基礎から読み解くDPC 第2版
正しい理解と実践のために

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現在、DPC対象施設は、参加準備の病院も含めて約760病院にまで広がっている。今後、さらに拡大展開が予想されるなか、第2版では従来どおりDPCの考え方・概要についての解説に、平成18年度改正の変更点等の詳細な解説を加え、さらに、読者がDPCを用いての基礎的な分析ができるようになることを目的とした構成になっている。
松田 晋哉
発行 2007年04月判型:B5頁:196
ISBN 978-4-260-00429-9
定価 3,300円 (本体3,000円+税)
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第2版 まえがき

松田晋哉



 2003年度から特定機能病院を対象として開始されたDPCに基づく包括評価方式は,その後の中医協での審議を経て,その対象施設を拡大し2006(平成18)年度からは360病院がDPCに基づく支払い対象施設となりました.さらにそれ以外の施設にも調査参加の募集が行われ,新たに約360の病院が「DPC準備病院」となりました.これら約760病院を病床数で評価するとおよそ30万床になります.

 2005年に出版した「基礎から読み解くDPC」は,幸いにも多くの方に読んでいただくことができました.開発に携わってきた私たちの思いがどこにあるのかについては一定のご理解をいただけたのではないかと思います.すなわち,DPCとは単なる支払いの単位というだけではなく,医療情報の標準化と透明化のツールであること,そして,それを用いることで医療の質や経営の質に関するいろいろな評価が可能となり,これにより日本の医療提供体制の健全な発展に寄与したいというのが筆者らの思いなのです.

 DPC開発の基礎となっているのは,筆者が主任研究者を務める厚生労働科学研究班です.この研究班では過去5年間にわたりDPCそのものの構築に加えて,DPCを用いた臨床面・経営面でのマネジメント手法についての研究を行ってきました.研究成果については報告書や論文という形で公開してきましたが,そのような研究成果をどのように実際のマネジメントに活用するかについては,必ずしも十分には説明できていませんでした.また初版をお読みになった関係者の方々から,いくつか詳しく説明してほしいという箇所や追加の説明が欲しい箇所などのコメントも頂きました.

 また,DPCの分類自体も今回の改定で大幅に見直しが行われています.

 そこで第2版では従来どおりDPCの考え方についてわかりやすく説明すると同時に,平成18年度における改正点の説明を行います.そして,これまで厚生労働省や研究班が作成・公開してきたデータを用いて,どのような応用ができるのかを具体的な事例を用いて説明したいと思います.

 DPCは医療マネジメントのツールです.ツールは使われてこそ意味があります.DPCでデータを作成している施設が1,000に迫ろうとしている今日の状況を考えると,DPCはすでにわが国の制度の一つとして定着したと言えるでしょう.それだけにツールとしてのDPCが正しく使われて欲しいと思います.第2版はこのような筆者の思いから大幅に書き直されたものです.本書が読者の皆さんの日常の業務の何らかのお役にたてば幸いです.

 2007年 3月

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第1章 診断群分類とは何か
第2章 DPCによる包括評価の実際
第3章 DPCと医療の質
第4章 DPCを用いた病院マネジメント
第5章 DPCと医療職
第6章 諸外国の状況
第7章 DPCと医療制度改革
第8章 まとめ
Q&A
参考資料
引用文献
あとがき
索引

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医療職チームとして全職員がDPCを理解するための好著
書評者: 齋藤 壽一 (社会保険中央総合病院長)
 松田晋哉氏の著書『基礎から読み解くDPC―正しい理解と実践のために第2版』(医学書院)が刊行された。著者は周知のごとく急性期医療を担う病院のベンチマークから診療報酬までの新しい評価システムであるDPCについて設計・開発から普及まで,厚生労働省の作業を中心的に主導してきた研究者である。本書はまさに,そのようなDPCのすべてを考究しつくした第一人者である著者だからこそ初めてまとめることができた好著となっている。

 DPCはこれを導入している360に及ぶ病院の関係者にとっても,その壮大な機能の一部を理解しているにとどまり,容易に全機能を掌握できない拡がりと深みをもった制度である。本書では例示された事例の診療報酬算定方式で示されているように,きわめて平易で具体的な記載により「DPCのすべて」が語られている。

