蛍光眼底造影ケーススタディ
エキスパートはFA・IA・OCTAをこう読み解く
ありそうでなかった、蛍光眼底造影の実践ガイドブック!
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眼循環の評価における基本的検査である蛍光眼底造影の読影ガイドブック。蛍光眼底造影読影のエキスパートたちが、豊富な症例を交え読影ポイントやコツを解説する。蛍光眼底造影の基本を身につけ、カラー眼底写真、OCT、OCTアンギオグラフィなど他の検査と組み合わせれば眼循環はここまで見える。これから蛍光眼底造影を学ぶ初学者だけでなく専門医にも必携の書。
編 | 飯田 知弘 |
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発行 | 2019年04月判型:B5頁:312 |
ISBN | 978-4-260-03841-6 |
定価 | 9,900円 (本体9,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
眼底病変は検眼鏡で容易に観察することができます。しかし,「そこに何があるのか?」という狭い意味での診断だけではなく,「それが何を意味するのか?」すなわち病態を解釈・把握し,「どういう経過をとってきたのか? 予後はどうなのか?」と過去と未来を予測して「だから,この治療が適切である」と導き出す,本当の意味での「診断」が必要です。
眼底疾患の診療はさまざまな画像検査所見から正確な診断をするmultimodal imagingの時代に入りました。OCTはその代表で,今や眼科医にとって不可欠な診療ツールとなりました。さらに血流情報を観察することのできるOCT angiography(OCTA)へと発展し,その有用性が注目されています。しかしOCTやOCTAのみに頼りすぎると思わぬ落とし穴にはまる危険性があるのも事実で,これらの所見のみでは把握できない病態もあります。
フルオレセイン蛍光眼底造影は,1961年にNovotnyとAlvisによって最初に報告され,網脈絡膜疾患の解釈がこれを機に一変しました。現在の眼底疾患学は蛍光眼底造影により構築されたといえます。以来,眼底疾患の診断,治療方針の決定とその評価に際して不可欠な検査となり,その優れた特性から,半世紀以上も前に臨床応用された検査法であるにもかかわらず,多くの検査法が新たに登場した現在でも臨床的意義は変わっていません。蛍光眼底造影がその地位を築いた理由は,網膜毛細血管レベルの検索ができる点もさることながら,網膜血管壁や網膜色素上皮に存在するバリア機能である血液網膜関門の異常を検出できるという点にあります。さらに動的に眼循環の異常を捉えることができます。まさに,眼底所見が「何を意味するのか」というダイナミックな解釈が蛍光眼底造影を読影することで可能となります。
しかし,蛍光眼底造影は古くから行われている検査であることもあり,その読影に関して系統的に学ぶ機会は少なくなっています。そのような背景のもと,基本に沿って大切なポイントを押さえ蛍光眼底造影所見を読影していただきたいとの目的で,「臨床眼科」誌に2016年1月号から約2年間にわたり「蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス」を連載し,幸い多くの先生にご活用いただきました。この度,連載を一冊の書籍として纏め,さらにOCTAなど最新の情報を加え『蛍光眼底造影ケーススタディ』を上梓いたしました。
本書を通して,蛍光眼底造影やOCT,OCTA,眼底自発蛍光などmultimodal imagingの結果を総合的に解釈して,病態の正確な把握,診断から治療へと導く診療を実践する一助にしていただけましたら編者としてこの上ない喜びです。
最後に,連載から本書を纏めるまで,ご協力いただきました執筆者の先生方にあらためて心より深謝申し上げます。
2019年3月
飯田知弘
眼底病変は検眼鏡で容易に観察することができます。しかし,「そこに何があるのか?」という狭い意味での診断だけではなく,「それが何を意味するのか?」すなわち病態を解釈・把握し,「どういう経過をとってきたのか? 予後はどうなのか?」と過去と未来を予測して「だから,この治療が適切である」と導き出す,本当の意味での「診断」が必要です。
眼底疾患の診療はさまざまな画像検査所見から正確な診断をするmultimodal imagingの時代に入りました。OCTはその代表で,今や眼科医にとって不可欠な診療ツールとなりました。さらに血流情報を観察することのできるOCT angiography(OCTA)へと発展し,その有用性が注目されています。しかしOCTやOCTAのみに頼りすぎると思わぬ落とし穴にはまる危険性があるのも事実で,これらの所見のみでは把握できない病態もあります。
