MBAの医療・介護経営

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医療関連産業の“プロ”経営人の基本図書。医療をとりまく様々な問題を踏まえ、医療経営に必要な戦略、マーケティング、人事・組織、管理会計、財務等を解説。医療・介護ビジネスに興味のある医療職はもとより、他業界から参入する際の指南書として読むこともできる。理論と実務に精通した執筆陣による、時代の要請に応える1冊。
編集 田中 滋 / 古川 俊治
発行 2009年01月判型:A5頁:408
ISBN 978-4-260-00545-6
定価 5,060円 (本体4,600円+税)

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はじめに

 本書の企画は,現在は参議院議員としても活躍中の慶應義塾大学法務研究科・医学部の古川俊治教授との出会いから始まった。2005年秋,「オックスフォード大学でMBAを取得して帰国した外科医かつ弁護士で慶應大学医学部および法務研究科の助教授」が研究室を訪れることがわかり,秘書たちが興味津々というか大騒ぎだった日は記憶に新しい。10月初めに現れた本人は,好奇心一杯で,学問に対して真剣な,そして日本の医療の在り方を前向きに考える15歳年下の,しかし畏友と呼ぶにふさわしい人物であった。研究会や大学院の授業を通じ,この書物に著者として名を連ねる当研究室関係者ともすぐに互いの信頼感を育み,やがて,「これまでにない医療・介護経営の書物をつくる」ことで意見が一致し,原稿のやり取りを経てここに完成に至った次第である。
 ところで,優れたMBA教育は,営利組織・非営利組織を問わず,倫理と責任感をもって経営に携わるプロフェッショナルを育て上げる課程でなくてはならない。ここで言う「プロフェッショナル」が果たすべき役割は,スペシャリスト(専門職)に期待される機能とは異なっている(双方を兼ねる人がいても不思議はないが)。良きプロフェッショナルとは,チームのリーダーとして,さまざまな状況において,自分に課せられた責務に対してだけではなく,世の中のためになるような意思決定を下せる高度職業人を意味する。世界各国のプロフェッショナル・スクールには,メディカル・スクール(わが国では医学部が相当する),ロー・スクール(法科大学院),スクール・オブ・パブリックヘルス(公衆衛生大学院),スクール・オブ・ガバメント(行政大学院),MBAを育てるビジネス・スクール(経営大学院)などが含まれる。
 本格的なMBA課程における訓練方法は,指定された教材を元に意思決定課題を自ら見出し,それに対する正解群の中から1つを選んだ後,実行体制を構築する思考のシミュレーション課程が中心である。いわゆる「専門職」への役割期待は,与えられた正解を理解し,それを高いレベルで果たすことと描写できる。これに対し,プロフェッショナルたらんとする者は,「多くの表面的事象にはそもそも真の課題が何であるかが明確に示されておらず,しかもしばしば正解が複数存在すること」への理解が欠かせない。その中から自分の理念や環境をふまえて1つを選択するには,独特の能力が要求される。本書は,医療・介護に携わる人々がそうした資質をもつに至る一連のプロセスの基礎として役立つ教材であり,また医療・介護の周辺領域で事業を行なう人々がこの分野独特の経営を理解するための材料としても活用できるはずである。
 最後に,わが国の医療・介護は,保険制度を代表とする社会連帯の仕組み,および医療法・介護保険法を初めとする提供体制構築の基盤によって支えられた準市場において,ニーズに応じたサービスの授受がなされていることを忘れてはならないと強調しておきたい。すなわち,医療・介護の経営を考える際は,ビジョンを踏まえた政策の動向,それを受けた制度設計の根幹を踏まえる必要がある。別な言い方をすれば,この国社会のあり方を問う視線も不可欠なのである。
一般のビジネスの世界,特に資本の論理がリードする分野では,投下資本利益率の確保等が経営の目的となって当然だろう。しかし最近とみに,事業の中身の向上ではなく,事業の売買自体によって投資家の期待に応えようとする事例が目立つ。医療・介護は,そうした事業の売買ゲームによって動かされるような分野からは遠い位置に立つ。医療・介護においても,実務面の的確さ・冷静な計算は当然欠かせないとはいえ,理念に基づく経営哲学が上位におかれる姿がまた不可欠である。住民,そして地域で連携する同業のプロフェッショナルに支持される経営者の輩出を期待する。

