がん診療レジデントマニュアル 第10版
1997年初版より28年。定番のマニュアル、いよいよ改訂第10版。
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医療を取り巻く環境は昨今大きく変化し、中でもAIの進歩は目覚ましく、情報収集やデータ分析、リスク予測など人間の能力を凌駕する力を持つに至っている。だからこそ改めて医療者としての存在意義が問われているのではないだろうか? 「疾患」でなく「人」として、患者さんに向き合い寄り添い、最適解を導き出す力は、人間ならではのものだろう。そのためには確かな知識と判断力が必須。がん医療に携わる方々にぜひ本書を役立てて頂きたい。
| シリーズ | レジデントマニュアル |
|---|---|
| 編集 | 国立がん研究センター 内科レジデント |
| 発行 | 2025年10月判型:B6変頁:688 |
| ISBN | 978-4-260-06177-3 |
| 定価 | 5,280円 (本体4,800円+税) |
更新情報
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正誤表を更新しました
2025.10.31
-
正誤表を掲載しました
2025.10.22
- 序文
- 目次
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序文
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第10版の序
このたび,『がん診療レジデントマニュアル』の記念すべき第10版を刊行することとなりました。私が医師を志し,日夜勉学に励んでいた1997年に初版が刊行されて以降,本書は多くのがん医療に携わる医療従事者にとって臨床現場での心強い道しるべとなってきました。
この数年で医療を取り巻く環境は大きく変化しました。なかでもAIの急速な進歩は目覚ましく,情報収集やデータ分析,リスク予測など,一人の人間の能力をはるかに超える力をもつに至っています。かつて私たちが暗記と経験で補っていた領域にすら,AIは深く踏み込みつつあります。だからこそ,いま改めて,医療者としての存在意義が問われているのではないでしょうか。
私たちが向き合うのは「疾患」ではなく「人」です。患者さんの価値観や人生観,わずかな表情の揺らぎを読み取り,寄り添いながら最適解を導き出す力は,人間にしか備わっていないものです。そして,その「人」に寄り添う医療を支えるうえで,AIの力をどう活かすかが,これからの医療者が取り組むべき課題となります。詳細な知識の暗記が絶対ではなくなったいまだからこそ,AIを使いこなすには,それを担う医療者自身が確かな知識と判断力をもっていなければなりません。
知識の幅を広げることは,患者さんに提示できる選択肢を増やすことにつながります。本書が,医療従事者としてさらなる成長を目指すあなたの一助となることを願っています。
2025年8月
国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科外来医長 福原 傑
目次
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主な略語
凡例
01 がん診療と患者医療者間のコミュニケーション
[memo] スキルアップのためのひとこと
02 がん薬物療法の基本概念
03 臨床試験
04 肺がん・悪性胸膜中皮腫
肺がん
悪性胸膜中皮腫
05 乳がん
06 頭頸部がん・甲状腺がん
頭頸部がん
甲状腺がん
07 食道がん
08 胃がん
09 大腸がん
10 肝・胆・膵がん
肝臓がん
胆道がん
膵がん
11 神経内分泌腫瘍・消化管間質腫瘍
神経内分泌腫瘍
消化管間質腫瘍
12 婦人科がん
子宮頸がん
子宮内膜がん
卵巣がん(上皮性卵巣がん)
[memo] AYA世代のがん
13 泌尿器腫瘍
腎細胞がん
膀胱がん/上部尿路がん(腎盂・尿管がん)
前立腺がん
14 胚細胞腫瘍
15 造血器腫瘍
急性骨髄性白血病
骨髄異形成症候群
慢性骨髄性白血病
急性リンパ性白血病
成人T細胞白血病/リンパ腫
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫
16 骨軟部悪性腫瘍
17 皮膚がん
18 原発不明がん
19 脳腫瘍
20 がん性胸膜炎・がん性腹膜炎・がん性髄膜炎・がん性心膜炎
がん性胸膜炎
がん性腹膜炎
がん性髄膜炎
がん性心膜炎
21 感染症対策
[memo] COVID-19
22 がん疼痛の治療と緩和ケア
緩和ケア
精神的ケア
23 骨髄抑制
24 消化器症状に対するアプローチ
25 腫瘍随伴症候群,抗悪性腫瘍薬の取扱いと漏出性皮膚障害
腫瘍随伴症候群
抗悪性腫瘍薬の取扱いと漏出性皮膚障害
26 がん治療における救急処置──オンコロジック・エマージェンシー
27 免疫チェックポイント阻害薬の有害事象
総論
各論
28 がんゲノム医療
付録1 抗悪性腫瘍薬の種類
付録2 主な抗悪性腫瘍薬の略名
あとがき
和文索引
欧文索引
書評
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各がんの疫学・診断から治療までを網羅
書評者:南 博信(神戸大大学院教授・腫瘍・血液内科学)
