医療経営学

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近年、包括医療の導入、医療安全の確保、国立病院の独立法人化など、病院経営をめぐる環境の変化のスピードが著しい。本書はその最新動向をふまえつつ、病院経営の実務に即した5つの構成要素(基本戦略、財務・会計、運営、マーケティング、組織・人事)ごとに総括的に記述し、各項に関連する様々なトピックスを付加した。
今村 知明 / 康永 秀生 / 井出 博生
発行 2006年02月判型:A5頁:360
ISBN 978-4-260-00085-7
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
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  • 目次
  • 書評

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第I部 現代の医療システム
 第1章 わが国の医療システム
 第2章 諸外国の医療システム
 第3章 DPC時代の病院経営
第II部 病院管理
 第1章 病院経営の基本戦略
 第2章 病院の財務・会計
 第3章 病院運営
 第4章 マーケティング
 第5章 組織・人事
第III部 医療安全と医療経営
 第1章 医療安全の確保と経営効率化
第IV部 日本の医療の論点
 第1章 日本の医療の論点
索引

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思考・理論過程を学び取る体系的な医療経営学書
書評者: 信友 浩一 (九大大学院医学研究院基礎医学部門 医療情報システム学 教授)
 「病院」の経営学では,病院の外部環境は所与の条件として記されているだけであり,内部環境のマネジメントを体系化しているのが通常である。本書の著者らの意気込みもここにあるのであろう。「……従前の医療経営や病院経営に言及したテキストは,主として医療機関の立場に立った,現行の医療保険制度の下での収支改善対策についての指南書,という色彩の濃いものであった」と記しているほどである。外部環境は変えられない・動かせない,を前提にした「病院経営学」にはワクワクさせられなかった経験が続いていた。

 外部環境を形成する主な制度政策は,施設完結型医療を前提にしていた。確かに急性期疾患が主流の貧しい時代においては妥当な制度ではあったが,慢性期疾患主流の豊かな時代においてはムダな無駄が生じやすく,ムダでない無駄を生みにくい適応遅れの制度になっていた。今回の医療制度改革の1つが施設完結型医療から地域完結型医療への移行であるように,施設経営者が同時に地域の施設経営の視点(新医療計画制度)からも考え,選択することが要請されている。施設経営者が,同時に,地域経営も担う,ということは地域制度政策という外部環境の整備も担うことになる。外部環境整備は行政の役割だ,として施設経営者が全面委任したい方々には本書の魅力は感じられないであろう。

 「病院」ではなく「医療」を担いたい,という使命感と情熱的な関心を有している人に本書は相応しい。今までは,そのような使命感と関心はあっても,ミクロたる「病院」とマクロたる「医療環境(主に制度政策)」との論理的関係や政治的関係を体系立てて学ぼうとしてもテキストがなかった。関係を語る方々はいたとしても……。その意味で,タテ型社会の最たる大病院でのミクロ内での対話,マクロとの対話を続けている著者らが,内部環境整備のための説得力向上で経験し,あるいはそれを推進できるだろう外部環境整備のための説得力向上で経験したことを踏まえているので,学問的に体系化した本書は説得力があると感じられる。著者らの経営・政策判断への読者の賛否はさまざまであろうが,大事なのは賛否ではなく,判断に至るまでの思考・論理過程を感じ学び取ることである。興味ある論点・争点を数多く挙げているのも本書の特徴であるが,その論点等の料理の仕方を味わう,というのが本書の上手な楽しみ方である。決して,戦いの前の予習に使う,などとはゆめゆめ思われないように。

 本書の改訂版が予定されているとすれば,大学・大学院で学んでいる方々のために,参考テキストや報告書などもふんだんに掲載しておいて頂きたいものである。新たに学ぶ方々には相応しいタイムリーなテキストがありませんので。

理論体系を統一した医療経営学のスタンダード
書評者: 開原 成允 (国際医療福祉大教授・国際医療福祉大大学院院長)
 私はこの本を一読して興奮を禁じえなかった。医療の世界では,学問は現実の問題に対処できなければならないと考え続けてきたが,ここには生きた学問がある。

 これまで多くの医療経営に関する本が書かれてきたが,この本はどの本とも違っている。共著ではあるが,章ごとに著者が分かれているようなものではなく1つの理論的体系を持ったまとまった本であり,医療機関の経営は,「営利が目的ではないが質を確保する財政基盤も確立する必要があるから従来の経営学とは異なった視点が必要である」という考え方がその基本にある。まだ名著というには早いかもしれないが,版を重ねれば歴史に残る名著の1つになるかもしれない。

 本の構成も大変ユニークである。第一部「現代の医療システム」で日本と諸外国の医療を比較しつつ概観しているが,欧米諸国の医療システムを簡潔にまとめてあって役に立つ。第二部「病院管理」が,通常の意味での病院経営の部分であるが,ここの記述も独自の工夫があり,「基本戦略」,「財務・会計」,「運営」,「マーケティング」,「組織・人事」の5章を設け,最初に理論を記述して後に,今の病院の現実の問題を例として述べている。そもそも「戦略」が述べられていること自体がユニークであるが,戦略の部分には,土曜に開業をすべきか,自由診療をすべきかなどが戦略の問題として論じられているし,財務・会計の部分では,院外処方率などを論じ,病院運営では,クレジットカード決済の導入などを論じるなど,常に視点は現実の問題を離れていない。

 第三部「医療安全と医療経営」では,病院にとって重要な医療安全が経営の立場からよく論議されている。訴訟の実態や医療事故の費用などが論じられているのも他にない特徴である。

 第四部「日本の医療の論点」は,医薬品の価格,医療機器・材料の内外価格差,混合診療,株式会社による医療機関経営という最近議論のあった問題が公平な立場で解説してあり,これらの問題を理解するのにこれほど便利な本はない。

 もちろん,もっと論じてほしかった問題も多く残されている。いくつか例を記せば,第一に,日本の公的病院と民間病院の置かれている経営状況の差を取りあげてほしかった。経営の立場から見れば,公的病院も民間病院も本来差はないはずであるが,初期投資と税負担の点で日本の現状には大きな不公平が存在し,それが双方の病院経営に大きな影を落としている。特に,この本には税制の問題がどこにも触れられていないが,税負担のあり方は経営の根幹にもかかわる重要な問題である。第二は,医師・看護師のリクルートや給与のあり方の問題にも触れてほしかった。極論すれば,医療機関の経営はよい医師や看護師の確保の問題であるといっても過言ではない。いかに立派な経営理念を持っていても,医師や看護師が確保できないために経営が破綻した病院は数限りなくある。その背景には,医局による医師支配という日本独特の制度があることも事実であり,この点もぜひ取り扱ってほしかった。

 この本は現実の問題を扱っているだけに,今後の改訂が頻繁に必要になるとも考えられる。ぜひ出版社もこの点を理解して,著者に頻繁な改訂ができる環境を与えてほしい。

 最後に多少私事を書かせていただくと,著者の一人である今村知明氏は,私が東大にいた頃,世界を放浪することの好きな誰にも好かれる活気のある大学院生であった。大学院修了後,厚生省(当時)に入り,医療行政の修羅場も経験した。最近東大病院の経営に携わる立場になったことは,まさに天が適材を適所に与えた感がある。また,この本もこうした経験を持つ今村氏だったから書くことができたのだと思う。私としては,今村氏が,このようなすばらしい本を仲間と共に書くようになったことを心から嬉しく思っている。

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