内科レジデントマニュアル 第10版
標準化医療を実践する力をSTEPで磨く、元祖レジデントマニュアル
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標準化医療を実践するための指針を凝縮した一冊。診断と治療が同時に進んでいく実臨床で、初療で何をどう判断し、どの順序で動くべきかという臨床医の思考過程-STEP-を明確に示した。研修医が夜間対応を安全に行うための「標準」も精緻に検討し、現場で本当に必要な内容を厳選、研修医必携の書。
*「レジデントマニュアル」は株式会社医学書院の登録商標です。
| シリーズ | レジデントマニュアル |
|---|---|
| 編集 | 聖路加国際病院 内科専門研修委員会 |
| 発行 | 2026年03月判型:B6変頁:516 |
| ISBN | 978-4-260-06013-4 |
| 定価 | 3,960円 (本体3,600円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第10版 序
本書「内科レジデントマニュアル」は1984年に初版が発刊されてから40年が経ち,聖路加のみならず日本中の研修医に愛用されてきました.その節目となる第10版の改訂に携わることができたことを光栄に思います.
電子カルテにAIが統合され,鑑別診断や初期対応,投薬案が瞬時に提示される未来は遠くないでしょう.知識の検索や判断の補助は格段に効率化され,いずれマニュアルは不要になるのではないかと感じるのは私だけではないはずです.そんな思いの中で今回の改訂作業を進めました.
今回の改訂でも前版同様に標準化医療の提示を強く意識しました.標準化医療とは単に方針や手順を揃えることを目指すのではなく,多職種・多専門家が議論し,葛藤し,時に意見をぶつけながら組織としての「判断の基準」を作り上げていくプロセスにこそ真意があると考えます.そこには組織としての文化や哲学が培われ,同時に重要な教育の機会が生まれます.そのプロセスがチーム医療を強くし,医療の質を高め,その成果として「誰が診ても同じ質を担保できる医療」が実現します.AIが支援できるのは標準化医療の活用です.しかし,標準化医療を築き,更新し続けることは,今後も我々医療者が担うべき領域です.
さらに,今回の改訂では実践性もこれまで以上に重視しました.実臨床では診断がついてから治療を開始するとは限りません.多くの場合,診断と治療が同時に進みます.初療で何をどう判断し,どの順序で動くべきかという臨床医の思考過程をステップごとに示し,多くの章でそれを左に図示し,右に解説する見開きの体裁をとりました.
第10版の作成は,まさにこの「標準化医療の実践性」を体現する作業でした.現場で本当に必要とされる項目は何か.夜間対応を安全に行うにはどこまで具体化すべきか.エビデンスのある領域は原則に従い,乏しい領域は専門家が議論し,組織として責任ある標準を作る.多くの時間と労力を要しましたが,そのすべてが本書に息づいています.
本書が現場で働く研修医の診療に役立ち,同時に組織として目指すべき医療の方向性を示すものとなることを願っています.
2026年1月
聖路加国際病院内科専門研修プログラムディレクター
長浜 正彦
目次
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1 院内緊急対応
1 疾患概念・定義
2 院内急変で呼ばれたら
3 一次救命処置(BLS)と二次救命処置(ACLS)
Side Memo
・ 救急カートの中身(当院の一例)
2 ショック
Side Memo
・ 忘れがちなショックの原因
3 意識障害
4 失神
Side Memo
①反射性失神,起立性低血圧に対する指導
②失神とてんかん発作の鑑別
③head-up tilt試験
④失神患者の自動車運転に関する指針
5 頭痛
6 脳血管障害
7 痙攣
8 胸痛
Side Memo
・ 心エコー
9 急性冠症候群
Side Memo
①機能的補助
②ACSの重症度診断
③経静脈的血栓溶解療法の適応と禁忌
④TIMI血流分類(flow grade):再灌流後の血流量評価法
⑤ACS時の緊急CABG
10 急性心不全
Side Memo
①見落とされがちな心不全〔LVEFの保たれた心不全(HFpEF)〕
②ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
11 高血圧症(緊急対応中心)
Side Memo
・ 一過性の高度の血圧上昇を示す症例
12 不整脈
Side Memo
①抗不整脈薬の使い方
②カテーテルアブレーション
13 肺血栓塞栓症
14 呼吸不全
Side Memo
①SpO2とPaO2の関係
②CO2ナルコーシス
③低酸素性肺血管攣縮(HPV)
④NPPV設定時の用語について
⑤HFNCで投与する酸素量
15 気管支喘息
Side Memo
①咳喘息
②Treatable traits approach
16 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
Side Memo
①喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)
②正常下限値によるCOPDの診断
17 腹痛
Side Memo
・ 診断の要点
18 肝臓・膵臓の緊急
1 肝疾患の緊急
A 急性肝不全
B 肝性脳症
2 膵疾患の緊急
A 急性膵炎
Side Memo
①肝移植適応基準
②ERCP後膵炎
19 消化管出血
Side Memo
①本当に吐血?
