スパルタ病理塾
あなたの臨床を変える!病理標本の読み方

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病理を読まないなんて、もったいない! 病理標本を読み解き、病態を理解できれば、臨床が変わります。「普段戦っている相手(=疾患)の本質」がわかり、「病理診断のプロセス」がわかる、臨床と病理をつなぐ1冊。「病理に詳しい臨床医になりたい!」を“診断屋”が叶えます。

執筆 小島 伊織
発行 2020年02月判型:A5頁:206
ISBN 978-4-260-04130-0
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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まえがき

 この本は,初期研修医を中心に,医学部高学年~若手臨床医を対象にした病理診断の入門書です.元ネタは私が院内で研修医向けに行っていたワークショップ形式の勉強会で,その他の勉強会のために作った資料や個人的に考えてきたことを付け加えて執筆しました.
 私は2011年に名古屋大学を卒業し,その後,初期研修から現在まで大同病院に勤務しています.初期研修を終えてからは,基礎医学への関心,実験よりは臨床,ジェネラリスト志向といった理由で病理医という道を選択しました.病理医としてのキャリアを積みながらも一方で,2019年1月までの6年弱,救急当直の輪番に入れてもらい,平均して月2回ほどの内科当直業務を行ってきました.
 その背景には,研修医時代に身につけた技能を失いたくない気持ちや,病理医も臨床医の一員であること*を明確に示したいという気持ちがありました.全科に待機医が設定され,入院後の専門的治療をお願いできる“振り分け救急”システムだったからこそ可能であったのは確かですが,全身の疾患を網羅する診断力や,剖検を通じて身につけた解剖学的土地勘・・・を駆使した身体診察・画像読影では,病理医としての技能が大いに活かせたと感じています.
 また,通常業務で他科から病理医へコンサルト(診断依頼)がある一方で,救急ではこちらから他科へコンサルト(入院治療依頼)をすることになるので,臨床医との双方向的な助け合いの関係が発生し,より良好な意思疎通・信頼関係の構築に役立ちました(本書は臨床医向けの本なのでここで書くべきことではないかもしれませんが,臨床志向の若い病理医にはぜひ何かの形で臨床業務を少しでも掛け持つことを勧めたいです.病理医としての知識・技能を臨床現場で存分に活かし,また臨床の「こころ」を病理の現場に持ち帰って日常業務にあたってほしいと感じています).

 病理と臨床の間に壁はない,という確信を得つつあるところに,研修医から病理の勉強会をやってほしいとオファーがありました.救急当直業務を通して定期的に研修医と接する機会があることで,私は一般的な病理医に比べると研修医にとって身近な病理医となっていたのかもしれません.
 そこで始めたのが,ワークショップ形式の病理診断の勉強会,「スパルタ病理塾」でした.1時間の中で,①その回のテーマとなる病理標本の読み解き方をこちらから提示→②教科書的なことを研修医が自己学習→③学んだことをプレゼンテーションしてもらい知識を確認→④実際の標本写真をみせながら診断プロセスの実際を体験してもらう,というものです.病理学の知識自体は教科書を開けば載っているので,勉強会ではそれらの知識がなぜ必要か,どのように使うのかを伝えていこうと考えました.標本の読み解き方を伝えるのと同時に,その過程を通して研修医が「普段戦っている相手(=疾患)の本質」とは何か,考えるきっかけとなることを目標としました.
 この勉強会の他,選択ローテート研修の受け入れも研修医との大事な接点です.当科では研修医や臨床実習の医学生を毎年,それぞれ2~3人受け入れています.一緒に標本をみていく中で,彼らがつまずきやすいポイントもだんだんみえてきたため,そこをどうクリアしてもらうか,考えを巡らせるようになりました.もちろん私自身も同様のつまずきを経て病理医になったわけですが,自分がどのように乗り越えてきたかを言語化して伝えることで,自らの理解をさらに深めることにつながりました.これらは研修医や学生から私が教えてもらったことであるといえます.

