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不明熱・不明炎症レジデントマニュアル

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発熱の原因検索に日々対峙しているレジデントに向けて、絶対に熱源を得ることを諦めない気概で日々診療を行っている執筆陣の考え方と実践を詰め込んだ1冊。総論では不明熱・不明炎症診療に関する病歴聴取、身体診察、臨床検査の基本を押さえ、各論では「不明熱にしてはいけない疾患」「“不明熱的”と認識した後の初動~次の1週間で何をするか」「入院患者のよくわからない発熱(感染性、非感染性)」という切り口で解説。
*「レジデントマニュアル」は株式会社医学書院の登録商標です。

シリーズ レジデントマニュアル
編集 國松 淳和
発行 2020年04月判型:B6変頁:498
ISBN 978-4-260-04201-7
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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  • 序文
  • 目次
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 不明熱の臨床はざっくりと次の2つの問題を内包しています.
① 発熱へのアプローチが不適切で,本来不明熱ではない発熱が「不明熱」とされる
② 本当の不明熱は文字通り原因が「不明」なため,臨床では未知の事柄への対処を強いられる
 不明熱の診療を向上させるには,「基本と応用」を押さえることが必要です.
 「基本」というのは①に,「応用」は②に対応する力にそれぞれ相当します.応用ばかり突き詰めても,①の問題に難なく処理できる力(下地となる力)がなければ不明熱をマネジメントできません.不明熱診療の特徴は,①と②が交互的あるいは重層的なかたちで担当医を困らせるという点にあります.基本と応用,一方にだけ長けていても,ダメなのです.そして不明炎症についても同様の構図があてはまります.
 本書は,この①,②に対応できるようにすることを目指して企画されました.これまで不明熱に関する標準的な書籍は①とその周辺の対処を目的としたものが多かったように思います.また,本書の編著者である私自身もこれまで不明熱に関する書籍や原稿を書いたことがありますが,どちらかというと②に対するものが中心でした.
 本書の特色・売りは,①と②の対処に関する記述を連結し,不明炎症も含めて網羅を目指したことです.しかも,臨床で実践しやすい形(“マニュアル”的な趣とコンサイスな大きさ)でまとめたものとなると,個人的には初めてのことになります.
 このマニュアルの使い方ですが,それは自由です.おのおのが臨床で困った事柄について「調べ物」的につまみ読みするのもよいでしょうし,読みたいところを通読してもよいし,1章のどアタマから1字1句・1行ずつ精読してもよいと思います.

 最後に(と言っても短くはないですが),本書の出版にあたって「底になったもの」について述べます.
 まずは個人的なことになります.師と呼んでよいと思うので一応そう言いますが,三森明夫先生から教わった膠原病診療です.私の不明熱・不明炎症の診療は,国立国際医療研究センター時代に三森先生に教わった膠原病診療に裏打ちされているという側面があります.
 次に,私が国立国際医療研究センターで経験した数々の不明熱・不明炎症の症例の経験です.不明熱外来という,不明熱の診療に特化した専門外来を(おそらく日本で初めて)開設することもしました.患者さんにお礼を言いたいです.
 そして最後に,先の2つと関連しますが,私が国立国際医療研究センター病院総合診療科で診療していた時に関わった医師たちの存在です.今回のこのマニュアルの執筆陣は,現在の所属こそバラバラですが,実は「国立国際医療研究センター病院総合診療科」というキーワードで結ばれます.この個性派揃いの“仲間たち”と診療したことが本書作成に活かされています.ここにお礼を言いたいと思います.
 また執筆者の中に,特に私の作業を(出版社以上に)緊密に手伝ってくれた,通称「コアメンバー」と呼ばれる編集協力陣がいます.尾久守侑,金久恵理子,佐藤達哉,早川格,平賀顕一,この5名に最大限の感謝と労いをここに述べようと思います.
 このような序文での“挨拶”など,せいぜい私や内輪の自己満足のためのものです.さあ,「不明」にお困りの皆さん.早速このマニュアルで皆さんの患者さんの「不明」の解決を試みてください.

