心臓弁膜症の外科 第3版

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心臓外科専門医と、専門医をめざす研修医のための実践的手術テキスト。最新の手術術式とコンセプトを盛り込んで大改訂。“心臓弁膜周囲の解剖と機能に根ざした手術の理解”という初版以来の編集方針をさらに深化させ、ビギナーからベテランまで、どのレベルの読者にも読みごたえのある最上質の情報を提供。すべての心臓外科医に贈る熱きメッセージ。
編集 新井 達太
発行 2007年10月判型:B5頁:680
ISBN 978-4-260-00541-8
定価 30,800円 (本体28,000円+税)
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第3版 序
新井 達太

 喜びと感謝と祈りとをもって『心臓弁膜症の外科』第3版を読者諸氏のもとにお届けする.

 本書の第2版が刊行された2003年4月の時点では,ここ数年は,本書の改訂の必要はないと私は考えていた.ところが1年,2年と経過するうちに新しい手術法,新しい手術器材などがつぎつぎと開発され,改訂の必要性を強く感ずるようになった.そこで2005年4月から改訂の作業に入った.
 第3版では本書に欠くことのできない多くの新しい項目を加え,その1つひとつの項目に対し複数の方に執筆をお願いした.執筆者によって考え方,手術法などが異なるので,読者諸氏に比較しながら読んでいただき2つ3つの手術法を組み合わせると,その幅が広がり,応用も可能となり,よりよい手術が出来ると考えたからである.そのため21人の新しい執筆者に加わっていただいた.これらの新しい項目などについて少し詳しく紹介しよう.
 1)心臓弁膜症の手術には“心エコー”による診断,手術適応は必要にして欠かせない検査である.そこで内科の心エコーの専門家である尾辻 豊教授に,診断面と手術適応など幅広く心エコーについて解説をお願いした.
 2)狭小大動脈弁輪の手術は弁輪拡大手術が主流であったが,近年“弁輪拡大を出来るだけしない弁置換術”“patient-prosthesis mismatch(PPM)とEOAI(本文参照)を考慮したsmall size人工弁・生体弁置換”を提唱する術者がみられるようになった.この項目は重要と考えたので5人の執筆者に加わっていただいた.PPM,EOAIの考え方については執筆者により,かなりの違いがある.比較して読まれると大変おもしろく,また参考になる.
 3)Stentless valve あるいは freestyle valve の移植には時間がかかるので遮断時間の短縮を可能にした手術法を執筆していただいた.また症例によりsubcoronary法にするかfull root法にするかその選択を含めて4人の方に執筆していただいた.
 4)大動脈弁輪拡張症には最近Valsalva graftが用いられている.その作成の仕方,手術法,straight graftに較べてその利点について4人の方に論じていただいた.
 5)僧帽弁閉鎖不全に対する弁形成術は年々適応が拡大され,手術方法も少しずつ変わっている.そこでタイトルを変更したり,新しい5人の執筆者に加わっていただき全部で9人の方になった.Edge-to-edge technique(Alfieri手術),loop techniqueも新たに執筆していただいた.
 6)上行大動脈再建を伴う大動脈弁置換術,僧帽弁狭窄症,先天性僧帽弁疾患および先天性大動脈弁疾患の手術,肺動脈弁疾患,冠動脈疾患を伴う弁膜症は新しい方に執筆していただいた.
 7)虚血性僧帽弁閉鎖不全の病態は左心室の形態を含めて多様である.そこでSAVE手術と僧帽弁形成術,オーバーラッピング型左室形成術・乳頭筋接合術と僧帽弁形成術を含めて種々の僧帽弁形成術を5人の執筆者にお願いした.また急性心筋梗塞後の乳頭筋断裂に対する僧帽弁形成術は,虚血性僧帽弁閉鎖不全とは異なるが,今後多くなる疾患で,且つ新しい手術法なので,是非勉強していただきたいと思いこの項目の中に入れた.
 8)人工弁には2つの新しい弁が発売されたので,これらの人工弁の特徴と成績を示した.
また現在,編者が最も関心と興味を持っているのは経皮的にカテーテルを用いて人工生体弁を大動脈弁に,あるいは肺動脈弁に移植する方法である.さらに特殊なクリップでedge-to-edge僧帽弁形成術を行う方法と冠静脈洞を用いて僧帽弁輪縮小術を行う方法である.今後,器具の発達・改良とともに急速に普及すると思われる.心臓外科医もこの方法から目を離さず,時期がきて応用出来る方法は応用したほうがよい.これらについては人工弁の項で詳述した.
 9)近年,極めて多数の僧帽弁リングが開発された.その代表的なリングの特徴と縫着法を執筆して頂いた.
 10)心臓弁膜症手術における抗凝固療法を分かりやすくコラムとして執筆していただいた.
 以上のごとく第2版に比べると現在必要とする極めて多数の項目を新たに採用した.そのため第2版と同じ頁構成にすると100頁くらいの増頁となるので,編集・制作部で活字の配列,図版の縮小などを工夫して極力コンパクトにしたが,それでも40頁弱の増頁になった.それだけ読者の方々には参考になることが多いと思われる.
 執筆者の方々には超多忙な日常の業務の合間をぬって比較的短時間のうちに豊富な経験を生かした優れた玉稿を頂戴した.心から感謝申し上げる.医学書院のスタッフにもお礼を申し上げる.