 このように本書は,単なる病理診断医としてではなく,1人の医師としての私の経験が総合的に盛り込まれたものです(年数はまだまだ浅く,こんな偉そうな言い方には我ながらかなり違和感がありますが……).私はいろいろな恩師の影響を受けており,本書にはそんな先生方に教わったこともたくさん盛り込まれています.
 名古屋大学医学部低学年時代に通った分子生物学の研究室で科学の考え方についてトレーニングしてくださった門松健治先生,病理学の講義を通して病理診断の魅力を伝えてくださった小野謙三先生(現 旭ろうさい病院)は,その後の進路選択に大きな影響を与えてくださいました.臨床実習の選択科目でお世話になった総合診療科では,伴信太郎先生(現 愛知医科大学),鈴木富雄先生(現 大阪医科大学)から診察技法のみならず臨床疫学や診断推論についての丁寧なご指導をいただきました.この実習期間中に地域医療実習でお世話になった吉村学先生(現 宮崎大学)からは,山間部の診療所でも大学病院と同様のEBMが実践できること,また日常業務のあらゆるシーンが学生・研修医教育の題材となりうることを学びました.
 実際の病院業務については,研修医として入職した大同病院のすべての先輩医師,スタッフの皆さんが恩師です.病理医としては,病理診断科部長の堀部良宗先生から私に合ったスタイルで全面的に育て上げていただき,また藤田医科大学で開催される症例検討会「東海病理医会(ワカロウ会)」では,黒田誠先生(藤田医科大学),村田哲也先生(鈴鹿中央総合病院),浦野誠先生(藤田医科大学)をはじめとする大先輩方から多くの温かいご助言をいただいてきました.病理学会の総会や中部支部交見会では母校の中村栄男先生がコメントに立たれるたびに,病理学・病理診断の根本的な姿勢や考え方について立ち返って学ばせていただいています.
 これらの皆様に教えていただいたことをすべては活かしきれない自分の非才が悔やまれますが,たとえその一部でも(私の解釈を加えつつ)後輩たちに伝えていくことは自分の使命であると信じて,これからも医学教育に携わっていきたいと考えています.

 2020年2月
 小島伊織


* 病院で働く病理診断医は患者1人ひとりのための診断業務を行っており,臨床医の一員であるという意識を持っていることが多いです.ただ定義次第では「患者に直接会って診察・治療する医師が臨床医」となり,その場合は病理外来などで患者・家族に病理診断を説明する業務を行う病理医以外は臨床医でないことになります.本書では基本的に,病理医と対比して「非病理・・・臨床医」というニュアンスを込めて,「臨床医」という語を狭義で用いることにします.

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序章 病理標本を読むべき理由,これまで読めなかった理由
 病理診断は画像診断より遠い?
 自ら病理標本を読むメリット
 医学部で習わなかった病理診断

第1章 病理所見で何を認識し,どう診断に至るのか
      病態のベクトルと診断プロセスの全体像
 診断のための所見を!
 組織を病理総論で分析する
 傷害する側の組織像
 反応する側の組織像
 病態のベクトル
 診断の流れの全体像――臨床診断との比較

第2章 一番「よくみえる」対物レンズはどれだ? 弱拡大の重要性
 診断に役立つ対物レンズを選べ!
 標本全体像の把握と病変部位の特定
 病態を大まかに認識する――病理用語の定義に立ち戻れ!
 癌の理解は生検よりも手術標本から始めるべし
 病態ベクトルの方向を外さない! 弱拡大での観察の進め方

第3章 腫瘍における組織型の考え方と眼の付けどころ 分化方向をどう読み取るか
 組織型の決定が必要な理由
 その腫瘍は何になろうとしているのか?
 診断のクライテリアとクルー
 扁平上皮癌――角化または細胞間橋
 腺癌――腺腔形成または粘液産生
 神経内分泌腫瘍――索状配列,胞巣状構造,ロゼット状配列,核の相互圧排像など

第4章 炎症性疾患の診断で組織所見が果たす役割
      疾患の本質は組織でこそわかる
 炎症性疾患における臨床と病理診断の共通点
 病理診断における炎症と腫瘍の大きな違い
 炎症組織を2つの視点で読み解く――炎症細胞と標的細胞
 炎症性疾患の診断における情報源
 炎症の場と浸潤細胞――肝生検①
 炎症の場と浸潤細胞――肝生検②
 炎症の場と細胞傷害像,組織反応像――肝生検③
 炎症の場と浸潤細胞,組織の修復像――大腸生検

