運動療法 その前に!
運動器の臨床解剖アトラス

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関節の可動域制限や不安定性、軟部組織の拘縮、そして圧痛に疼痛。なぜ動かせないのか? なぜ痛むのか? いったいその中身はどうなっているのか? 本書が全部お見せします! 筋や靱帯の周囲にある結合組織にも着目。臨床で問題となる部位を「ここから見たかった」角度で紹介。さらに運動療法による動態をエコーで明示します。

監修 北村 清一郎 / 馬場 麻人
編集 工藤 慎太郎
発行 2021年04月判型:A4頁:376
ISBN 978-4-260-04313-7
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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  • 本書のポイントを編者の工藤慎太郎先生に動画で解説いただきました。

    2021.04.23

  • 解説動画
  • 序文
  • 目次
  • 書評

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本書の編者である工藤先生が、本書の使い方を解説します!

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 本書が企画されたのは,徳島大学大学院口腔顎顔面形態学分野の前任教授である北村清一郎先生が主宰されていた,解剖学の勉強会がきっかけです。後任が私に変わっても,勉強会は継続し,理学療法士や作業療法士の若き先生方が,口腔顎顔面形態学分野の科目等履習生として,時間をかけ,熱意をもって解剖に取り組んできました。そして,そこから得られた知見を理学療法・作業療法の臨床へと還元しようという趣旨で,本書が企画されました。
 医療の現場では,エビデンスをもとに治療を進めていくことが基本中の基本ですが,本書の執筆者は,自分たちが臨床で経験したことのエビデンスを解剖体に求め,そこで得られた答えを臨床現場に戻し,再び検討する,ということを繰り返してきました。こうした成果は理学療法士や作業療法士の研修会を通じて公開され,2019年には,第54回日本理学療法学術研修大会において,全国から170名あまりの参加者を迎え,研修会を行うことでも還元できたと思われます。そしてこのたび,これまでの努力の賜物を,書籍という形にまとめることとなりました。
 解剖学を含む形態学の世界では,観察者が自身の哲学に基づき,さまざまな切り口で対象を観察し,その機能を考えます。それは,「ヒト」という生物の複雑さを,多面的に解析する過程でもあります。それは本書でも同様で,一般的な教科書に示される単なる解剖所見を示すだけでなく,臨床現場で働く理学療法士・作業療法士としての哲学に基づく解剖的な新たな観点と,そこから導かれる機能や病態を提示することに成功しています。私自身,勉強会などで彼らとディスカッションすることで,今まで思いつかなかった新しい切り口に気づかされました。本書を手に取られた方は,人体の構造について,立体的なイメージを頭のなかに浮かべることができるでしょう。そして新たな,よりよいアプローチ方法を検討するヒントが得られるのではないかと期待しています。
 本書の刊行は,ご献体くださることで多くのことを教えてくださった徳島大学白菊会会員の方々と,献体にご同意くださったご家族,「医療従事者を育てることで医療を支えるのだ」という熱意と真心のうえに成り立っています。特に本書は,生前同意書において,解剖学教育および研究においてその所見を広く活用することをご承認いただいた方々のおかげで刊行されております。本書を読む際には,このような学修の機会を設けてくださった方々への感謝の気持ちをもって学んでいただけますと幸いです。
 最後に,ご献体くださった故人とそれにご同意くださったご家族の方々に,本書の刊行をご報告申し上げるとともに,深謝申し上げます。