 「あなたがたはいつも喜びなさい.絶えず祈りなさい.すべてのことに感謝しなさい」(テサロニケ人への第一の手紙・岩波書店版新約聖書)という言葉がある.日常の診療に,患者さんと接するときに,手術のときに,“喜びと感謝と祈る心”をもって研鑽していただきたいと心から願っている.
 2007年初秋

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第1章 総説:手術に必要な弁周辺の局所解剖
第2章 心臓弁膜症の心エコー診断
第3章 大動脈弁疾患
第4章 僧帽弁疾患
第5章 三尖弁弁膜症
第6章 肺動脈弁疾患
第7章 冠状動脈疾患を伴う弁膜症
第8章 虚血性僧帽弁閉鎖不全
第9章 感染性心内膜炎
第10章 連合弁膜症
第11章 再弁手術
第12章 Minimally invasive cardiac surgery(MICS)
第13章 人工弁
索引

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1テーマに複数が執筆し多視点の手術手技を学ぶ
書評者: 中野 清治 (東京女子医科大学東医療センター心臓血管外科教授)
 本書は「心臓弁膜症」に関し,解剖,循環動態,診断,適応,手術,術後管理,遠隔成績にいたるまでをすべて網羅しているものである。そして今回の改訂で,手術手技がさらに具体的にわかりやすく解説された。また,心エコー,虚血性僧帽弁閉鎖不全,MICSなどに関する項目が充実した。

 心エコーに関しては外科医ではなく,循環器内科医である尾辻豊教授が執筆されている点が注目される。心エコーを知り尽くすと同時に,外科医の立場もよく理解された医師として,外科医とは一味違う視点から弁膜症が語られている。

 虚血性僧帽弁閉鎖不全の項目は,大幅に増設され6人の外科医によって執筆されている。従来,この項目は虚血性心疾患との境界領域であり,弁膜症においてはあまり多くのページが設けられてこなかった。今回の改訂により非常に充実したものとなったことは喜ばしく,同様に境界領域である拡張型心筋症と閉塞性肥大型心筋症による僧帽弁閉鎖不全に関する項目が加わればさらに充実するものと思われる。次回の改訂に期待したい。

 人工弁の項目は過去の弁に関する詳細な記載が少し減り,その分新しい人工弁に関する記載が増えた。特に経皮的生体弁移植術と弁形成術にまで言及している点は斬新である。一方,古い弁に関する記載が依然充実している点も重要である。人工弁に関しては,歴史が重要であり,「温故知新」という言葉がまさに当てはまる。本書では過去から,未来にわたり,人工弁の変遷がよく示されている。現在市販されていない人工弁に関しても詳しい記載がされている点もありがたい。これらの弁を現在なお使用されている患者さんが多くいらっしゃるのが現状だからである。このように多くのページを設け,過去に使用した人工弁に関しても詳しく記載することは臨床的にも大変意義深い。

 もう一つの本書の特徴は,一つのテーマに対して複数の外科医による執筆が行われている点である。特に,僧帽弁形成術,大動脈弁基部に対する手術,虚血性僧帽弁閉鎖不全に対する手術に関しては,多くの外科医が,それぞれの考えに基づいた,手術手技を供覧している。各自の豊富な経験に基づいたコツ,そしてともすれば落とし穴がわかり,非常に学ぶ点が多い。各自に与えられたテーマは少しずつ違うが,重複している部分も多く,このことが作者の違うartを見るようでさらに非常に興味深い。

 本書は心臓血管外科医にとって必要な基礎知識から具体的な技術まですべてがわかる聖書(バイブル)といえるものである。まさに座右の書として手に取ることの多い一冊となることと思う。
若手のみならず指導者にも折りに触れて開いてほしい書
書評者: 松田 暉 (兵庫医療大学学長)
 このたび新井達太先生編集の『心臓弁膜症の外科』第3版が刊行された。心臓弁膜症の外科を広くカバーしたユニークなこの教科書も1998年の初版以来10年を経て,今回は先進性,科学性,そして有用性を備えてさらに大きくなった感じがする。

 編者の新井先生が序文で述べられているように,今回は新たな項目を加えるとともに,主要な手術については執筆を複数の担当者にして偏りのないように配慮されている。項目としての特徴は,局所解剖と心臓超音波検査エコー診断という外科医にとって重要な基礎的知識にはじまり,各論ではそれぞれの弁膜症の病態生理や自然歴のレビューから,手術適応,遠隔成績まで網羅されていて,読み応えのあるまとめ方になっている。また今回はかなりトピックス的な分野や具体的手技に十分スペースを割いていることも特徴である。例えば大動脈弁置換のなかの狭小弁輪に対する術式選択では,6人の方がそれぞれ特徴ある術式で解説を展開している。また弁置換での手術適応や至適弁選択で重要なpatient―prosthesis mismatchやEOAIにも言及していて,臨床現場で有用な検討項目が盛り込まれている。また新たなコンセプトの生体弁として登場したStentless valveについて,その多様な術式選択の特徴を捉えてかなり踏み込んだ内容でまとめられている。

