地域診断のすすめ方 第2版
根拠に基づく生活習慣病対策と評価
科学的根拠に基づいた健康政策に不可欠の地域診断について解説した実践書
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科学的根拠に基づいた健康政策の具体的な進め方、特にその基本となる地域診断について丁寧に解説した実践書の第2版。メタボリック・シンドロームなどの生活習慣病対策や介護保険制度にどう対応すべきか、効果的な医療・保健サービスを行うには何をすればよいのかについても、見開き2頁で簡潔にポイントをおさえて解説。健康日本21地方計画の中間評価の進め方や、評価結果を今後の計画に反映させていく方法についても言及。これからの健康政策に必携の書。
著 | 水嶋 春朔 |
---|---|
発行 | 2006年10月判型:A5頁:192 |
ISBN | 978-4-260-00365-0 |
定価 | 2,970円 (本体2,700円+税) |
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第1章 根拠に基づく健康政策
第2章 地域診断のすすめ方
第3章 予防医学のストラテジー
第4章 健康増進計画と新しい生活習慣病対策のすすめ方
第5章 統計処理のすすめ方
第6章 エクセルを用いた集計解析のすすめ方
参考文献・資料
索引
第2章 地域診断のすすめ方
第3章 予防医学のストラテジー
第4章 健康増進計画と新しい生活習慣病対策のすすめ方
第5章 統計処理のすすめ方
第6章 エクセルを用いた集計解析のすすめ方
参考文献・資料
索引
書評
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基本を押さえ住民に喜ばれる保健活動を行うために
書評者: 津下 一代 (あいち健康の森健康科学総合センター副センター長)
平成20年度からスタートする特定健診等基本指針が固まり,1年後の本格実施に向けて,準備が加速しつつあります。今回の制度改革では,メタボリックシンドロームに着目して保健指導を重点的に行うことのほか,医療保険者が特定健診・保健指導の実施主体となること,保健事業の客観的評価方法が定められたこと,標準化された健診データが電子的に集約されて健康課題分析のためのデータが得られやすくなることなど,生活習慣病予防活動のしくみの抜本的な改革が予定されています。これからの生活習慣病対策は,従来にも増して,健康課題を適正に分析し,最適なストラテジー(戦略)を組み合わせて効率的な実施計画を立て,熱意をもって実施に移し,標準化された客観的な評価を行うという,まさに「根拠に基づく生活習慣病対策」が求められているのです。
これまで何となく前例踏襲の保健活動をしてきた,これから新たに保健事業の計画または評価をしなければならない立場になった,地域診断はしているけれど実施計画にどのように反映させてよいかわからない,健康日本21と特定保健指導の関係が整理できなくて悩んでいる……。こんなときは,まず基本に立ち返って,生活習慣病対策の全体像から考えてみることが大切です。
そんなとき,本書が役立ちます。著者の水嶋春朔先生は,現在,国立保健医療科学院人材育成部部長の要職にあり,全国の行政関係者や保健指導者,研究者に向けた研修等で広く活躍されています。本書は6年前に第1版が発行されてから多くの読者に親しまれ,地域保健の向上に寄与してきた名著ですが,今回,健康日本21中間評価や医療制度改革を含めた最近の保健政策について加筆,詳述され,第2版として発刊されました。水嶋先生は本書の中で,特定健診・保健指導の実施計画を作る前に,地域診断を正しい方法論でおこない対象集団の特性を把握すること,ポピュレーションストラテジーとハイリスクストラテジーを総合的に組み合わせ,生活習慣病対策全体をしっかり概観した上で,具体的な計画づくりに取り掛かることの重要性を強調されています。
また,本書は読者に対する配慮が随所に見られる本でもあります。見開き2頁で1テーマ完結,一読後はその都度,辞書代わりに検索でき,大変使いやすい形態です。現場でよく遭遇する事例に即した記述が多くみられますが,これは現場の保健指導者の悩みや弱みを知り尽くした水嶋先生ならではです。保健指導者に対する視点はやさしく,ユーモアあふれる先生の人柄がにじみ出ている語り口。統計が苦手という読者のために集計解析の進め方の手ほどきをされており,かゆいところに手が届く感があります。
本格実施までの時間は短いかもしれませんが,それだからこそ,本書を座右において地域診断とストラテジーの基本をきちんと押さえ,住民に喜ばれる保健活動を行いたいものです。表層的にマニュアルどおり行えば結果がでるというものではないのですから。
