総合医療論 第4版

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  • これから看護を学ぶ学生の方が、看護や医療の全体像を幅広く概観できるように構成しています。
  • 医療や看護のしくみ、これまでの医療の歴史、健康や病気とはなにか、現代医療の課題とそれに対する新しい視点といったように、大きな流れに沿って基礎的な知識や考え方を学ぶことができます。
  • 今回の改訂では、制度や社会情勢の変化に対応し内容を刷新。時代の流れに合わせた新しいキーワードを盛り込みアップデートを行うとともに、学習が深まるイラストや図表もフルカラーで追加しました。
  • 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 系統看護学講座-別巻
小泉 俊三 / 平尾 智広 / 有吉 浩美
発行 2022年02月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-04713-5
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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はしがき

『総合医療論』について
 本書『系統看護学講座 総合医療論』は,これから看護学を学ぼうとする人が,まずは現代の医学・医療や看護・介護・福祉の全体像を把握できるように,あるいは看護学の大きな体系のなかで各教科の意義を確かめられるように,医療の実際の姿を全般的に見渡した入門書が必要であろうとの考えで1998年に刊行された。執筆にあたっては,それまでのいわゆる医学概論の形式にとらわれることなく,医療や看護の原点を日常の生活体験から説きおこし,現代医療の実像と将来への展開についてわかりやすく示すとともに,医学・医療の発展の背景にある時代の流れや医療をめぐる活発な議論の核心を,平易な言葉で解説することを心がけた。
 また,本書では,読者が医療や看護の領域を幅広く,かつ,より深く理解できるように,病と健康に関するさまざまな問いや教えが看護の原点とつながっていること,生物学的医学が実は医学の一部にすぎないことを強調するとともに,保健活動や医療の現場で問われている今日的な課題を取り上げ,これらの課題についてのさまざまな論点や新しい学問領域をわかりやすい言葉で紹介している。
 とくに医療倫理や根拠に基づく医療(EBM),医療事故と患者安全などをめぐる議論のエッセンスを知ることは,これからの時代にふさわしい看護職を目ざす読者が,じっくりと自分の頭で考える習慣をつけるきっかけになると考えている。とりわけ移植医療や遺伝子診断などの,先端医療技術がもたらした生命の選択に関する葛藤についての議論を学ぶことは,読者の1人ひとりが自分の人間観・死生観そのものを問う機会となろう。

看護基礎教育のカリキュラム改革と第4版への改訂について
 幅広く医学・医療,看護・介護・福祉を俯瞰し,カリキュラムのどの段階でもテキストとして活用できる『総合医療論』は,看護教育の現場に受け入れられて改訂と増刷を重ねてきた。2019(令和元)年10月に「看護基礎教育検討会報告書」が厚生労働省より公表され,看護基礎教育のカリキュラムが改訂されるのを機に,今回,大幅な改訂を加え,第4版として刊行することとなった。
 看護基礎教育のカリキュラム改革の背景には,急速に進む少子高齢化とそのような状況に基づいてさまざまな制度が導入されたことや,訪問診療・訪問看護を含む地域包括ケアの急速な普及などがある。看護職に求められる役割の変化に応じた看護基礎教育の改革はこれからも進むと思われるが,期待される看護師像が社会のあり方や人々の期待を反映して時代とともに変遷するのは当然と言えよう。
 本書の初版が刊行されてから四半世紀が経過した。この間,地球環境問題はますます喫緊の課題となり,秩序のないまま急速に進んだ社会経済のグローバル化は,自国中心の内向き思考と地域紛争の原因となり,飢餓や大量の難民など人々の健康と命にかかわる人道的な危機を生み出している。また,経済的に豊かで安定していると思われてきた先進諸国も,わが国を先頭に少子高齢化が急速に進行するなかで,社会階層や世代間の深刻な格差とそこから生じる健康格差の問題に直面している。これらの困難に対して明確な見通しをもてない今日,人類社会そのものが,その持続可能性を問われているとも言えよう。
 先進諸国の多くで過剰な医療が行われている一方,必要な医療を受けられない低・中所得国の人々がいるという現実も座視できない。このような問いに答えるにあたって本書で示したいくつかの視点が少しでも参考になれば幸いである。

看護学を学ぶとは――実践のなかでの省察
 わが国では,過去に,医師の補助者としての看護師の役割がことさら強調され,看護師自身も自立した職業人としての自覚に乏しかった時期が長く続いた。また,近年の医療の高度化・専門化に伴って臓器別専門医の関心はますます人体の生物科学的理解に向かい,看護師も医療技術の専門分化に対応した専門性が求められている。しかし,このような時代であるからこそ,これから看護学を学ぼうとしている皆さんには,看護の本質がケアの実践を通じてはぐくまれる人間存在への深い関心と,このことを基盤とした独自の哲学と倫理観にあることを見失わないでほしい。
 さらにもう1つ付け加えるなら,自立した専門職である以上,看護師には,よい看護とはなにか,よい看護師にはどのような資質が必要かなど,つねにみずからをふり返る姿勢が求められている。専門職を特徴づけるあり方として省察的実践家という言葉があるが,読者の皆さんも,看護学を学ぶにあたって,看護職が医療技術の進歩に即応しつつも人間心理の深い理解に裏打ちされた専門職であることを自覚し,みずからの経験について繰り返しふり返るなかで職業人として成長してほしいと願っている。
 その意味で,本書をテキストとして用いるだけでなく,いくつかの教科を学んだあとに看護の全体像をふり返る目的でも,さらには看護実践の場で悩むことがあったり,看護の原点に戻って基本的なことについてじっくりと考えてみたいと思ったときにも参照していただきたい。