 僧帽弁閉鎖不全(MR)については当然ながらかなり精力が注がれ,形成術では10項目にわたって種々の術式が詳細に記載されている。基本となる弁形成リングから人工腱索,edge―to―edge repair,前尖の形成術までていねいな図解とともにそのピットフォールも含めて紹介されている。最近注目されている虚血性MRについては別立てで取り上げられていて,その病態からはじまり,種々の形成術,左室形成術の最新技術まで網羅されている。かかる種々の弁形成や左室形成術を組み合わせることにより,左室機能不全の病態や解剖学的特徴に応じたMRの対処が可能となるわけで,今後さらに発展する心不全外科に対応するうえで役立つ内容が盛り込まれており,アップデートな内容であることは読者にとって有り難いことである。

 その他,三尖弁疾患,先天性弁膜症,冠動脈疾患合併,再弁置換,感染性心内膜炎など,幅広くカバーしていることで,本書の教科書としての役割は十分果たされている。最後に新井先生自らが人工弁のところを執筆され,その歴史から最新のTissue Engineeringの進歩,さらに経皮的弁置換にまで言及するなど,本書の魅力を一層高めていて,改めて先生のこれまでの弁膜症の外科治療へのご貢献ととともに変わらぬ心臓外科へのエネルギーを感じた。修練途上の若い心臓外科医だけではなく指導者層にとっても,この第3版は日常の心臓弁膜症の臨床と研究を進めるなかでの信頼される教科書として重要な位置を占めるであろう。
最強の執筆陣による弁膜症手術のバイブル
書評者: 川田 志明 (慶応義塾大学名誉教授)
 新井達太先生の編集による『心臓弁膜症の外科』が4年ぶりに改訂された。1998年が初版であり,2003年の第2版の改訂に際しては,あと数年は改訂の必要がないものと考えられたようだが,埼玉県立循環器・呼吸器病センター総長の職を辞されてからも心臓外科関係の学会や研究会に精力的に出席されて内外の新知見を吸収されたことで,本書の改訂編集に取り組む決意をされたようである。

 第3版の改訂の主なものは,一つの手術項目に複数の執筆者を迎え,異なる手術法を列記し読者諸氏が手術を組み合わせて自由に取捨選択できるように配慮された点である。このように全体で21人の新進の執筆者を加えて,弁膜症手術の新しい手術手技の各種を公平に紹介していることが大きな特徴といえる。

 また,手術に必要な大動脈弁・僧帽弁周囲の局所解剖など手術の基本となる領域についてもページを割き,さらには弁膜症手術には心エコーによる診断が欠かせない検査法であることから,内科のエコー専門家に診断のほかに手術適応などについても幅広く解説をお願いするなど隅々まで行き届いた配慮がなされている。

 手術手技としてはRoss手術,Homograft弁によるAVR,Stentless valveによるAVR,AAEに対する手術を取り上げ,特に狭小大動脈弁輪に対する手術については一般的な弁輪拡大手術とは別に,有効弁口面積を考慮した「弁輪拡大をできるだけしない弁置換術」を5人の執筆者が担当して,互いの考えの違いが比較できるように思い切った取り組みをされている点も新鮮である。

 さらに,僧帽弁閉鎖不全に対する弁形成術の適応拡大とともに術式ごとの遠隔成績を示すようにされ,読者諸氏の術式選択に役立てている。最近になって導入されたEdge―to―edge technique(Alfieri)やLoop techniqueなどの新術式も加え,総計9人の術者が執筆を担当している。

 一方で,術後管理の一端として人工弁置換術後に不可欠の抗凝固療法を別枠で取り上げたこと,要所にone point adviceやpitfallsを配して手術のコツや注意点を説いたのは,若い読者への気配りであろう。圧巻は編集者自身による最終章の「人工弁」であり,人工弁の変遷と歴史,生体弁移植の歴史などは,SAM人工弁の開発に携わった研究者としての信条が偲ばれ,tissue engineering心臓弁,percutaneous心臓弁,transcatheter心臓弁などごく最近の文献も読破され,人工弁置換術の将来を俯瞰されているかのようである。

 これらの新機軸は,新井先生が顧問を務められ小生も代表世話人の一人である「関東心臓手術手技研究会」において時折主題として「僧帽弁手術」が選ばれ,迫力ある大画面で術式が供覧された後に活発な討論が行われるのであるが,最前列で熱心に聴取され,時には自らも発表された諸々が改訂の構想に役立ったものと思われる。

 最強の執筆陣による最新の知見を収載して大幅に改訂し,弁膜症手術のポイントをビジュアルに捉えることができるようカラー写真を多用した660頁にも及ぶ弁膜症手術のバイブル的な単行書である。

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