実践家の迷い・課題に具体例を挙げながら簡潔に解説
書評者: 井伊 久美子 (兵庫県立大学看護学部)
2005年12月に政府・与党医療改革協議会が発表した「医療制度改革大綱」においては,「生活習慣病予防の徹底」を図るため,医療保険者に対して,健診・保健指導の実施を義務づけることが示された。また,効果的な健診保健指導が実施される必要があることから,内臓脂肪症候群の概念を導入した標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)が示された。特に平成20年度からは,ハイリスクアプローチとして,対象者を階層化し,個々人の生活習慣の改善に主眼をおいた保健指導を重点的に行うとされている。「これまでの疾病中心の指導内容から生活習慣を改善するための指導」を目的とし,保健指導の対象者を「要指導」者から健診受診者「全員」とする点,そしてポピュレーションアプローチの明記も評価できる点である。しかし最近の現場の状況は,「標準的な健診保健指導プログラム」に課題が集約する傾向にある。メタボリックシンドローム対策としてのハイリスクアプローチについては,特定健診・保健指導という枠組みの中で,アウトソーシングも含めた具体的な検討が重ねられているが,一方のポピュレーションアプローチについては,今ひとつ明確な輪郭が描けないでいる。
生活習慣病予防を目的とするポピュレーションアプローチのあり方について述べるときに,ポピュレーションアプローチの概念はあってもその解釈,また具体的な活動レベルになると多様なイメージになっているのが現状であり,従来から実施されている保健活動の幅広い取り組みをポピュレーションアプローチとして再定義するのか否かなど,実践現場ではさまざまな迷いがある。
特に地域保健活動において,個別支援を,ポピュレーションアプローチとした場合,活動のあり方は規定するべきではない。幅広い活動のあり方がまだまだ試行されるべきであり,地域を基盤にした自在な活動が期待されている。そのための企画立案,および予算の裏付けが重要になるところである。
こうした実践家の今の迷いと差し迫った課題に応えてくれるのが本書であろう。特に「根拠に基づくとはどういうことを指しているのか」ていねいに具体例を挙げながら解説されており,現場のスタッフが苦手とする部分に親切に手がさしのべられている。構成においても,知りたい事項から読むことができるよう工夫されており,一項目ごとにわかりやすい具体例が示され,核心が簡潔に説明されている。関心のある項目から読み始めても,抵抗なく次に進むことができる。
「地域診断」と銘打たなければならないのか若干の違和感が残ったが,時宜を得た好著である。
目から鱗が落ちる疫学・健康政策学の良書
書評者: 山田 隆司 (宮崎県日南保健所長)
保健行政や健康政策立案を生業とするもの,保健学を修学しようとするものにとって,座右の書となるべき指南書が,ここに一つ装いを新たに誕生した。
わが国の健康増進計画である健康日本21の基本的理念に「ポピュレーション・ストラテジー」と「ハイリスク・ストラテジー」の概念が導入されていることは周知のことである。この理念の実証的学理基盤を提唱したのが,ジェフリー・ローズ博士である。著者の水嶋氏は,この先駆者の合理性にいち早く着目し,わが国の関係者へその健康政策理念を紹介した気鋭の疫学者の一人である。
水嶋氏は本書第1章で,ローズ博士が提唱したこれらの政策理念を,どうすれば現実の健康政策へ展開できるか具体的に例を挙げる。さらに政策評価の技術論へと読者を丁寧に導く。
第2章では,「地域集団は,自分の状態をしゃべれない赤ん坊」であり,医師が患者の状態を適切に把握することが,正確な診断や治療につながるがごとく,「地域診断」が,健康政策立案の中核技術であると論じ,具体的にそのすすめ方を説く。
さらに疫学情報リテラシーがどうして必要かという理説に続き,「わからない」ということがわかるようになる,という鳥瞰的視座による科学的理性のありかたに言及する。また,難解な統計学をとてもわかりやすい図表を駆使して,読者の頭を整理させる。
評者の注目は,相対リスクと寄与リスクなど政策疫学では死活的に重要であるにも関わらず,初学者には難解な概念を,ものの見事にかみ砕いてみせる点にある。
最終章では,健診データを例に,エクセルによる統計処理が誰でも取りかかれるように解説され,読者を実務者へと進化させる。
