向精神薬マニュアル 第3版

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初版に引き続き、第2版も増刷を重ねた好評の『向精神薬マニュアル』が7年ぶりの大改訂。この間承認された多くの新薬の詳細な解説が加えられ、副作用に関する記述も大幅増。付録「向精神薬DI集」にはほぼすべてのジェネリックまでリストアップされ、添付文書情報が整理されて収載。表紙裏には必要最低限な情報が一目でわかる「向精神薬一覧」を掲載。今回の改訂から全ページ2色刷となり、さらに見やすく理解しやすい体裁になった。
融 道男
発行 2008年09月判型:A5頁:496
ISBN 978-4-260-00599-9
定価 5,720円 (本体5,200円+税)

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第3版の序

 本著第2版発行から7年目であるが,第2版は第6刷(2007年3月)まで増刷することができた。多くの読者の方々から,臨床で処方を考える時に本書を参考にするというご好評をいただいた。7年間に発売された向精神薬は,抗精神病薬2製品,抗うつ薬1製品,抗てんかん薬3製品,他に3製品を含み,9製品が新薬となっている。約1年余かけて本書を改版したが,50頁が増加したのは,数年間の精神薬理学の発展のためであると思う。
 第1章 抗精神病薬の「統合失調症の神経伝達物質仮説」について,「ドパミン仮説」を中心に書き直し,「脳画像研究」を新しく記述した。非定型抗精神病薬は6製品と増え,統合失調症を治療するために非定型抗精神病薬を主に使うようになってきているので,「非定型抗精神病薬について」をまとめた(20頁)。その中で,米国の精神科医の専門家コンセンサンスのガイドラインによる結果を表示し,非定型抗精神病薬の中から選ぶ,第1,2次選択肢を記載した。わが国でも,同じような委員会でアンケート調査を実施したので,その第1,2次選択の結果を表で示している。また,非定型抗精神病薬群による「再発抑制効果」を記載した。ほかには非定型抗精神病薬の薬理機序について解説し,せん妄に対する本薬群の治療を表示し,副作用について記述した。抗精神病薬の副作用には,遅発性錐体外路性副作用の治療について頁を割いている。
 第2章は,感情障害研究の歴史と,研究仮説について新しく加えた。躁病の治療には,非定型抗精神病薬や抗てんかん薬を使用し,その新薬も加えて書いてある。
 第3章は,抗不安薬と睡眠薬であり,両者ともベンゾジアゼピン系薬物が主で,新版では,「A.抗不安薬」,「B.睡眠薬」に分けて記述した。A項のI,II,IIIは,ベンゾジアゼピン系薬物の歴史,薬理,ベンゾジアゼピン系受容体について記載しており,B項にも共通する内容である。改版で両項が異なっているのは,A項の神経症の薬物療法においては,抗不安薬だけでなく抗うつ薬,抗精神病薬,抗てんかん薬による治療についても書いてあり,B項の睡眠薬では,その副作用として健忘やせん妄の誘発があることを記載している点である。
 旧版の付録「向精神薬の最大量」,「向精神薬識別コード表」は,増頁があったため割愛し,新しく第3版では「各科医薬品による精神症状」を入れた。
 新版の「付録4.向精神薬・精神科関連薬DI集」は,凡例に示したように,『治療薬マニュアル2008』(医学書院)から抜粋し,その記載順は基本的には変わりない。同書は2008年から,向精神薬の「抗精神病薬」と「抗うつ薬」の冒頭に最近の薬品を記載している。「抗精神病薬」は,まず,「新世代(非定型)抗精神病薬群」を入れ,「セロトニン・ドパミン拮抗薬(2剤)」,「クロザピン類似化合物(オランザピン,クエチアピン)」,「ドパミン受容体部分アゴニスト(1剤)」としている。次に,「定型抗精神病薬」に4群があり,「A群:高力価群(ハロペリドール,ペルフェナジンなど)」,「B群:低力価群(クロルプロマジンなど)」,「C群:中間・異型群(ゾテピン,スルピリドなど)」,最後に,「D群:持効型抗精神病薬(2剤)」となっている。
 「抗うつ薬」は,「モノアミン再取り込み阻害薬」と題して,冒頭に最近の抗うつ薬を移した。はじめに,「A.選択性セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(セルトラリンなど3剤)」,「B.セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)(1剤)」,次いで,三環・四環系抗うつ薬の,「C.ノルアドレナリン系>セロトニン系(アモキサピンなど3剤)」,「D.セロトニン系>ノルアドレナリン系(イミプラミンなど7剤)」である。最後に,「シナプス前α2-アドレナリン受容体阻害薬(ミアンセリンなど2剤)」となっている。
 本書改版には,ずいぶんたくさんの方々にお世話になった。原稿の段階から助言いただいた,特に融 衆太神経内科医,東京医科歯科大学西川 徹教授,また教えていただいた放射線医学総合研究所須原哲也部長,表紙に使う写真をお借りした東京都精神医学総合研究所の楯林義孝副参事ほか,医学書院の方々にも始終お世話になった。皆様に深く感謝する。
 2008年8月
 融 道男