 令和3年3月
 徳島大学大学院口腔顎顔面形態学分野教授
 馬場 麻人

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第1章 上肢
 I 肩甲帯
  1 いわゆる“肩こり”を解剖する 僧帽筋,肩甲挙筋,菱形筋
  2 肩甲骨周囲筋の筋力低下を解剖する 肩甲胸郭関節,前鋸筋,菱形筋,外腹斜筋,胸鎖関節,肩鎖関節,烏口鎖骨靱帯
  3 肩甲骨の可動性低下を解剖する 小胸筋,鎖骨下筋,広背筋
 II 肩関節
  1 肩関節の内転制限を解剖する 第2肩関節,烏口肩峰弓,肩峰下滑液包,棘上筋,烏口上腕靱帯
  2  肩甲上腕関節の前方不安定性を解剖する 肩甲下筋,上腕二頭筋長頭腱,関節上腕靱帯
  3 肩甲上腕関節の後方軟部組織の拘縮を解剖する 棘下筋,小円筋,後方関節包
  4 肩関節挙上時の外側部痛を解剖する 広背筋,大円筋,腋窩神経,上腕三頭筋長頭
  5 肩関節挙上時の前腕外側部痛を解剖する 烏口腕筋,筋皮神経,上腕二頭筋短頭
 III 肘関節
  1 肘関節の伸展制限を解剖する 円回内筋,上腕二頭筋停止腱,上腕筋,前・後肘関節筋
  2 肘関節の外反不安定性を解剖する 内側側副靱帯,浅指屈筋,尺側手根屈筋,上腕三頭筋内側頭
  3 肘外側部痛を解剖する 長・短橈側手根伸筋,橈骨神経,回外筋,外側側副靱帯複合体,総指伸筋
  4 肘関節の屈曲制限を解剖する 上腕三頭筋,肘関節包
 IV 手関節・手部
  1 手部のしびれを解剖する 手根管,尺骨管,屈筋支帯(横手根靱帯),浅指屈筋,深指屈筋,虫様筋
  2 手関節尺側の不安定性を解剖する 三角線維軟骨複合体,尺側手根伸筋,尺側手根屈筋,小指外転筋
  3 手関節橈側の痛みを解剖する 長母指外転筋,短母指伸筋腱,手根中手(CM)関節
  4 手指の伸展制限を解剖する 指屈筋腱,伸筋支帯,指背腱膜,斜支靱帯

第2章 下肢
 I 股関節
  1 股関節の屈曲可動域制限を解剖する 大腿直筋,関節唇,小殿筋
  2 股関節の内転制限を解剖する 腸脛靱帯,大殿筋,大腿筋膜張筋,中殿筋
  3 股関節の外転筋力低下を解剖する 中殿筋,梨状筋,大腿方形筋,上・下双子筋,内・外閉鎖筋
  4 股関節の伸展制限を解剖する 腸骨大腿靱帯,腸腰筋,腸骨関節包筋,大腿神経
  5 鼡径部痛を解剖する 長内転筋,恥骨筋,大内転筋,外閉鎖筋,閉鎖神経
 II 膝関節
  1 膝関節の伸展不全を解剖する 大腿四頭筋,膝蓋骨,膝蓋靱帯・膝蓋支帯,膝蓋下脂肪

  2 膝関節の屈曲可動域制限を解剖する 中間広筋,膝蓋上嚢,膝関節筋
  3 膝関節内側部痛を解剖する 縫工筋,薄筋,半腱様筋
  4 膝関節の伸展制限を解剖する 半膜様筋,腓腹筋内側頭,後方関節包
  5 膝関節の内反不安定性を解剖する 外側側副靱帯,大腿二頭筋,腓腹筋外側頭,膝窩筋,足底筋
 III 足関節・足部
  1 足関節の底屈筋の筋力低下を解剖する アキレス腱,腓腹筋,ヒラメ筋
  2 足関節の背屈制限を解剖する 距骨前脂肪体,前脛腓靱帯,長母趾屈筋,長趾屈筋,Kager's fat pad
  3 足関節の内反不安定性を解剖する 前距腓靱帯,踵腓靱帯,後距腓靱帯,長・短腓骨筋
  4 下腿内側部痛を解剖する ヒラメ筋,長趾屈筋,長母趾屈筋,後脛骨筋
  5 踵部痛を解剖する 踵骨下脂肪体,内側・外側踵骨枝,足根管
  6 足部アーチの機能低下を解剖する 母趾・小趾外転筋,母趾内転筋,底側踵舟靱帯,長足底靱帯,前・後脛骨筋,長母趾屈筋,長・短趾屈筋,長腓骨筋

