医療現場におけるパーソナリティ障害
患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして
パーソナリティ障害への理解を深め、適切な治療関係を築くために
もっと見る
一般人にも広がりつつあるパーソナリティ障害。医療現場で彼らに出会ったとき、あなたはどう接することが求められているのか? ときに対応に苦慮する患者のいわば人格に起因する問題に対し、精神科医療の立場からその解決の指針を示し、患者と医療スタッフとの間によりよい関係を構築するための手法、アイデアを著した意欲作。患者の問題行動に悩む全医療者に読んで欲しい本。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 目次
- 書評
目次
開く
I. パーソナリティ障害の臨床における意味
第1章 パーソナリティ障害とは何か
第2章 パーソナリティ障害の類型
第3章 パーソナリティ障害評価の臨床的な意味
第4章 パーソナリティ障害の治療
II. パーソナリティ障害に由来する医療現場における問題
第5章 医療的問題を生じる症例の検討
第6章 治療関係に問題を起こす症例の検討
第7章 医療の導入に問題が認められた症例の検討
III. パーソナリティ障害の問題への対応
第8章 治療の対象となる問題への対応
第9章 治療の対象とするのが困難な問題への対応
第10章 患者・医療スタッフ関係とパーソナリティ障害
あとがき
索引
第1章 パーソナリティ障害とは何か
第2章 パーソナリティ障害の類型
第3章 パーソナリティ障害評価の臨床的な意味
第4章 パーソナリティ障害の治療
II. パーソナリティ障害に由来する医療現場における問題
第5章 医療的問題を生じる症例の検討
第6章 治療関係に問題を起こす症例の検討
第7章 医療の導入に問題が認められた症例の検討
III. パーソナリティ障害の問題への対応
第8章 治療の対象となる問題への対応
第9章 治療の対象とするのが困難な問題への対応
第10章 患者・医療スタッフ関係とパーソナリティ障害
あとがき
索引
書評
開く
パーソナリティ障害患者と関わる臨床家必読の書
書評者: 萱間 真美 (聖路加看護大教授・精神看護学)
「あの人は,人格障害(ボーダー)だからね」という言葉は,日々患者からの攻撃にさらされ,甘えられ,持ち上げられるかと思うと途端に激しく中傷されたりする被害にあい続けるスタッフが,状況に絶望したときに漏らすひとことであるように思う。
本書は,このように嘆く医療スタッフの気持ちやよくある臨床の状況にまずしっかりと寄り添ってくれる。ほとんどあらゆるタイプの患者の,あらゆる種類の問題状況を探すことができる。私もこう言われた。こんなふうに患者さんは悪くなった。ひどかった。読む人はまず救われる。
しかし,読み進めると,事例の物語は絶望に向かっては語られず,むしろ再生へと進んでいく。どうしようもない空虚感を訴え,自傷行為を繰り返し,家族や医療者を振り回しながら,手を尽くし,困り果てながらも見捨てず,関心を持ち続けてくれる誠実な主治医の横で,患者はゆっくりとではあっても成長していく。その光景は,治療の破綻や中断によって具合が悪いままに目の前から去ってゆく人格障害の患者の背中を,苦い思いで見送ることが数知れない看護スタッフにとっては,あまり見たことのない風景である。
看護スタッフが患者と出会う入院病棟という場面では,患者はとことんまで悪くなり,家族も極限状況で混乱しているためであろう。しかし,そのようなどん底を味わい,主治医が治療への動機付けの機会として活用することができれば,パーソナリティ障害の患者はどこかで自分の居場所を見出し,完全にではなくてもより適応的なやり方を見つけて落ち着いてゆくのだ。それには10年単位の時間がかかる。この本では,ケースの経過は,淡々と書かれていて年月の感覚も長いスパンである。その行間には,長い経過の中の,数限りない繰り返しがある。看護スタッフは,その場面に,断片的に付き合う職種なのだ。それは,例えば夜間の救急外来で,ドクターショッピングを繰り返し,あちらこちらの救急外来のブラックリストに載っては,違う病院に出向いていくパーソナリティ障害の特徴から,救急外来のスタッフとて同様である。そのために患者の回復を信じることができず,言動に右往左往して結局拒否的に対応してしまうことがある。そのような対応は,ただでさえ空虚感を強く訴える患者の絶望を,ますます深めることにつながる。