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第3版の序
第2版の序
はじめに―初版の序

第1章 抗精神病薬
 A 抗精神病薬開発の歴史
 B 統合失調症の神経伝達物質仮説
 C 抗精神病薬の種類と特徴
 D 抗精神病薬の使い方
 E 抗精神病薬の副作用

第2章 抗うつ薬(抗躁薬を含む)
 A 抗うつ薬・抗躁薬開発の歴史
 B 感情障害研究の歴史とその仮説
 C 抗うつ薬の薬理
 D 抗うつ薬・抗躁薬の種類と特徴
 E 抗うつ薬・抗躁薬の使い方
 F 抗うつ薬・抗躁薬の副作用

第3章 抗不安薬と睡眠薬
 A 抗不安薬
 B 睡眠薬

付録
 1.向精神薬過量服用とその処置(1)
 2.向精神薬過量服用とその処置(2)
 3.各科医薬品による精神症状
 4.向精神薬・精神科関連薬DI集

薬剤名索引
事項索引

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精神科薬物療法のエキスパート養成本
書評者: 倉知 正佳 (富山大医学薬学研究部教授・精神科早期治療開発講座)
 このたび,第2版から7年の歳月を経て,向精神薬マニュアル第3版が出版された。本書は,そのタイトルにふさわしく,個々の向精神薬の特徴,使い方,副作用が詳しく説明されているだけでなく,薬剤の作用機序,副作用の発生機序などが,精神薬理学に深い造詣を有する著者ならではの明快さで説明されている。薬物療法については,症例報告も丁寧に紹介されているので,臨場感をもって読むことができる。

 「第1章 抗精神病薬」では,「A 抗精神病薬開発の歴史」に続いて,「B 統合失調症の神経伝達物質仮説」という新しい表題で脳画像研究が追加され,グルタミン酸仮説関係が前の版より詳しくなっている。「C 抗精神病薬の種類と特徴」では,特に非定型抗精神病薬について,その選び方やせん妄に対する治療を含めて詳しく記述され,ドパミンD2受容体パーシャルアゴニストの明確な定義も述べられている。「D 抗精神病薬の使い方」は,非常に実際的・具体的で,「E 抗精神病薬の副作用」では,副作用の“症候学”,その発生機序,そして,治療法が具体的に述べられている。

 「第2章 抗うつ薬(抗躁薬を含む)」では,「A 抗うつ薬・抗躁薬開発の歴史」に続いて,「B 感情障害研究の歴史とその仮説」が新しく加えられた。開拓的役割を果たした研究者の紹介は感動的でさえあり,学問は人によってつくられることがよく示されている。最近の海馬仮説についても簡にして要を得た説明がされている。「C 抗うつ薬の薬理」では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)にもそれぞれ特徴があること,「D 抗うつ薬・抗躁薬の種類と特徴」では,抗うつ薬の作用機序,適応,副作用,薬物動態と薬物相互作用が明快に述べられ,抗躁薬として,炭酸リチウム,抗てんかん薬,非定型抗精神病薬による躁病の治療,そして急性交代型の治療が説明されている。「E 抗うつ薬・抗躁薬の使い方」に続いて,「F 抗うつ薬・抗躁薬の副作用」では,副作用の発生機序について詳述され,セロトニン症候群と悪性症候群(NMS)との鑑別として,セロトニン症候群は急速に発症する(1日以内が多い)が,NMSは最低約5日かかること,セロトニン症候群では不安・焦燥が高頻度で,NMSでは,セロトニン症候群のようなミオクローヌス,腱反射亢進はまれであることが述べられている。離脱症候群についても詳しい。SSRIの賦活症候群(神経過敏,不安,焦燥など)と自殺関連事象との関係が言及されている。

