聴神経腫瘍[DVD付]
Leading Expert による Graphic Textbook

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難易度の高い聴神経腫瘍手術を学ぶすべての脳神経外科医・耳鼻科医へ。第一人者である著者が鮮明な術中写真とステップに則った詳説で、手術の基本とコツ/ピットフォールを解き明かす。診断ポイント、顔面神経・聴力温存のモニタリングポイント、手術成績も解説。書籍で知識・技術を習得し、付録DVDで洗練された手術シーンを体感するわが国初、聴神経腫瘍のすべてがわかる決定版テキスト。
編集 佐々木 富男
編集協力 村上 信五
発行 2009年05月判型:A4頁:160
ISBN 978-4-260-00806-8
定価 24,200円 (本体22,000円+税)

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  • 目次
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はじめに

 聴神経腫瘍は,後頭蓋窩の深部に発生する腫瘍であり手術難易度が高いが,良性腫瘍でありきちんと摘出すれば再発率は低い。従って,聴神経腫瘍の摘出術は脳神経外科医,耳鼻科医にとって,一つの大きな目標である。しかし,発生頻度がさほど高いものでなく手術も難しいため,若手・中堅医師が術者になる機会は多くない。一方で,ガンマナイフによる定位放射線治療も普及し,小腫瘍を手術する頻度は減少している。ガンマナイフによって小腫瘍は治療できるが,小腫瘍の手術経験なくして大きな腫瘍を摘出することは困難である。従って,聴神経腫瘍の摘出術をマスターするためには小腫瘍の手術から始めて腫瘍と顔面神経,蝸牛神経の位置関係などを十分に理解したうえで,大きな腫瘍の摘出術に移行する必要がある。ガンマナイフ治療が普及している状況下で手術摘出を選択するためには,顔面神経機能および聴力の温存を含めて,良好な手術成績を残す必要がある。若手・中堅医師が聴神経腫瘍の摘出術を始める前には,手術書でしっかりと勉強する必要があるが,良い手術書は思いのほか少ない。そこで,きれいな術中写真を用いて手術のステップを解説する教科書を作る必要性を痛感した。作る以上,単なる手術書としてだけでなく,本書を読めば聴神経腫瘍のすべてがわかる書になるように企画した。また,脳神経外科医と耳鼻科医の両者に役立つように,耳鼻科的手術法については名古屋市立大学耳鼻咽喉科の村上信五教授に執筆をお願いした。
 教科書の内容をよりよく理解していただくために,下記の手術ビデオ(約1時間30分)を付けさせていただいた。
1)脳神経外科編(lateral suboccipital approach)
① 基本テクニック編(31分),② 症例;聴力温存が必要な小腫瘍(23分),③ 症例;聴力温存が必要ない大腫瘍(16分)
2)耳鼻科編
① 経中頭蓋窩法(7分),② 経迷路法;内耳孔側からの摘出(9分),③ 経迷路法;内耳道底からの摘出(4分)
 教科書を熟読した後に,手術ビデオを観ればテキストの内容がリアルに理解できるように長めに編集しているので,活用していただければ幸いである。
 本書の刊行にあたり,東京大学医学部附属病院で術中モニタリングを担当していただいた谷口真先生(現職:東京都立神経病院脳神経外科部長)と群馬大学医学部附属病院で術中モニタリングを担当していただいた渡辺克成先生に心より感謝の意を表します。

