リスクに備えて臨床に活かす
理学療法にすぐに役立つ薬の知識
薬剤の知識で、理学療法はこんなにも広がる!
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理学療法を必要とする患者は、多種類の薬剤の投与を受けていることが多い。本書では、commonな疾患や症状において、よく処方される薬剤の特徴、副作用や対処法を、理学療法に必要な情報に絞って解説。薬剤知識から患者の状態を事前に把握すれば、効果的で安全な理学療法ができる。
*「理学療法NAVI」は株式会社医学書院の登録商標です。
更新情報
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正誤表を追加しました。
2021.06.11
- 序文
- 目次
- 書評
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序文
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シリーズ刊行にあたって
「理学療法NAVIシリーズ」のねらい
(New Approach for Various Issues)
今日,多くの理学療法課程を学ぶ学生が存在し,新人理学療法士もまた急増している.一人ひとりの学生や新人にとってみれば,学ぶべき医学的事項は飛躍的に増加し,膨大化する情報は錯綜している.このような状況においては,真に必要で価値のある基本的な知識と新しい技術の修得が求められる.ここでのNAVIはナビゲーション(航海術)を表しており,情報の大海のなかで座礁することなく海路を拓いてゆくための方略である.
本「理学療法NAVIシリーズ」は,理学療法,リハビリテーション医療において,きわめて基本的で不可欠な情報を厳選して示すことで,この世界に踏み出そうとするフロンティアのための水先案内人となることを志向している.
2016年9月
首都大学東京・教授 網本 和
監修の辞
リハビリテーション医学はdysmobility を治療する医学です.新生児期から老年期までの人生(whole life)にわたり,生活全般(whole life)にかかわる機能を回復させ,臓器や障害部位にかかわらず脳から四肢に至るまでのすべての障害(whole body)を治療の対象とする医学(medicine)です.
幅広い対象疾患の患者を「動かす」リハビリテーション医学は,常にリスクを伴っています.特に昨今の併存疾患を多くもった患者を治療する場合には,全身状態の把握とともに薬剤の知識がなくては適切なリスク管理ができません.急性期,回復期,生活期などの病期に限らず,理学療法士にも薬剤の知識が必要です.
本書はそのような目的で,執筆されました.
よって,本書は単なる薬剤の教科書ではなく,実際の臨床現場でのリハビリテーション医療に活かすための薬剤の知識に焦点をあてています.そこで,本書では各専門科の医師の監修のもとに,実際の臨床現場で活躍している理学療法士が執筆しています.
普段の臨床において,本書を手元におき,担当患者に処方されている薬剤をチェックし,その薬剤が何のために処方されていて,リハビリテーション治療を行うに際して,どのような点に注意し,リスク管理を行う必要があるかをチェックしていただくことをお勧めいたします.
薬剤の進歩は日進月歩です.本書では現在一般的に使用されている薬剤についてできるだけ記載したつもりですが,決してすべてというわけではありません.実際の臨床現場においては,医師,看護師,薬剤師からの正しい情報が必要不可欠であることは言うまでもありません.医師,看護師,薬剤師との円滑なチーム医療,情報交換のための基礎的な薬剤の知識を,本書によって身につけていただければと思います.
本書が多くの理学療法士,または理学療法士に限らず,作業療法士,言語聴覚士などのリハビリテーション医療スタッフの臨床現場での一助になればと願っております.
順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学・教授
順天堂大学保健医療学部理学療法学科・学科長/教授
藤原俊之
目次
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監修の辞
本書の構成と使い方
エディトリアル なぜ理学療法士が薬剤について知らなければならないのか
第1章 整形外科疾患
1 大腿骨近位部骨折術後の薬剤
2 腰椎椎間板ヘルニアの薬剤
3 腱板損傷および断裂修復術後の薬剤
第2章 脳神経疾患
1 急性期脳梗塞(ブレインアタック)の薬剤
2 脳内出血の薬剤
3 くも膜下出血の薬剤
4 認知症・認知機能障害の薬剤
5 パーキンソン病の薬剤
第3章 呼吸・循環・消化器・代謝疾患
1 集中治療中の敗血症の薬剤
2 急性心不全の薬剤
3 慢性心不全の薬剤
4 不整脈の薬剤
5 COPDの薬剤
6 肺炎の薬剤
7 消化管疾患の薬剤
8 肝障害(肝疾患)の薬剤
9 腎機能障害の薬剤
第4章 生活習慣病
1 糖尿病の薬剤
2 高血圧の薬剤
3 脂質異常症の薬剤
第5章 高齢者
1 高齢者の不眠に対する薬剤
2 肺炎予防の薬剤
3 脱水症の薬剤
4 栄養不良の薬剤
5 貧血の薬剤
第6章 緩和・精神心理
1 がん治療における緩和ケアの薬剤
2 精神・心理症状における薬剤
Column