 2008年9月
 田中 滋


 私がMBAの門戸を叩いたのは,既に40歳を過ぎ,医学部卒後17年間を臨床医として過ごした後であった。その間仕事上の関係から医療経営や医療経済について学ぶ機会があり,さらには一般の生活を通じてビジネスや金融についても知識を得る機会が少なくなかったが,MBA課程で学んだ内容は,それらを大きく凌駕するものだった。MBA課程では経営経済学の全般にわたって体系的に学ぶことができるが,各々の科目は,企業人や経済学者が長年の試行錯誤の末に見出した「人間社会に関する知恵」あるいは「人間生活における処方箋」と呼べるような活きた英知が溢れている。それらは医療・介護従事者に対して,医療・介護経営を科学的に理解することはもとより,医学・介護研究課題の戦略的な設定の仕方や,日常私事における合理的な選択についてまで,まったく新しい知見や思考方法を大いに与えてくれるであろう。MBA課程を専修する時間のないほとんどの医療・介護従事者にとっても,これらの知識のエッセンスを身に付けていることは,非常に役に立つだろうと考えたため,本書を企画した。
 私はMBAの留学から帰国後は,我が国の医療・介護政策の第一人者である慶應義塾大学大学院経営研究科の田中滋教授の下で研究活動を続ける機会に恵まれ,同教授の主催する研究会に参加している多数の研究者と,医療・介護領域の経済・経営について日頃より討議を繰り返してきた。この研究会では,ほとんどの参加研究者は医療・介護従事者がどのような業務を行い,どのような生活を送っているか熟知している。本書の執筆に当たっては,これらの研究者に執筆を依頼し,経営学・経済学の基礎知識のある一般の企業人であっても,これらの基礎知識のない医療・介護従事者であっても,同様に読みこなせるように,各項目を基礎理論から出発して明確に解説してもらうようにした。
 また,今日の先進国の厳しい経済情勢を受けて,医療行政の細目は短期間に相当程度改変されるのが常となっている。そのため,現在の行政基準でより収益を上げられるように設備整備や人材採用を行なうと,1,2年後には基準が改変されて,まったく無駄な投資だったということになりかねない。現在の経営者にとっては,むしろ次期の政策変動の方向性を見通していく能力がより重要となってきている。このような観点から,本書では,行政細目の頻繁な変更にもかかわらず,中長期的に維持される制度の基本理念や政策の方向性を解説することに主眼を置いた。
 国民皆保険制度の下,我が国の医療は,先進国最低のコストで,最高のアクセス,そして世界最長寿と最低の新生児死亡率を実現し,まさに世界の奇蹟として絶賛されてきた。しかし,世界的に突出して累積を続けている国家債務を抱えながら,同様に世界的に例をみない急速な勢いで進む少子高齢化を前にして,増加していく医療・介護費用をいかに抑制していくかが国家財政の最大の課題となっている。その結果,医療・介護の現場でも科学的な経営を行うことが求められるようになっており,医療・介護経営を理解した人材の存在が非常に重要となってきている。
 一方で,高齢化により,医療・介護の果たす役割はますます大きなものになってきている。規制緩和の流れの中,政府は介護を含む医療の周辺領域では民間企業の活躍に大きく依存するようになっており,医療・介護関係企業の市場は,今後も確実に増大を続けていく。また,医療・介護技術の研究・開発が日常月歩で進む中,ライフサイエンスは我が国の科学の最重要領域となっており,新しい医療・介護技術を活用した産業振興にも大きな期待がかかっている。これらの領域においても,医療・介護経営を理解した人材が強く求められている。
 本書が,現場で頑張っている多くの医療・介護従事者や,医療・介護分野で活躍を目指す企業人に読まれ,今後の国民医療の発展に少しでも役に立てば幸いである。

 2008年9月
 古川俊治

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はじめに

第1章 環境
 1.医療制度の仕組みと理念
 2.急変する日本の医療機関の経営環境
 【コラム】医療安全と医療経営
第2章 戦略
 1.経営戦略─基礎編
 2.経営戦略─応用編
 【コラム】新しい医療計画
 【コラム】医療機関のM&A
第3章 マーケティング
 1.マーケティング─基礎編
 2.マーケティング─応用編
 3.医療マーケティングにおける広報
第4章 連携
 1.医療連携概説
 2.医療連携のコミュニケーションと情報共有
第5章 ガバナンス・政策
 1.ガバナンス
 2.政策
第6章 管理会計
 1.管理会計
 2.病院原価計算
第7章 人事・組織
 1.人的資源管理の基礎
 2.組織
 【コラム】人間観,動機づけ,コンフリクト,種々のリーダーシップ論
 3.人事・人材管理
第8章 IT
 病院情報システム
第9章 財務
 1.会計
 2.民間病院における資金調達と 病院経営管理指標
第10章 介護
 介護経営

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