今日からできる思春期診療

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目を合わせない、問いかけても答えない、診察を恥ずかしがる、なかなか主訴がつかめない……、なんとなく敬遠したくなる思春期の患者。本書では、プライマリ・ケア医を訪れる思春期患者のありふれた症例を紹介しながら、思春期の正常な発達を学び、患者の話をうまく引き出すコツや診療時のひと工夫、家族も含めて支援する方法などを実践的に紹介。
シリーズ 総合診療ブックス
編集 原 朋邦 / 横田 俊一郎 / 関口 進一郎
発行 2007年08月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-00343-8
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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刊行のことば(小泉俊三)/編集のことば(編者)

刊行のことば
 総合診療ブックスは,医学書院から刊行されている総合診療誌『JIM』(Journal of Integrated Medicine)を母体とする単行本シリーズである.総合診療誌『JIM』は,プライマリ・ケアと総合診療のための医学雑誌であるが,日本総合診療医学会が研究会として発足したのと軌を一にして1990年に創刊された.総合診療ブックスの刊行は1999年に遡るが,総合外来をはじめ,実際の診療場面にフォーカスを当て,小児から高齢者まで,また,救急からリハビリテーション,在宅医療,更には緩和ケアに及ぶ多彩なテーマに挑戦し,わが国における総合診療の普及に大きな役割を果たしてきた.
 日本総合診療医学会は,診療所から大学病院まで診療の場は異なっても,医療変革の世界潮流の中で,改革の旗手として,「患者中心の,安全で質の高いチーム医療」を目指してきたが,本シリーズが,総合診療の将来を展望するユニークな道しるべとして既に24冊目を数えて好評を博してきたことは大変心強い.
 総合診療ブックスはこれまで子どもの診かたについての4冊をはじめ,子育てサポート,妊婦・更年期患者の診かたなどを幅広くカバーしてきた.総合診療医は,いうまでもないことであるが,地域の診療所や病院であれ,研修病院や大学病院であれ,思春期患者特有の問題に直面することが少なくない.今回刊行される『今日からできる思春期診療』は,身体面からも精神・心理面からも,子どもから大人に仲間入りしようと何かにつけてぎこちない思春期の患者さんとその親たちに向き合うことの多い総合診療医にとって待望の1冊である.診察室に入ってきた母子の“こころの機微”を知り尽くした熟達の小児科医の手になる本書には,文字通り,今日からの診察に役立つ臨床パール(宝物=達意の智恵)が随所にちりばめられている.一読したあとに思春期患者に向き合うときの自分の気持ちが違っていることを実感できる総合診療医必携の著である.
 2007年6月
 小泉俊三(日本総合診療医学会運営委員長)


編集のことば
 目を合わせない,問いかけても答えない,診察を恥ずかしがる,なかなか主訴がつかめない,診療に時間がかかる…….思春期の患者はこのように,医師に敬遠されがちです.患者が訴える症状の背景には,思春期特有の心身の変化や家族・学校・社会との関わりなど,さまざまな要因が錯綜しています.一方で医師は,複雑な背景要因を持つ思春期の患者を診るための十分な教育を受けていません.しかし,思春期の子どもたちは多様な健康上の問題を抱え,診療を求めて日々やって来ます.プライマリ・ケア医は,初めて診療するときに,いかに彼らの抱える問題を明らかにし,その解決の糸口を見出せばよいのでしょうか.彼ら,そしてその家族とどのように関わっていけばよいのでしょうか.
 本書では,特殊な疾患や重症な疾患は取り上げていません.むしろ,思春期のごくありふれた症例をあげながら,思春期の患者の話をうまく引き出すコツ,彼らの抱える複雑な問題を整理するコツ,診療時のひと工夫,家族中心の視点,患者の自立性の獲得を支援する方法などを実践的に紹介しています.
 プライマリ・ケア医が,思春期の正常な発達を知り,思春期の子どもたちの多様な医療ニーズを的確に把握し,彼らや家族とともに思春期の健康問題に取り組んでいくために,本書を刊行いたします.
 2007年6月
 編者

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思春期診療キーワード
診察室での医師・患者・親の3者関係
【思春期のとらえ方・接し方】
思春期のチェックポイント,患者の全体像をつかむコツ
かかりつけの患者から始めよう
慢性疾患患者の思春期診療
親・家族もフォローしよう
利用者が望む思春期外来の実践
【思春期に気になる症状・所見】
朝起きられない/気持ちが悪い/身体がだるい/学校に行けない-自律神経障害
生き生きしているのに体重が減ってきた/食べる量が少なくなった-摂食障害
なんとなく不安/眠れない/よくおなかをこわす/過呼吸を起こす-うつ・自殺企図・過敏性腸症候群・過換気症候群
じっとしていられない/暴言を吐く-チック障害・トゥレット障害
何だか周りの様子が変だ?!-統合失調症
背が伸びない-思春期遅発症
息苦しい/咳・喘鳴が続く-気管支喘息
帯下の異常/下腹部違和感・膨満感-性感染症・若年妊娠
貧血になった/月経不順になった-スポーツ障害
にきびが気になる-尋常性ざ瘡
【思春期の生活習慣のサポート】
思春期肥満を改善しよう
喫煙・飲酒・薬物とのつきあい方
索引

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本とともに考え学ぶ思春期診療のバイブル
書評者: 蜂谷 明子 (蜂谷医院・小児科)
 「ベツニ…」「ビミョー」などと言葉を発してくれるならまだしも,何と声をかけても俯いてオホーツクの海の如く冷たく「……」ばかり。私のかける声はポカリポカリと浮いている流氷のよう。診察している自分のほうがドギマギしてしまう……。