第3章 体幹
 I 頭頸部
  1 嚥下機能障害を解剖する 舌骨上筋群,舌骨下筋群,咀嚼筋群
  2 頭頸部痛を解剖する 後頭下筋群,半棘筋,板状筋
 II 胸部
  1 胸郭の不安定性を解剖する 脊柱起立筋群,横突棘筋群,肋椎管,上・下後鋸筋,腰方形筋
  2 胸郭の運動性低下を解剖する 肋椎関節,横隔膜,肋間筋
 III 腰部・骨盤部
  1 体幹の不安定性を解剖する――腰部固有背筋 胸最長筋,腰腸肋筋,腰背腱膜,胸腰筋膜,多裂筋
  2 体幹の不安定性を解剖する――腹筋群 腹直筋,腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋,腰方形筋
  3 仙腸関節の不安定性を解剖する 仙腸関節,仙結節靱帯
  4 骨盤底の機能低下を解剖する 尾骨筋,肛門挙筋,骨盤隔膜,坐骨直腸窩脂肪体,内閉鎖筋

索引

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解剖・運動器エコー・運動療法という3テーマの要点が一冊に詰まったお得セット
書評者:小林 匠(北海道千歳リハビリテーション大教授・理学療法学)

 真っ先に感じたのは,「自分が若手の頃にこの本に出合えていたら,ものすごく助かっていただろうな」ということである。

 本書は,運動器リハビリテーションの臨床場面において遭遇することの多い疼痛や機能障害に焦点を当て,それらに関連する解剖写真とエコー所見,運動療法をまとめた内容になっている。

 最大の特長は,「運動器リハビリテーションにおいて遭遇することの多い疼痛や機能障害ごとに章立てられている」ことである。そして,全ての章において,「実際の解剖体を用いた写真」が多数掲載され,「解剖に合わせたエコー画像」も多数掲載されており,さらに「解剖およびエコー画像に合わせた実際の運動療法」が写真付きで解説されているという,読者にとって非常にありがたい構成となっているのである。解剖・運動器エコー・運動療法という3つのテーマの要点が一冊にぎっしり詰まったお得セットと言える。

 現在のセラピストに求められているのは,「医師の指示の下にリハビリテーションを提供すること」ではなく,「いかに患者の機能障害を適切に評価し,効率的なリハビリテーションを提供するか」ということである。近年の運動器エコーの発展に伴う“運動器リハビリテーションの見える化”が,このことを後押ししていることに疑いの余地はなく,理学療法士を始めとするセラピストには,運動器エコーを扱える知識と技術が今後より一層求められていく可能性は高い。

 運動器エコーを扱うために基礎となるのは解剖学の知識であることは,言わずもがなである。運動器エコーを扱えることのメリットは,効率的な運動療法が提供可能になることである。本書のタイトルにある『運動療法 その前に!』はまさにその通りであり,本書は今後の運動器リハビリテーションを支える教科書になると感じさせられる。

 運動器リハビリテーションに携わる多くのセラピスト,そして今後の運動器リハビリテーションを担う学生や若手セラピストに手にとってもらいたい一冊である。


読者の観察力が,価値を高める一冊
書評者:秋田 恵一(東京医歯大大学院教授・臨床解剖学)

 「解剖学は本当に重要ですよね」。

 多くの外科医や理学療法士をはじめとするセラピストに,こう言っていただくことが多い。

 このことは,本当に喜ばしいことだと思う。やはり,しっかりとした解剖学的基盤の上に,診断法や治療法が構築されることが重要であるし,そのための解剖学であることは言うまでもない。

 その一方で,解剖学(この場合は肉眼解剖学に限定)においては,他の学問分野ではありえないようなことが起きているということも理解しておかなくてはならない。もし機会があれば1800年代から1900年代初頭に出版された欧米の解剖学書の「絵」と,現代の教科書の「絵」を比較していただきたい。現代の解剖学の教科書のほうが,臨床的な重要性をさまざまな角度から示唆する「絵」が描かれていることがわかる。しかし同時に,実に多くの省略もなされているのである。解剖学的記述にしても同様である。重要なところを強調し,学習の効率化を図るための省略は,臨床的関連事項を強調するためにも合理的なことであり,重要なことではある。一方で,「絵」から見えているはずのさまざまな細かな線が消えてしまい,詳細な観察的記述も割愛されることにもなっており,それが常識であり,真実として受けられているところもあるのである。生理学的・運動学的な臨床研究が日々進化するなかで,合理的につくられた教科書的知識が基盤となっているのであれば,ともすると学問的な障害にもなり得るのではないだろうか。

