こどもセルフケア看護理論

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オレム看護論に基づき理論構築された本理論では、セルフケアが充足されない状態について、成長発達するというこどもの特性から、こども自身が充足させることができるようになるまでは、常に誰かに「依存」するのではなく、「補完」されると捉えたことが特徴。本書では、理論全体はもちろんのこと、看護支援の実際、理論を用いた実践報告、理論構築に至る過程も含めて詳説。実践に活用できる看護理論、堂々完成。
編集 片田 範子
発行 2019年09月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-03929-1
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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こどもセルフケア看護理論の発刊にあたって

 本書は,2014年から5年をかけて取り組んだ文部科学省科学研究費助成事業基盤研究A「オレムのセルフケア理論を基盤とした『こどもセルフケア看護理論』の構築」を基盤として書かれているものである。ここに到るまでを紐解くと,1980年代に看護の対象別看護の教科書がさまざまな出版社から発刊された頃から始まる。筆者が関わった『標準看護学講座29小児看護学 第2版増補』(小沢道子・片田範子 編,金原出版,1999年)の中にオレムのセルフケア不足理論を用いて小児看護を説明し,こどもを看護する際に親または養育者が不可欠であり,こどもの成長発達を考慮し,こども自身の力の発達と親または養育者がそれを認知し補完する役割を担うこと,その双方が看護の対象であることを記述した。そこから,本書で随所に出てくる「卵の図」が始まっている。卵の図はこどもが自立するまでにはセルフケアの核を持ち,それが次第に自分でセルフケアをできるようになる現象と,こどものセルフケアが親または養育者から「補完」されるという言葉に落ち着くまでの過程において,本研究の共同研究者でもある及川郁子氏との問答があった。この時期は日本での看護学修士課程の教育が始まった時期であり,理論基盤を意識した看護学の発展期でもあった。
 本書はオレムのセルフケア不足理論を基盤としているが,理論の前提として自分自身で自らのケアを行える人の存在が基底にある。『オレム看護論―看護実践における基本概念 第2版(原著第3版)』(小野寺杜紀 訳,医学書院,1988年)において成長発達する人々も対象にしていることが書き加えられているとはいえ,常に成長発達するこどもは自分自身のケアを1人ではできない年齢層に属し,身体的・精神的に十分に発達しているのに常に「セルフケア能力」が「不足している」と評され,ひとりの人間としてその存在が認められていないのではないか,という違和感を研究者は抱いていた。同様に,臨床でこどものケアに携わる看護職からもセルフケア不足とセルフケア能力の捉え方がわかりづらいと繰り返し質問された。
 一方で,小児看護をする上で,看護の対象はこども自身とその親または養育者であることは認識されており,その二者をどのようにケア対象としてみていくことができるかが問われていた。オレムのセルフケア不足理論における二者に対応する論理は,こどもの主体性を維持しながら,親または養育者への関わりの必要性も見据えるために重要であった。
 そのため,オレムのセルフケア不足看護理論を見直し,こどもを看護する上でこの理論が使えるかどうかの確認を行い,「こどもセルフケア看護理論」として概念の整理・定義を行った。同時にオレムがセルフケア不足看護理論を活かす上で必要とした「セルフケア理論」と看護の実践を引き出す「看護システム理論」も検討し,これら3つの理論の統合体として「こどもセルフケア看護理論」として提案することとした。こどものセルフケア能力の「不足」についても,こどもセルフケア看護理論の中では補完するケアとして再定義を加えた。詳細については各章で述べている。
 こどもセルフケア看護理論は新たな理論開発ではなく,既存のオレムのセルフケア不足看護理論を基盤とした上での理論開発として位置付けた。人が自分をケアする能力を持ち,学習を通してその能力をさらに適したものへと変化させ,意図した行為として実施することができる存在であることを,こどもセルフケア看護理論においても理論の前提としている。