慢性腰痛の薬剤
スポーツ現場での薬物療法①――ドーピング禁止薬への対応
スポーツ現場での薬物療法②――ドーピング検査への対応
薬剤性パーキンソニズム
多剤服用――ポリファーマシー
薬剤と医学の歴史
薬物の代謝
事項索引
薬剤索引
書評
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理学療法士の視点で楽しみながら薬剤の学習ができる
書評者:加藤 倫卓(常葉大准教授・理学療法学)
本書は整形外科的疾患,脳神経疾患,内部疾患,生活習慣病などのうち,理学療法士が臨床でよく担当する疾患や病態を厳選し,実際の臨床現場でのリハビリテーション医療に生かすための薬剤の知識の理解に焦点を絞って解説している。
病態ごとに具体的な症例を提示し,その一般的な特徴から,理学療法を施行するにあたっての医師からのリクエスト,そして,理学療法を行うにあたっての薬剤の注意点と効果的な進め方を,医師と理学療法士のそれぞれの視点から説明しており,全ての理学療法士にとって参考になる。また,全項目に共通して,多職種間で行われる臨床上でのやりとりがイラストを交えて記載されており大変読みやすく,その内容も医師から理学療法士へのサイン,問いかけ,助言,心の声など多彩に表現されており臨場感が感じられる。また,処方された薬剤がいつまで使われるか,病期による病態や症状の変化による薬剤の調整,理学療法中の事故を防ぐための中止基準やリスクマネジメント,そして理学療法上のポイントがわかりやすく記載されている。定評のある薬剤の専門書は詳細な解説が魅力ではあるが,理学療法士にとっては難解なものもある。しかし,本書はあくまで理学療法士の視点に立った内容となっており,このような形態の本は今までなかったと思われ,楽しみながら学習することができるのも魅力である。
全ての理学療法士において,症例の評価の一つとして薬剤のチェックをすると思うが,その際にはまずは本書を本棚から取り出し,ぜひ,病態と合わせてその薬剤について調べてもらいたい。また,医師,看護師,薬剤師との円滑なチーム医療,そして情報交換のための基礎的な薬剤の知識を本書によって身につけてほしいと考える。本書に記載されていることが理学療法士の共通知識になれば,理学療法の水準が一段高くなり,今よりもリハビリテーションの現場が実りあるものになることは間違いない。
理学療法士のリスク管理能力を進化させる一冊
書評者:森 明子(兵庫医療大准教授・理学療法学)
「理学療法」と「薬」,どちらも医師の処方という共通点がある治療法です。その両者の視点を踏まえた,すぐに役立つリスク管理本がこれまであったでしょうか。本書には読者を引き込み,理学療法士の頭脳に響く仕掛けがちりばめられており,まさにリスク管理能力を進化させる書籍です。
2020年4月以降の理学療法士養成校への入学生は,改正された「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」が適用となり,専門基礎分野として「臨床薬理の基礎」を学ぶことが必修化されました。その背景には医療の高度化やさまざまな医療ニーズに対応していくため,理学療法士も薬の知識が必要不可欠とされたことがあります。
チーム医療の概念が広まり,医療現場において医師,薬剤師,看護師,理学療法士,作業療法士などは,お互いに連携して患者の治療に当たり,患者中心の医療を展開することが定着してきました。そこではさまざまな情報交換や共有がなされますが,これまで理学療法士は薬の知識を学ぶ機会が少なかったため,患者に処方されている薬の情報を得ても,それを踏まえたリスク管理下での理学療法につなげる難しさがありました。
本書には,理学療法士が担当することの多い疾患の病態や症状の特徴が簡潔に書かれています。各疾患における「その薬が処方されている目的と効果」,「薬剤はいつまで使われるか?」など,投薬治療の一般的な見通しについての解説があります。日ごろ,臨床で経験する場面が会話形式で書かれており,理学療法上,特に留意すべき薬剤について触れられています。さらには「理学療法上のPOINT!」として「理学療法中の事故を防ぐための中止基準」や「リスクマネジメントの具体策」も提示されています。常に日々の臨床場面に当てはめて読み進めることができる構成なので,まるで本書に登場する理学療法士が自身であるかのような感覚になります。書かれている内容の一つひとつがふに落ち,多くの気付きが得られ,深い学びにつながる流れになっています。
重複疾患を有する患者の場合,処方される薬は複数に及ぶため,薬の全てを把握することに困難さを感じることもあります。しかし,本書にもある「クスリはリスク」という言葉を踏まえると,薬の数だけリスクがあると読むことができます。そのため,理学療法を実施する上で,なぜ薬の知識を知っておく必要があるのか,本質的に理解しておくべきことは何なのかを端的にまとめてあり,具体例も示されています。
本書は初学者にも読みやすい内容になっています。理学療法士だけではなく,臨床実習に臨む実習生や,リハビリテーション医療に携わる多くの関連職種の方にお薦めします。急性期・回復期・生活期などさまざまな臨床場面でより適切なリスク管理を行うためにもぜひ,お手元に置いていただきたい一冊です。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。