フルオレセイン蛍光眼底造影は,1961年にNovotnyとAlvisによって最初に報告され,網脈絡膜疾患の解釈がこれを機に一変しました。現在の眼底疾患学は蛍光眼底造影により構築されたといえます。以来,眼底疾患の診断,治療方針の決定とその評価に際して不可欠な検査となり,その優れた特性から,半世紀以上も前に臨床応用された検査法であるにもかかわらず,多くの検査法が新たに登場した現在でも臨床的意義は変わっていません。蛍光眼底造影がその地位を築いた理由は,網膜毛細血管レベルの検索ができる点もさることながら,網膜血管壁や網膜色素上皮に存在するバリア機能である血液網膜関門の異常を検出できるという点にあります。さらに動的に眼循環の異常を捉えることができます。まさに,眼底所見が「何を意味するのか」というダイナミックな解釈が蛍光眼底造影を読影することで可能となります。
しかし,蛍光眼底造影は古くから行われている検査であることもあり,その読影に関して系統的に学ぶ機会は少なくなっています。そのような背景のもと,基本に沿って大切なポイントを押さえ蛍光眼底造影所見を読影していただきたいとの目的で,「臨床眼科」誌に2016年1月号から約2年間にわたり「蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス」を連載し,幸い多くの先生にご活用いただきました。この度,連載を一冊の書籍として纏め,さらにOCTAなど最新の情報を加え『蛍光眼底造影ケーススタディ』を上梓いたしました。
本書を通して,蛍光眼底造影やOCT,OCTA,眼底自発蛍光などmultimodal imagingの結果を総合的に解釈して,病態の正確な把握,診断から治療へと導く診療を実践する一助にしていただけましたら編者としてこの上ない喜びです。
最後に,連載から本書を纏めるまで,ご協力いただきました執筆者の先生方にあらためて心より深謝申し上げます。
2019年3月
飯田知弘
目次
開く
総論 蛍光眼底造影読影の基礎知識
造影剤の特徴から理解する造影所見
正常FA所見
血液網膜関門
異常FA所見
脈絡膜背景蛍光に関与する病態
網膜毛細血管の反応様式
総論 蛍光眼底造影とOCTAをつなぐ
OCTAの原理とそのメリット・デメリット
蛍光眼底造影とOCTAの違い
1 網膜静脈分枝閉塞症 急性期
2 網膜静脈分枝閉塞症 陳旧期
3 網膜中心静脈閉塞症
4 網膜動脈閉塞症
5 糖尿病網膜症
6 糖尿病黄斑浮腫
7 特発性黄斑部毛細血管拡張症
8 網膜細動脈瘤
9 眼虚血症候群と高安病
10 中心性漿液性脈絡網膜症
11 慢性中心性漿液性脈絡網膜症
12 滲出型加齢黄斑変性 典型加齢黄斑変性
13 滲出型加齢黄斑変性 ポリープ状脈絡膜血管症
14 滲出型加齢黄斑変性 網膜血管腫状増殖
15 萎縮型加齢黄斑変性
16 脈絡膜新生血管
17 Stargardt病とその他の遺伝性網膜変性
18 サルコイドーシス
19 Vogt-小柳-原田病
20 Behçet病
21 多発消失性白点症候群
22 急性後部多発性斑状色素上皮症
23 網膜腫瘍
24 脈絡膜腫瘍
25 視神経乳頭
索引
造影剤の特徴から理解する造影所見
正常FA所見
血液網膜関門
異常FA所見
脈絡膜背景蛍光に関与する病態
網膜毛細血管の反応様式
総論 蛍光眼底造影とOCTAをつなぐ
OCTAの原理とそのメリット・デメリット
蛍光眼底造影とOCTAの違い
1 網膜静脈分枝閉塞症 急性期
2 網膜静脈分枝閉塞症 陳旧期
3 網膜中心静脈閉塞症
4 網膜動脈閉塞症
5 糖尿病網膜症
6 糖尿病黄斑浮腫
7 特発性黄斑部毛細血管拡張症
8 網膜細動脈瘤
9 眼虚血症候群と高安病
10 中心性漿液性脈絡網膜症
11 慢性中心性漿液性脈絡網膜症
12 滲出型加齢黄斑変性 典型加齢黄斑変性
13 滲出型加齢黄斑変性 ポリープ状脈絡膜血管症
14 滲出型加齢黄斑変性 網膜血管腫状増殖
15 萎縮型加齢黄斑変性
16 脈絡膜新生血管
17 Stargardt病とその他の遺伝性網膜変性
18 サルコイドーシス
19 Vogt-小柳-原田病
20 Behçet病
21 多発消失性白点症候群
22 急性後部多発性斑状色素上皮症
23 網膜腫瘍
24 脈絡膜腫瘍
25 視神経乳頭
索引
書評
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「読影」スキルアップをめざす方に
書評者: 辻川 明孝 (京大大学院教授・眼科学)