 2009年4月
 佐々木富男

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I.発生と症状
   1.発生
   2.症状
II.診断
 A.神経耳科学的・神経生理学的診断
   1.蝸牛神経機能検査
   2.前庭神経機能検査
   3.顔面神経機能検査
   4.三叉神経の機能の評価
 B.画像診断
   1.単純X線撮影
   2.CT
   3.MRI
III.聴神経腫瘍手術のモニタリング
   術中モニタリング
   1.麻酔に関する注意点
   2.顔面神経機能モニタリング
   3.聴神経機能モニタリング
IV.脳外科的手術アプローチ
 A.後頭蓋窩法
   1.体位
   2.皮膚切開
   3.筋層離
   4.開頭
 B.顕微鏡下操作
  a.聴力温存が必要ない症例
   1.脳槽の開放と腫瘍の露出
   2.静脈の温存
   3.腫瘍の内減圧
   4.root exit (or entry) zone でのVII,VIIIの確保・同定
   5.組織学的所見に基づく腫瘍離のコツ
   6.顔面神経の走行
   7.内耳道後壁の骨削除
   8.内耳道内の操作
  b.聴力温存が必要な症例
   聴神経の走行パターン
   腫瘍被膜と蝸牛神経の組織学
   1.腫瘍摘除の手順
   2.聴力温存が比較的容易な症例
   3.聴力温存が困難な症例
   4.MRIからの予測
V.症例提示
   1.腫瘍径が5cm以上の巨大腫瘍
   2.有用聴力が温存された小腫瘍
   3.有用聴力が温存された中等大の腫瘍
   4.有用聴力が温存された巨大腫瘍
VI.筆者(T.Sasaki)の手術成績
   1.顔面神経の解剖学的温存率と機能
   2.有用聴力の温存率
   3.耳鳴り
   4.味覚障害
VII.顔面神経が切れた場合の対処
VIII.ガンマナイフ治療後再発例の手術における問題点
   1.腫瘍と神経周囲組織との癒着が強くなった症例
   2.照射線量が不十分と考えられた脳幹と接した部位からの腫瘍増大例
   3.放射線の影響で神経が変色していた症例
   4.顔面神経に axonal degeneration と demyelination が生じた症例
   5.顔面神経の電気刺激に対する反応が低下していた症例
IX.耳鼻科的手術アプローチ
 A.経迷路法
   1.経迷路法のための臨床解剖
   2.術前に必要な画像とチェックポイント
   3.手術手技
 B.経中頭蓋窩法
   1.経中頭蓋窩法のための臨床解剖
   2.術前に必要な画像とチェックポイント
   3.手術手技
X.私が愛用する手術器械と器具
   1.術中モニタリングの器機
   2.ドリルとバー
   3.水かけ
   4.吸引管
   5.バイポーラ
   6.腫瘍ピンセット
   7.その他
XI.耳鼻科的アプローチの手術成績
   1.聴神経腫瘍手術における顔面神経機能保存の成績とその予後
    -経中頭蓋窩法と経迷路法-
   2.経中頭蓋窩法における聴力保存成績
XII.ガンマナイフ治療
   1.はじめに
   2.適応
   3.治療成績
   4.聴神経腫瘍の治療戦略におけるガンマナイフの役割
索引

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聴神経腫瘍の手術における良き目標となる書
書評者: 小松崎 篤 (東京医科歯科大名誉教授・耳鼻咽喉科学)
 このたび,佐々木富男教授編集,村上信五教授編集協力による『聴神経腫瘍』を通読する機会を得たので,その感想を述べたい。

 最初に特記すべきことは,少数の手術写真を除いて写真が極めて鮮明であること,その写真が実際の手術の上で最も重要なポイントを的確に示していることである。しかも手術用の顕微鏡写真であるため焦点が合致していることは当然としても,術野を十分に止血して,きれいにした上で写真を撮らなければならず,このためには術者自身が卓越した技術を持っていると同時に,手術に余裕がないとできないものである。

 この種の著書でしばしば思うことだが,著者だけが納得している術中写真を見せられ,読者が著者の気持ちをくんだ上でないと理解できないことがある。手術写真は読者が批判的な目で見ても有無を言わせず納得させられるような写真を示してもらいたいと常々思っており,サブタイトルに「Leading ExpertによるGraphic Textbook」となっているのもうなずける。

 本書の内容については,まず聴神経腫瘍の総論として症状,診断が述べられ,診断の部分では蝸牛神経機能,前庭神経機能,顔面神経機能,三叉神経機能など,聴神経腫瘍は大多数が内耳道内から発生し小脳橋角部に進展するため,これらの機能検査を中心に実際的に記載されている。

 さらに重要なことは,聴神経腫瘍の大多数は前庭神経から発生することはよく知られているが,(本書では述べられていないが)前庭神経のうちでも下神経由来が80~90%であることも近年の研究でわかっており,このことは早期診断上のみならず手術における内耳道内の操作に重要な意義を持つことである。