 第1章「こどもの力を引き出す看護を創り出すために」では,「こどもセルフケア看護理論」を実践で活かすために必要な概念の整理を行った。前半ではこどもが住んでいる社会を概観し,親または養育者の存在の意味を思考し,こどもセルフケア看護理論を実践で活用する際に,特におさえておきたい基本的知識体系となる理論についても述べている。「こどもセルフケア看護理論」は看護実践に至る筋道を示しており,知識を実践で用いることによって生きた理論となり,実践される看護がこどもや親または養育者と共に築かれる。
 後半では,本書で初めてオレムの世界に入る方々にオレムの基本的な考え方を概観してもらえるよう説明を加えた。その上で,オレムの考え方を尊重しながらもこどもの場合に引き寄せて,こどもの存在の意味を研究者がどう捉えたかを説明した。そして最後に,こどもセルフケア看護理論の目的と概念を整理した。
 第2章「こどものセルフケア」では,こどものセルフケア,ケアを必要とする要因,こどものセルフケア能力とその発達,セルフケア要件について,こどもに特徴的な考え方を述べている。
 第3章「こどものセルフケア不足」では,こどものセルフケア不足,親または養育者との関係性について,新たな言葉の定義がなされている。
 第4章「こどもへの看護支援」では,こどもへの看護活動にどのように理論を取り込み考えるのか,アセスメントや必要な支援をどうデザインするかを説明している。こどもにとって必要なセルフケアをこども自身のセルフケア能力と親または養育者の補完するケア能力と提供される補完的ケア,それでも必要となるセルフケア看護の総和を動的に判断していくプロセスにも言及する。
 第5章「こどもと家族」は,こどもに必要かつ影響を与えるセルフケア要因の1つである親を含めた家族についての説明に充てた。家族理論自体が,こどもセルフケア看護理論を実践していくときに必要となる知識の1つでもあるが,こどもが生きていく上で他者の力を必要とする存在である以上,家族への関わりはこどもへの看護において重要な部分となる。そのため,家族をどのように捉えるのか,また,こどもセルフケア看護理論において,この知識をどう実践に活かすのかを含めて述べている。
 第6章「こどもセルフケア看護理論の活用事例」では,小児看護専門看護師(以下,小児看護CNS)にこどもセルフケア看護モデルを読んでもらった上で行われた実践事例を挙げ,こどもセルフケア看護理論をどのように実践につなげていくかを提示している。
 付章「こどもセルフケア看護理論の構築に向けた取り組み」では,理論構築に至るプロセスを中範囲理論の開発方略に沿って示した。

 本書の各章の執筆を担った著者は,それぞれが「小児看護」と呼ばれる看護実践の体験を持ち,その後教育研究者として,こどもの主体性を活かす看護実践に関わり続けた人達であり,それぞれが開拓してきた研究領域を持つ。また,実践の活用事例については小児看護CNSに執筆を依頼した。小児看護実践では,こどもと親を対象とするのは当然のことであり,目新しいことではない。
 しかし,看護の現場,そして社会の中で,こどもたちへの大人の対応には依然としてこどもの主体性を無視した発想がその行動に存在し続けているように見える。2019年現在,毎日のようにこどもの虐待,親の育児力の崩壊が報道されている。氷山の一角といわれているが,氷山が如何に大きくとも世界を覆いつくしている訳ではない。社会が子育てをすることに含まれる脆弱性と,そこに共存するしなやかさのバランスを今一度見直す時期を迎えている。看護が必要とされる場は病院の中だけではなく,その人々が生活を営む場にシフトされている。子育てにおいても,こどもを育てる責任を担う親または養育者がこどものセルフケア能力の存在を信じ,親または養育者として自らの責任をどう具体的に考えられるのか,看護だけではなく支援する方々にも,こどもセルフケア看護理論を使ってもらえるのではないかと望むものである。
 本書の作成に到る過程では,医学書院の編集者,特に染谷美有紀氏と北原拓也氏に草稿からご協力をいただき,書としての構成や表現,提示の仕方など丁寧に指導していただいた。本作りの専門家からのご協力は,我々に大いなる学びを提供していただいた。執筆者としての共同研究者や研究協力者は同志としてこれまで,そしてこれからも,こどもセルフケア看護理論の見直しや発展を共にできることを感謝し,期待している。また,執筆者でもある河俣あゆみ氏と原朱美氏の働きは特筆すべきと思う。一連の研究の流れでは研究費獲得の素案作りから,獲得後の研究の事務局の主幹を担い,多数の研究者の連絡の要となった。本書においても編集の補助を大いに担っていただいた。本書は看護職が執筆しているが,こどもへの支援をする職にある方々には,更なる発展を協働していただけることを願っている。

