まるごとアトピー
アトピー性皮膚炎の病態から最新薬剤,患者コミュニケーションまで

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新薬も次々に登場し、病態解明も進みつつあるアトピー性皮膚炎。本書では、アトピー治療の基本であるステロイドの正しい使い方をはじめ、新規薬剤への対応、診察テクニック、患者さんや家族とのより良いコミュニケーションの方法など、皮膚科医はもちろん、アトピー性皮膚炎に携わる内科医や小児科医、総合診療医、さらには研修医や薬剤師など医療従事者が知りたいテーマを広くピックアップ。アトピー性皮膚炎診療の第一人者の先生がたがわかりやすく解説。手元に置いて、調べたいときや知りたいときに気軽に手に取れる。

編集 大塚 篤司
発行 2022年10月判型:A5頁:344
ISBN 978-4-260-04978-8
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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Prologue

 このたびは本書『まるごとアトピー』を手に取ってくださりありがとうございます.この本は診察室の机に並べておけるアトピー性皮膚炎のハンドブックという位置づけでつくりました.皮膚疾患は多彩なうえ,近年の新薬ラッシュの影響を受け,情報をキャッチアップするのも大変です.私自身,自分の専門外の疾患に関しては最新の治療を行えているのか自信がないこともあります.アトピー性皮膚炎の治療は急速に進歩し,どうなっているのかわからなくなっている先生もいらっしゃるのではないでしょうか.本書は治療に難渋する患者さんが受診したとき,パッと手に取り,すぐに調べられるような体裁となっています.
 外来で患者さんから聞かれる内容は薬のことだけではありません.日常生活に関する質問を受けることもしばしばです.「食べちゃいけないものはありますか?」「空気清浄機はあったほうがよいですか?」「体を洗うときに石鹸を使ってもよいですか?」,これら患者さんからの素朴な疑問に対して答えに詰まり,ごまかした返事をしてしまうこともあるでしょう.もしくは最新の論文を確認せず,古い知識のまま答えてしまう場面はないでしょうか? 本書は,そういった日常診療で受ける質問に対するエキスパートの答えが散りばめられた内容になっています.私自身,集まった原稿を読ませてもらい,大いに勉強になりました.正直なところ,アトピー患者さんの化粧指導や漢方の使いかたは,本書をまとめるまで十分に理解できていなかったように思います.ほかにも,ステロイド忌避の患者さんへのコミュニケーション法,また,近年注目されている行動経済学を取り入れた患者指導など,病態から診察テクニックまで本書では幅広く取り上げています.
 『まるごとアトピー』というキャッチーな題名とは裏腹に,中身はいたって真面目で盛りだくさんです.果実のように栄養がぎっしり詰まった本書をぜひ日常診療に活用していただけたら幸いです.

 2022年9月
 大塚篤司

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序 アトピー性皮膚炎の基本を知りたい
  1 アトピー性皮膚炎治療に関わるすべての医療従事者へ
  2 知っておくべき皮膚の基本
  3 アトピー性皮膚炎の歴史
  4 小児アトピー性皮膚炎の特徴と疫学

I アトピー性皮膚炎の病態を知りたい
  1 アトピー性皮膚炎の診断とガイドライン
  2 アトピー性皮膚炎の注意したい鑑別疾患
  3 外因性アトピー性皮膚炎と内因性アトピー性皮膚炎
  4 バリア機能とは
  5 免疫とは
  6 かゆみとは
  7 アトピー性皮膚炎の遺伝子解析の実際
  8 アトピーマーチとアトピー性皮膚炎の関係
  9 知っておきたいアトピー性皮膚炎の病理

II アトピー性皮膚炎の検査と薬剤による治療の方法を知りたい
  1 アトピー性皮膚炎の病勢評価に関するスコア
  2 アトピー性皮膚炎のバイオマーカー
  3 ステロイド外用剤の作用機序と使いかた
  4 ステロイド外用剤の副作用と注意点
  5 小児へのステロイド外用剤の使いかたと治療の注意点
  6 妊婦へのステロイド外用剤の使いかたと治療の注意点
  7 FTUとプロアクティブ療法
  8 ステロイド外用剤によるタイトコントロールと教育入院
  9 保湿剤の使いかた
  10 抗アレルギー薬の使いかた
  11 タクロリムス軟膏の使いかた
  12 シクロスポリンの使いかた
  13 紫外線治療の実際
  14 漢方の使いかた
  15 ジェネリック医薬品の位置づけと注意点
  16 カポジ水痘様発疹症とその治療
  17 アトピー性皮膚炎に合併したざ瘡とその治療
  18 アトピー性皮膚炎患者を皮膚科専門医へ紹介するポイントとタイミング
  19 治療法の使い分けのポイントと処方例
  20 デルゴシチニブ軟膏の使いかた
  21 経口JAK阻害剤の使いかた
  22 デュピルマブの使いかた
  23 ネモリズマブの使いかた
  24 ジファミラストの使いかた

III 患者・家族への生活指導のポイントを知りたい
  1 かゆみのスコア,対策と指導
  2 食事指導
  3 衣類,寝具類の注意点
  4 風呂,石鹼の注意点
  5 スポーツ,汗に関する注意点
  6 アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策
  7 消毒,ブリーチバスなどの抗菌治療
  8 アレルゲンの除去
  9 アトピー性皮膚炎患者の美容と化粧指導

IV 患者・家族へのコミュニケーションのポイントを知りたい
  1 行動経済学を用いたコミュニケーション
  2 ステロイド忌避の患者への指導
  3 インターネットやSNSにおける医療情報の扱いかたと注意点
  4 患者へのコミュニケーション実例紹介

