精神科仕事術
この科で働くことを決めた人が,やったほうがいいこと,やらないほうがいいこと

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精神科病棟は“精神”というつかみどころのないものを対象にケアをするため、手技に頼れず、初めて足を踏み入れる人はとまどうことが多いものです。志半ばで離職する人が出ないよう、著者が「ここが精神科独自のケア技術、看護業務だ」と思う部分をノートに書き留め、まとめたのがこの本であり、唯一無二の内容です。
入職間もない時期から慣れた頃まで、期間別に「やったほうがいいこと、やらないほうがいいこと」をその理由とともに解説しています。
これから入職を考えている人、精神科実習を控えた学生さん、学校の先生、精神科に興味を持つすべての人のための仕事術マニュアルです。

山下 隆之
発行 2021年12月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-04870-5
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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はじめに

 初めての精神科、そこで働くと決めた時は、何らかの夢や希望を抱き、勇気を持って一歩踏み出されたことと思います。しかし、精神科病棟は“精神”というつかみどころのないものを対象にしています。初めて足を踏み入れる人にとっては、どうなっているのか、何をしたらいいのか想像がつかない未知の世界だと思います。
 私はこれまで、精神科病棟で働き始めた人が途中で道に迷ったり疲れ果てたりして、志半ばで去っていくのを数多く見てきました。その後ろ姿を見送りながら、どのようにサポートすればよかったのだろうと振り返った時、私にはまだやれることがあるような気がしました。
 精神科には他科とは違う独自のケア技術、看護業務のやり方があり、他科にはない看護の観点が必要な場面があります。これらを新しく来た人にあらかじめ伝えてあげることができれば、もっとスムーズにこの科に慣れ、精神科看護の素晴らしさ、楽しさにまでたどり着いてもらえるのではないか。そう思ったのです。
 そこから私は、「ああ、ここは新人さんにはとまどうポイントだな」と感じることがあるたびに、それをノートに書き留めていくようにしました。それをまとめたものがこの本です。
 もちろん私自身も、すべてをわかっているわけではなく、今でも道に迷い、毎日揺れ動きながら進んでいるのですが、このノートが未知の領域へ踏み込む人にとっての松たい明まつの灯りくらいにはなるかもしれない。そう思って、自分への叱咤も含めてこれを読者の皆さんに伝え、分かち合いたいと思いました。

 ここでこの本の構造についてちょっと紹介します。
 本書は、精神科に「入職」してすぐの何も知らない時期から、ある程度慣れを感じるようになった時期まで、その折々に、何を「やったほうがいいのか、やらないほうがいいのか」を、その理由と共に記しています。
 この、本書のサブタイトルにもなっている「やったほうがいいこと、やらないほうがいいこと」ですが、ここには「あくまで山下の経験上は、こうしたほうがよいと思いますよ」という意味を込めました(もしこれが「やらなければいけないこと、やってはいけないこと」だったら私は書けなかったと思います)。

 Chapter2の見出しは、次のように色分けして区別しました。
 赤色――「働く上での職業人としての考え方・心持ち」に関するもの。
 青色――「患者さんや家族へのケア技術」に関するもの。
 緑色――「看護業務のコツ」に関するもの。
 実際にはすべてが重なっているので明確には分けられませんが、そのように分けたほうがわかりやすいと思いましたので、そういう形に工夫しています。
 また、内容を読んで了解できたら、見出し右にある□(チェックボックス)にチェックを付けられるようにしました。それを振り返れば、自分の理解と進捗具合が確認できますし、チェックが付かずもっと理解したい項目については、信頼できる同僚や先輩に話を聞いてみるのもいいかもしれませんね。

 この本があなたにとってなんらかの指針となり、役立つならば、著者としてこんなに嬉しいことはありません。あなたの仕事のやりがいと喜びが、この科で見つかりますように。それではいってみましょう。

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はじめに

Chapter1 あると助かる予備知識
 業務の種類
 個人情報の扱い方
 法律
 申し送り
 医師への電話での問い合わせ・報告
 緊急時

Chapter2 期間別ナビゲーション
 最初の1週間 精神科で働くことを決めたあなたへ
 2週間目 まだ緊張の中にいるあなたへ
 3週間目 まだとまどいながら働いているあなたへ
 1か月目 日勤業務の流れがなんとなくつかめてきたあなたへ
 2か月目 周りの状況がさらに見えてきたあなたへ
 3か月目 仕事に慣れを感じ始めたあなたへ
 4か月目 精神科をもっと学びたくなってきたあなたへ
 5か月目 相手の身になって考えられるあなたへ
 6か月目 夜勤や入院患者さんへの対応が始まったあなたへ
 7か月目 セルフケアの課題に取り組むあなたへ
 8か月目 迷いが増えてきたあなたへ
 9か月目 「待つ」というケアに挑戦するあなたへ
 10か月目 言葉のスキルを上げていきたいあなたへ
 11か月目 退院後を視野に入れて患者さん・家族を支えていくあなたへ
 12か月目 組織・スタッフへの違和感を乗り越えていきたいあなたへ
 1年が経って 頑張って1年間続けてきたあなたへ