編者のひとりである林直樹先生は,パーソナリティ障害治療の第一人者であり,私もその腕を臨床の場面でのケースへの関与を通じて実感し,心から尊敬申し上げるひとりである。私が現在勤める大学院での授業もお願いしているのだが,林先生の最大の特徴は,パーソナリティ障害患者の回復への信頼であると感じる。スタッフがどんなに絶望しても,もうだめだと訴えても,林先生は「そうですか,そうですか」と話を聞いたうえで,とてもソフトではあるが断固として「でも,治るんですから」という見通しを絶対に変えない。身の回りにそこまで確信に満ちた人がいると,なんとなく,つられてケアしてしまう,という面もある。林先生はスタッフの話にも忍耐強いし,優しいからかもしれない(この点,主治医として特にポイントが高い)。
しかし,私は看護師としてあえて言いたい。「私たちは最悪の場面しか見たことがない。だから回復をどこかで信じることができずにいる。治っていく患者と感動をともにするのが主治医だけなんてずるい」と。そうであった。だからこそ,この本が書かれたのだ。パーソナリティに周囲を苦痛に陥れるほどの偏りを抱え,自らももがき苦しみつつも再生していく魂の記録を体験し,私たちもまた希望を持ちつつ彼らを見捨てず,付き合ってゆく勇気と,そして信頼を持つために。パーソナリティ障害を持つ人たちと関わり,日々苦闘する,職種を問わない臨床家必読の良書である。
効果的な治療へ繋げる適切な医療関係の構築へ
書評者: 田中 雄二郎 (東医歯大大学院教授・医歯学総合研究科)
パーソナリティ障害――著者らが否定している表現だが,いわゆる「人格障害」,「人格異常」ではないかと疑われる「患者」は確実に臨床現場に現れる。このような患者に遭遇し,ほとほと困った経験,臨床に携わる医師ならば誰しもあるのではないか。通常の患者医師関係は信頼関係を基盤とするものであるのにもかかわらず,その前提が揺らぐため医療現場は混乱し,患者本人を含め誰のためにもならない事態が出現する。
本書の著者たちのほとんどは都下の三次医療機関で第一線の精神科救急診療に従事する精神科医である。次々に提示される症例の深刻さも,ストーキングから脅迫に至るまで,われわれが日常遭遇するものとは,程度において比較にならないほどであろう。治療に,そして対処に成功した事例,そうでない症例から,どうすれば患者を守り,他の患者に累が及ばないよう,そして医療者の安全を確保できるかという方策が検討,提示されていく。読み進めながら,程度の差はあれそのような患者との関わりの中で,内科医である自分が「無意識のうちに行っていた行為」の持っていた意味が,専門とする精神科医の手で明らかにされていくことに感銘を覚えた。
対患者関係は,編者が指摘するように「ケースごとに解を求めていく」ものであり,もとよりマニュアル化できるものではないが,法に触れる行為,医療環境を脅かす行為を解決するためには,編者らが述べている治療上の契約設定,組織的な対応など欠かせない要件の存在が提示されている。また,パーソナリティ障害の概念,診断なども,精神科的知識を前提としない書き方で明快に述べられている。精神科以外の臨床現場の医師,コメディカル,管理職,そして事務職に至るまで,広く医療に関わる人々に薦められる好著である。
パーソナリティー障害を知る最良の書
書評者: 有賀 徹 (昭和大病院救命救急センター長)
この度,『医療現場におけるパーソナリティ障害 患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして』が上梓された。救急医療に携わったことのある読者であれば,よく理解されていることと思うが,救急医療において精神医学的な支援を要する局面は多々あって,身体的な治療が一段落するや,しばしば精神科医にコンサルテーションをあおぐ。そのような中で,“パーソナリティ障害”を指摘される事例もまた少なからず経験される。そこでは,“パーソナリティ障害は病気なのか,病気でないのか”について質疑をしたり,一般的な精神病に比して“パーソナリティ障害は10倍も苦労が多い”などと聞いたりするものの,結局のところ,精神医学に疎いわれわれ一般医にとって“パーソナリティ障害”を理解することはやさしいものでは到底なかった。これがわれわれ一般医の本音である。
