港島印 ICUドリル

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症例の紙上体験を通して集中治療の知識やセンスを身につけるドリル。くも膜下出血からドナー管理、心血管術後、薬物中毒、緩和ケア、臨床決断など、幅広い症例を収載。「国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル」「心研印 心電図判読ドリル」「Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル」に続く、印シリーズ第4弾。

監修 瀬尾 龍太郎
編著 Minatojima ICU GoodFellas
発行 2026年02月判型:B5頁:280
ISBN 978-4-260-06292-3
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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まえがき

 書店に行くと集中治療関連の教科書がたくさん並んでいます.特に最近の教科書は読者が理解しやすいようにとても工夫されていて,本当に素晴らしい本ばかりです.
 そのような優れた本が数多くあるなかで,今回私たちが作ったこの本の注目ポイントは「『他のみんなはどう考えるの?』がわかるシステム」です.
 この本では,各臨床シナリオと一緒に問題がたくさん提示してあります.クイズを解く要領で楽しみながら読み進めていってください.
 実は,当院(神戸市立医療センター中央市民病院)集中治療フェローとその修了者全員にも,各問題に対してあらかじめ回答をお願いしました.問題の解説とともに,彼らの回答(各選択肢の選択率やコメントのまとめ)も一緒に提示しています.みんなの回答が同じようになる問題もあれば,意見が分かれてしまう問題もありました.
 ポイントはまさにここです.この本は現実の臨床現場をリアルに再現しています.臨床の現場では絶対的な正解はなく,患者さんやご家族,医療スタッフが「妥当だ」と思ってくれる行動について,さまざまな情報をもとに判断していく必要があります.誰かの強い思いやこだわり,医療資源の制限,参考にするエビデンスの相違,人間関係などの影響もあり,判断に迷うことは頻繁に起こります.場合によっては,第三者に評価されることを意識しなければならないこともあるでしょう.
 この本は,そのようなリアルな臨床判断の一助になるように構成しています.みなさん自身の回答と,当院集中治療フェローとその修了者の回答との違いを見て,「正解だ」「間違いだ」ということではなく,どのような回答であれば「妥当な判断」と認識される可能性が高まるかを考えていただければと思います.

 またこの本では,「コラム」として当院の集中治療フェローの先生達が考える「知っておくとお得な情報」も複数掲載しています.参考までに,当院の集中治療フェロー教育システムでは,獲得すべきコンピテンシー目標として以下を挙げています.
 ▪ 1年目:集中治療業務を遂行するにあたり必要な一般的知識・技能を有する
 ▪ 2年目:集中治療の教育に関する知識・技能・態度を有する
 ▪ 3年目:集中治療部の運営に関する知識・技能・態度を有する
 コラムには,上記のような私たちの集中治療フェロー教育コンテンツにある内容がふんだんに含まれているので,こちらも合わせて楽しんでください.

 ……すみません.前置きが長くなってしまいました.とにかく,色々と楽しめるような内容と構成にしているので,ワクワクしながら読んでください!!

 2026年1月
 瀬尾龍太郎

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本書の構成

症例1 動脈瘤性くも膜下出血
症例2 窒息による心停止蘇生後の治療
症例3 重症頭部外傷に伴う脳死移植ドナー管理
症例4 頸髄損傷患者の緊急気管挿管
症例5 細菌性肺炎に伴うARDS
症例6 敗血症に合併したAKI
症例7 アルコール使用障害患者の急性肝不全
症例8 アルコール飲酒後の重症急性膵炎
症例9 重症呼吸不全患者の栄養管理
症例10 下部消化管穿孔,穿孔性腹膜炎による敗血症性ショック
症例11 白血病に対する同種造血幹細胞移植後
症例12 細菌性肺炎に惹起されたDKA
症例13 Stanford A型急性大動脈解離の緊急手術後
症例14 重症大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術後
症例15 急性心筋梗塞に対する血行再建に難渋した後の遷延する心原性ショック
症例16 多発外傷による出血性ショック
症例17 焚き火中の過誤による重症熱傷
症例18 急性薬物中毒疑いで搬送された若年女性
症例19 意識障害患者の緊急血液透析
症例20 神経学的予後が不良な患者の家族
症例21 ICUにおける急性呼吸不全に対する検査と治療の臨床決断プロセス