Chapter3 知っておきたいこと 考えておきたいこと
 もし「辞めたい」と思ったら
 私たちの仕事に関連する法律を理解しよう
 身体合併症に気をつけよう
 薬に関して
 暴力について考えておく必要があります
 見捨てられることに根深い恐怖を持っている患者さんへの対応
 自殺予防という重要な精神科看護について
 感染症の世界的蔓延という、特殊な危機時の自分のあり方について

おわりに

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精神科で働くことに興味があるすべての人に読んでほしい(雑誌『看護教育』より)
評者:服部かおる(日本医療大学保健医療学部看護学科精神看護学 助教)

 「精神看護とは」──これを簡潔に,特徴を盛り込んで魅力的に語ることができる人は,どのくらいいるだろうか。本書『精神科仕事術』には,精神科に従事するにあたって忘れてはならないこと,意識してほしいこと,気をつけてほしいこと,やりがい,醍醐味などが魅力的に書かれている。

 精神看護ってラク?
 看護学生と日々向かい合っているとたびたび耳にするのは,「精神看護って,特別な援助技術がないからラク! だから楽しい!!」。この言葉を耳にするたび,私は心臓がドキンとして,悔しさや悲しさの混じったような気持ちになり,正しいことを伝えなければという焦りが湧いてくる。そんなときはまずは笑顔で,「精神看護って,患者さんの人生そのものを援助するものだと私は思うんだけど」と話し出すと,学生はキョトンとした表情で首をかしげる。聞く耳をもってくれたらチャンス。

 「たとえば,あなたたちがイメージする援助技術って,術後患者さんの生活のなかの食事や排泄行動,保清や整容などかな? 確かにそれらを援助する技術は看護師にとっては絶対に必要だし重要な役割だよね。ただ,それは生活のなかの1つずつの大切なパーツ。精神看護はそこも大事に看ながら,そもそも疾患をもつことで生活しにくくて生きづらくなっている人をどう支え,その人たちの人権をどう守っていくかも考えていかなければならないんだ。だから私は精神看護って,1人ひとりの患者さんの人生にかかわる重要な看護だと思っているんだけど」と話すことにしている。

 学生の楽観的な表情は一変し,「精神看護って深い」とつぶやく学生も出てくる。私はさらに,「精神看護には,看護の基本がいっぱい詰まっていて,向かい合っている患者さんの顔色や表情,発した言葉だけではなく,そのときの口調やしぐさ,目の動きなど全部を看て,患者さんを知ろうとする気持ちがないとできないんだよ。私は一生懸命人と向かい合うから楽しく感じるんだと思うな。これは精神看護だからじゃなくて,本当はどの患者さんと向かい合うときにも必要だよね。“援助技術”にばかり気がいってないかな?」と笑顔で問いかけて,学生たちの顔をのぞき込んでみる。

 著者のあたたかく具体的なアドバイスで不安が消えていく
 この1冊には,そのように患者さんと一生懸命に向き合おうとするときに必要な看護の視点やかかわり方が,先輩看護師,山下隆之さんのアドバイスとしてあたたかく書かれていて,私は下線をいっぱい引きながら一気読みしてしまった。

 たとえば81ページ。「看護でできることは,患者さんが自分の価値観や望みに気づき,それを実現できるように支援することです」の部分。看護は退院を目標にしがちだが,退院はその後も続く人生のなかの1つの通過点にすぎない。患者さんの望みを理解し,実現できるように支援することが,患者さんの人生を援助することに通じるのだ。

 94ページ。山下さんは「患者さんに同意を得られるケア計画書の立て方」として,「ケア計画書の名称を『困りごとを減らすお手伝い計画書』と変えてはどうか」と提案している。このように名称を変えるだけで,看護師が上から立てる計画ではなく,真に患者さんの困りごとを減らすために一緒につくるケア計画書に近づくのでは,というのだ。これもあたたかで思いやりあふれる実用的な提案だと思った。

 さらに100ページ。ここには病棟ルールを何回も破る患者さんと面接する,という難しい場面でのポイントが書かれている。「事実確認をする」「疑わしきは罰せず」「タイミングを逃さず面接を行う」「理由を聞いて、その気持ちには寄り添う」「逃げ道をなくすほど追い込まない」など。患者さんがルールを守れないのは,自分のことも看護師のことも信頼できなくなっているからだと踏んだ山下さんは,面接を,看護師を信頼してくれるための大事な機会ととらえてかかわっていく。なるほど,と思う場面だった。