第5章 たかがパターン,されどパターン 皮膚炎症性病変での実例
 特異性が低い所見を診断にうまく使う「パターン分類」
 パターン分類の実例
 パターン分類の有用性――病態の理解,肉眼像との対応
 簡略化したパターン分類
 海綿状組織反応パターン
 乾癬様組織反応パターン①
 乾癬様組織反応パターン②
 苔癬型組織反応パターン①
 苔癬型組織反応パターン②
 血管病変性組織反応パターン
 パターン分類で個々の症例を読み解く

第6章 特殊染色との向き合い方 HEなくして特染なし
 HE染色でみえないものや判別しにくいものを可視化する
 それでも,病理の基本はHE染色である
 特殊染色,免疫染色を行う前に
 PAS染色――粘液・多糖類の検出
 Azan染色――膠原線維と細胞成分の対比
 EVG染色――弾性線維と膠原線維の対比
 章末解説
  1 慢性肝炎の新犬山分類
  2 UIPパターンとNSIPパターン

第7章 免疫染色の使いどころとピットフォール
      特定の分子を染めてわかること vs. 特定の分子だけではわからないこと
 免疫染色の仕組みを簡単に
 免疫染色に過剰な期待をしてはいけない理由
 期待と異なる陽性像・陰性像をどう処理するか
 後腹膜腫瘍
 胃粘膜下腫瘍①
 胃粘膜下腫瘍②
 脳腫瘍
 リンパ節①
 リンパ節②
 EUS‒FNAで採取したリンパ節
 章末解説
  1 免疫染色で使う頻度の高い抗体リスト
  2 リンパ球・リンパ腫細胞の大きさ
  3 反応性濾胞過形成の組織像とその意義

第8章 伝わりやすい病理所見プレゼンテーション 所見を述べる,最初の一言
 病理所見をプレゼンテーションする場面
 その病変の「主訴」は,何だ!?――脱・だらだらプレゼン
 プレゼンを通して,標本の読み方を聞き手と共有する
 腫瘍のプレゼンテーション,一言目
 管状
 篩状
 乳頭状
 胞巣状
 索状

本編のおわりに
 いざ,顕微鏡に向かい,教科書を開け!

付録1 補習室 病理診断依頼時の心得
 Q1.どのようなときに病理診断を依頼したらよいでしょうか?
 Q2.病理診断に適した組織採取のタイミングはありますか?
 Q3.どのように検体を採取すると,病理で確定診断しやすいですか?
 Q4.採取した検体は,どのように病理検査室に提出したらよいですか?
 Q5.病理診断依頼箋にどのような内容を記載したらよいですか?
 Q6.病理診断の記載の歯切れが悪いのですが,どういうことですか?
 Q7.臨床的に想定していた疾患と病理診断が異なるのですが,どうしたらよいですか?

付録2 図書室 本書を読み終えて次のステップに進む本

Appendix
 1 電子カルテ画面で病理標本を観察できる時代
 2 診断のセンス
 3 こころの対物レンズで地域をみる
 4 皮疹名と疾患名の区別
 5 HE染色と組織の化学
 6 体系的な教科書で学ぶ意義
 7 研修医勉強会「スパルタ病理塾」について

あとがき
索引
著者プロフィール

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写真と絵でいっぱいの,病理のことを知る「読み物」
書評者: 中山 祐次郎 (総合南東北病院外科)
 この『スパルタ病理塾』は,新進気鋭の若手病理医による病理診断の入門書である。なるほど著者は研修医を終えた後も病理医をやりながら月2回の内科救急当番を続けていただけあり,病理医以外の臨床医が「何に悩んでいるのか」「何を知りたいのか」を存分に熟知している。そのコンセプトは本書にも随所に生かされている。本書は病理学の体系的な教科書ではなく,「読み物」として読者が読みやすい流れを意識してまとめてあり,病理への苦手意識がある医師・医学生にはとてもよいだろう。写真が多いのもありがたい。卒後14年目の消化器外科医である私も,歯ごたえを感じつつ面白く読めた。

