トーク 認知症
臨床と病理
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- 目次
- 書評
序文
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序
小阪憲司・田邉敬貴
認知症の症例集あるいは病理についての本は少なくないが,マクロとミクロの剖検所見がある症例での臨床病理学的対応 clinicopathological correlation について,その道の専門家が語り合った本はいまだ見当たらない。本書は認知症をきたす様々な疾患について剖検に至った小阪の自験例を取り上げながら,神経病理と神経心理のエキスパートが,臨床,画像,病理のエキスそして診断のポイントについて忌憚のない意見を語り合った対談集である。対談当日は,普通のケースカンファレンスにはみられない熱気が漂った。
単なる臨床の症例集,あるいは神経病理の教科書でもなく,臨床をじっくり見た上で剖検脳を調べるという,Charcot以来の神経精神医学の基本に立ち返り,加えて近年の画像診断法の粋をも取り入れた,類を見ない試みである。
手前味噌ではあるが,図や画像の配置も要領を得ており,適宜気分転換のコラムも多数織り込まれており,内容のわりには流れるように読める肩の凝らない出来上がりだと自負している。これは一重に樋口 覚氏,川口純子氏の多大なご協力によるところが大きく,あらためて両氏に感謝の意を述べさせていただく。本書が日々の臨床の一助となり,ひいては認知症を患った患者さんならびにケアに携わる方々にも貢献できることを願っている。
2007年4月
小阪憲司・田邉敬貴
認知症の症例集あるいは病理についての本は少なくないが,マクロとミクロの剖検所見がある症例での臨床病理学的対応 clinicopathological correlation について,その道の専門家が語り合った本はいまだ見当たらない。本書は認知症をきたす様々な疾患について剖検に至った小阪の自験例を取り上げながら,神経病理と神経心理のエキスパートが,臨床,画像,病理のエキスそして診断のポイントについて忌憚のない意見を語り合った対談集である。対談当日は,普通のケースカンファレンスにはみられない熱気が漂った。
単なる臨床の症例集,あるいは神経病理の教科書でもなく,臨床をじっくり見た上で剖検脳を調べるという,Charcot以来の神経精神医学の基本に立ち返り,加えて近年の画像診断法の粋をも取り入れた,類を見ない試みである。
手前味噌ではあるが,図や画像の配置も要領を得ており,適宜気分転換のコラムも多数織り込まれており,内容のわりには流れるように読める肩の凝らない出来上がりだと自負している。これは一重に樋口 覚氏,川口純子氏の多大なご協力によるところが大きく,あらためて両氏に感謝の意を述べさせていただく。本書が日々の臨床の一助となり,ひいては認知症を患った患者さんならびにケアに携わる方々にも貢献できることを願っている。
2007年4月
目次
開く
口絵
序
第1章 アルツハイマー型認知症
1. はじめに
2. アルツハイマー型老年認知症
3. 非定型のアルツハイマー病剖検例
4. 神経病理学の重要性
5. 前頭葉症状が目立つアルツハイマー病例
6. ピック病様の前頭側頭葉萎縮が目立つアルツハイマー病例
7. posterior cortical atrophyを示した症例
8. 側脳室の後角に著明な拡大があったアルツハイマー型老年認知症の症例
第2章 非アルツハイマー型変性認知症
1. レビー小体型認知症(DLB)
2. 神経原線維変化型認知症
3. 前頭側頭型認知症
4. FTDP-17
5. グリアタングル型認知症
6. ハンチントン病,視床変性症例など
第3章 脳血管性認知症
1. 梗塞性認知症(1)
2. 梗塞性認知症(2)
3. ビンスワンガー型認知症
4. 臨床が大事
索引
序
第1章 アルツハイマー型認知症
1. はじめに
2. アルツハイマー型老年認知症
3. 非定型のアルツハイマー病剖検例