評者は,保健所長として政策疫学を実践する立場にあるが,行政の構造的傾向として,前例踏襲や「上からの指示」で政策決定が行われることを日常経験している。水嶋氏は,本書を通じ,このような「権威の意向」“Opinion-based”による意思決定に対し,「根拠に基づく」“Evidenced-based”政策立案を提唱し,行政に対し切々と行動変容を迫っている。
ところで,水嶋氏の講演を聴講したことがある方はきっと同意されると思うが,健康政策学,応用疫学のような一見難解な学知を,独自の視点から,楽しく面白く解説され,聴講空間は水嶋ワールドと化す。このような学者はまれである。評者は,非常勤講師として看護学部学生に教える立場にもある者として,著者のその教育能力に脱帽する。
その意味で,初学者のみならず,疫学・健康政策学を,どのように教えたら学生は眠らずに聴いてくれるだろうかと,悩んでおられる指導的立場の教官たちも,目から鱗が落ちる一冊である。
書評者: 津下 一代 (あいち健康の森健康科学総合センター副センター長)
平成20年度からスタートする特定健診等基本指針が固まり,1年後の本格実施に向けて,準備が加速しつつあります。今回の制度改革では,メタボリックシンドロームに着目して保健指導を重点的に行うことのほか,医療保険者が特定健診・保健指導の実施主体となること,保健事業の客観的評価方法が定められたこと,標準化された健診データが電子的に集約されて健康課題分析のためのデータが得られやすくなることなど,生活習慣病予防活動のしくみの抜本的な改革が予定されています。これからの生活習慣病対策は,従来にも増して,健康課題を適正に分析し,最適なストラテジー(戦略)を組み合わせて効率的な実施計画を立て,熱意をもって実施に移し,標準化された客観的な評価を行うという,まさに「根拠に基づく生活習慣病対策」が求められているのです。
これまで何となく前例踏襲の保健活動をしてきた,これから新たに保健事業の計画または評価をしなければならない立場になった,地域診断はしているけれど実施計画にどのように反映させてよいかわからない,健康日本21と特定保健指導の関係が整理できなくて悩んでいる……。こんなときは,まず基本に立ち返って,生活習慣病対策の全体像から考えてみることが大切です。
そんなとき,本書が役立ちます。著者の水嶋春朔先生は,現在,国立保健医療科学院人材育成部部長の要職にあり,全国の行政関係者や保健指導者,研究者に向けた研修等で広く活躍されています。本書は6年前に第1版が発行されてから多くの読者に親しまれ,地域保健の向上に寄与してきた名著ですが,今回,健康日本21中間評価や医療制度改革を含めた最近の保健政策について加筆,詳述され,第2版として発刊されました。水嶋先生は本書の中で,特定健診・保健指導の実施計画を作る前に,地域診断を正しい方法論でおこない対象集団の特性を把握すること,ポピュレーションストラテジーとハイリスクストラテジーを総合的に組み合わせ,生活習慣病対策全体をしっかり概観した上で,具体的な計画づくりに取り掛かることの重要性を強調されています。
また,本書は読者に対する配慮が随所に見られる本でもあります。見開き2頁で1テーマ完結,一読後はその都度,辞書代わりに検索でき,大変使いやすい形態です。現場でよく遭遇する事例に即した記述が多くみられますが,これは現場の保健指導者の悩みや弱みを知り尽くした水嶋先生ならではです。保健指導者に対する視点はやさしく,ユーモアあふれる先生の人柄がにじみ出ている語り口。統計が苦手という読者のために集計解析の進め方の手ほどきをされており,かゆいところに手が届く感があります。
本格実施までの時間は短いかもしれませんが,それだからこそ,本書を座右において地域診断とストラテジーの基本をきちんと押さえ,住民に喜ばれる保健活動を行いたいものです。表層的にマニュアルどおり行えば結果がでるというものではないのですから。
実践家の迷い・課題に具体例を挙げながら簡潔に解説
書評者: 井伊 久美子 (兵庫県立大学看護学部)
2005年12月に政府・与党医療改革協議会が発表した「医療制度改革大綱」においては,「生活習慣病予防の徹底」を図るため,医療保険者に対して,健診・保健指導の実施を義務づけることが示された。また,効果的な健診保健指導が実施される必要があることから,内臓脂肪症候群の概念を導入した標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)が示された。特に平成20年度からは,ハイリスクアプローチとして,対象者を階層化し,個々人の生活習慣の改善に主眼をおいた保健指導を重点的に行うとされている。「これまでの疾病中心の指導内容から生活習慣を改善するための指導」を目的とし,保健指導の対象者を「要指導」者から健診受診者「全員」とする点,そしてポピュレーションアプローチの明記も評価できる点である。しかし最近の現場の状況は,「標準的な健診保健指導プログラム」に課題が集約する傾向にある。メタボリックシンドローム対策としてのハイリスクアプローチについては,特定健診・保健指導という枠組みの中で,アウトソーシングも含めた具体的な検討が重ねられているが,一方のポピュレーションアプローチについては,今ひとつ明確な輪郭が描けないでいる。