本書の副題には「患者と医療スタッフのよりよい関係」が謳われているが,まずはわれわれが一定水準まで“パーソナリティ障害”を知ることがこのための大前提であろう。本書はその意味でわれわれ一般医にそれを叶えてくれる,言わば“傑出した”良書である。勿論,本書は実際の精神科診療に関するカンファランスを契機にまとめられたもので,精神科医にとってもこの分野で十分に役立つ内容が含まれている。それらは,著者らが大変よく噛み砕いて,親切に説明していることで一見してよくわかる。精神医学の奥の深さや社会との繋がり等々,極めて含蓄の豊かなことに驚く。
以上に加えて,本書においては,精神科医師,看護師,医療相談員,ケースワーカー等々,医療の最前線で苦闘する職員が困った問題に立ち至った際に,組織的な病院医療をいかに実践して彼らを守っていくかという医療安全の側面についても周到な言及がなされている。このようにして,本書が幅広い読者に高い満足度を与えることは間違いない。
書評者: 萱間 真美 (聖路加看護大教授・精神看護学)
「あの人は,人格障害(ボーダー)だからね」という言葉は,日々患者からの攻撃にさらされ,甘えられ,持ち上げられるかと思うと途端に激しく中傷されたりする被害にあい続けるスタッフが,状況に絶望したときに漏らすひとことであるように思う。
本書は,このように嘆く医療スタッフの気持ちやよくある臨床の状況にまずしっかりと寄り添ってくれる。ほとんどあらゆるタイプの患者の,あらゆる種類の問題状況を探すことができる。私もこう言われた。こんなふうに患者さんは悪くなった。ひどかった。読む人はまず救われる。
しかし,読み進めると,事例の物語は絶望に向かっては語られず,むしろ再生へと進んでいく。どうしようもない空虚感を訴え,自傷行為を繰り返し,家族や医療者を振り回しながら,手を尽くし,困り果てながらも見捨てず,関心を持ち続けてくれる誠実な主治医の横で,患者はゆっくりとではあっても成長していく。その光景は,治療の破綻や中断によって具合が悪いままに目の前から去ってゆく人格障害の患者の背中を,苦い思いで見送ることが数知れない看護スタッフにとっては,あまり見たことのない風景である。
看護スタッフが患者と出会う入院病棟という場面では,患者はとことんまで悪くなり,家族も極限状況で混乱しているためであろう。しかし,そのようなどん底を味わい,主治医が治療への動機付けの機会として活用することができれば,パーソナリティ障害の患者はどこかで自分の居場所を見出し,完全にではなくてもより適応的なやり方を見つけて落ち着いてゆくのだ。それには10年単位の時間がかかる。この本では,ケースの経過は,淡々と書かれていて年月の感覚も長いスパンである。その行間には,長い経過の中の,数限りない繰り返しがある。看護スタッフは,その場面に,断片的に付き合う職種なのだ。それは,例えば夜間の救急外来で,ドクターショッピングを繰り返し,あちらこちらの救急外来のブラックリストに載っては,違う病院に出向いていくパーソナリティ障害の特徴から,救急外来のスタッフとて同様である。そのために患者の回復を信じることができず,言動に右往左往して結局拒否的に対応してしまうことがある。そのような対応は,ただでさえ空虚感を強く訴える患者の絶望を,ますます深めることにつながる。
編者のひとりである林直樹先生は,パーソナリティ障害治療の第一人者であり,私もその腕を臨床の場面でのケースへの関与を通じて実感し,心から尊敬申し上げるひとりである。私が現在勤める大学院での授業もお願いしているのだが,林先生の最大の特徴は,パーソナリティ障害患者の回復への信頼であると感じる。スタッフがどんなに絶望しても,もうだめだと訴えても,林先生は「そうですか,そうですか」と話を聞いたうえで,とてもソフトではあるが断固として「でも,治るんですから」という見通しを絶対に変えない。身の回りにそこまで確信に満ちた人がいると,なんとなく,つられてケアしてしまう,という面もある。林先生はスタッフの話にも忍耐強いし,優しいからかもしれない(この点,主治医として特にポイントが高い)。