 最後に,本書が看護職はもとより,こどもとその親または養育者,ご家族へも届き,忌憚のないご意見をいただけたら幸いである。こどもがのびのびと育ち,自由と人としての尊厳を認め合える社会人への移行支援に本書が少しでも寄与できるよう祈念している。

 2019年8月
 編集 片田範子

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執筆者一覧
研究者一覧
こどもセルフケア看護理論の発刊にあたって

第1章 こどもの力を引き出す看護を創り出すために
 A.こどもを看護するということ
  1.こどもがこどもらしくいられる社会
   1)こどもの成育環境
   2)こどもがこどもらしくいられる成熟した社会へ
  2.こどもと養育者
  3.こどもを理解するために必要な理論
   1)こどもの成長発達のあり様を知り判断することに関する知識やツール
   2)こどもの発達を踏まえてこどもの反応の意味を理解するための理論
   3)こどもが葛藤したり不安を抱いたりすることを理解するための
      自我や防衛機制(精神力動論)
   4)状況の変化に関連した体験を理解する理論
   5)こどものストレス等への対応・調整する能力を使ってケアに活かす理論
   6)家族の理解を助ける理論
  4.こどもセルフケア看護理論によって何が変わるのか
  Column 実践現場におけるオレムのセルフケア不足理論導入の効果
 B.こどもセルフケア看護理論の基盤となるオレム看護理論
  1.オレム看護理論の基本的な考え方
   1)オレム看護理論
   2)セルフケア理論
   3)セルフケア不足理論
   4)看護システム理論
   5)治療的セルフケア・デマンド
 C.こどものみかた
  1.年齢にみるこども
  2.基本的なこどもの捉え方
   1)こどもは,人格と権利を持つ存在である
   2)こどもは,自らを発達させることができる存在である
   3)こどもの生きる力(「生きている力」と「生きていく力」)に着目する
  3.こどもを考える上で必要な用語と表現
 D.こどもセルフケア看護理論の構造と目的
  1.こどもセルフケア看護理論の構成
  2.こどもセルフケア看護理論を活用する意義

第2章 こどものセルフケア
 A.こどものセルフケア
  1.こどものセルフケアとは
   1)こどもセルフケア看護理論でのセルフケアの定義と特徴
   2)こどものセルフケア概略図の説明
   3)こどもの成長発達と生活
   4)こどもの成長発達とセルフケア能力の発達
   5)こどものセルフケア能力の発達とセルフケア
   6)こどものセルフケアの発達に必要なこと
 B.こどものセルフケアにおける基本的条件付け要因
  1.基本的条件付け要因とは
  2.こどもセルフケア看護理論における基本的条件付け要因
 C.こどものセルフケア能力とその発達
  1.こどものセルフケア能力
  2.こどものセルフケア能力の発達とセルフケア
  3.セルフケア能力の2側面
  4.セルフケア能力の形式の構造
   1)基本となる人間の能力と資質
   2)力(パワー)構成要素
   3)セルフケア操作能力
  Column 学童期の糖尿病をもつ患者が自己管理責任を学ぶための
         準備状況の評価に関する事例とその解説
 D.こどものセルフケア要件
  1.こどものセルフケア要件の特徴
  2.セルフケア能力とセルフケア要件
  3.セルフケア要件の充足
  4.こどもの普遍的セルフケア要件
  5.こどもの発達的セルフケア要件
   1)こどもの発達を促進する条件の提供
   2)こどもの自己発達
   3)こどもの発達の阻害
  6.こどもの健康逸脱に対するセルフケア要件