4. 神経病理学の重要性
5. 前頭葉症状が目立つアルツハイマー病例
6. ピック病様の前頭側頭葉萎縮が目立つアルツハイマー病例
7. posterior cortical atrophyを示した症例
8. 側脳室の後角に著明な拡大があったアルツハイマー型老年認知症の症例
第2章 非アルツハイマー型変性認知症
1. レビー小体型認知症(DLB)
2. 神経原線維変化型認知症
3. 前頭側頭型認知症
4. FTDP-17
5. グリアタングル型認知症
6. ハンチントン病,視床変性症例など
第3章 脳血管性認知症
1. 梗塞性認知症(1)
2. 梗塞性認知症(2)
3. ビンスワンガー型認知症
4. 臨床が大事
索引
書評
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認知症学の真髄を絶妙な日本語で躍動的に語られた書
書評者: 葛原 茂樹 (三重大教授・神経内科)
本書は,わが国の臨床認知症学の第一人者である小阪憲司先生と田邉敬貴先生による,認知症症例検討会の活字化である。小阪先生がご自身の症例を,臨床症状,画像所見,病理所見の順に提示し,田邉先生がご自身の経験例を交えながらコメントを加えていくという方式である。アルツハイマー型,レビー小体型,神経原線維型,前頭側頭型,タウ遺伝子変異型,グリアタングル型,基底核・視床変性型,脳血管性の順に,すべての認知症が展開していく。全症例が死後剖検によって確定診断されているので,どんな非定型例であっても,説得力があり納得させられる。逆に,臨床症状と形態画像による診断と,顕微鏡レベルの病理組織学的診断が乖離する例が珍しくないことに驚かされる。症状も画像も肉眼的萎縮所見も典型的ピック病であるのに,病理はアルツハイマー病であったり,その逆であったりの例の存在を示されると,剖検所見を欠く医学は未完成品であり,剖検なしに医学は進歩しないという主張が説得力を持つ。
本書の特徴は,呈示症例が病理診断された確定例であることに加えて,語られている言葉が適切で実に生き生きしていることである。例を挙げよう。アルツハイマー病においては,ニコニコして接触がよく表面的には上手に対応しているように見える症状を,「取り繕い上手」「場合わせ反応上手」,夕方になると落ち着きがなくなり,夕食の準備を始めたり,「家に帰らなくては」と言い出す「夕暮症候群」,きちんとやり遂げられないけれど作業に手を出す「仮性作業」などの表現である。前頭葉型ピック病の,興味が無くなると対話中にも出て行ってしまう「立ち去り行為」,立ち去って居なくなっても,気が向けば元の場所にチャンと戻ってくる「周回」,側頭型ピック病に特有の語義失語=自分ではスラスラしゃべっている簡単な比喩や言葉が耳から聞いた場合にはまったく理解できないなど,疾患ごとに特徴的臨床症状が,実に絶妙な日本語で躍動的に語られるので,読者は臨床病理カンファレンスに出席しているような気分でどんどんと引き込まれていく。
画像も,脳の肉眼所見や顕微鏡学的病理所見と対比させながら,読影のポイントが述べられていく。文中の白黒写真の多くは,口絵のカラー写真に収められているので,絵探しの楽しみもある。随所に「Dr Kosaka’s eye」「田邉教授の世界漫遊記」として,疾患にまつわる歴史と研究のエピソードが,楽しい読み物として挿入されていて息抜きになる。
最近の医学と研究者への苦言も語られている。小阪教授の「画像が発達したので,剖検して脳病理を見ることがおろそかになっている」「免疫染色で簡単に答えが出る研究はできるが,ルチーンの染色標本で診断を下せる医師が減っている」という指摘,田邉教授の「神経心理学は決してテストではない,まず患者さんの生の臨床像から学ぶことに原点がある。つまり症候学が基本であり,テストの粗点で表わされるものではない」という鋭い指摘は,昨今の土台軽視への警鐘であろう。
