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誰も教えてくれなかった糖尿病患者の感染症診療
感染症合併例はココに気をつけて!

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糖尿病患者は免疫不全状態で、感染症に罹患しやすいが、感染症診断が遅れがちである。また罹患すると感染症が重症化しやすいうえに、血糖コントロールも難しくなり、高血糖が悪化する。新型コロナウイルス感染症においても、糖尿病患者は重症化しやすいと言われている。そこで糖尿病と関連の深い感染症を中心に、感染した糖尿病患者を診療する際に必要な情報を内科医向けにまとめた。

編集 石井 均
発行 2021年01月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-04351-9
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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  • 序文
  • 目次
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まえがき

 手元に何冊か医学史の書物がある.例えば,メアリー・ドブソン著『Disease 人類を襲った30の病魔(原題:Disease;The Extraordinary Stories Behind History’s Deadliest Killers)』(医学書院,2010年)に選ばれた30疾患のうち26疾患は感染症である.選択の基準として,「社会や個人に関係する範囲をはるかに超えた,地球規模の災厄をもたらした疾患」と述べている.著者が感染症の歴史を専門としていたというバイアスはあるにしても,その多さは感染症がいかに人類にとって脅威であり続けてきたかを如実に物語る.感染症26疾患のうち9疾患はペストなどの細菌感染症である.また,7疾患はマラリアなど寄生虫病である.そして,最多の10疾患は,天然痘,インフルエンザ,エイズなどのウイルス疾患である.
 これらの疾患の診断,予防,治療について,人類はたゆまざる努力をし,業績をあげてきた.大きな発見としては,種痘,消毒と無菌法,化学療法や抗生物質,ワクチンなどがあるだろう.また,衛生状態の改善,下水道設備,教育なども基本的な要因である.それらの成果は疾病構造を変化させ,慢性疾患が死因の上位を占めるようになった.しかし,感染症は制圧されることなく現在も脅威となっている.薬剤耐性菌,新興・再興感染症,パンデミックなどが近年の問題であり,グローバル化が感染症を国際的な危機管理の問題とならしめている.
 さて,糖尿病と感染症であるが,糖尿病をもっていたと考えられる藤原道長の記録に次のような記載がある.「……口渇感が強く,昼夜を分かたず飲水が多量となる.この3年後より視力低下,1m先のひとの顔が判別できなくなる.10年後,全身に皮膚膿瘍が出現.意識障害となり……」.敗血症を起こしたのだろうと推測されている.また,『インシュリン物語』(G. レンシャルら著,岩波書店,1965年)には当時の未解決問題として,血管合併症(細小血管障害や動脈硬化性疾患)に次いで感染症が取り上げられている.「糖尿病者では頻度が高く,特にコントロール不良時には通常と異なる経過をとる.皮膚と泌尿器に多く,廱,真菌,尿路感染症,肺結核などが多い.……糖尿病と感染症には双方向性の関係があり,糖尿病があると感染しやすくなり,経過が重篤になる.一方,感染によりインシュリン需要量は増し,コントロールは困難となる」(一部石井要約改変).細小血管障害や動脈硬化性疾患と糖尿病との関係の理解や治療は飛躍的に発展したが,感染症についてはこの記載からあまり変化していないように見える.
 最近の糖尿病患者の死因統計を見ても,1位は悪性新生物であるが,2位は感染症(多くは肺炎),3位が血管障害となっている.血管障害については,研究や対策も進み,その発生率は低下傾向にあるが,悪性新生物と感染症はむしろ増加傾向にある.すなわち,糖尿病患者にとって感染症は変わらぬ脅威である.
 当院の糖尿病・内分泌内科では自科患者以外にも他科入院中の糖尿病をもつ感染症患者のコンサルテーションを多数受けている.経験する感染症の種類は多彩であり,その診断と治療が困難な症例もある.また,糖尿病治療においてはインスリン注射を必要とする場合が多く,炎症によるインスリン抵抗性の増大や食事摂取量の不安定さなどにより,血糖値を安定させにくいことを経験する.感染症をもつ糖尿病患者の血糖コントロールは大きな課題であると言える.
 この度,『糖尿病診療マスター』誌に掲載された論文をベースに最近の知見を加筆修正していただいたものと,新規に原稿執筆いただいた論文(COVID-19など)を合わせて,『誰も教えてくれなかった糖尿病患者の感染症診療―感染症合併例はココに気をつけて!』を発刊する運びとなった.日常診療でよく遭遇する疾患から頻度は高くないが重症化しやすい疾患まで,あるいはよく知られている疾患から新規感染症まで取り上げ,糖尿病と関連付けてその特徴,治療法を解説している.
 この書物が多くの医師・医療者の日常診療の一助となることを願っている.