生活習慣病予防を目的とするポピュレーションアプローチのあり方について述べるときに,ポピュレーションアプローチの概念はあってもその解釈,また具体的な活動レベルになると多様なイメージになっているのが現状であり,従来から実施されている保健活動の幅広い取り組みをポピュレーションアプローチとして再定義するのか否かなど,実践現場ではさまざまな迷いがある。
特に地域保健活動において,個別支援を,ポピュレーションアプローチとした場合,活動のあり方は規定するべきではない。幅広い活動のあり方がまだまだ試行されるべきであり,地域を基盤にした自在な活動が期待されている。そのための企画立案,および予算の裏付けが重要になるところである。
こうした実践家の今の迷いと差し迫った課題に応えてくれるのが本書であろう。特に「根拠に基づくとはどういうことを指しているのか」ていねいに具体例を挙げながら解説されており,現場のスタッフが苦手とする部分に親切に手がさしのべられている。構成においても,知りたい事項から読むことができるよう工夫されており,一項目ごとにわかりやすい具体例が示され,核心が簡潔に説明されている。関心のある項目から読み始めても,抵抗なく次に進むことができる。
「地域診断」と銘打たなければならないのか若干の違和感が残ったが,時宜を得た好著である。
目から鱗が落ちる疫学・健康政策学の良書
書評者: 山田 隆司 (宮崎県日南保健所長)
保健行政や健康政策立案を生業とするもの,保健学を修学しようとするものにとって,座右の書となるべき指南書が,ここに一つ装いを新たに誕生した。
わが国の健康増進計画である健康日本21の基本的理念に「ポピュレーション・ストラテジー」と「ハイリスク・ストラテジー」の概念が導入されていることは周知のことである。この理念の実証的学理基盤を提唱したのが,ジェフリー・ローズ博士である。著者の水嶋氏は,この先駆者の合理性にいち早く着目し,わが国の関係者へその健康政策理念を紹介した気鋭の疫学者の一人である。
水嶋氏は本書第1章で,ローズ博士が提唱したこれらの政策理念を,どうすれば現実の健康政策へ展開できるか具体的に例を挙げる。さらに政策評価の技術論へと読者を丁寧に導く。
第2章では,「地域集団は,自分の状態をしゃべれない赤ん坊」であり,医師が患者の状態を適切に把握することが,正確な診断や治療につながるがごとく,「地域診断」が,健康政策立案の中核技術であると論じ,具体的にそのすすめ方を説く。
さらに疫学情報リテラシーがどうして必要かという理説に続き,「わからない」ということがわかるようになる,という鳥瞰的視座による科学的理性のありかたに言及する。また,難解な統計学をとてもわかりやすい図表を駆使して,読者の頭を整理させる。
評者の注目は,相対リスクと寄与リスクなど政策疫学では死活的に重要であるにも関わらず,初学者には難解な概念を,ものの見事にかみ砕いてみせる点にある。
最終章では,健診データを例に,エクセルによる統計処理が誰でも取りかかれるように解説され,読者を実務者へと進化させる。
評者は,保健所長として政策疫学を実践する立場にあるが,行政の構造的傾向として,前例踏襲や「上からの指示」で政策決定が行われることを日常経験している。水嶋氏は,本書を通じ,このような「権威の意向」“Opinion-based”による意思決定に対し,「根拠に基づく」“Evidenced-based”政策立案を提唱し,行政に対し切々と行動変容を迫っている。
ところで,水嶋氏の講演を聴講したことがある方はきっと同意されると思うが,健康政策学,応用疫学のような一見難解な学知を,独自の視点から,楽しく面白く解説され,聴講空間は水嶋ワールドと化す。このような学者はまれである。評者は,非常勤講師として看護学部学生に教える立場にもある者として,著者のその教育能力に脱帽する。
その意味で,初学者のみならず,疫学・健康政策学を,どのように教えたら学生は眠らずに聴いてくれるだろうかと,悩んでおられる指導的立場の教官たちも,目から鱗が落ちる一冊である。
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