第3章 こどものセルフケア不足
 A.こどもにおけるセルフケア不足
  1.こどもにおけるセルフケア不足
  2.「依存」から「補完される」とする考え方
  3.こどもにとって補完されるケア
 B.こどもと親または養育者の関係
  1.こどもと親または養育者の関係
  2.こどものセルフケア不足を補完する力とは

第4章 こどもへの看護支援
 A.こどもセルフケア看護理論における看護実践の構造と内容
  1.「こどもに必要なセルフケア」
  2.「こどものセルフケア能力」と,こどものセルフケアを補完する
     「親または養育者のケア能力」
  3.「看護者の能力」
 B.こどものセルフケア能力を引き出す看護の役割
 C.こどもセルフケア看護理論における看護システムの基本構造
  1.看護システムの目標
  2.看護システムの基本構造
 D.こどもセルフケア看護を構成する要素
  1.看護範囲の決定と看護することについての合意
  2.こども(ケアを受ける本人),ケアを提供する者,その役割の明確化
  3.「こどもに必要なセルフケア」の確定
  4.こどものセルフケア能力と可能な行動の確定
  5.親または養育者の,こどものセルフケアを補完するケア能力と可能な行為の確定
  6.看護として行うケアの確定
  7.こどもセルフケア看護の計画策定
 E.こどもセルフケア看護のアセスメントの概要
  1.アセスメントの実施
  2.家族システム要因
 F.アセスメントと看護として行うケアの確定
  1.「こどもに必要なセルフケア」の確定
  2.こどものセルフケア能力と可能な行動の確定
   2-1)こどものセルフケア要件を満たす力のアセスメント
   2-2)こどものセルフケアを行う力のアセスメント
   2-3)こどものセルフケアの限界のアセスメント
   2-4)こどものセルフケア能力とセルフケアの限界を合わせたアセスメント
  3.親または養育者がこどものセルフケアを補完するケア能力と可能な行為の確定
   3-1)親または養育者のこどものセルフケア要件を満たす力と
        可能な行為のアセスメント
   3-2)親または養育者のこどものケアを行う力のアセスメント
   3-3)親または養育者のケアの限界のアセスメント
   3-4)こどものセルフケアを補完する親または養育者のケア能力,
        ケアの限界を合わせたアセスメント
  4.セルフケア不足:看護として行うケアの確定
  5.こどもセルフケア看護の計画策定
 G.援助方法と看護システムのタイプ
  1.援助方法
  2.こどもへの看護システムのタイプ─3つの基本型
   1)全代償的看護システム
   2)一部代償的看護システム
   3)支持・教育的(発達的)看護システム
 H.こどもセルフケア看護の実践
 I.こどもセルフケア看護の評価
 J.こどもセルフケア看護の設計の例
   1)基礎情報
   2)既往歴
   3)現病歴
   4)情報とアセスメント
   5)セルフケア不足のまとめ
   6)こどもへの支援:看護計画

第5章 こどもと家族
 A.こどもへのケアと家族へのケア
 B.こどもセルフケア看護理論における家族のみかた
 C.こどもセルフケア看護理論における家族の位置付け
 D.こどもセルフケア看護理論における家族へのケア
  1.家族システム要因のアセスメント
   1)家族システムの5つの特性からのアセスメント
   2)家族の多面的なアセスメント
  2.こどもセルフケア看護理論における家族へのケア
   1)こどものセルフケアを補完する親または養育者へのケア
   2)家族システムを調整するケア
 E.家族システムを調整するケアとこどものセルフケアを補完する
     親または養育者のケア
   1)家族のシステムの変化を時間軸で捉える
   2)家族システムをアセスメントする
   3)家族システム要因のアセスメントに基づき,家族ケアを考える
  Column 健康な家族システムの図式化
  Column 家族発達理論の考え方─家族の発達段階と発達課題