 2020年11月
 石井 均

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まえがき

I章 糖尿病患者の感染症診療における考え方進め方
 1 感染症と糖尿病――歴史の視点から
 2 糖尿病患者における感染症の特殊性
 3 感染症罹患時のシックデイ対応
 4 抗菌薬の使い方――糖尿病における注意点
 5 感染症による糖尿病患者の昏睡
 コラム① 糖尿病患者の呼吸不全

II章 呼吸器感染症を合併した糖尿病患者を診る
 1 糖尿病患者における呼吸器感染症の特徴
 2 急性上気道感染症(かぜ症候群)への対応
 3 インフルエンザへの対応
 4 肺炎への対応
 5 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
 コラム② コロナ禍で糖尿病患者はどのように過ごしていたか

III章 尿路感染症を合併した糖尿病患者を診る
 1 糖尿病患者における泌尿器合併症の特徴
 2 尿路感染症への対応
 3 SGLT2阻害薬と尿路感染
 コラム③ DPP-4阻害薬と感染症

IV章 その他の感染症を合併した糖尿病患者を診る
 1 皮膚感染症への対応
 2 潰瘍壊疽への対応
 3 急性胆囊炎への対応
 4 歯周病への対応
 5 周術期感染への対応
 コラム④ H. pyloriと糖尿病

付録【一覧表】糖尿病に関連の深い感染症とその特徴

あとがき
索引

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糖尿病における感染症診療の知見を症例提示も交え解説
書評者:稲垣 暢也(京大大学院教授・糖尿病・内分泌・栄養内科学/日本糖尿病学会常務理事/日本糖尿病協会理事)

 2020年,新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)のパンデミックに襲われ,世界は一変した。そして,糖尿病がCOVID-19によって重症化しやすいという多くの報道がなされ,糖尿病患者は不安におびえている。しかし,そもそも糖尿病患者は,血糖コントロールが不良であれば,さまざまな感染症が重症化しやすいことは古くから知られており,COVID-19に限った話ではない。わが国における最近の10年間の調査によれば,感染症は糖尿病患者の死因の第2位なのだ。今回の新型コロナウイルス感染のパンデミックは,糖尿病と感染症の関係についてあらためてその重要性を見直す良い契機となった。

 本書は,そのような時期に,糖尿病患者の感染症診療についてまとめられた,まさにタイムリーな待望の一冊である。

 糖尿病患者は,COVID-19だけでなく,インフルエンザや市中肺炎,そして結核などの呼吸器感染症が重症化しやすいだけでなく,尿路感染症,皮膚感染症,胆囊炎なども重症化しやすい。さらには足壊疽や歯周病にも留意する必要がある。本書は,糖尿病におけるこれらの感染症診療に関する最新の知見を,症例提示も交えながら,わかりやすく解説している。

 糖尿病を診療する医師にとって最も重要なことは,患者のリスクを的確に捉え,これらの感染症が重症化する前に,予防や早期に発見・治療することであって,編者の石井均先生が述べておられるように,日常診療の中で,細やかな観察や会話,患者が納得できる丁寧な説明や情報提供,セルフケアなどの患者教育などが求められるのだ。編者のこの一冊に込められた思いは,まさに,この「医師―患者関係」の重要性にある。

 そして,編者も述べておられるように,これらの感染症に関する情報が,糖尿病患者に対する社会的スティグマにつながるのではなく,血糖コントロールを良好に行えば重症化リスクが低減するのだといった正しい情報を発信することにより,社会全体で患者の安全を守るようなメッセージとなることを切に願っている。


「実践的・アップデート・医療人と患者さんへの温かな眼差し」が徹底された書
書評者:益崎 裕章(琉球大大学院教授・内分泌代謝・血液・膠原病内科学)

 COVID-19パンデミックは日常生活の在り方を根本から大きく変え,あっという間にリモートワーク・オンライン・マスク着用・自粛生活が当たり前の風景になった。糖尿病診療においては制約の多い生活下,いかに上手に血糖コントロールを保ち,運動不足や食べ過ぎに陥らないようにできるか,新たな工夫や知恵が求められている。特に,COVID-19重症化要因として糖尿病に伴う血管障害がクローズアップされ,あらためて感染症の底知れぬ脅威と重要性を全ての医療人が再認識することにもなった。新常態の時代に同期して,奈良医大医師・患者関係学講座 石井均教授の編集による渾身の一作,『誰も教えてくれなかった糖尿病患者の感染症診療――感染症合併例はココに気をつけて!』が上梓された。母教室,京大第二内科の大先輩である石井先生をはじめ執筆陣の多くに日頃から私自身がご指導いただいている先生方が参画され,紙面のすみずみまで「実践的・アップデート・医療人と患者さんへの温かな眼差し」という3点が徹底されており,深い感銘を受けた。通読してみると,わかっているつもりで実は正しく理解できていなかった点やこの数年の感染症診療の進歩に驚かされる点が少なくなかった。あらゆる記述は医師のみならず,多職種の医療関係者,医学生・保健学科生が読んでも十分にわかりやすく明快であり,理解を助ける図表にも巧みな趣向が凝らされている。あとがきで石井先生がお書きになっているとおり,糖尿病患者の感染症予防・診断・治療の各ステップにおいてきめ細やかな観察・会話・腑に落ちる丁寧な説明・適切でわかりやすい情報提供に代表される「良好な医師―患者関係」が治療アウトカムに大きく影響することを実感できる。尊敬してやまない石井先生の最新刊の書評を書かせていただけることは光栄の極みである。専門医,非専門医を問わず,糖尿病診療・感染症診療に携わるあらゆる分野の医師・あらゆる職域の医療人の皆さまの愛読書として長く活用していただきたいと願い,この快著を強く推薦する次第である。

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