 まず第1章では「病理所見で何を認識し,どう診断に至るのか」という,病理医の思考の道筋を丁寧になぞってくれている。私が膝をたたいたのは,臨床医の診断の進め方と病理診断の進め方を,フローチャートにして対比させている図であった。無学な外科医である私のイメージでは,「病理医はプレパラート数枚からバシッと病気を診断する魔法使いのような存在」であったが,その図によれば患者背景,病歴,身体所見,画像検査所見などとともに組織を観察し,必要に応じて特殊染色を追加し診断を絞っていくという。これには衝撃を受けた。研修医の頃習った「tissue is issue」というpearlを金科玉条とし,思い返せばただtissue(生検組織)を提出するだけで後は自動的にチーンと診断が出てくる,そんなふうに考えていた自らを恥じた。

 第2章では弱拡大での観察がいかに大切かを,美しい病理写真とカラフルなシェーマでかみくだいて教えてくれる。それ以降の章では,緩やかに各論が示されていく。特に臨床医の最も関心事であるだろう「腫瘍」と「感染症」については,まるで一緒に顕微鏡をのぞいて著者がレクチャーしてくれるような読み心地である。続いて,なんとなくわかった気がしていたPAS・Azan・EVG染色などの特殊染色や免疫染色についても,「そうだったのか!」の連続であった。さらには最終章で病理所見のプレゼンテーションのやり方をひもといており,これでカンファレンスの病理医の発表の意図がわかってきた。最後につけられた付録もぜいたくで,「検体はどのように提出したらよいか」「病理診断の依頼には何を書いたらよいか」など,臨床医が日々疑問に思うことに明快に答えてくれている。

 本書は『スパルタ病理塾』という書名ではあるが,著者の読者へのまなざしは春の日だまりのようにあたたかい。若手医師教育を続けてきた著者の高い教育的技量に裏打ちされた熱意が,紙面に横溢しているようだ。「はじめに」に書かれた著者の言葉「病理と臨床の間に壁はない」は,本書を読み終えた今となっては強く同意できるものである。この本を読めば,病理医-臨床医間のコミュニケーションエラーも減りそうだ。来週あたり,病理室に行ってみよう。
抜群のリーダビリティで「臨床」と「病理」を橋渡し
書評者: 市原 真 (札幌厚生病院病理診断科)
 冒頭3ページ目で,私は早くも心をツカまれた。

 「内科では『初めに疾患ありき』の内科学の他に『初めに症候ありき』の内科診断学を勉強する時間が学生時代に十分あったのに,病理については『初めに疾患ありき』の病理学の授業はあっても『初めに所見ありき』の病理診断学をしっかり勉強する時間は設けられていなかったのです」。

 これが「序章」に書いてあって,私はいきなりぶっとんでしまった。なるほど,病理医にとっての症候診断学……いわば「病理所見学」の教科書か! 心をわしづかみにされ,Amazonから本が届いたその日のうちに一気に読了,どころかなんと1日の間に2度通読してしまった。抜群のリーダビリティ。おまけに読みやすさだけではない,「覚えておきたくなる何か」が盛り込まれている。

 本書の対象は医学生と臨床医である。一方の私は病理医だ。だからここに書かれている知識は全て身についているはずなのだが,とうに知っていて説明し慣れているはずの所見にも,「なるほど,こう語れば伝わりやすいのか」という驚きがある。小島伊織先生の切り取ったカメラワークから病理の世界をあらためて見直すことに,大げさでなく感動を覚える。

 組織所見に「ベクトル」の考え方を導入することは実におもしろい。
 パターン分類を扱うタイミングがニクイ。
 注釈により厳密な論を展開しつつも本文の方向性がぶれない語り口。
 「手練れ」である。

 読み始めてすぐの頃は,病理の所見などというニッチな本に世のニーズはないだろう,かわいそうだからせめて病理医である私はこの本を応援しよう……などと偉そうに案じていたが,余計なお世話だった。心配しなくても本書は確実に売れるだろう。その理由は,本書中で小島先生自身が看破されている。以下は,私による要約。