第6章 こどもセルフケア看護理論の活用事例
      事例の前に─実践から見る看護者に必要な力・親または養育者に求める力
  1.実践から見る看護者に必要な力
  2.実践から見る親または養育者に必要な力
  事例1 [新生児・乳児期]こどもの在宅移行時の呼吸状態の
        安定化を図るセルフケア能力を高める支援
  事例2 [新生児・乳児期]NICUに入院中の終末期にある
        こどものセルフケアへの支援
  事例3 [幼児期]障害のあるこどもの発達に応じた親子関係を育む支援
  事例4 [幼児期]周術期で痛みや処置による恐怖感のあるこどもへの支援
  事例5 [学童期]複雑な疾患を抱え,セルフケア能力を
        発揮することが難しいこどもへの支援
  事例6 [学童期]外来での医療的ケアを必要とするこどもへの支援
  事例7 [学童期]こどもからのSOSを支援する看護の役割
  事例8 [思春期]中途障害により新たな生活の再構築を必要とするこどもへの支援
  事例9 [思春期]病棟での回復期の離床に向けたこどもへの支援
  事例10 [思春期]入退院を繰り返しながら成長してきた慢性疾患を持つ
        こどもの自立に向けたセルフケア能力を獲得するための支援

付章 こどもセルフケア看護理論の構築に向けた取り組み
  1.研究の全体像
  2.理論構築のプロセス
   1)概念に基づく看護介入の開発と概念の定義
   2)類似点と相違点の特定
   3)介入の臨床的思考と研究を通した検証
   4)研究結果の統合とテーマの発見
   5)ケアプロセスの異なるポイントで,異なる患者と家族のグループに
      提供される臨床観察とより多くの臨床観察,研究とその統合
   6)パターン,テーマ,相違点の発見
   7)さまざまなステージにおける研究結果の伝達

用語解
索引

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こどものセルフケアを捉えるための拠りどころとなる書
書評者: 濱田 米紀 (兵庫県立こども病院看護部・小児看護専門看護師)
 「こどもは生きる力(生きている力と生きていく力)を持っている」「こどもは,自らを発達させることができる」――こどもセルフケア看護理論の根底に流れる子どもの力を信じる強い思いは大変魅力的である。この理論は,オレムのセルフケア看護理論を基盤とし,「こどもを主体とする看護実践」をめざして構築されている。従来,子どもは発達途上にあるがゆえに,その未熟性に焦点が当てられ,「何かをしてあげる」対象として見られる傾向があった。しかし,日々子どもの力を目の当たりにしている看護師としては,子どもをセルフケアという視点で捉えることの重要性を感じている。

 本書は,「第1章 こどもの力を引き出す看護を創り出すために」「第2章 こどものセルフケア」「第3章 こどものセルフケア不足」「第4章 こどもへの看護支援」「第5章 こどもと家族」と展開される。どの章においても,日本文化や社会に適した表現に工夫され,用語や概念が整理されている。また,具体的な場面や事例を挙げ,丁寧に説明されているため,理解しやすく,活用につながる。「第6章 こどもセルフケア看護理論の活用事例」では,発達段階ごとに,この理論を実際に活用した事例が掲載されており,より具体的に身近なものとして理解できる。さらに,「付章 こどもセルフケア看護理論の構築に向けた取り組み」には,理論構築のプロセスが詳細に示されており,その道筋を知れることはとても興味深い。