 「第3章 抗不安薬と睡眠薬」の「A 抗不安薬」では,ベンゾジアゼピンとGABAA受容体との関係が説明されている。「パロキセチンのみでは,投与初期では不安とパニックが悪化することがあるが,クロナゼパムを併用すると,これらの有害作用も抑えられる」ことが述べられている。「B 睡眠薬」では,睡眠薬の種類と特徴が詳しく述べられている。「エチゾラムは,脳内ノルアドレナリンの再取り込みを抑制し,3mgを3分服すれば,抗うつ作用を示す」。睡眠薬の副作用について,健忘とせん妄を中心に詳述されていて,睡眠薬の適正な使用量を守ることの重要性が指摘されている。

 本書は,精神薬理学の研究成果と臨床の実際が見事に総合された名著であり,精神科医の皆様には,本書を座右の書として繰り返し熟読されることをお勧めしたい。処方を考えるときに大変参考になるし,処方した後でも,当該項目を読み返すならば,必ず得るところがあると思う。そうすることにより,精神科薬物療法のエキスパートになることができる。また,引用文献も豊富で,精神薬理学を学ぶ人々にとっても,非常に参考になると思う。
最新でかつ不朽の内容を備えた本
書評者: 神庭 重信 (九大大学院教授・精神病態医学)
 向精神薬マニュアル(第3版)は,初版(1998年)から10年目を迎える息の長い名著である。この間に第2世代抗精神病薬およびSSRI/SNRIが次々に登場し,精神科の薬物療法はそれ以前とは大きく変わった。本書はこれらの新薬情報を漏らすことなく取り入れながらも,薬物療法において変わることのない治療哲学を伝えている,最新でかつ不朽の内容を備えた本であるといえる。

 著者の融道男氏はよく知られているように,かつて東京医科歯科大学の教授の職にあり,長年にわたって統合失調症の病因・病態研究に従事。統合失調症の解明をライフワークとした研究者である。例えばその業績は,脳内グルタミン酸受容体の減少,ドパミンD2受容体遺伝子異常あるいは作業記憶の低下を説明する前頭葉D1受容体の低下の発見など,枚挙にいとまがない。氏は研究に対しては厳しい姿勢で臨み,いい加減な学会発表には鋭い批判を加えることで知られていたが,評者もかつて氏から直接教えを受けた世代に属する。融道男氏という統合失調症の一流の研究者の手によって長年にわたり丹精込めて作り上げられ,細部にわたって充実していることが他書にない最大の特徴である。

 本書は抗精神病薬,抗うつ薬(抗躁薬を含む),抗不安薬と睡眠薬の3章からなる。各章は,薬物発見のストーリーから現在の主流となっている薬物の開発までの歴史を繙くことから始まる。続いて病態仮説,薬理作用,各種薬物の種類と特徴がきめ細かく紹介され,詳細な副作用解説で完結する。症例報告にまで目配りが行き届いた引用文献が充実しており,必要に応じて原典を調べることができる。『治療薬マニュアル 2008』(医学書院)から抜粋された向精神薬のDI集が付録として掲載されており,処方に際して,投与方法,禁忌,副作用,薬物相互作用を確認したい時に,本書は診察室においても活用できる。

 圧巻で読み応えがあるのは,本編の約半分を占める抗精神病薬である。本書は,その融道男氏が大学を退任される頃から取りかかった仕事であり,言うまでもなく本書にはこうした氏の研究経歴が色濃く表れている。特に統合失調症の神経伝達仮説の節では,著者とそのグループによる研究が諸仮説の展開に及ぼした大きな影響の軌跡を読み取ることができる。

 薬物は,疾患の基本的な生物学的病態の理解と薬物の薬理学的特徴を併せて理解して初めて,合理的な使い方ができる。加えて,薬物を処方する医師はまず副作用を知るべきである。副作用は,たとえ一例であっても,重篤なものが報告されているならば,それを記憶しておかなければならない。副作用に関して徹底して一例報告を拾い上げている本書は貴重な資料となっている。

 次々に新薬が登場する時代となった。時代に遅れない最適な薬物療法が広く行われていくためにも,本書が多くの方に読まれ,活用されることを期待したい。

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