 「これからはバーチャルスライドが発展するから,放射線科のPACS画像を多くの臨床医が気軽に閲覧できるように,病理画像もずっと手軽に見られるようになる。臨床医が自分の患者をよりよく知ろうと思うとき,病理の所見の見方を学んでおくことは必ず役に立つ」。

 完全に同意だ。小島先生は病理医のキャリアを積みながら,救急当直や内科当直を並行して実践されてきたのだという。臨床と病理を橋渡しするために生まれてきたような人の渾身の著作を,多くの臨床医に推薦したい。

 あまりにすばらしい本だから,意地の悪い私はアラ探しをしたくなる。しかし,ないのだ。用いられている組織写真の色温度が程よい。倍率も適切だ。弱拡大と強拡大のバランスには文句の付けようがない。症例選びのセンスが最高。ミニコラムが洒脱。肝臓内科医や呼吸器内科医,皮膚科医などが読んでも納得の知識量(臨床医向けだからといって無駄にカンタンにしすぎていないところがいい)。著者の近影を検索したところ普通にイケメン。巻末あとがきで妻子に感謝を述べる性格の良さ。病理医ヤンデルが膝から崩れ落ちる名著である。
病理診断を学ぶ全ての医学生・若手医師への最初の一冊
書評者: 志水 太郎 (獨協医大教授・総合診療医学)
 本書は全ての医学生・若手臨床医にとって病理診断のロードマップを示してくれる重要な一冊です。診断にかかわる臨床家の私達としては,病理診断の技術や考え方は専門家に頼りきりではなく自らも理解する努力を払う必要があります。本書は,その学習のわかりやすい手順を与えてくれます。評者は個人的に,「病理診断はフィジカル診断の一環」くらいの距離感で,親近感を持っています(その意味では本書は《ジェネラリストBOOKS》シリーズでもよいのかとも思います)。なぜなら,フィジカルでは血管を直視できるのは眼底と爪くらいですが,病理の場合は全て直視,つまり病理は究極の視診ともいえるでしょう。フィジカルの延長という理解で行けば,「病理診断」のとっつきにくい(?)印象が少しでも払拭されるのではないでしょうか。

 個人的には愛媛大学在学時の基礎配属が病理学(第二病理学)だったために,病理(特に腎)にはとても親近感を持っていますが,そのような曝露でもないと,病理の魅力に行きつくまでには心理的距離があるかもしれません。本書はそのような距離をぐっとゼロに近づけてくれます。その理由は,おそらく本書の心臓となる第1章の病理総論の整理の表(p.9)に示されるように,病理組織の見方,考え方のbig pictureが示されていること,異常のパラメータをベクトル図で示したもの(p.12)をはじめとして,病理を理解するための視覚化が明快に行われていることだと思います。それに続く章では,弱拡大・強拡大のレンジを使い分けることで全体を見ることの重要性,さらに,組織を傷害する病態の代表的な分類である腫瘍・炎症で切り分けた病理の見方,また特殊染色・免疫染色の理解についての章というわかりやすい展開になっています。

 本書の著者・小島伊織先生は中部地方の総合診療教育で有名な大同病院の病理の先生だけあり,総合診療的な視点にあふれていることも本書の特徴です。目の前の病理像を通して臨床像のコンテクストを考える大切さが各章にちりばめられ,病理を通してdirect patient careを見据える視点などの本質的なメッセージも満載です。また,病理を読むことに加えて,最終章の病理プレゼンのエッセンスや,付録の「補習室病理診断依頼時の心得」から医師間コミュニケーション上で必要な病理の考え方を身につけることができ,とても参考になります(そして,それは臨床力に直結します)。さらに,もう一つの付録「本書を読み終えて次のステップに進む本」では各章の次のステップを示してくれるリファレンスが付いていて,本書が病理診断学習の土台を担うロードマップの一冊目になり得ることを実感させてくれます。

 このように,本書はこれまでにない新鮮で独自性の高い病理学習に役立つ一冊です。医学生が読んでも(難しいところもあるかもしれませんが),病理を身近に感じられるようになる素晴らしい出合いが,この本を開くと待っているでしょう。幅広い読者層にお薦めです。

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