 思春期の子どもの診察は各年代の中でもっとも苦手としている。さりとて興味がないわけではなく,何とかしたいと切望している年代でもある。なぜなら彼らは無表情ではあるが,私の言葉がちゃんと耳に入っているし,聴診をすれば頻脈・動悸があったりするのである。この複雑怪奇で興味深く,愛らしい思春期患者の診察に頼もしい助っ人ができた。

 本著は見たところコンパクトだが,一気に読破してしまうという本ではない。とにかく1頁,1頁が凝縮されていて,じっくり味わい,アンダーラインを引き,付箋を貼っていく本である。

 本著は「思春期診療キーワード」から始まる。総論的に思春期の特徴を表す言葉のていねいな解説にまず引き込まれる。「思春期診療においては,身体面と心理社会面を総合的に評価して,併存症(Comorbidity)の有無とそれらの関係について的確に把握」し「優先度を考えて取り組む」というセンテンスは,自分がわかっているようでわかっていなかった診療への姿勢を正された気がした。

 「思春期のとらえ方・接し方」のうれしくなるような明快な説明に続き,いよいよ各論の「思春期に気になる症状・所見」の提示となる。私たちが診療所でよく出会う子どもたちである。「問診のポイント」「診察のポイント」「アセスメント」「マネジメント」とていねいに導いてくれるので,本とともに考えていく体験学習ができる。そして最後の「Caseの教訓」と「Q&A」でも大納得!!

 症例は多方面にわたるが,私の不得意な思春期の統合失調症(若年性統合失調症)は,しっかり理解していないと特異な不定愁訴として見逃してしまい,判断の遅れから患児の不利になる事態を導く恐れがあることを肝に銘じることができた。またさらに精神科を受診してもらうまでの“保護者の理解のための下準備の方法”はより具体的でありがたいアドバイスであった。

 共著にもかかわらず,本全体がきちんときめ細かく順序だっているので,読み進むとともに自分の中で理解が深まりスキルアップしていく実感を持つことができる。読み終えた今,私の頭の中はとても収納しやすい整理棚が用意され,順序よく引き出しのラベルまで貼っていただいたような爽快な気分である。

 本著における一貫した「本人の尊重」と「保護者への助力」の姿勢は,共感とともに思春期診療へのモチベーションを上げていただいた。この一冊は,言うまでもなく早速思春期に関する私のバイブルとなり,今後手元に置き続け,幾度となく紐解くことであろう。

 「Clinical Pearls」(すてきなエッセイ風の項が時々真珠のように光っている)の中のある一節は私の耳に心地よく残り,しかも心に深く重く刻まれた。私はこの一節が本著を総括しているように感じる。「外来は健康問題を解決するとともに,人を育てる,人が育つ,人を癒す場でなければならないと考えている」
思春期患者ケアの醍醐味を感じられる一冊
書評者: 竹村 洋典 (三重大附属病院・総合診療部准教授)
 小児の医療は成人の医療の小型版ではないこと,また高齢者の医療は成人の医療と異なっていることは,日本においてもかなり認識されている。では思春期の患者のケアはいかがなものか。小児科医からは大人,内科医を含む成人対象の医師からは小児とみなされていることも少なからずあるようのではないか。とくに,思春期の少年少女の疾病が,身体的のみならず,精神的な影響や家族や学校などの社会的な影響があったり,生育歴が大きく関わったりして,診断や治療に苦慮する場合,この年代の患者のケアを苦手とする臨床医は少なくないかもしれない。また思春期の少年少女の扱いが困難で,それゆえに患者―医師関係が形成しにくい場合などは,さらに苦手意識が強くなる。このような苦手意識のある臨床医にとって,この本は,まさしく必読の書といえる。この本を読めば,きっと思春期の患者のケアがおもしろく感じられるであろう。

 最初の総論部分では,思春期患者の診察の特徴や方法をわかりやすく説明している。とくに日本ではあまり触れられない家族志向のケアにも言及していることはすばらしい。総論ではあるが,理屈ばかりの難解さはなく,さすが臨床にどっぷりとつかっている著者らならではの内容である。内容がすっと身体に入り込んでくる。

 次の各論の【思春期に気になる症状・所見】セクションでは,思春期の少年少女が罹りやすい病気を厳選して,その一症例一症例を大切に詳しく説明がなされている。地域の第一線の医師であればきっと遭遇し,そのケアに困ったことがあるであろう症例ばかりであることが嬉しい。「問診のポイント」,「診察のポイント」,「アセスメント」,さらに「マネジメント」に分けたメリハリのある記述は読者を飽きさせない。そこには,日頃,思春期外来を行っている臨床医だからこそ言及できる診療のコツがそこここに記されていて,ワクワクする。「Note」や「メールアドバイス」の内容はそのコツが凝縮されている。各項の最後にまとめられた「Caseの教訓」は,具体的に話すべき会話例や,言い得て妙な表現でドンピシャな内容となっていて,「気になる症状・所見」を整理して記憶にとどめるのに非常に効果的である。随所に図表を多く使用して,かゆいところに手が届くような説明は心地よい。ところどころに書かれている「Clinical Pearls」は,読みものとして最高である。思春期診療に必要なエッセンスをこれだけコンパクトにまとめられたことは,奇跡に近い。

 本書は,その対象を小児科医のみ,内科医のみとせずに,広くどの専門診療科の医師にも読みやすくまとめてある。家庭医・総合医である私も,本書を読みながら,外来で診てきた多くの思春期の患者が脳裏に現れ,納得,反省,驚き,たくさんの感情が髣髴してきた。あっという間に本書を読破してしまった。この本は,思春期の患者に接するすべての医師に一度は読んでいただきたい,まちがいなくお薦めの本である。

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