がん看護学 第3版

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  • わが国では、約2人に1人が生涯のうちにがんに罹患するとされ、学生が臨地実習で接する患者の多くががん患者であり、現代においてがん看護学の重要性はますます高まっています。
  • 本書は、看護師国家試験出題基準で示された項目を基盤としながら、がん患者とその病態の特徴、がんの臨床経過、治療と看護の実際、症状マネジメント、患者サポートといった、がんの治療と看護において共通する重要なテーマで構成されています。
  • 今回の改訂では、全体の章構成を整理するとともに、臨床の現場をイメージして看護師の役割が考えられるよう、さらに事例を追加しました。
  • 2018年の第3期がん対策推進基本計画の内容をふまえ、高齢がん患者の特徴・看護、移行期の支援、アドバンスケアプランニング(ACP)、がん患者の就労支援・経済的支援などを加筆しました。さらに、2019年に保険収載されたがん遺伝子パネル検査などの最新のがんゲノム医療のほか、免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法の作用機序や副作用、副作用に対するケアなどについて、医学的な知識とともに、看護師の役割について解説します。
  • 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 系統看護学講座-別巻
著者代表 小松 浩子
発行 2022年02月判型:B5頁:384
ISBN 978-4-260-04216-1
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

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はしがき

 本書は,看護の基礎教育において学んでほしい「がん看護学」のエッセンスを集めた教科書です。学生のみなさんが臨地実習で受け持つ患者には,がん患者が少なくないでしょう。受け持ち患者の健康問題を把握し,それに基づいて系統的なケアを行うには,がんの病態や診断・治療,がん患者の身体的・精神的・社会的苦痛を総合的に理解し,根拠に基づくケアアプローチを展開していくことが必要となります。近年では,がん医療の進歩とともにがん患者の生存率が高まっており,がんとともに生きていくがんサバイバーに対する施策にも力が注がれています。がんサバイバーに対するサポーティブケアや二次がんの予防,社会的な課題へ対応していくことも重要になっています。本書では,広範にわたるがん看護実践の基盤となる知識や技術について,がん医療の実践現場で活躍するがん看護専門看護師やがん専門医が,わかりやすく解説しています。

がん医療の進歩と看護の役割
 がん医療は日々進歩しています。高度先進医療の発展やがん遺伝子の検出技術の向上,分子標的薬の開発などにより,患者1人ひとりの経過予測や治療の効果予測が可能になり,こうした情報に基づいて患者1人ひとりに最適な医療を提供する個別化医療も進んでいます。個別化医療を含めてがん医療では,患者とその家族が病態や治療について,最新の医学的知識を含む説明を受け,治療過程や予後について十分に理解したうえで,治療やケアに取り組まなければなりません。患者とその家族が長期にわたる治療過程を安全に,また安心して歩んでいくために,看護師には,患者の可能性をはぐくみ,セルフケアを促進させる実践力が求められています。
 また,高齢化が加速するなか,高齢のがん患者に対する包括的ケアの必要性が高まっており,さらに思春期・若年成人のがん患者に対しては,がんへの対応だけでなく,進学や就職,妊孕性といった生涯発達上の課題への支援の必要性が高まっています。このように,社会の変化とともにがん看護の対象が広がってきています。
 さらに,がんの治療や療養の場は,医療機関に限らず,自宅や地域・施設,学校や職場などに広がっており,療養の場の移行を支援する看護の重要性も高まっています。 現代のがん医療において,看護師の役割はますます広くなっているのです。

各章の構成と改訂の趣旨
 今回の改訂では,こうしたがん医療の進歩に対応し,新しいがん看護の実践とその根拠について学ぶことができるよう,各章の構成を見直し,内容を整理して刷新しました。
 冒頭の序章「この本で学ぶこと」では,がん患者の臨床経過を概観できる事例を提示しました。患者中心のがん看護を実践していくためには,がん患者の視点から臨床経過や直面する課題を思い描くことができなければなりません。がん看護学を学びはじめるにあたり,事例を通して診断・検査,初期治療,経過観察,再発・転移,終末期といった一連の経過を概観し,各過程における課題と看護のポイントを把握できるように工夫しました。
 第1章「がん医療の現状と看護」では,がん医療における課題やそれに対する施策,がん疫学,がんの予防と早期発見,エビデンスに基づいた看護実践について学びます。第3版では,がん医療における倫理的課題とアドバンス-ケア-プランニングについての項目を加えました。
 第2章「がんの病態と診断」では,がんという病気がほかの病気とどのように異なるのか,がんの診断がどのように進められるのかといった,がん治療の基本について学びます。
第3版では,がん治療への理解を深められるように,がんの増殖・分化のしくみについての最新の知見を加えました。がん医療の専門用語のなかには難解に感じられるものもありますが,新しいレイアウトで設けた「NOTE」を使って,本文中の重要な用語を丁寧に解説するようにしました。
 第3章「がんの治療」では,がん治療の3本柱である手術療法・薬物療法・放射線療法に関する基本的な知識と,これらを組み合わせた集学的治療の考え方について学びます。第3版では,がんゲノム医療のしくみと看護師の役割を加えるとともに,がん免疫チェックポイント阻害薬による治療やCAR-T 療法といった新しい治療法とその副作用についての記述を加えました。
 第4章「がん患者の看護」では,がんサバイバーシップケア,苦痛に対するマネジメント,心理・社会的サポートといった視点から,がん患者の看護に必須となるケアアプローチについて学びます。第3版では,高齢がん患者の看護へのケアやアピアランスケア,精神的苦痛に対するケアや社会的問題への支援などについて,記述を充実させました。
 第5章「がん治療に対する看護」では,がん治療の効果を促進し,合併症や副作用対策を効果的に実施するための看護や,入院・外来・在宅といったさまざまな場でがん治療を継続していくための支援について学びます。第3版では,各項目に事例を追加し,さまざまな状況におかれた患者をイメージしながら実践的ながん看護について学ぶことができるように工夫しました。