 子どものセルフケアは,親の影響が強く,どのように捉えるとよいのか難しいところがあったが,この理論では,セルフケアを「卵の図」で表現してあり,複雑な子どもと親のセルフケアの状況を容易にイメージできる。また,「こどもセルフケア看護のアセスメントと計画策定の枠組み」がシート(表)として示されていることで,情報収集からアセスメント,看護デザイン・計画策定,評価までを整理し共有しやすくなっている。

 この理論は,さまざまな臨床の場で広く活用されることをめざしている。評者はこれまでに,小児看護領域においてセルフケア理論を活用しようと試みたが,用語の難しさ,新生児や乳児のセルフケアの捉え方,子どもと親のケアバランスのアセスメントの仕方などに戸惑い,うまく活用が進まなかった経験がある。この理論は,これらの悩みを解決に導いてくれると期待する。臨床現場で理論を活用する中で,子どものセルフケアを的確に捉え,より良いケア提供につなげていきたいと考える。そして,こどもセルフケア看護理論を拠りどころとし,常に子どもを大切にできる看護師となれるよう努めていきたいものである。
こども達への尊い思いを感じ,ケアの力強いよりどころとなる書
書評者: 倉田 慶子 (東邦大助教・看護学/小児看護専門看護師)
 こどもセルフケア看護理論は,オレム看護理論(以下,オレム)を基盤としている。看護に携わる者に馴染み深いオレムであるが,読み解こうとするとなかなか難しい。院生のときに,成人と小児看護学領域の学生が合同でオレムを用いて事例を展開する課題に取り組んだのだが,オレムのいわんとするセルフケア不足をどのように捉えるのかで議論が白熱した。成人と小児の場合では,明らかにセルフケアできる機能や行動が違うためである。その記憶から,本書が「こどものセルフケア不足」をどのように捉えて臨床でケアしていくのかを興味深く読み進めた。

 こどもにおけるセルフケア不足について,「こどもにおいては,成人と比較して未熟であることや力が不足しているという意味ではなく,こども自身が本来的に期待される力を発揮してもまだこどもであるがゆえに必要なセルフケアが存在する状態である」(p.68)を読み,自身では表現できずにいた概念がすっと頭の中に入った。そして,「こどもは,親または養育者からの支援を必要とする存在であり,セルフケア能力が拡大し,自分自身でセルフケアを充足させることができるようになるまでは,常に誰かによって補完されることが必要となる」(pp.68-69)と述べられ,親や養育者がケアを提供する理由も明確に示されている。また,卵に見立てた図において,「こどものセルフケア」(黄身)と「こどもにとって補完される必要があるセルフケア」(白身)が成長発達と共に変化していく関係が示されている。補完される白身は,成長発達と共に縮小される。「こどもにとって必要なセルフケアを親または養育者が十分に補完できず,セルフケアが満たされない場合は,(中略)親または養育者は,自らの責任に基づいて,他のケア提供者(例えば,祖父母)を活用して,こどものセルフケアを補完することを試みる。このレベルでこどもにとって必要なセルフケアを補完されている場合は,専門者からの介入は不要となる」(p.69)と,介入の目標をイメージできる。看護者は,こどものセルフケア不足の部分,健康上の理由によりこどもが実施すべきでない活動,こどものエネルギー消費と治療範囲などを判断し,看護者が親や養育者に代わって援助をするのか,指導し方向づけるのか,身体的・精神的サポートをするのか,発達を促進する環境を提供・維持するのか,教育するのかを選択するのである。「第6章 こどもセルフケア看護理論の活用事例」は,臨床現場でぜひ活用してもらいたい。

 本書では,こどものセルフケア能力は生まれたときから備わっており,セルフケア能力が不足している存在ではなく,一人の人間としてその存在を尊重している。編集の片田範子氏をはじめとした執筆者の「こども達への尊い思い」が存分に伝わる。そして,思いにとどまらず,ケアの土台となる看護理論として構築されたことは,こどもの看護に携わる者にとって,何よりも力強いよりどころになるのではないだろうか。

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