 なぜ看護師になりたかったのかを思い出すはず
 この1冊を読み終えると「患者さんとの信頼関係」という言葉の意味の深さが心のなかにじっくりと染み渡ってくる。精神科勤務に不安をかかえている学生,迷っている学生,いずれは精神科勤務をしてみたいと考えている学生の皆さんには,ぜひ読んでほしい。そもそもなぜ看護師になりたいと思ったのか,まで思い出すことになるだろう。心配や不安は誰にでもあるが,山下さんはその感情は当然であると認めたうえで,不安がやわらぐような的確なアドバイスを時期に合わせて提供してくれる。また,辞めようかと悩んでいる人にも,自分が看護師として歩んできた道のりが無駄ではなかったと思い起こすきっかけになるはずだから,ぜひ読んでほしい。

 最後に,精神科で働いて1年を迎える人に向けて,山下さんが贈る言葉に,忘れてはならない一節があった。それは131ページ,「いつでも初心に戻れる自分でいよう」のなかにある。

 「私はあるときから患者さんに対して“やらないこと”だけは決め,それを守るようにしてきました。“やらないこと”は,“自分がやってほしくないことは患者さんにしない”,そして“自分ができないことは患者さんにさせない”ということです。それがぶれない信念になり,周りに流されなくなります。(中略)精神科は倫理で始まり倫理で終わると言っても過言ではありません。倫理とは人を大切に考える先にあるものです」。

 看護師としてどんな患者さんと向かい合うときも忘れたくない言葉だと,あらためて身に染みる思いで下線を引いた。

(『看護教育』2022年4月号掲載)


あるようでなかった精神科で働くための「How to」(雑誌『看護管理』より)
評者:桐山 啓一郎(朝日大学保健医療学部看護学科 講師/精神看護専門看護師)

 本書には,山下隆之氏の30年以上にわたる豊富な精神科看護経験を背景に,精神科で看護師として働くための「How to」が記載されている。

 特徴は,初任看護師としての1年間を16の区切りに分け,日を重ねるごとに変わっていく業務とそのコツが,理由とともに述べられる点である。そのため,精神科に興味を抱き働きたいと思う人は,本書によって最初の1年をおおよそ把握することができる。

 精神科ならではの不安,困り事とは
 精神科で働く際の不安の多くは,学生時代の精神看護学実習での体験に起因することも多い。例えば患者さんと話す際,患者さんの滑舌が悪かったり,小声のために何を言っているのか聞き取れなかった時に,患者さんに何度も聞き直していいのだろうかと学生は迷う。

 山下氏はそんな時のアドバイスとしてこう記す。

 「“もう一度お願いします”と言って2回は聞き直してもよいと思います。それでもわからない時は,それ以上聞かずに“申し訳ありません。何を言っているのかわからないので”と伝えて,先輩に報告すればよいと思います。大丈夫です。最初はわからなくても,毎日の患者さんの行動を観ていれば,そのうち何を言っているかわかるようになります。しないほうがよいのは,何を言っているのかわからないのにわかったような振りをして対応をすることです。どんな時でも誠実さは求められます」
 こうしたアドバイスが,どれほど精神科勤務を検討している人の不安を和らげることだろう。

 特に印象に残ったのは,「患者さんに何かしなくては,という気持ちを捨てる」というアドバイスだった。長く身体科で働いてきた看護師は,精神科で働き始めた時,「自分は患者さんに何もしてあげられない」と,焦りや不安を感じることがある。それが高じると「この科に向いていない」とまで思う。

 その悩みに対して山下氏はこう記している。「精神科看護は災害支援に似ていると私は思っています。(中略)何もできなくても,患者さんのことを気遣い,笑顔でそこに居るだけで,患者さんに元気や勇気を与えています。十分看護になっています」と。本書を読むと,入職したばかりの看護師が抱く焦りや不安がよくわかるため,指導する側の先輩看護師も指導しやすくなると思う。

 メンタルヘルスを支える役に立つ
 最後に本書の活用方法を述べたい。本書は精神科で初任者の指導を受け持つ方に役立つことは言うまでもないが,看護管理者,つまり『看護管理』の読者の方々にも有用であると思う。初対面の第一印象をよくすること,仕事が終わってからは気持ちを切り替えること,看護師と患者としてではなく人と人として関わること,自己承認することなど,初任者の困りごとへの対応が時期に応じて解説してあるからである。さらに“辞めたい”と思った時への対処法が,ベテラン精神科看護師ならではの視点から述べられている。

 精神科に限らず看護師のメンタルヘルスを支える手助けになるはずである。

(『看護管理』2022年1月号掲載)

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