 本書で学ぶエビデンスに基づく看護やケアアプローチは,医療の発展に欠かせない考え方であり,ほかの科目にも応用されるものです。がん看護学だけでなく,幅広い学習において活用していただけると幸いです。本書の内容は,がん医療の発展に合わせてつねに新しくしていく必要があります。忌憚のないご意見をくださいますようお願いいたします。

 2021年12月
 著者を代表して
 小松浩子

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序章 この本で学ぶこと
  1 診断から入院・治療まで
  2 外来通院による術後補助化学療法
  3 再発と再発治療
  4 エンドオブライフ(終末期)
  5 まとめ

第1章 がん医療の現状と看護
 A がんを取り巻く状況
  1 がん対策の取り組み
  2 がん看護の対象の広がり
  3 がん医療における地域包括ケア
 B がんの疫学とリスク要因
  1 がん疫学
  2 がん登録
  3 おもな疫学データの動向
  4 患者説明において注意が必要なポイント
 C がんの予防と早期発見
  1 巨視的な視点からのがん予防・早期発見
  2 個々に応じたがん予防・早期発見
  3 家族性腫瘍・遺伝性腫瘍への対応
 D エビデンスと看護実践
  1 看護実践におけるエビデンス
  2 ケアガイドラインとケアマニュアル
  3 エビデンスに基づくケアの実践
 E 倫理的課題と対応
  1 がん医療における倫理的課題
  2 倫理的課題に対するアプローチ
  3 アドバンス-ケア-プランニングと倫理

第2章 がんの病態と診断
 A がんの生物学的特性
  1 がんの定義と種類
  2 がんの発生因子
  3 がんの発生
  4 がんの増殖と分化
  5 がんの浸潤と転移
 B がんに特有の病態と症候
  1 がんの病態
  2 がん緊急症
  3 がんに伴うカヘキシアと倦怠感
 C がんの診断
  1 がんの診察・検査
  2 がんの診断と病期分類

第3章 がんの治療
 A がん治療の概要
  1 がん治療の選択
  2 がん治療の実際
  3 緩和ケア
  4 がんゲノム医療
 B 手術療法
  1 がん手術療法の流れ
  2 手術前に行われる診療
  3 治療方針の決定とインフォームドコンセント
  4 手術の種類
  5 手術後の診療
 C 薬物療法
  1 薬物療法の流れ
  2 抗悪性腫瘍薬の種類と特徴
  3 薬物療法施行中の副作用とがん緊急症
  4 薬物療法のレジメン(治療計画)
  5 薬物療法の実際
 D 放射線療法
  1 放射線療法の特徴
  2 放射線療法の流れ
  3 放射線療法の実際
  4 有害事象への対策

第4章 がん患者の看護
 A がん看護の対象と場
  1 がん看護の対象とその特徴
  2 がんサバイバーシップケア
  3 がん看護の場とその特徴
  4 地域包括ケアにおけるがん看護
 B がん患者の苦痛のマネジメント
  1 がん患者の苦痛の種類
  2 身体的苦痛
  3 精神的苦痛
  4 苦痛のアセスメントとマネジメント
  5 事例による苦痛マネジメントの実践
 C がん患者に対する心理的・社会的サポート
  1 がん患者とのコミュニケーション
  2 セルフヘルプグループ
  3 家族への支援
  4 社会的サポート

第5章 がん治療に対する看護
 A がん治療における看護の重要性
  1 がん治療における患者のストレス・葛藤
  2 治療完遂の重要性
  3 患者の主体的な治療への参加
  4 治療継続のための管理
  5 がんリハビリテーションの支援
  6 チームアプローチの調整
 B 手術療法における看護
  1 アセスメント
  2 手術療法に対する準備教育
  3 ケアプランと意思決定支援
  4 術後の症状管理と合併症予防
  5 術後の機能障害・後遺症とセルフケア
  6 術後の機能喪失に対するセルフケア支援
  7 がんに特徴的な手術とケア
  8 術後の継続支援
 C 薬物療法における看護
  1 治療計画の理解
  2 アセスメント
  3 薬物療法に対する準備教育
  4 副作用と合併症
  5 治療継続と生活調整に向けたセルフケア
  6 薬物療法におけるケアの実際
  7 曝露対策
 D 放射線療法における看護
  1 アセスメント
  2 放射線療法に対する準備教育
  3 効果的な治療を行うためのケア
  4 治療継続と生活調整に向けたケア
  5 放射線療法における看護の実際
  6 放射線防護
 E 造血幹細胞移植と看護
  1 造血幹細胞移植の概要
  2 患者・家族の理解を促す援助
  3 移植前の全身の評価と検査・処置
  4 骨髄破壊的前処置時のアセスメントとケア
  5 造血幹細胞の輸注時のアセスメントとケア
  6 ドナーの健康状態のアセスメントと援助
  7 移植病室在室中の患者の援助
  8 移植関連合併症のマネジメントと援助
 F 臨床試験を受ける患者の看護
  1 臨床試験に関するルール
  2 臨床試験にかかわる専門家
  3 臨床試験の流れ
 G 外来がん看護
  1 外来がん看護を取り巻く状況
  2 外来におけるがん看護
 H がん患者の療養支援
  1 療養の場の選択肢とその特徴
  2 医療連携の実際
  3 療養調整の実際
  4 治療費や療養費の支援
  5 がん相談支援センターとピアサポート
  6 地域で生活する患者・家族を支えるシステム

巻末資料 抗がん薬一覧
索引

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