 2022年1月
 著者を代表して
 小泉俊三

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序章 医療コミュニケーションの原点にさかのぼる
 A 看護の「心」――援助と共感
 B 専門職(プロフェッショナル)としての医師と看護師
 C 援助される者と援助する者――共感的な人間関係
 D 病める者の自立への援助――パターナリズムについての考察

第1章 医療と看護の原点――病と癒し
 A 命について考える
  1 命に対する理解と命をいつくしむ心
  2 生命の躍動
  3 操作可能な「命」
  4 死を直視する
  5 人生の終末期とACP
 B 健康のとらえ方
  1 健康の定義
  2 健康についての考え方
 C 病の体験
  1 自分自身の病体験
  2 現代人の不健康感と社会生活のストレス
  3 ライフサイクルのなかの病――老いと病
 D 癒しの行為と癒しの知
  1 癒す者と癒される者との関係
  2 医療と宗教
  3 癒しと迷信
  4 文化と病体験
  5 医療人類学と多様な疾病観
  6 看護における医療人類学の役割
  7 人々の病気行動を探究する

第2章 医療の歩みと医療観の変遷
 A 現代医学の起源――古代から近代へ
  1 古代文明と医療
  2 西洋医学の源流
  3 わが国の医療がたどってきた道
  4 20世紀の医療
 B 医療観の移りかわり
  1 近代以前から受け継がれてきた医療観
  2 自然科学的世界観に基づいた医療観の台頭
  3 20世紀の科学的自然観における相対主義
  4 これからの医療観
 C チーム医療とマネジメント
  1 医療・看護におけるサイエンスとアートおよびマネジメント
  2 家族機能の多様化とケアの社会化

第3章 私たちの生活と医療
 A もしも私たちが病気やけがをしたら
  1 救急医療と蘇生術
  2 診療所と病院
  3 入院から退院まで
  4 医薬品の処方と調剤
  5 医療費と医療保険のしくみ
 B 私たちの生活と保健・福祉行政
  1 わが国の行政組織と関連法令
  2 地域保健のしくみ
  3 母子保健
  4 学校保健
  5 産業保健
 C 疾病の一次予防と健康増進
  1 急性期疾患の治療とその限界
  2 予防医学の役割と健康増進という考え方
  3 生活習慣と病気――生活習慣病
  4 健康日本21
 D 少子高齢化社会と地域包括ケア
  1 少子高齢化と人口減少
  2 高齢者像の転換
  3 高齢者のとらえ方――老人神話の検証
  4 高齢者介護をめぐる問題点
  5 地域包括ケア
 E 障害者のノーマライゼーションとインクルージョン(社会的包摂)
  1 リハビリテーションとノーマライゼーション
  2 障害者の実態と障害者施策に求められるもの
  3 障害者をめぐる法制の整備
  4 心のバリアフリー化
 F 心の健康と精神医療
  1 現代社会と心の病
  2 家族の機能と心の健康
  3 精神医療と精神障害者の保健・福祉
  4 精神保健行政の実際

第4章 科学技術の進歩と現代医療の最前線
 A 科学技術の進歩と社会・生活の変化
 B 現代医学と先端医療技術の最前線
  1 がん診療の最前線
  2 移植医療
  3 人工臓器の開発
  4 体外受精と出生前診断
  5 再生医療
  6 画像診断装置の進歩

第5章 現代医療の新たな課題
 A 薬剤の副作用と手術合併症
  1 薬剤の副作用
  2 手術合併症
 B 医原病という考え方とケアの実践
 C 先端医療技術がもたらした倫理上の葛藤
  1 延命治療への疑問
  2 死の判定――脳死と臓器移植
 D 生命倫理学と臨床倫理学の展開
  1 生命倫理学の起源
  2 米国を中心としたバイオエシックスの展開
  3 臨床倫理学――ベッドサイドの生命倫理学
 E 医療不信から「賢い患者」へ
  1 わが国の医療供給体制
  2 医療不信の芽――「忙しい」医師
  3 賢い患者
 F 医療と法制度
  1 増えつづける医療訴訟
  2 インフォームドコンセントの法理

第6章 医療を見つめ直す新しい視点
 A 臨床疫学――医療における合理的判断
  1 医学情報の共有と医学の発達
  2 臨床疫学の基礎
 B 患者の安全
  1 事故の背景
  2 安全をまもるしくみ
 C 医療の管理と評価
  1 医療管理学
  2 システムとしての医療
  3 医療の質
  4 医療における技術評価
 D 情報化社会と医療
 E これからの先端医療技術開発
 

第7章 保健・医療・介護・福祉の近未来像
 A 病院・施設でのケアから生活の場におけるケアへ
  1 20世紀――医療テクノロジーの目覚ましい進歩とその限界
  2 医療と社会の持続可能性が問われる21世紀――キュアからケアへ
 B 近未来の保健・医療・介護・福祉を担う専門職像
  1 医師――総合診療医の近未来像とプライマリケア
  2 看護師
  3 専門職としての介護職・福祉職の役割
  4 医療職間の多職種連携から患者・家族・地域コミュニティーとの協働へ
 C 地球環境問題と私たちの健康
  1 環境汚染のもたらす健康への脅威
  2 地球的規模の環境破壊と環境倫理の視点
  3 近未来の保健・医療・介護・福祉

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