 後頭蓋窩法では開頭後の操作として後頭蓋窩内での腫瘍剥離のコツ,顔面神経の走行とそのバリエーション,内耳道後壁の骨削除,内耳道内の操作など聴力温存が不要な場合と必要な場合に分けて,その実際を多くの写真で示している。模式図ではなく具体的に,しかも的確な写真でこれらを示すことに力を注いだ著者の努力に敬意を表したい。このことは,本書に付属された手術のDVDでも実際の操作を見ることができる。

 さらに手術成績として288例の症例から顔面神経,聴力,味覚の機能検査の結果が示されている。

 この手術成績は自分に都合のよい症例だけを手術した結果とは異なり信頼のおけるものと思われ,聴神経腫瘍の手術を自分の得意分野の一つにしようとする者にとっての一つの目標点を示したことにもなる。

 一方,耳鼻科的アプローチは村上氏によって執筆されている。耳鼻科医が行う場合は主として経迷路法と経中頭蓋窩法であり,それらについて記載されている。

 経迷路法では習熟すれば乳突蜂巣―迷路開放―内耳道への到達はほぼ一直線でそれほど問題ないが,習熟していない場合はオリエンテーションに戸惑うことがある。その点,本書に図示されているように乳突蜂巣削開から三半規管の確認,半器官開放,迷路開放,内耳道への到達と明快な実際の写真を示し,模式図はあくまでも手術写真の説明に使用している配慮は効果的である。

 顔面神経を恒常的に同定することは,聴力保存とともに聴神経腫瘍手術の重要課題であるが,経迷路法は内耳道底を反射鏡や内視鏡などを使用せず常に確実に明視下に置くことができ顔面神経の同定には最も確実な方法である。しかし,本法の欠点である術後聴力が喪失すること,近年聴力の良好な症例が診断されるようになったことなどから,聴力保存のための中頭蓋窩法の記載がある。

 中頭蓋窩法での問題点は内耳道をどのようにして同定するかで,この同定にはいくつかの方法が考案されているが,著者も述べているように複数の方法で確認することが重要である。なお,内耳道の確認には筆者らは術前あらかじめ3D-CTで中頭蓋窩面を構築しておき,さらにコンピュータ上で内耳道上壁を開放しておく方法をとっているが,この方法だと術前に中頭蓋窩面や内耳道をあらかじめ記憶しておくことができるため有効な方法だと思っている。

 経中頭蓋窩は経迷路法に比して視野が狭いため著者のいうごとく内耳道より1cm以上後頭蓋窩に突出した症例については,聴力保存は低下するが小腫瘍についての聴力保存率は良好で,手術成績も諸家の報告とともに後半で述べられておりこれも一つの努力目標になろう。

 当然のことながら聴力保存のためには術中のモニタリングは重要であるが,さらに重要なことは,術中にこの操作を行うと誘発電位に異常を来す可能性があることを細心の注意の中に「病識」として持てるかどうかというところであろう。そうすれば,たとえその瞬間に誘発電位に異常はなくても,あえて数分待ち異常がなければ手術を進行させることができる。その瞬間に異常がなくても数分後に異常が出現する可能性がある場合,そのまま手術を進行させると非可逆的な変化を起こし得るので,そのようなある種の「病識」は機能保存のためには重要である。このことは聴神経腫瘍のいかなる手術法であれ共通した理念といってよいであろう。

 なお,随所にみられる「ワンポイント アドバイス」は著者の永年の経験から得られたアドバイスで,聴神経腫瘍の手術を行う医師にとっては参考になるところが多いはずである。

 DVDでは実際の操作で特に注意が必要と思われる操作について明快に示されている。ある程度の経験者であればおのおのの部分の重要性はわかるが,できれば術中の重要なポイントについて簡単なコメントを入れていただければより参考になったと思われる。

 以上,著者も「はじめに」の部分で述べられているごとく,この種の手術書には「良い手術書はおもいのほか少ない」のも事実で,聴神経腫瘍の良い手術成績を残すためにも,若手・中堅医師に自信を持って薦めることができる手術書である。
聴神経腫瘍を摘出するための本
書評者: 端 和夫 (太平洋脳神経外科コンサルティング代表/新さっぽろ脳神経外科病院名誉院長)
 佐々木富男先生の『聴神経腫瘍』が医学書院から出版された。