欧米では蛍光眼底造影写真だけを見て,その所見をこと細かに読んでいく「読影」という作業が古くから行われてきました。得られた所見を元に鑑別診断を挙げ,診断を行い,治療法を決めていくわけです。日本では,加齢黄斑変性が急増した時期とインドシアニングリーン蛍光眼底造影・光干渉断層計(OCT)が普及した時期とが重なったため,昨今,重視されているmultimodal imagingが早い段階から行われてきました。そのため,得られた検査画像をトータルで判断することが行われがちであり,個々の画像をじっくり「読影」する文化が根付いてきませんでした。評者もフルオレセイン蛍光眼底造影画像を見ている最中に,OCTの画像でカンニングするということをつい行ってしまいます。
蛍光眼底造影は網膜疾患診療の基本ですが,「読影」のスキルアップはなかなか難しいといえます。その理由に造影検査画像には典型例が少なく,多くの所見の集合体であることをまず挙げることができるでしょう。さらに,造影開始から画像は刻々と変化するため,所見を得るためには見るべき画像を選び,その変化も考慮する必要があります。また,近年急速に普及しているOCT angiographyには特有のアーチファクトがあります。「読影」スキルアップのための最初のステップはエキスパートの「読影」を聞いて,それぞれの所見の読み方,着目するべき箇所を理解することです。その上で,自分で行った「読影」をエキスパートの前で披露し,批評してもらうことでステップアップが望めますが,そのような恵まれた環境にいる人ばかりではありません。
本書にはさまざまな疾患に対する多くのエキスパートの「読影」のエッセンスが凝集されています。単にいろいろな眼底造影写真が集められているのではなく,ケースに伴う眼底造影写真を通して,知っておくべき所見,「読影」の行い方が網羅されています。蛍光眼底写真の「読影」スキルアップをめざしている方にとっての身近なエキスパートになってくれる一冊と思います。
見事な写真と解説で実践的な蛍光眼底造影を学べる
書評者: 髙橋 寛二 (関西医大主任教授・眼科学)
近年,眼底疾患に対してさまざまな原理に基づいた画像検査法が発達してきており,一つの眼底疾患に対して多面的に種々の画像検査を行うことによって,より確かに,そして精密に臨床診断を行うmultimodal imagingが主流となってきている。眼底疾患に対して造影剤を用いて異常を検出する蛍光眼底造影は,フルオレセイン蛍光眼底造影ではおおよそ60年,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では約40年の歴史を持つ画像検査であるが,これらの造影は,現在まで実に多くの眼底疾患の疾患概念の確立や病態解明,治療評価に深く寄与し,眼底画像診断のgold standardとしての歴史を誇ってきた。しかし近年,精度の高い光干渉断層計(OCT)や光干渉断層血管撮影(OCT angiography)をはじめとする新しい画像診断に目を奪われ,蛍光眼底造影の読影の系統的な学習はなおざりにされる傾向がある。
本書では,蛍光眼底造影の基礎が学べる総論に続き,25項目の疾患・病態について,「point」,「疾患の概要」,「ケースで学ぶ所見の読み方」,「押さえておきたい読影ポイント」,「バリエーションとピットフォール」の6つの面から蛍光眼底造影の読影ポイントと知識がエキスパートの筆者の先生方によって要領よくまとめられている。呈示症例とその造影写真,その他の画像検査写真は全て文句のつけようがない典型的で綺麗な画像である。このテキストを通読することによって,見事な写真と解説を基に,極めて実践的な形で蛍光眼底造影の知識を自然に学ぶことができる。さらにかなりの項目では,眼底自発蛍光や最新のOCT angiographyの画像も解説の中に組み入れられており,multimodal imagingの観点から病態の新しい解釈を学ぶこともできる。
蛍光眼底造影を初めて学ぶ方,そしてmultimodal imagingの観点から今一度系統的に蛍光眼底造影を学び直し,診断力をアップしたい先生方に広くお薦めしたいニューテキストである。
multimodal imagingのツールとして正確な病態把握のために
書評者: 五味 文 (兵庫医大主任教授・眼科学)
昨今の眼底画像診断の主流といえば,非侵襲的かつ短時間で行うことのできるOCTもしくはOCTアンギオグラフィであろう。その分臨床の場で,蛍光眼底造影検査が行われる頻度が減ってきているのは間違いない。しかしながら,たとえ短所があろうとも,蛍光眼底造影検査で得られる情報量は多く,動的な血液循環や血液網膜関門の破綻の有無などは,造影剤を用いないと把握できない。すなわち蛍光眼底造影は,少なくとも今の時点ではまだ,他で補完することのできない必須の眼科検査なのである。