しかし,私は看護師としてあえて言いたい。「私たちは最悪の場面しか見たことがない。だから回復をどこかで信じることができずにいる。治っていく患者と感動をともにするのが主治医だけなんてずるい」と。そうであった。だからこそ,この本が書かれたのだ。パーソナリティに周囲を苦痛に陥れるほどの偏りを抱え,自らももがき苦しみつつも再生していく魂の記録を体験し,私たちもまた希望を持ちつつ彼らを見捨てず,付き合ってゆく勇気と,そして信頼を持つために。パーソナリティ障害を持つ人たちと関わり,日々苦闘する,職種を問わない臨床家必読の良書である。
効果的な治療へ繋げる適切な医療関係の構築へ
書評者: 田中 雄二郎 (東医歯大大学院教授・医歯学総合研究科)
パーソナリティ障害――著者らが否定している表現だが,いわゆる「人格障害」,「人格異常」ではないかと疑われる「患者」は確実に臨床現場に現れる。このような患者に遭遇し,ほとほと困った経験,臨床に携わる医師ならば誰しもあるのではないか。通常の患者医師関係は信頼関係を基盤とするものであるのにもかかわらず,その前提が揺らぐため医療現場は混乱し,患者本人を含め誰のためにもならない事態が出現する。
本書の著者たちのほとんどは都下の三次医療機関で第一線の精神科救急診療に従事する精神科医である。次々に提示される症例の深刻さも,ストーキングから脅迫に至るまで,われわれが日常遭遇するものとは,程度において比較にならないほどであろう。治療に,そして対処に成功した事例,そうでない症例から,どうすれば患者を守り,他の患者に累が及ばないよう,そして医療者の安全を確保できるかという方策が検討,提示されていく。読み進めながら,程度の差はあれそのような患者との関わりの中で,内科医である自分が「無意識のうちに行っていた行為」の持っていた意味が,専門とする精神科医の手で明らかにされていくことに感銘を覚えた。
対患者関係は,編者が指摘するように「ケースごとに解を求めていく」ものであり,もとよりマニュアル化できるものではないが,法に触れる行為,医療環境を脅かす行為を解決するためには,編者らが述べている治療上の契約設定,組織的な対応など欠かせない要件の存在が提示されている。また,パーソナリティ障害の概念,診断なども,精神科的知識を前提としない書き方で明快に述べられている。精神科以外の臨床現場の医師,コメディカル,管理職,そして事務職に至るまで,広く医療に関わる人々に薦められる好著である。
パーソナリティー障害を知る最良の書
書評者: 有賀 徹 (昭和大病院救命救急センター長)
この度,『医療現場におけるパーソナリティ障害 患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして』が上梓された。救急医療に携わったことのある読者であれば,よく理解されていることと思うが,救急医療において精神医学的な支援を要する局面は多々あって,身体的な治療が一段落するや,しばしば精神科医にコンサルテーションをあおぐ。そのような中で,“パーソナリティ障害”を指摘される事例もまた少なからず経験される。そこでは,“パーソナリティ障害は病気なのか,病気でないのか”について質疑をしたり,一般的な精神病に比して“パーソナリティ障害は10倍も苦労が多い”などと聞いたりするものの,結局のところ,精神医学に疎いわれわれ一般医にとって“パーソナリティ障害”を理解することはやさしいものでは到底なかった。これがわれわれ一般医の本音である。
本書の副題には「患者と医療スタッフのよりよい関係」が謳われているが,まずはわれわれが一定水準まで“パーソナリティ障害”を知ることがこのための大前提であろう。本書はその意味でわれわれ一般医にそれを叶えてくれる,言わば“傑出した”良書である。勿論,本書は実際の精神科診療に関するカンファランスを契機にまとめられたもので,精神科医にとってもこの分野で十分に役立つ内容が含まれている。それらは,著者らが大変よく噛み砕いて,親切に説明していることで一見してよくわかる。精神医学の奥の深さや社会との繋がり等々,極めて含蓄の豊かなことに驚く。
以上に加えて,本書においては,精神科医師,看護師,医療相談員,ケースワーカー等々,医療の最前線で苦闘する職員が困った問題に立ち至った際に,組織的な病院医療をいかに実践して彼らを守っていくかという医療安全の側面についても周到な言及がなされている。このようにして,本書が幅広い読者に高い満足度を与えることは間違いない。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。