看護研究 第2版

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  • 本書を使って看護基礎教育レベルの質的・量的研究を行うことができます。初学者でも理解できるよう、研究の最初(研究テーマの設定・絞り込み)から最後(論文作成・発表)まで、わかりやすく丁寧に解説しています。
  • 研究の方法を学ぶだけでなく、「看護基礎教育のなかで看護研究を学ぶ意味」を考え、卒後、臨床での看護実践にいかせる「研究力」を涵養する内容としました。具体的には、課題(問題)を特定する力、情報を収集し吟味する力・情報を活用する力(文献レビュー・クリティーク)、データを収集し分析する力、分析の結果を評価し次の計画につなげていく力などをはぐくむことを意図した内容になっています。
  • 看護研究の多彩な研究デザインについての解説も豊富です。それぞれの方法がイメージでき、その研究成果を看護実践に活用でき、将来そのデザインの研究を実施できるよう説明しています。
  • 研究デザインのうち、事例研究・ケーススタディや実態調査研究、文献研究など、看護基礎教育において学生がよく行うものについては具体的な進め方まで解説しています。
  • 看護研究は、座学だけで学ぶのがむずかしい分野です。そこで、各章に学生が実際に考えたり調べたりできるワークを設けています。授業のなかで、課題として活用いただけます。
  • 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 系統看護学講座-別巻
坂下 玲子 / 宮芝 智子 / 小野 博史
発行 2023年01月判型:B5頁:388
ISBN 978-4-260-04995-5
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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  • 序文
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はしがき

本書の背景
 学校では,患者さんを尊重する精神と技術を学ぶ。誰しもが臨床でも患者さんを尊重したケアを行いたいと思い卒業する。しかし残念ながら,そうでない現実に壁を感じることもあるだろう。医学界と病院の実態を描いた山崎豊子の小説『白い巨塔』の連載が始まったのは1963年のことであるが,この作品が何度もテレビドラマ化や映画化され,そのたびに高視聴率を記録しつづけるのは,今に通じるところがあるからであろう。病院や保健施設の多くは,医師が長を務め,多職種が協働して成り立っている。医療補助だけではない看護の役割と意義を示し,本当に必要な働きを確保するだけでも,難しい現状がある。医療費を削減したいという経営的圧力も絶えずある。その中で,看護の役割を言語化し,その意義ある仕事の価値をみせていくことは非常に難しい。多くのとても優秀で,患者さんを第一に考える看護師が,その優秀さゆえに現場を去るのを見てきた。
 哲学は紀元前6世紀ごろより学問として認められてきた。医学がサレルノ大学で教えられるようになったのは1231年である。看護が大学で教えられるようになったのは1889年の米国のコロンビア大学においてであり,日本では1952年の高知女子大学においてが最初である。このように学問としての看護学は,まだその歴史は浅く発展途上にある。わかっていることよりも,わからないことが多い。そのような看護学において,学生の皆さんは先駆者(人に先立ち専門分野を開拓する人)なのだ。今,看護学を取り巻く環境は残念ながら十分ではない。だからこそ,皆さんの力が必要なのだ。
 まず,皆さんが,そのささやかな日常の中で,「どうなのかな?」「おかしいぞ?」と問い続けることから始めてほしい。そして,その小さな疑問を少しずつ解き明かしていくことこそが,明日の看護を作っていく。疑問を解決するための方法はある。それがこの本で示した研究法である。

「研究力」の重要性と本書の構成
 研究法を学ぶことで,問題発見,問題分析,問題探究・調査,倫理的思考などの能力(本書ではこの力を「研究力」とよぶ)を身につけることができる。看護の対象者の問題を解決するため,他職種と協働するため,あるいは組織・経営者・行政機関を動かすために,説得力のある説明を行ったり,問題の改善案を示して計画・実践・評価することができるようになる。
 本書は,この「研究力」の芽を学生の皆さんに身につけてもらえるように構成した。序章で調べることの楽しさと研究とは何かを知り,第1章で看護研究とは何か,どのような目的を持つものか,実践にどう役立てるかを学び,第2章では看護研究だけでなく看護実践においても不可欠な,課題(問題)の特定方法──リサーチクエスチョン(研究疑問)のたて方を学ぶ。
 第3章から第9章は,研究と実践の両面で役立つ「研究力」の具体的中身を学ぶ部分である。第3章ではリサーチクエスチョンを解くために必要な情報収集・吟味(文献レビュー)を,第4章では倫理的配慮を,第5章では研究の実践と論文を読むために必要な看護研究の主要な研究デザインを,第6章ではデータの収集方法を,第7章ではデータの分析方法を,第8章では計画の立て方を,第9章では成果の伝え方を学ぶ。
 第10章から第12章は,身につけた「研究力」を活かす方法を学ぶ部分である。ここで具体的な研究方法を学ぶ。臨床で行いやすく,かつ看護実践の質向上に有益な,ケースレポート,事例研究および事例介入研究(第10章),実態調査研究と相関研究(第11章),文献研究と実践報告(第12章)を選んだ。
 そして,最後の終章で看護研究のアイデンティティー(看護研究とそうでないもの)および未来を示すことで締めくくった。
 また,本書は読者に伝えるだけでなく,参加してもらうこと・体験してもらうことを重視し,いくつかの章末に演習を設けている。いずれも,研究法のイメージを持ってもらう程度のレベルのものだが,将来の「研究力」の芽を育む教材として活用いただければ幸いである。

