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インフォームド・コンセント【ハイブリッドCD-ROM付】
その理論と書式実例

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正しい説明文書は患者への情報提供に役立ち、記録になり、結果的に不毛な医療紛争を予防するツールになる。本書はインフォームド・コンセントの法的要件を満たすとともに患者の自己決定のプロセスも尊重した説明文書の書式集。「ここを変えれば良くなる」ヒントを具体的に示した。付録のCD-ROMには手術など40の実例を収載。
編集 前田 正一
発行 2005年08月判型:B5頁:292
ISBN 978-4-260-00069-7
定価 5,060円 (本体4,600円+税)

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  • 目次
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1 医療におけるインフォ-ムド・コンセントとその法律上の原則
2 説明・同意文書の記載方法
3 要件を満たさない文書の実例―ここをこう変えれば良くなる
4 手術の説明文書の実例
5 治療の説明文書の実例
6 検査の説明文書の実例
7 看護に関する説明文書の実例
8 治験および臨床研究におけるインフォ-ムド・コンセント
9 治験の説明文書の一例
10 医師の説明義務が問題とされた裁判例
11 インフォームド・コンセントの今後のあり方を考えるために
12 診療記録の開示と十分な記録
索引

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良好な医療者・患者関係の構築に役立つ本
書評者: 高原 亮治 (上智大教授・総合人間科学部)
 医療は目覚ましく発展し,以前では当然死亡したような患者さえも救命できるようになりました。しかしながら,同じ技術を同じ医師が適用する場合であっても,治療成績は必ずしも一定せず,個体や病態の差または偶然の変動としかいいようのない事態もみられます。

 これらの要素により,時には死亡事故も発生することがあります。医療については,患者と提供者のと間に“情報の非対称性”が存在するという状況や,“不確実性”といった特質があることが指摘されており,本書のテーマであるインフォームド・コンセントは,医療倫理で通念となっている患者の自己決定権を保障するツールとして,不可欠の存在となりつつあります。また悲しいことに医療の高度化・複雑化についてまわる有害事象への対処としても,重要性が高まっていると言えます。

 インフォームド・コンセントは,近年,医療事故裁判のなかでもしばしば問題にされているようです。有害事象が生じた場合,患者あるいは家族は,そのリスクについてあらかじめ説明を受けていなければ,その結果に納得できないかもしれません。

 本書によると,説明すべき事項として,裁判所は一般に,(1)患者の病名・病態,(2)実施予定の医療の内容・性格,(3)その医療の目的・必要性・有効性,(4)その医療に伴う危険性とその発生率,(5)代替可能な医療とそれに伴う危険性およびその発生率,(6)何も医療を施さなかった場合に考えられる結果――を挙げるということです。

 こうした裁判所の判断は個別の具体的状況のもとで下されたものであり,医学的にも必ずしも明確に答えられるものばかりではないでしょう。その判示内容を,どの程度,医療を行う際に考慮すべきか,またそもそも考慮する余裕があるか難しいところです。また,行う説明をどのように文書にするべきかという問題も難しいものがあります。本書で示されているように,患者が意思決定するうえで重要な事項については,文書によりわかりやすく説明がなされると,患者は受ける医療について理解を深めることができ,医療により主体的に協力できます。必ずしも期待どおりの結果が得られない場合でも,説明をめぐって「言った」「言っていない」といった不毛な紛争を回避することができ,仮に説明をめぐって紛争が発生した場合でも,医療従事者は説明した内容を本文書により証明することができます。このように,説明文書は,患者にとっても医療従事者にとっても重要な意味があることがわかります。

 しかし,説明やその文書のあり方については,これまで十分な議論がなされませんでした。このため,一方では粗雑な説明および説明文書が維持され,またその一方では,編者がいみじくも問題にするような生命保険の約款のような文書までが作成される可能性がでてきました。このような状況の中で,本書は,インフォームド・コンセントに関する基礎理念の解説を行い,説明とその文書のあり方について指針を示したうえで,第一線の実務家が作成した説明文書の具体的事例を提供しています。つまり,本書は,まさにわが国の医療界が待ち望んでいた一冊と言えます。

 現在の医療現場の状況を考えれば,本書で示されている文書を,今すぐにすべての医療機関で実践するのは難しいかもしれません。国際的にみてもこの説明レベルはきわめて高いものだと思います。しかし,仮に難しいとしても,本書を読み解き,参考にすることは可能です。インフォームド・コンセントの問題の本質を理解するうえでも本書は貴重な一冊といえます。この意味で,特に研修医・中堅医師にはぜひ本書を手にとっていただき,より良好な医療従事者・患者関係の構築に役立てていただきたいと考えています。

臨床現場で役に立つ説明の実例を紹介
書評者: 瀬戸山 元一 (高知医療センター・病院長)
 医学界でムンテラ(Mund Therapie)という言葉が使われなくなり,インフォームド・コンセント(Informed Consent)が一般的に使われるようになって久しい。とはいえ,医療現場ではインフォームド・コンセントの意味するところが理解されずに,ムンテラがインフォームド・コンセントに,単に言葉だけが言い換えられたのではないかと思われる。Informed Consentは,基本的人権の擁護が主目的であり,Truth TellingとSelf Determinationと一体化したものであるという正確な認識が少ないためではないだろうか。