②内視鏡治療のタイミング
③輸血のタイミング
④抗血小板薬・抗凝固薬の取り扱いについて
⑤EBL(Endoscopic Band Ligation)
20 下痢・便秘
1 下痢
2 便秘
Side Memo
①食中毒と起因菌
②小腸型と大腸型
③下痢を起こす薬剤
④用語の使い分け
⑤ブリストルスケール
21 関節痛
22 膠原病のエマージェンシー
Side Memo
・ ステロイド誘発性副腎不全とステロイドカバー
23 病棟で経験するアレルギー
1 アナフィラキシー
2 重症薬疹
3 抗菌薬アレルギー
4 造影剤に対する過敏症
24 脱水と輸液
Side Memo
①過剰輸液の弊害
②体液量と有効循環血漿量
③体液過剰の場合(利尿薬の使い方)
25 電解質異常
1 低Na血症
2 高Na血症
3 低K血症
4 高K血症
5 低Ca血症
6 高Ca血症
7 低P血症
8 高P血症
Side Memo
①輸液1L投与後の血清Na濃度の変化(mEq/L)(Adrogue式)
②3%NaClを1mL/kg投与すると,血清Na濃度は1mEq/L上昇する
26 急性腎障害
Side Memo
①「〇〇円柱」とは「〇〇」が腎由来であることを意味する
②「FENa<1%は腎前性AKI」には例外が多い
③AKIで血清Cr値は必ずしもGFRの鋭敏な指標ではない
④造影剤腎症について
27 慢性腎臓病患者と透析患者の入院管理
1 慢性腎臓病患者の入院管理
2 初期対応(診断・鑑別・治療)
3 透析患者の入院管理
Side Memo
①蓄尿の評価
②CAPD,APD
③不均衡症候群
④バスキュラーアクセスの種類
28 糖尿病,血糖異常
Side Memo
①グリコアルブミン
②緩徐進行型1型糖尿病
③糖尿病の成因分類
④正常血糖DKA
⑤血清Naの補正値
⑥シックデイの対応
⑦ステロイド性高血糖
⑧反応性(ストレス性)高血糖
29 甲状腺中毒症・甲状腺機能低下症
1 甲状腺中毒症
2 甲状腺機能低下症
30 院内患者の発熱
31 感染症治療
1 抗菌薬治療の原理原則
2 尿路感染症
3 蜂窩織炎
4 カテーテル関連血流感染
5 肺炎
6 髄膜炎
7 感染性心内膜炎
8 肝胆道系感染症
9 敗血症
Side Memo
①AmpC産生菌とは
②無症候性細菌尿は治療すべき?
③うっ滞性皮膚炎
④CLABSI(中心静脈カテーテル関連血流感染症)の診断基準
⑤抗菌薬ロック療法(カテーテルロック療法)
⑥黄色ブドウ球菌菌血症で Uncomplicatedの全項目を満たさない症例の抗菌薬投与期間をどうするか?
⑦間質性肺炎にも注意
⑧Mollaret's meningitis
⑨髄液検査の前にCTが必要な症例
⑩肺炎球菌の最小発育阻止濃度(MIC)は髄膜炎 vs 非髄膜炎で異なる:なぜセフトリアキソン,バンコマイシンで開始するのか?