 「人体の構造は単純ではなく,複雑なのである」という当たり前のことを理解するために,解剖学実習はある。本物に触れ,観察を通して,機能的理解を深め,さらなる応用を考えるための礎をつくることができる。ただ,多くのセラピストにとって,そのような機会を得ることは難しい。特に,本当に知りたい,理解したいと切望したとき,つまり臨床の場で悩みが生じたときに,すぐにアクセスすることはできない。

 本書には,臨床で必要となるとき,いつでも本物に触れることができる多くの写真が収められている。課題となり得ることがすでに目次に示されており,課題に従ってさまざまな写真が示されている。1つひとつの写真をくまなく見ていただきたい。近年の解剖学書では省略されている,さまざまな筋束や構造を見いだすことができるはずである。本文の説明の行間を,写真の中に見いだしていくこと,それが,本書の醍醐味であると考える。

 本書を手に取ることによって読者の想像力が喚起され,深い洞察を呼び覚まし,実診療をさらに高めていくことにつながると期待される。本書の構成および解剖写真は,その目的に十分にかなったものであると感じる。読者の観察力が,本書の価値をさらに素晴らしいものとするはずである。その意味で,読み手も試されていると言える一冊である。


解剖体所見と治療効果をつなぐ「生きた局所解剖学」
書評者:荒川 高光(神戸大大学院准教授・解剖学)

 本書の独自性は,臨床で活躍し,その治療成績の高さで知られる工藤慎太郎先生らが手がけた,エコー所見と局所解剖学所見付きの運動療法指南書となっているところである。

 セラピストが,臨床で著名な先生の臨床手技を見学したり,セミナーに参加したりするとき,そのモチベーションはおそらく「あの先生みたいに治療効果を上げたい」であろう。しかし,参加して帰ってきて,臨床に戻るとこう思うのだ。「どうやってもうまくいかない。しっかり真似してやっているのに……」と。そしてきっとこう考えるであろう。「あの先生みたいに効果を上げるには,どこを対象とするべきなんだろう?」「あの先生はどこを狙っていたのだろう?」。そして幾度となくセミナー参加を繰り返すのだが(これも大切なこと),結局は「あの先生が考えていることを知りたい」「あの先生が狙っている局部の解剖学だけでもわかるようになりたい」と考えるに至り(ここまで至らないセラピストのほうが大多数),「実物の解剖学を知りたい」と考えるようになる。そして解剖学を専門とする人に見学を申し出たりするのだが,ほとんどの見学者は「これが○○筋です」「これが□□神経です」と説明を受けても,「あー,そうなんだ……」という感じで終わってしまうのである。なぜなら,その構造を目にして知ることができても,それがどのような臨床につながるのかを考えていくのは,本人次第だからである。すなわち,解剖学実習体の所見は,見ただけで最初からその意味がわかるものではない。最初は誰かがその意味を教え,臨床へとつなぐ必要がある。つまり,指南役が必要なのである。

 臨床で実際に治療効果を上げている人が,人体構造のどこを狙っているのかという局所解剖学を指南してくれて初めて,セラピストにとって生きた局所解剖学となる。ただ実習体を眺めているだけでは,臨床につながるわけがない。

 本書は,工藤先生が臨床で考えていること=「私はこの治療の時ここを見ています」「私はこのような内部イメージで治療をしています」という,「工藤先生の頭の中を垣間見る」ことのできる書籍である。このような書籍はほぼ存在しないと言ってよい。工藤先生は,解剖学の研究を続けると同時に,一貫して臨床家として高い治療成績を上げ,他のセラピストで全く手の施せない難治例を回復させてきた一流のセラピストである。そんな存在は日本,いや世界を探してもなかなか存在しない。

 工藤先生の治療中の説明は解剖学的にほぼ正しく,その内容の正確さには圧倒される。そして,本書の監修である北村清一郎先生は,長く肉眼解剖学の世界に貢献されたレジェンドというべき存在である。本書は,北村先生と工藤先生が強力なタッグを組んで生み出されたものである。

 本書をきっかけに,解剖学的に正しい運動療法が,日本に広まっていくことを期待したい。​​​​​​​

  • 本書のポイントを編者の工藤慎太郎先生に動画で解説いただきました。

    2021.04.23