本書は私が2007年会長を務めた第48回日本神経学会総会(5月16―18日)に合わせて,5月15日に発行された。5月18日には田邉教授のライフワークを,教育講演「前頭側頭葉変性症の症候と診たて」としてお話いただいた。その直後に先生は病に倒れ,7月1日に急逝されたので,奇しくも本書と学会講演は先生の絶筆,最後のご講演となった。認知症学の真髄を二人のトークを通して伝えてくれる本書を,認知症学,神経心理学,神経病理学を学ぶ者の必読書として推薦したい。
書評者: 葛原 茂樹 (三重大教授・神経内科)
本書は,わが国の臨床認知症学の第一人者である小阪憲司先生と田邉敬貴先生による,認知症症例検討会の活字化である。小阪先生がご自身の症例を,臨床症状,画像所見,病理所見の順に提示し,田邉先生がご自身の経験例を交えながらコメントを加えていくという方式である。アルツハイマー型,レビー小体型,神経原線維型,前頭側頭型,タウ遺伝子変異型,グリアタングル型,基底核・視床変性型,脳血管性の順に,すべての認知症が展開していく。全症例が死後剖検によって確定診断されているので,どんな非定型例であっても,説得力があり納得させられる。逆に,臨床症状と形態画像による診断と,顕微鏡レベルの病理組織学的診断が乖離する例が珍しくないことに驚かされる。症状も画像も肉眼的萎縮所見も典型的ピック病であるのに,病理はアルツハイマー病であったり,その逆であったりの例の存在を示されると,剖検所見を欠く医学は未完成品であり,剖検なしに医学は進歩しないという主張が説得力を持つ。
本書の特徴は,呈示症例が病理診断された確定例であることに加えて,語られている言葉が適切で実に生き生きしていることである。例を挙げよう。アルツハイマー病においては,ニコニコして接触がよく表面的には上手に対応しているように見える症状を,「取り繕い上手」「場合わせ反応上手」,夕方になると落ち着きがなくなり,夕食の準備を始めたり,「家に帰らなくては」と言い出す「夕暮症候群」,きちんとやり遂げられないけれど作業に手を出す「仮性作業」などの表現である。前頭葉型ピック病の,興味が無くなると対話中にも出て行ってしまう「立ち去り行為」,立ち去って居なくなっても,気が向けば元の場所にチャンと戻ってくる「周回」,側頭型ピック病に特有の語義失語=自分ではスラスラしゃべっている簡単な比喩や言葉が耳から聞いた場合にはまったく理解できないなど,疾患ごとに特徴的臨床症状が,実に絶妙な日本語で躍動的に語られるので,読者は臨床病理カンファレンスに出席しているような気分でどんどんと引き込まれていく。
画像も,脳の肉眼所見や顕微鏡学的病理所見と対比させながら,読影のポイントが述べられていく。文中の白黒写真の多くは,口絵のカラー写真に収められているので,絵探しの楽しみもある。随所に「Dr Kosaka’s eye」「田邉教授の世界漫遊記」として,疾患にまつわる歴史と研究のエピソードが,楽しい読み物として挿入されていて息抜きになる。
最近の医学と研究者への苦言も語られている。小阪教授の「画像が発達したので,剖検して脳病理を見ることがおろそかになっている」「免疫染色で簡単に答えが出る研究はできるが,ルチーンの染色標本で診断を下せる医師が減っている」という指摘,田邉教授の「神経心理学は決してテストではない,まず患者さんの生の臨床像から学ぶことに原点がある。つまり症候学が基本であり,テストの粗点で表わされるものではない」という鋭い指摘は,昨今の土台軽視への警鐘であろう。
本書は私が2007年会長を務めた第48回日本神経学会総会(5月16―18日)に合わせて,5月15日に発行された。5月18日には田邉教授のライフワークを,教育講演「前頭側頭葉変性症の症候と診たて」としてお話いただいた。その直後に先生は病に倒れ,7月1日に急逝されたので,奇しくも本書と学会講演は先生の絶筆,最後のご講演となった。認知症学の真髄を二人のトークを通して伝えてくれる本書を,認知症学,神経心理学,神経病理学を学ぶ者の必読書として推薦したい。
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更新情報はありません。
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