本書を読むと,そのような蛍光眼底造影検査の意義がありありと伝わってくる。本書は,『臨床眼科』誌で2016年から約2年間にわたって連載されていた「蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス」を土台に,OCTアンギオグラフィなどの最新の情報を加えて出版されたもので,総論と25の眼底疾患を詳述した各論から成っている。
編者の飯田知弘先生は,今の時代に必要な蛍光眼底造影を,系統立って学ぶことのできる書籍をめざされたとのことだが,なるほど蛍光眼底造影の基礎から始まってはいるものの,眼底やOCTと蛍光眼底造影所見との対比に多くの分量が割かれており,病態の正確な把握のために必要な説明が丁寧になされている。蛍光眼底造影はmultimodal imagingのツールの一つとしての位置付けなので,読影に不慣れな読者にもとっつきやすい構成であるといえる。
内容としては,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など網膜~脈絡膜の主要疾患から,ぶどう膜炎や腫瘍に至るまで,造影検査が有用と考えられる疾患群が十分に網羅されている。特筆すべきは,本書のタイトルにもあるケーススタディの項である。これが実臨床に即していてわかりやすい。疾患ごとに複数の症例が提示され,画像所見とその解釈,治療の考え方が記載されている。例えば慢性中心性漿液性脈絡網膜症の項では,(1)蛍光漏出部位が特定不能な例,(2)脈絡膜血管透過性亢進が著明な例,(3)広範囲のRPE変性萎縮を示す例,をはじめとして,実臨床で遭遇しそうな,かつ画像検査の解釈に悩みそうな6症例が提示されている。疾患ごとに,「押さえておきたい読影ポイント」と,「バリエーションとピットフォール」の項目もあり,読者にとっては至れり尽くせりである。
各項目を担当された執筆者の画像診断にかける熱意が伝わる力作であり,眼底画像診断アトラスとしても手元に置いておきたい一冊となっている。本書の豊富な蛍光眼底造影画像を通じて,OCTやOCTアンギオグラフィ所見の解釈まで容易になることは間違いない。
書評者: 辻川 明孝 (京大大学院教授・眼科学)
欧米では蛍光眼底造影写真だけを見て,その所見をこと細かに読んでいく「読影」という作業が古くから行われてきました。得られた所見を元に鑑別診断を挙げ,診断を行い,治療法を決めていくわけです。日本では,加齢黄斑変性が急増した時期とインドシアニングリーン蛍光眼底造影・光干渉断層計(OCT)が普及した時期とが重なったため,昨今,重視されているmultimodal imagingが早い段階から行われてきました。そのため,得られた検査画像をトータルで判断することが行われがちであり,個々の画像をじっくり「読影」する文化が根付いてきませんでした。評者もフルオレセイン蛍光眼底造影画像を見ている最中に,OCTの画像でカンニングするということをつい行ってしまいます。
蛍光眼底造影は網膜疾患診療の基本ですが,「読影」のスキルアップはなかなか難しいといえます。その理由に造影検査画像には典型例が少なく,多くの所見の集合体であることをまず挙げることができるでしょう。さらに,造影開始から画像は刻々と変化するため,所見を得るためには見るべき画像を選び,その変化も考慮する必要があります。また,近年急速に普及しているOCT angiographyには特有のアーチファクトがあります。「読影」スキルアップのための最初のステップはエキスパートの「読影」を聞いて,それぞれの所見の読み方,着目するべき箇所を理解することです。その上で,自分で行った「読影」をエキスパートの前で披露し,批評してもらうことでステップアップが望めますが,そのような恵まれた環境にいる人ばかりではありません。
本書にはさまざまな疾患に対する多くのエキスパートの「読影」のエッセンスが凝集されています。単にいろいろな眼底造影写真が集められているのではなく,ケースに伴う眼底造影写真を通して,知っておくべき所見,「読影」の行い方が網羅されています。蛍光眼底写真の「読影」スキルアップをめざしている方にとっての身近なエキスパートになってくれる一冊と思います。
見事な写真と解説で実践的な蛍光眼底造影を学べる
書評者: 髙橋 寛二 (関西医大主任教授・眼科学)