 「たっぷり時間をかけて話してやったのに,あの患者はものわかりのわるい奴だ」などといった医師の言葉は,よく聞かれるのではないだろうか。患者さんに,いくら十分に時間をかけて話したとしても,日数の単位ではなく時間数の単位であろう。そのような時間で患者さんが理解されるのであれば,6年間の医学教育は必要ないのではないかとも思われる。患者さんは,患者になること自体が初体験である場合が多く,しかも非日常的な体験の繰り返しになっているのである。だから,もともと患者さんからすれば,理解でき得ない話になってしまう。ましてや,病態が思わしくない方向に進んでいるような時には,検査や処置あるいは手術などの医療行為は,患者さんにとっては忌み嫌う対象になっていることが多く,なおさら理解などされないだろう。

 かねてより日本では,医学は研究・臨床・教育が三位一体であるとされながらも,現実には研究が最重視され,しかも臨床研究よりも実験的研究が中心的になされてきた状況にある。全人的医療という視点,すなわち「患者さんを中心に考える」,「1人の病める人間として患者さんをみる」という視点に立つと,現在の研究中心の医学のあり方には,かなりのギャップを感じざるを得ない。そのなかで,医学教育の欠落が指摘される1つにインフォームド・コンセントがあろう。

 ヒポクラテスの言葉である「医術は最も貧困なアートである」は,古代から医療について批評をする人がいなかったことをも意味している。本来,患者さんが医療の批評家であるはずなのだが,医療界では患者さんに批評させずに,ましてや日本では「知らしむべからず,寄らしむべし」という「患者さん不在の医療」,「医師主体の医療」などが当然視されてきた傾向にある。患者さんが選択し自己決定することが,患者さんの医学あるいは医療に対する評価でもあり,適正なインフォームド・コンセントが行われてはじめて,患者さんが批評家になり得るのである。しかし,たとえインフォームド・コンセントが行われたとしても,難解な医学用語を単に伝達することに終始するのではなく,温かく優しい,しかも患者さんに理解されやすい言葉で,がんの告知のようにできる限り真実に基づいて正確に行うことが必要である。診療のすべてについてインフォームド・コンセントを行うことは,医師の義務といっても過言ではない。

 そのような意味で本書は,いろいろな分野の臨床例についてのインフォームド・コンセントの実例が示され,簡明な説明が加えられ,臨床現場では即戦力になるように配慮されている。また,裁判例も示され,患者さん側の主張,医療側の主張,裁判所の判断を,それぞれに判決文に即して掲載されている。最終章には,インフォームド・コンセントにおいては十分な説明書が作成されることは,きわめて重要であると述べられてもいる。

 よりよき臨床医を,よりよき医療人を,さらに一層めざされようとしている方々にとっては,必読の書であろう。

臨床に携わるすべての医療者,医学生へ
書評者: 辻本 好子 (NPO法人ささえあい医療人権センターCOML・理事長)
 基本的に,というよりも個人的に,いわゆるマニュアル本の類は好きではありません。しかし本書は,私たち患者はもちろん,忙しい医療現場のドクターも希求していたに違いない,まさに時代のニーズに即した待望の一冊。患者の立場として,「医療側からの説明の際にせめてもう少し“わかってほしいメッセージ”があれば…」と願っていた矢先の出会い。願わくは,臨床に携わるすべての医療者と医学生諸君がインフォームド・コンセントの原則をつねに見つめ,有効活用するために手元に置いてほしいと心から思いました。

 例えば胃がんと診断された患者の視点で,胃全摘術,胃切除術,腹腔鏡補助下胃切除術の説明文書実例を読んでみました。「なるほど」「そうか,そうか」と医療側が言わんとすることがよく理解でき,納得もできて,最後には「そう,こういう文書が手元にほしかった!」と思いました。ただ一つ,「間違っても日本中の病院が,医療者が,このままコピーした文書を手渡すだけであってほしくはない」とも願わずにはいられませんでした。

 言うまでもなく患者は個別の存在です。編者が「はじめに」の末尾で傍点を沿えて願っているように,本書は患者と医療者が“ともに納得できる方向に向かう”ための書。協働するためには,説明文書はもとより設定されたメモ欄の有効利用がなにより重要です。目の前の患者1人ひとりとやりとりする中で,“その人”に必要な情報を(読める字で)書き添え,伝えたい医療者の想いや言葉を添えることを,どうかくれぐれも忘れないでいただきたいと思います。

 15年間,COMLに届いた35,000件に余る電話相談の中で,ずっと変わらず患者・家族が求めるのは「安全・安心・納得」です。特にここ数年,医療に対する患者の不信感がきわまり,「自分のことを知りたい」「自分で決めたい」と願う患者が増えています。また医療情報へのアクセス環境も日進月歩で向上しています。しかし情報を読み取る能力(リテラシー)は決して十分ではありません。それだけに,患者の自立(律)と成熟を助け補う意味での説明文書を望む声が,すでに患者の間では沸点に達しています。

 もちろん医療現場におけるインフォームド・コンセントの努力は,数年前に比べれば目を見張るほどの変化をきたしてはいます。しかし,残念ながら一方的な押しつけや儀式のような形骸化の現実が,「忙しさ」の中にはびこっていることも一方の現実です。たしかに患者のすべてが「話せばわかる」人ばかりではありません。それだけにこうした説明文書があれば,患者の理解・納得は深まるに違いありません。病院から帰ってじっくり読み返したり,家族と一緒に現実を受け入れる努力をするための道先案内になったりと,まさに本書はインフォームド・コンセントとコミュニケーションのツールです。

 患者の立場から,本書が医療現場に普及することを願っています。

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