索引

みなとじまコーヒーブレイク
 「標準化」による集中治療の質改善
 それ,本当に“すべて”やるべき治療ですか?──「納得解」を探すプロセス
 ICU入退室基準について
 周術期ペーシングの実際──心外膜ペーシングの基本設定とトラブル対応
 BCP???
 意識障害のある患者さんの抜管,どうしていますか?
 正解のない現場で必要な「話し合う力」

みなとじまプロコトル
 特殊な状況(開心術後/腹臥位)での心肺蘇生(CPR)
 ストレス潰瘍予防プロトコル
 人工呼吸器離脱プロトコル
 静脈血栓塞栓症予防プロトコル

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正解のない戦場で妥当性を可視化する驚異の臨床ドリル
書評者:水野 篤(聖路加国際病院心血管センター循環器内科副医長/QIセンター医療の質管理室長)

 医学書院から刊行された『港島印ICUドリル』を手にしたとき,私は懐かしさとともに,ある種の熱量を紙面から感じ取った。監修の瀬尾龍太郎先生は,私がかつて研鑽を積んだ神戸市立医療センター中央市民病院(以下,中央市民)での,いわば「兄貴分」のような存在である。同院は,日本屈指の救急・集中治療の症例数を誇る「港島(みなとじま)」の要塞だ。本書は単なる症例問題集ではない。そこには,教科書的な「正解」と,実際の臨床現場で求められる「妥当な判断」との間にある深い溝を埋めるための,極めて高度な仕掛けが施されている。

 本書の白眉は,提示された各設問に対し,中央市民の現役フェローや修了生たちがどの選択肢を何パーセント選んだかという「選択率」が明示されている点にある。回答は「Agree(妥当)」「Controversial(五分五分)」「Disagree(少数派)」の3段階で判定されているが,これが実に示唆に富む。

 集中治療は,エビデンスが不十分な領域や,個別のコンテキストに依存する判断の連続だ。例えば,私自身は日常的に用いることが少ないCardiac Power Output(CPO)について,現場のエキスパートたちの間で高いコンセンサスが得られていたのを目にし,自らのプラクティスを相対化させられる新鮮な驚きがあった。他者の「感覚」を数値で追体験できるこのシステムは,孤独になりがちな臨床決断において,良質なセカンドオピニオンのように機能するのである。

 近年,AIなどの普及により知識の共通基盤が整い,最低ラインの知識は検索や対話型AIで容易に入手可能となった。その上で今求められているのは,エキスパートによる「倫理的な合意形成」である。折しも2026年3月の日本集中治療医学会では,終末期における4学会合同ガイドラインが作成されるが,これもまた多職種による議論を通じて「落としどころ」を見つける旅にほかならない。

 ガイドラインから日常診療に至るまで,現在は「合意形成の方法」や,それをいかに実臨床に落とし込むかという「実装」の価値が高まっている。本書はまさにその点に全神経を集中させ,情報をまとめあげた一冊といえる。個人的には,「Threshold approach」を用いた臨床決断プロセスの論理的な解説や,随所に挟まれるコラム「みなとじまコーヒーブレイク」のトピックの鋭さに強く惹きつけられた。これらは,まだピンときていない読者にとっても,自らの思考を深める大切なきっかけになるはずだ。

 最後になるが,本書には門外不出ともいえる「みなとじまプロトコル」がふんだんに盛り込まれている。集中治療を学び始めたばかりの若手はもちろんのこと,私はむしろ,プラクティスが固定化されがちな指導医層にこそ,一度目を通していただきたいと願う。自らの判断が「港島の流儀」とどうズレるのか,あるいはどう一致するのかを突きつけられる体験は,臨床家としての古くなったOSを再起動させる貴重な機会となるだろう。本書が多くの臨床家を救い,ひいては多くの患者への「納得解」につながることを確信している。

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