 全体の構成は明快な図が豊富で,各章ごとに重要な点が「Key Point」としてまとめられており理解を深める工夫がこらされている。厚生労働省からはすでにDPCについての膨大な統計資料が公表されているが,一般の医療従事者にとってその中から重要な情報を抽出し理解することはむしろ困難となりつつある。その点,本書で著者は巻末の参考資料を含めてDPCの役割や活用法を理解するうえで特に重要な情報のエッセンスを抽出してとりまとめて解説しており,平易でありながら大変に内容の濃い冊子となっている。

 近年の病院経営は,多くの職種の職員それぞれの関わりによって支えられている。本書では「DPCと医療職」の章を設けて,病院の医師をはじめ,診療所医師,看護師,薬剤師あるいは診療情報管理士等多くの職種のそれぞれにとって,DPCの持つ意味を述べている。医療職チームとしての病院の全職員がそれぞれにとってDPCとは何であるかを理解することができる。DPC対象病院はもとより,準備病院として今後の参入を計画している多くの病院の職員に一読を薦めたい。

 本書を読むとDPCは単なる診療報酬の支払いシステムではなく,病院の経営構造や医療内容の開示,ひいては医療制度の構造を分析し透明性を高めるうえで必須とも言えるシステムであることがわかる。それを踏まえて,現在進められている医療制度改革についての方向性が示されている点も注目される。医療の質とコストについて検討する際のエビデンスはDPCによってきわめて有効に明示されるという著者の主張は,本書で述べられた内容を踏まえると理解できる。世界に誇る国民皆保険制度が医療費の急激な増大によって揺らぐことが危惧されている。医療費について科学的根拠を持って討議,検討し医療制度を設計するうえで,DPCから掌握される指標を活用することは欠く事のできない作業になると思われる。さまざまな新しい,しかも大きな役割が期待されているDPCについて本書が今後も長期にわたって定期的に版を重ね,病院経営と医療政策の指針であり続けることを期待したい。
経営から質の高い医療まで,DPCの正しい理解が助けた
書評者: 島本 和明 (札幌医大病院長)
 大学附属病院をとりまく医療環境は最近,大きく変わりつつあるが,なかでも最も大きな要因として独立行政法人化,卒後研修の義務化そしてDPC制度の導入がある。DPC制度は,2003年4月より特定機能病院において開始され,2006年度からは対象が大きく拡大してきている。病院の経営改善が叫ばれる現在,DPC制度は少なくとも現時点では経営を圧迫するものとはなっていない。ただし,大学病院(特定機能病院)の急性期医療への役割分担の期待そしてその方向へ行政指導が強まる中で,病床利用率を維持したままで在院日数縮小を図らざるを得ない状況となっている。そのような意味では,DPC制度の理解と応用が,病院本来の戦略を確立していくうえで重要となる。

 『基礎から読み解くDPC』は,DPC制度を立ち上げのときから,立案・普及に尽力してきた松田晋哉先生が,専門家・指導者の立場で,わかりやすくDPCとは何か,そしてDPCの応用について書かれていたもので,DPCに関わる医療関係者にとっては必読の書であり,多くの医療関係者に福音をもたらしてくれた名著である。DPCの平成18年度改正に対応して今回,第2版が刊行された。対象病院が大学附属病院より拡大され,DPCのもつ意義も,特定機能病院から急性期医療を中心とする一般病院へと広がり,医療界全体の大きなテーマとなりつつある。

 変貌する医療の中で,DPCを正しく理解することが,まず病院経営上必須であることは言うまでもない。加えて,松田先生が常に強調されるのは,経営に加えて質の高い医療へのDPCの応用である。所属する医療圏における自らの病院の位置づけや競合する他病院の解析から,自病院に必要とされる要因を導き,将来ビジョンを作るにも有用である。そして,そのような解析をしていくうえで,OLAP(Online Analytical Processing)による蓄積されたデータを多元的に,視覚的に解析する方法も紹介されている。
 このように,病院経営から質の高い医療まで,DPC制度の正しい理解が大きな助けとなる。そして,最終的には医療安全まで考慮した自らの病院の将来像を描き,効率的に病院改革を進めるうえで最も重要かつ効率的な手法となるであろう。