『がん診療レジデントマニュアル 第10版』が出版された。初版が世に出たのが1997年なので28年の長きにわたり利用されていることになる。本書のようなマニュアル,ハンドブックは数版を重ねることはあっても10版まで続くのはまれである。それだけ本書が良い本であることが理解できる。本書は各がんの疫学・診断から治療までを網羅しコンパクトサイズにまとめているため,白衣のポケットに入れベッドサイドで知識を確認するために便利に活用できる。国立がん研究センターの内科医が編集しているので,各がんの外科治療や放射線治療にも簡単に触れられているが,治療は薬物療法を中心にまとめられている。がん薬物療法に携わる内科医が良く利用しているのも理解できる。
本書は標準治療を要領よくまとめているので知識を手軽に確認できる。そのため,日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医試験の会場で,本書で直前に知識の確認をしている受験生を多く見かける。本書で試験勉強をしている人もいると聞く。しかし,本書は日常がん診療で素早く知識を確認するために使用するには良いが,がん薬物療法の基本的考え方,原理・原則を学ぶためには書かれていない。あくまでも知識の整理・確認のためのマニュアルであり教科書ではない。試験前に知識を確認するのは良いが,がん薬物療法・腫瘍内科学の本質はきちんとした教科書で本質を学んで欲しい。
患者さんは一人として同じではない。マニュアルだけで治療はできない。標準治療を確立した臨床試験での患者背景,主要評価項目,統計学的仮説,効果の大きさと副作用の程度のバランスを含む有用性を把握した上で,目の前の患者さんをきちんと評価し,その治療が適用できるかどうか判断し,患者さんと相談しながら複数の選択肢から治療法を決定することになる。本書の薬物療法の記載には全て根拠論文が示されている。実際の治療では必ず根拠論文を当たって,目の前の患者さんに有用かどうかを判断して治療に当たる必要がある。今は病棟や外来でも簡単にインターネットにアクセスできる時代である。治療の根拠論文がわかる本書は非常に便利である。さらには電子化版で,one clickで原著論文にたどり着けるようになるとさらに良いと思う。
今まではがん薬物療法は臓器別診療科においてがん種ごとに行われてきたが,これからはがん種横断的に薬物療法を実施する時代である。遺伝子異常に基づいてがん種横断的に承認される薬剤も増えてきている。がん種別の構成をとっているマニュアルでは扱いにくいかもしれないが,次版での対応を期待したい。
本書はほぼ3年ごとに改訂され常に新しい治療を取り入れている。しかし,がん薬物療法の進歩は目覚ましく,毎年治療体系が変わっている。実際,本書が出版された後の2か月間でも新たに4剤の適応拡大が行われ治療体系が変わっている。本書に頼るだけでなく,がん治療に携わる者は常に新しい情報を把握する努力が必要である。それでも,本書はがん診療の現場で必ず役に立つはずである。私も常に白衣のポケットに入れている。本書が有効に活用され,がん薬物治療の向上に貢献することを願って止まない。
日々進化するがん医療を支える臨床家の力強い味方
書評者:髙山 哲治(徳島大大学院教授・消化器内科学/腫瘍内科学)
『がん診療レジデントマニュアル』が改訂され,第10版が出版された。本書は,レジデントのみならず,初期研修医,中堅医師,さらには指導医に至るまで,がん診療にかかわるあらゆる層の医師にとって有用な実践書である。各がん種について,疫学,診断,治療,予後などの要点が簡潔に整理され,白衣のポケットに収まるコンパクトなサイズで携帯性にも優れる。およそ3年ごとに改訂が重ねられ,その都度,標準治療・ガイドライン・疫学データが最新情報に更新されてきた点も大きな特徴である。
私自身,消化器がんの診療を中心に従事しているが,診療中にステージ分類や一次・二次治療の確認,薬剤投与量の再確認などを行う際,本書の簡潔な構成が極めて役立つ。各がん種の章末には最新のステージ別5年生存率が掲載され,治療方針を考える上でも参考になる。また,免疫チェックポイント阻害薬の普及を背景に,免疫関連有害事象(irAE)の特徴・診断・対応についてもわかりやすくまとめられており,近年の臨床現場の需要に即している。
さらに,本書の優れた点は,構成が臓器別の腫瘍のみならず,「がん性胸膜炎・がん性腹膜炎・がん性髄膜炎・がん性心膜炎」「感染症対策」「がん疼痛の治療と緩和ケア」「腫瘍随伴症候群」,そして「がんゲノム医療」などの章が設けられていることである。がん診療の現場でしばしば遭遇する事象に対して,具体的な初期対応や管理法が簡潔に記載されている点は非常に実用的である。
本マニュアルは,臨床腫瘍学や腫瘍内科学の体系書ではないが,日常診療で即座に知識を確認できる“ポケットリファレンス”として完成度が高い。特に日本臨床腫瘍学会が実施する「がん薬物療法専門医」試験の受験者にとっては,知識整理と確認のための最適なツールといえる。
がん診療の高度化が進み,チーム医療が不可欠となる現在,本書は医師だけでなく,薬剤師や看護師など多職種の医療者にとっても価値ある一冊である。第10版の刊行は,日々進化するがん医療を支える臨床家の力強い味方となるだろう。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。




