はお一人でおやりになった。大江教授でなくては書くことができなかった教科書であり,また,このような本の執筆者としてもっとも適切な人は大江教授であるとは誰もが認めるところであろう。
大江教授は国立循環器病センターという臨床研究の場に長くあって,後に岡山大学内科教室という教育研究の場に移られた。この間にご自身がもたれた経験が本書執筆の動機となったもののように思われる。
不整脈の予後が健康な集団にみられた場合と末期患者にみられる場合とでは異なることを400年も昔の医学がすでに教えているということから本書は始まる。不整脈の分類には,心電図上の分類,原因・経過上の分類,電気生理学的検査による分類,発生機序による分類,有効薬剤による分類,日内変動による分類などと独自の分類がある。基礎的知識の解説がこれに続いて,次が検査である。基礎疾患の検索は本書ならではの章といえよう。診断は日常的な問診,身体所見,心電図によって行われる。この章ではティルト試験,圧反射感受性検査にもふれられている。ついで,電気生理学的検査である。電気生理学的検査は不整脈の機転を明確にし,診療に役立つ多くの知見を提供してきた。治療には薬物治療,デバイス治療,外科的治療,アブレーション,そして,さらに大規模臨床試験の成績が整理された問題点に私見を併せて紹介されている。各論では不整脈の種類別にこれらの知見が再度,まとめられていて,わかりやすい。ことに頻拍における興奮旋回路の同定,アブレーション部位の決定などについては流石に説得性がある。心室頻拍,心室細動が先にあって,これに心室期外収縮が続くのは,その意義を考えると理解しやすい。
本書に一貫しているのは,つねに臨床医としての視線があるということである。すべてが臨床的有用性によって評価されている。治療に役立つか,予後を改善するか,が評価の基準にある。アブレーション成功率別の不整脈の分類などはこの意味での独自の工夫であろう。
実にコンパクトによくまとめられている。単独執筆のよさであろう。また,大江教授の学識の深さを感じさせる。文章的には,独特の調子を帯びた表現もあって,講義風景が想像される。そして,このような大江教授の名講義が岡山大学の学生諸氏から,広くわれわれにも開放されたことを嬉しく思った。
大江ワールドの集大成,新著「不整脈」
書評者: 栗田 隆志 (国循センター・心臓血管内科)
評者は20数年前,レジデントとして赴任した国立循環器病センターにて本書の著者,大江 透先生に出会った。昼夜を問わず嬉々として患者のもとに赴き,精力的に診察する姿勢に惹かれ,評者は迷わず大江門下生のひとりになった。先生は日頃より診療で得られた心電図や臨床所見を臨場感溢れるストーリーに仕上げ,ファイルに留めておられた。これが知る人ぞ知る「大江ノート」である。難解で興味深い心電図があると先生は必ず「大江ノート」を持って現れ,過去の症例と比較しながら病態の本質へと迫るのである。私たちは目の前で繰り広げられる大江ワールドの虜になった。
新著「不整脈」は先生の独創的なアイデア・発見のルーツとも言うべき「大江ノート」の集大成であり,宝物のように珍重されていた心電図や心内電位図が惜しげもなく展開されているものである。20年前,評者が深夜までお供しながら記録した心電図も掲載されており,懐かしい気持ちで胸が一杯になる。
先生は美しく,そして示唆に富む心電図を記録することにきわめてどん欲であった。例えば「図8―12房室回帰性頻拍の食道誘導心電図記録」,「図17―1心房頻回刺激(経食道ペーシング)による発作性上室性頻拍の停止」,「図17―3Wide QRS頻拍の鑑別診断」,「図40―16Vaughan―Williams分類のIA群薬の追加で心室細動になった症例」などは,もう二度と記録されないであろう貴重な心電図である。さらに本書の驚くべきところは,あらゆる臨床不整脈を網羅する内容のすべてが自験例をもとに述べられている点である。膨大な「大江ノート」の中から,それぞれの内容に最も適した心電図を選りすぐった努力にはただただ頭が下がるばかりである。
最後に,特記すべきは,日本語で書かれた論文が数多く引用されていることである。これも骨の折れる大変な作業であったに違いない。わが国において,わが国の臨床研究者によってなされた仕事を高く評価し,暖かく育もうとする先生の深い愛情が感じられる一冊でもある。
評者は今,この新著「不整脈」を心に抱き,大江先生と同じ時を過ごせたこと,そして不世出の名著に出会えたことの幸せに深く浸っている。
不整脈診療のすべてをこの一冊に
書評者: 相澤 義房 (新潟大大学院教授・循環器学)
この度,医学書院から,大江透教授(岡山大学大学院・循環器内科)の手による『不整脈――ベッドサイド診断から非薬物治療まで』が上梓された。
氏は医学部卒業後米国での臨床研修トレーニングを受けられ,帰国後は国立循環器病センターの循環器部門の創設に加わられた。同センターでは,不整脈領域の診断と治療に専念されるとともに,不整脈専門医をめざす若い医師の育成に当たられてきた。その後,岡山大学循環器内科の第2代目の教授として赴任された。
大江教授は,国立循環器病センター赴任当初から日本における心臓臨床電気生理検査の確立に多大な貢献をされ,また温厚な推進者の一人であった。その臨床での成果はCirculationなどに発表してこられ,氏は国際的にも評価されている。
岡山大学に赴任後は,医学生や若い医局員に不整脈をどうやさしく教えるかに腐心されていたと聞く。それが結実したものが本書である。本書の特長はいくつかあげられる。それは序にあるように,一人で一貫性をもって書かれたことがある。その結果,不整脈そのものを教えるのではなく,不整脈を有する患者さんについて,心電図で得られた所見(不整脈)の考え方について,そして不整脈の解決のための電気生理検査への考え方について,これらを包み込むように著わされていると思われる。
構成を工夫されつつも,一般的な不整脈の基礎,不整脈の症状と身体所見,検査および治療に続いて,代表的な不整脈をとりあげ,再度その特長から治療までを解説されている。
通常の教科書は,不整脈の詳細は記述で済まされることが多いが,本書は不整脈の歴史とともに,患者さんを総合的あるいは全人的に捉えたいとの意図があるように思える。
本書は著者の構成された順序で読み進んでもよいし,また個々の不整脈から読み出して,随時不整脈の基礎や検査法に戻ってもよい,読みやすい書になっている。図も臨床的に重要かつ必須なものが提示されているが,これらはこれまでの著者の長い臨床経験で得た自前のものであり,図の解説も根拠に基づいているので説得力がある。心電図や電気生理検査所見の図をみて,著者の意図する所を推理するという読み方も,自己の実力がどのレベルかを判断するのによい材料になる。本書でもそのような読み方をぜひ推奨したい。
重症不整脈や重症心不全では,植え込み型除細動器(ICD)や再同期療法(CRT)をどう用いるかのガイドラインについて,わが国ではまだ未完成な面がある。このような新しい治療法に対しても,現状が十分に紹介されている。
著者が意図されたように,医学生,不整脈専門医をめざす初心者および不整脈非専門医の医師以外に,われわれ不整脈専門医にとってもいつでも開けば参考になる好著である。
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