索引

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アトピー診療の幅が広がる細やかな配慮溢れる書
書評者:福島 聡(熊本大病院教授・皮膚科)

 羊の皮を被った狼のような本である。

 「羊の皮を被った狼」という言葉は,新約聖書からの出典で「羊のような身なりで近づいてくるが,その内は貪欲な狼のような者もいるから気をつけなさい」という警句である。そこから転じて,例えばクルマ好きの間では「見かけは平凡でも,中身はスポーツカー顔負けのクルマに対して,敬意をもって使われる言葉」となる。
 本書はまさしくそういう本である。
 白くて可愛い装丁。小振りなので診察室の机においても邪魔にならない。挿絵もカラーできれいだ。
 ところが内容はまさに狼なのである。

 『まるごとアトピー』というだけあって,アトピー性皮膚炎の最新情報はこの一冊に全て入っている。読者の皆さんにはできれば通読をお勧めするが,忙しくて時間のない方は,太字になっている大事なところだけさっと斜め読みするとよい。アトピー性皮膚炎の患者さんに質問されて,自信を持って答えられなかったときなどは,目次や索引から瞬時に知りたい項目に飛べばよい。
 どの項目もとてもわかりやすい。分担執筆者を見て納得である。その道のプロが書いているので,当然なのだ。そして,かゆいところに手が届く。いや,この表現はアトピー性皮膚炎の本の書評としてはまずいか……。かゆくないようにする,かかないで済むようにするための本である。
 話を戻そう。とても配慮が行き届いた本なのである。例えば,「知っておきたいアトピー性皮膚炎の病理」の項目に菌状息肉症の病理組織が載っていた。アトピー性皮膚炎だけでなく,鑑別すべき疾患の病理組織が載っていることに感動した。また読んでいて,「この新薬ってどんな薬だったっけ?」と思ったときにも,「ネモリズマブ(p.227参照)」などと書かれてあるので,すぐに知りたい項目に飛べる。細やかな心配りだ。
 そして,なにより各章の最後に載っている「おーつか先生のつぶやき」が秀逸である。各章の内容についてナナメ上からコメントしたり,ツボを教えてくれたりする。例えば漢方の章を読んで,「うーん,やっぱり漢方は難しいなぁ」と思ったところに,「使える漢方を1つずつ増やすと,アトピー性皮膚炎治療の幅が広がりますよ」とつぶやいてくれる。「ああ,そうか,1つずつでいいんだ」と思うことができる。

 いやはや,恐れ入った。
 やはり,羊の皮を被った狼のような本なのである。


アトピーという一大ジャンルをコンプリートせよ!
書評者:市原 真(札幌厚生病院病理診断科主任部長)

注:この書評にはファイナルファンタジーX-2の重大なネタバレが含まれます。

 『まるごとアトピー』を読んだ。読後感は「全クリ」に近い。単にボスを倒してエンディングを見たときの感動に留まらず,サブエピ,やりこみ要素,追加DLCなどを含め,ゲームソフトの全コンテンツをコンプリートしたときのそれだ。ファイナルファンタジーX-2(FFX-2)に例えると,ティーダが生き返るトゥルーエンディングまで見たときの気持ち。われながらわかりやすい例えだ。

 本書は極めて医学書院らしい本である。網羅性がそうとう高い。アトピーという一大ジャンルの隅から隅まで触れられていることに感心する。ちなみに皆さまは,「アトピーの教科書」と聞いて,何が書いてあると予想されますか? ぱっと思いつくのは,「診断」「治療」「基礎医学」あたりですよね。本書には……皮膚の正常組織構造,アトピー研究の歴史,小児アトピーの位置付けに始まり,アトピーの鑑別診断,アトピー基礎医学から病態を解明し,標的分子をハイライトし,次々とアップデートされる最新薬剤の薬理と使用のコツを流れるように説明し,UVB,漢方(秀逸!),ジェネリック(基材に関する注意点は仰天したし納得)までカヴァー。プロアクティブ療法,タイトコントロール,患者や家族に対する生活指導や医療行動経済学,SNSにおける医療情報の扱い方まで。ほんとうに高い分解能で総ざらい。心意気は豪胆,仕掛けは繊細である。

 これほどまでに「網羅型」の教科書でありながら,ブックデザインが明るくてフォントが優しい。行間が詰まりすぎておらずイラストの挿入頻度も的確。成書が陥りがちな硬さが緩和されている。「網羅してますが,通読できますよ」。こういうところほんと巧い。データが新しいのもいいし,古典的なエビデンスを歴史込みで語っているところも好印象だ。あと,著者陣の日本語が総じて達者。「おーつか先生」のつぶやきも効果的である。

 本書が想定する対象は誰だろう? 大学でアトピー研究をしている人たちが読めば,基礎研究が臨床でどのように活用されているのかを実感するのに役に立つ。しかしメインターゲットは,「人生のある時期に大学にコミットしたけれど,今は現場でバリバリやっていて,患者との関係構築に心を砕いており外来満足度も高いと自負している,しかしぶっちゃけMR以外の経路で薬剤情報やエビデンスをアップデートするヒマがなくなってきていることも事実で,心のどこかでは『昔取った杵柄』でやってる気がして少し心配,たまにエムスリーやケアネットの動画を見て,まれにキー論文も読んで一応勉強している,そんな自分に引け目がないわけじゃないけど,でも精一杯やってるヨ」というようなリアルワールドの医者であろう。きっとものすごく刺さると思う。FFX-2にも言えることだけど,ゲーム廃人じゃなくても,アルティマニアを買うとコンプリートしたくなってゲームの広さが味わえるよね。またわかりやすい例えを使っちゃった。

 

 

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