 DPC制度の理解のために,本書がわかりやすい入門書であると同時に,深い内容に満ち,読者のレベルに合わせてDPCに関する大きな情報を与えてくれる。松田先生には,講演,研修,会議などをとおして常日頃より御指導いただいているが,本書を読んで,さらに松田先生のお考えが鮮明となった。医療制度がDPCを中心に大きく変貌しつつある現在,多くの医療関係者に読んでいただきたい書である。
医療への信頼を維持する 制度の質も併せて考える
書評者: 邉見 公雄 (赤穂市民病院長)
 この度『基礎から読み解くDPC-正しい理解と実践のために 第2版』が出版された。時宜を得たものと思われる。初版から2年が経過し対象病院も増え,この制度は広がり定着しつつある。見直しや今後の方向を考える際の参考書として,また,新たに導入を検討されているところには座右の書としてぜひ購入をお勧めしたい。

 かく言う私も実は初版からの読者であり,DPC導入準備のために職員へ回覧したりと,大変重宝した記憶がある。当時,DPC制度そのものがあまり理解されていない時期でもあり,「患者にとって何の利益もない。院長の経営戦略で導入するのはおかしい」という院内の守旧派的医師に対する反論,説得の理論的な支柱となったのである。著者の“医療の標準化,透明化こそが日本の医療,特に入院医療の質の向上に結びつき,そのためのツールとしてDPCを開発した”というこの数行の文章が私の躊躇している背中を後押ししてくれ,職員の理解も得られ準備・導入へと前進したのである。いわば私の恩人のような書である。特に,各医療職が縦割り的になっている傾向が強い公立・公的病院にあって,本書ではそれぞれの医療職がDPCにどのように関わるかによって全職員に医療の質,経営の質へのプラスアルファの貢献を求められるということが明記されている(第5章)。本院がDPC導入に先立ち薬剤部を始め,臨床検査部や放射線部の24時間体制を整えることができたのも,自治体病院の環境変化もあるが職員の経営の質への貢献という側面もあり,本書の効能が大きく関与しているものと確信している。

 その後,小生が中央社会保険医療協議会委員になり,DPC分科会のオブザーバーとして参画し,松田先生との関わりも強くなってきた。どんな会議でも先生は数字を中心とするデータを根拠に説明し,反対の意見の方にも静かに反論される。そこには日本のDPC開発の第一人者という気負いはまったくない。それが余計に信頼感を生み,端正な容貌でとつとつと理路整然と話されるので,余計に反論しにくくなるのであろう。

 閑話休題(それはさておき),第2版ではDPC導入360病院の主たる悪性腫瘍患者の治療実績が参考資料1に,難易度別手術件数が参考資料2に,また参考資料5には2005年度のDPC別原価が付けられている。他院と比較して自院の位置を知り,ベストに学ぶというベンチマーキングの第一歩として活用できる資料である。2006年度診療報酬改定で紹介率の重視が見直され,病院を評価する新しい臨床指標(クリニカルインディケーター)の導入が切望されている。それにもこの資料は役立つものと思われる。また,今後の方向としての特定健診や特定保健事業の項目もあり,医療圏別傷病構造にもDPCの有用性が述べられている。これは今後の医療制度改革の基礎資料となる可能性が大きい。第7章では,先生の勤務地である福岡県の2次医療圏(診療圏)ごとのデータが例示され,大変興味深い。他の医療圏でもこのようなグラフはいつでも作成できるものであり,医療計画が可視化できる日もそう遠くないであろう。第8章のまとめの中で先生は「医療の質,特に経営維持のための経営の質,医療への信頼を維持する制度の質も併せて考えられなければならない」と述べておられるが,これこそが松田先生がDPCにかける情熱の基となるお考えであると推察する。

 とにかく,本書をきちんと読めばDPC教とまではいかずとも,DPC親派にはなれる1冊である。ただし,DPCに距離を置きたい人は近寄らないことをお勧めする。

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