 第一の特徴は,よくぞ日本語で出版して下さった,ということである。佐々木先生は米国の留学経験が長く,英語には抵抗はなかったはずで,もし先生がその気になれば,ひょっとすると英語の本になっていたかもしれない。しかし読む側には日本語のほうがありがたい。基礎医学と違って,臨床医学は国民医療が問題である。発展途上国ではあるまいし,そのための情報を英語で読まなければならないバカバカしさは,英語になったNeurologia medico-chirurgicaを読むときの感じと同じである。国際的名声を求めず,日本語で出版されたことに拍手を送りたい。

 第二は,この本はまさに聴神経腫瘍を摘出するための本であるということである。摘出に必要な知識は詳しく書かれているが,それ以外のことは最小限に留めてあり,読むほうは,煩雑な知識の羅列,例えば発生学や組織学的分類などにうんざりすることなく,すぐに摘出の問題に集中できる。この腫瘍は上手に摘出さえできれば解決する,それを決めるのは術者の技量である,という著者の気概が感じられる誠にケレンミのない記載は好感が持てる。そして,きれいな術中写真と図が多く,読みだすと止まらなくなり,割合簡単に最後まで読める。

 第三は,解説が具体的で,豊富な経験に基づくことが感じられることである。「内減圧中の出血を凝固したのち,生理的食塩水で頻回に洗浄して熱で顔面神経が障害されるのを防ぐ」という記載や,「細心の注意を払って顔面神経を腫瘍から剥離してゆくと,突然,透見できるほど薄くfanningした顔面神経が内耳孔方向へ立ち上っていた」などの記載の背景には,それぞれ苦労した経験があることが感じられ,まるで手術場で,佐々木先生から直接感想を聞いているようである。

 顔面神経や聴神経の機能を温存するために,腫瘍の被膜を残して,「subcapsularあるいはsubperineurial dissectionをする」という記載が多くの場面で登場する。組織学的な理論づけもある。これは大変重要な戦略で,建前にこだわらず,勇気を持ってこのことを強調された書き方には共感を覚える。おそらくある程度の経験を持つ脳神経外科医が読めば,自分が行った手術の場面が自然に目に浮かんできて,今度は上手くやろうと改めて思うかもしれない。

 第四は,従来あまり触れられていなかった術後の耳鳴りや味覚障害について書かれていることである。読者は今後,聴神経を下手に残すと耳鳴りだけが温存される,という俗説に惑わされずに済むことであろう。また,顔面神経麻痺が残ったときの対応の記載も具体的である。ガンマナイフ治療の章もあり,正直な効果と問題点が明らかにされている。

 第五は,translabyrinthineとmiddle fossa approachによる手術が,名古屋大学耳鼻科の村上信五先生によって書かれていることである。やはりきれいな写真と図がたくさんあり,歯切れのよい村上先生の解説は非常にわかりやすい。ところどころに手術のコツがアドバイスとして書かれていて,ひとつ自分でもやってみようかという誘惑に駆られるほどである。しかし,教科書を読んだだけでこのアプローチをやってみようというのは蛮勇で,やはり最初の数回は耳鼻科の先生と一緒が無難であろう。その後は,本書を読みDVDもよく見れば,おそらく大丈夫ではなかろうか。

 最後は何といっても手術のDVDが付いていることである。術野に出血の少ない手術はMalis先生やSamii先生のビデオが有名であったが,佐々木先生,村上先生の手術も大変きれいな術野である。

 聴神経腫瘍に関係する解剖的構造は複雑ではあるが,十分把握できる程度であり,規則性もかなり高い。画像診断やモニタリングも進歩した。正しい計画と戦略で手術し,出血に煩わされずに切除や剥離すべきものをよく見て,心を落ちつけて,慎重,丁寧に操作すれば,聴神経腫瘍の摘出に成功する確率は高い。そのためにこの本を読んで患者の役に立ってほしい,というメッセージが読後に伝わってくるようである。

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