近年,眼底疾患に対してさまざまな原理に基づいた画像検査法が発達してきており,一つの眼底疾患に対して多面的に種々の画像検査を行うことによって,より確かに,そして精密に臨床診断を行うmultimodal imagingが主流となってきている。眼底疾患に対して造影剤を用いて異常を検出する蛍光眼底造影は,フルオレセイン蛍光眼底造影ではおおよそ60年,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では約40年の歴史を持つ画像検査であるが,これらの造影は,現在まで実に多くの眼底疾患の疾患概念の確立や病態解明,治療評価に深く寄与し,眼底画像診断のgold standardとしての歴史を誇ってきた。しかし近年,精度の高い光干渉断層計(OCT)や光干渉断層血管撮影(OCT angiography)をはじめとする新しい画像診断に目を奪われ,蛍光眼底造影の読影の系統的な学習はなおざりにされる傾向がある。
本書では,蛍光眼底造影の基礎が学べる総論に続き,25項目の疾患・病態について,「point」,「疾患の概要」,「ケースで学ぶ所見の読み方」,「押さえておきたい読影ポイント」,「バリエーションとピットフォール」の6つの面から蛍光眼底造影の読影ポイントと知識がエキスパートの筆者の先生方によって要領よくまとめられている。呈示症例とその造影写真,その他の画像検査写真は全て文句のつけようがない典型的で綺麗な画像である。このテキストを通読することによって,見事な写真と解説を基に,極めて実践的な形で蛍光眼底造影の知識を自然に学ぶことができる。さらにかなりの項目では,眼底自発蛍光や最新のOCT angiographyの画像も解説の中に組み入れられており,multimodal imagingの観点から病態の新しい解釈を学ぶこともできる。
蛍光眼底造影を初めて学ぶ方,そしてmultimodal imagingの観点から今一度系統的に蛍光眼底造影を学び直し,診断力をアップしたい先生方に広くお薦めしたいニューテキストである。
multimodal imagingのツールとして正確な病態把握のために
書評者: 五味 文 (兵庫医大主任教授・眼科学)
昨今の眼底画像診断の主流といえば,非侵襲的かつ短時間で行うことのできるOCTもしくはOCTアンギオグラフィであろう。その分臨床の場で,蛍光眼底造影検査が行われる頻度が減ってきているのは間違いない。しかしながら,たとえ短所があろうとも,蛍光眼底造影検査で得られる情報量は多く,動的な血液循環や血液網膜関門の破綻の有無などは,造影剤を用いないと把握できない。すなわち蛍光眼底造影は,少なくとも今の時点ではまだ,他で補完することのできない必須の眼科検査なのである。
本書を読むと,そのような蛍光眼底造影検査の意義がありありと伝わってくる。本書は,『臨床眼科』誌で2016年から約2年間にわたって連載されていた「蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス」を土台に,OCTアンギオグラフィなどの最新の情報を加えて出版されたもので,総論と25の眼底疾患を詳述した各論から成っている。
編者の飯田知弘先生は,今の時代に必要な蛍光眼底造影を,系統立って学ぶことのできる書籍をめざされたとのことだが,なるほど蛍光眼底造影の基礎から始まってはいるものの,眼底やOCTと蛍光眼底造影所見との対比に多くの分量が割かれており,病態の正確な把握のために必要な説明が丁寧になされている。蛍光眼底造影はmultimodal imagingのツールの一つとしての位置付けなので,読影に不慣れな読者にもとっつきやすい構成であるといえる。
内容としては,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など網膜~脈絡膜の主要疾患から,ぶどう膜炎や腫瘍に至るまで,造影検査が有用と考えられる疾患群が十分に網羅されている。特筆すべきは,本書のタイトルにもあるケーススタディの項である。これが実臨床に即していてわかりやすい。疾患ごとに複数の症例が提示され,画像所見とその解釈,治療の考え方が記載されている。例えば慢性中心性漿液性脈絡網膜症の項では,(1)蛍光漏出部位が特定不能な例,(2)脈絡膜血管透過性亢進が著明な例,(3)広範囲のRPE変性萎縮を示す例,をはじめとして,実臨床で遭遇しそうな,かつ画像検査の解釈に悩みそうな6症例が提示されている。疾患ごとに,「押さえておきたい読影ポイント」と,「バリエーションとピットフォール」の項目もあり,読者にとっては至れり尽くせりである。
各項目を担当された執筆者の画像診断にかける熱意が伝わる力作であり,眼底画像診断アトラスとしても手元に置いておきたい一冊となっている。本書の豊富な蛍光眼底造影画像を通じて,OCTやOCTアンギオグラフィ所見の解釈まで容易になることは間違いない。