「自由な看護師」になるために必要なリベラルアーツ
 この本で学んだ皆さんは,たった一つのことを明らかにするにも非常に多くの要因を考え,非常に多くの労力を払わなくてはならないことを実感すると思う。研究の授業を通して皆さんに身につけて欲しいのはリベラルアーツである。教養と訳されることも多いが,真義は「自由になるための技術」である。研究という手法に従えば,疑問の解決に一歩ずつ近づくことができ,誰にも惑わされない自由な人,因襲や権威や社会的な圧力から自由である(屈しない)人となるための技を手にできる。たとえ全世界が皆さんに反対しても,情報を集め,吟味し,調査し,確かなエビデンス(根拠)を示し,患者さんのためによいケアを展開しよう。そのために,知の技を磨こう。

改訂の趣旨
 本書の初版は,お陰様で多くの方々からのご支持をいただいた。今回の第2版改訂では,本書の基本的な構成はそのままに,これまでいただいた意見を参考にしながら,さらに使いやすいテキストとなることを目ざした。具体的には,質的データ分析の説明の拡充,研究計画書例の追加などを行った。そのほか,章末に演習を設け,講義などで使いやすいような工夫を加えた。

 最後に,実際に教授される先生方には,看護実践の質を高め,看護の力を世に示す学生を育てる"同志"として,引き続き忌憚ないご意見,ご叱正をいただきたい。共通の目的のために,本書を育ててくだされば幸いである。

 2022年11月
 著者を代表して
 坂下玲子

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第1部 「研究力」をはぐくむ──初心者のための看護研究の基礎
 序章 看護研究を学ぶ前に──調べること・研究の楽しさを知ろう (坂下玲子)
  A 「調べること」の楽しさ
  B 調べる方法
  C 研究とはなにか
  演習1 自分の興味があることを調べてみよう
 第1章 看護研究とは (坂下玲子)
  A 看護研究とはなにか
  B なぜ看護研究を学ぶのか
  C 看護研究の歴史
  D 看護研究への期待
 第2章 看護研究の始め方──リサーチクエスチョンをたてる (坂下玲子・小野博史)
  A リサーチクエスチョンとは
  B リサーチクエスチョン決定までのプロセス
  演習2 リサーチクエスチョンを設定しよう
 第3章 情報の探索と吟味──文献レビューとその方法 (坂下玲子・小野博史)
  A 情報と科学的な根拠
  B 文献とその種類
  C 文献レビューとその目的
  D 文献検索の方法
  E 文献の入手と整理
  F 文献の読み方──クリティーク
  G 文献レビューの記述
  演習3 実際に文献検索をしてみよう
  演習4 文献レビューを行ってリサーチクエスチョンを精錬しよう
 第4章 研究における倫理的配慮 (宮芝智子)
  A 研究における倫理的配慮の原則
  B 研究における依頼と同意
  C 特別な配慮が必要な場合の対応
  D 依頼書,同意書の例
 第5章 研究デザイン──研究の設計と方法の選択 (坂下玲子・宮芝智子・小野博史)
  A 看護における研究デザインの多様性
  B 研究デザインの選択
  C 研究デザインの整理
  D 質的研究デザイン
  E 量的研究デザイン
  F ミックスドメソッド
  G 尺度開発

第2部 「研究力」をつける──初心者のための看護研究の実践
 第6章 データの収集 (坂下玲子・小野博史)
  A データとは
  B 標本の選択──誰からデータを集めるか
  C データ収集法について──どのデータをどのように集めるか
  D インタビューデータの収集
  E アンケートデータの収集
  F 観察データの収集
  G 生理学的測定データ,その他のデータの収集
  H 開発された尺度の活用
  演習5 お互いにインタビューを行ってみよう
  演習6 アンケート用紙をつくってみよう
 第7章 データの分析 (坂下玲子・宮芝智子)
  A 質的データ分析
  B 量的データ分析
  演習7 Excel®でヒストグラムをつくろう
  演習8 Excel®で統計的仮説検定を行ってみよう
  演習9 インタビューの質的データ分析を行ってみよう
  演習10 アンケートを分析してみよう
 第8章 研究計画書の作成 (坂下玲子・小野博史)
  A 研究計画書とは
  B 研究計画書の書式と書き方
  C 研究計画書の例
 第9章 研究を伝える──学会発表・論文作成など (坂下玲子・小野博史)
  A 研究成果をまとめる
  B 研究成果を伝える
  演習11 文献クリティークの実践

第3部 「研究力」をいかす──問題解決のための研究的アプローチ
 第10章 ケースレポート・事例研究の進め方 (坂下玲子・小野博史)
  A ケースレポート
  B 事例研究
  C 事例介入研究
 第11章 調査研究の進め方 (坂下玲子・小野博史)
  A 実態調査研究の進め方
  B 相関研究の進め方
 第12章 文献研究・実践報告の進め方 (坂下玲子・小野博史)
  A 文献研究
  B 実践報告──グッドプラクティスの提示
 終章 看護研究の未来──時代を切りひらくあなたへ (坂下玲子)
  A 看護研究とそうでないもの
  B 質の高い看護実践のために
  C 看護研究における今後の課題

巻末資料 用語解説
索引

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