⑪髄膜炎 vs 脳炎
⑫黄色ブドウ球菌用ペニシリン
⑬culture negative IE
⑭早期の外科治療介入が必要なケース
⑮抗菌薬予防内服について
⑯急性胆囊炎の Pitfall
⑰敗血症を呈する疾患の頻度
32 貧血・DIC・輸血療法
1 貧血
2 DIC(播種性血管内凝固)
3 輸血療法
Side Memo
・ 輸血による予測上昇Hb値
33 悪性腫瘍総論・Oncologic Emergency
1 悪性腫瘍総論
2 Oncologic Emergency
A 脊髄圧迫
B 尿路閉塞,閉塞を伴う腎盂腎炎(泌尿器科領域のエマージェンシー)
C 癌性心膜液貯留/心タンポナーデ
D 転移性脳腫瘍,癌性髄膜炎,頭蓋内圧亢進症
E 高Ca血症
F 上大静脈症候群(SVC症候群)
G 発熱性好中球減少症
H 腫瘍崩壊症候群(TLS)
Side Memo
・ 骨髄生検で腫瘍細胞が検出されたことが骨髄癌腫症ではない
34 がん患者の疼痛コントロール
Side Memo
①換算比の盲点──慣れてきた頃が危ない
②ケミカルコーピング
35 せん妄・不眠
1 せん妄
2 不眠
Side Memo
・ せん妄の原因となる薬剤
36 アルコール離脱症候群
Side Memo
・ 関連疾患としての Wernicke脳症と Korsakoff症候群
37 看取りの作法
Side Memo
①予期悲嘆
②子どものケア
③看取りの過程で心電図モニターがないことの利点
38 プレゼンテーション・手技・転倒対応
1 プレゼンテーション
2 気管切開チューブ(気管カニューレ)交換
3 ライン挿入(末梢静脈ライン,中心静脈ライン,PICC)
4 胸腔穿刺
5 腹腔穿刺
6 腰椎穿刺
7 関節穿刺
8 尿道カテーテル挿入
9 経鼻胃管チューブ挿入・胃瘻交換
10 血管外漏出
11 転倒・転落
Side Memo
・ アスピレーションキット
39 腎機能評価と薬剤性腎障害
本書で使用する主な略語一覧
索引
書評
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「生きた有機体」としてのマニュアル
書評者:志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)
本書を拝読してまず感じるのは,これは単なる当直マニュアルではなく,聖路加の臨床文化が世代を超えて受け渡されてきた記録でもある,ということである。1984年の初版から40年を経てなお,本書が研修医から好評を博してきた理由は明らかである。そこには,夜間,限られた情報と資源の中で,若い医師が患者の前に立つという現実への深い理解がある,と私は感じる。第1版の序には,卒後1,2年目の内科研修医が「なるべく自分ひとりの力で,しかも無難に処置ができるように」という切実な意図が記されている。その背後には,私が深く敬愛する日野原重明先生をはじめ,歴代の聖路加国際病院内科の先生たちが,回診と日々の臨床を通じて若い医師を鍛えてきた歴史が垣間見える。マニュアルと銘打ちながら,整理された知識の行間に,患者の苦しみの前で逃げずに考え,次の一手を選ぶ臨床の姿勢が透けて見える。本書には,その姿勢が一貫して流れている。
今回はすでに第10版である。かつて自分が手に取っていたのは第5版で,隔世の感がする。第10版で特に印象的なのは,AI時代におけるマニュアルの意味を正面から問い直している点である。電子カルテにAIが統合され,鑑別診断や初期対応が瞬時に示される時代になっても,標準を築き,更新し続けるのは医療者である。標準化とは現場を一つの型にはめることではない。「よい医師がいるから何とかなる医療」から「誰が担当しても外れない安心できる医療」へ近づけるための質と安全の仕組みづくりである。重要なのは,判断の分かれ目,引き継ぐべき情報,見落としやすいリスクを言語化し,チームで共有し,改善を反復して最善をめざすことである。第10版の序にある標準化医療への姿勢は,マニュアルを固定された手順書ではなく,現場の経験を安全な診療へ変換する学習システムとして捉えている点に価値があると私は思う。
また本書の実践性は,単なる箇条書きの便利さを超えている。院内急変,ショック,胸痛,呼吸不全,感染症,輸液,せん妄,看取りまで,臨床医が現場で直面する問題が,初動の順序と判断の流れとして整理されている。診断が確定してから治療が始まるのではなく,診断と治療が同時に進むという現実が,各章の構成に反映されている。この点に,本書の成熟がある。
聖路加の創設者トイスラーは,病院を人の苦しみに働きかける「生きた有機体」と表現している。本書もまた生きた有機体であり,版を重ねるごとに,成功,失敗,教育,祈りのような責任感を吸収し,次の世代へ受け渡されてきたのだろう。日野原先生が大切にされたであろう,患者のいのちに仕える医学,若い医師を信じて育てる教育,そして組織として良い医療をめざす精神が,本書には今も静かに息づいていると私は感じる。
本書は,内科研修医のための本である。しかし同時に,臨床医が自分の初心を取り戻すための本でもある。忙しい夜,迷う瞬間,患者のそばで「次に何をすべきか」を考える医師にとって,この一冊は知識以上の支えになる。聖路加の臨床の灯を,次の世代へ手渡すにふさわしい医学書である。