 2020年2月,春のような日に
 國松淳和

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1章 総論:不明熱・不明炎症を考えるために

2章 熱をみるためのシステムレビュー

3章 不明熱・不明炎症における身体診察

4章 熱をみるための検査
 I.血液検査
  1 白血球数
  2 血液像
  3 血小板数
  4 CRP
  5 Alb,総蛋白
  6 血沈
  7 ALP
  8 LDH
  9 トランスアミナーゼ
  10 CK
  11 免疫グロブリン
  12 フェリチン
  13 甲状腺ホルモン
  14 可溶性IL-2受容体
  15 抗核抗体
  16 ANCA
  17 MMP-3
 II.尿検査
  18 蛋白・潜血・沈渣
 III.感染症
  19 細菌学的検査(グラム染色・血液培養)
  20 ウイルス検査
  21 クォンティフェロン,T-SPOT
 IV.画像検査
  22 CT
  23 MRI
  24 Ga-SPECT/CTとFDG-PET/CT
 V.病理検査
  25 病理検査

5章 不明熱にしてはいけない疾患
  1 伝染性単核球症
  2 HIV感染症
  3 サイトメガロウイルス初感染による伝染性単核球症様症状
  4 亜急性甲状腺炎
  5 腎盂腎炎
  6 胆管炎・胆嚢炎
  7 ウイルス性髄膜炎
  8 マイコプラズマ肺炎
  9 骨盤内炎症性疾患
  10 渡航関連感染症

6章 “不明熱的”と認識した後の初動~不明熱にしないために次の1週間で何をするか
  1 下痢
  2 皮疹
  3 関節炎
  4 リンパ節腫脹
  5 筋痛
  6 頸部痛
  7 腰背部痛
  8 胸水
  9 腹痛
  10 腹水
  11 red eye
  12 炎症反応陰性
  13 意識障害

7章 入院患者のよくわからない発熱
 I.感染性
  1 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
  2 人工関節感染症
  3 人工血管感染症
  4 心臓植込み型デバイス感染症
  5 VPシャント感染症
  6 手術部位感染症
  7 褥瘡感染症
  8 肺炎
  9 Clostridioides difficile感染症
  10 腎盂腎炎
  11 急性細菌性前立腺炎
  12 各種膿瘍
  13 閉塞性の機序のもの(胆管炎,胆囊炎)
  14 骨髄炎
  15 septic thrombophlebitis
  16 結核
 II.非感染性
  17 薬剤熱
  18 深部静脈血栓症
  19 結晶性関節炎
  20 副腎不全
  21 コレステロール塞栓症
  22 アルコール離脱
  23 ステロイド離脱
  24 頭部外傷後の発熱
  25 脳外科疾患(術後,脳卒中後)の発熱
  26 悪性症候群の高体温
  27 腫瘍熱

8章 診断に結びつく重要な特殊臨床症候
  1 ぶどう膜炎
  2 強膜炎
  3 舌・口腔内・咽頭病変
  4 両側感音性難聴
  5 無菌性髄膜炎
  6 末梢神経障害
  7 下垂体病変・下垂体炎
  8 腱付着部炎/仙腸関節炎
  9 大動脈・大動脈周囲病変
  10 腸管びらん・回盲部病変・小腸病変
  11 結節性紅斑
  12 白血球破砕血管炎
  13 心膜炎・心嚢液貯留
  14 胸膜炎
  15 精神変容
  16 肺CT上の広義間質病変(広義間質の肥厚)
  17 糸球体腎炎・ネフローゼ
  18 滲出性中耳炎
  19 肥厚性硬膜炎
  20 肺結節影,縦隔内・肺門部リンパ節腫脹
  21 多発脳梗塞

9章 それでもわからないとき
 I.“あらためて”不明熱・不明炎症の考え方
  1 考え方
 II.疾患別に不明熱になるパターンを考える
  2 結核
  3 菌血症・感染性心内膜炎
  4 悪性リンパ腫
  5 リウマチ性多発筋痛症
  6 巨細胞性動脈炎
  7 ANCA関連血管炎
  8 高安動脈炎
  9 再発性多発軟骨炎
  10 結晶性関節炎
  11 脊椎関節炎
  12 成人Still病
  13 菊池病
  14 Crohn病
  15 バルトネラ・コクシエラ感染症
  16 リケッチア感染症
  17 全身性エリテマトーデス(SLE)
  18 Behçet病
  19 固形腫瘍
  20 子宮留膿腫
  21 婦人科手術後の骨盤内リンパ嚢胞感染
  22 悪性症候群
  23 Castleman病・TAFRO症候群

10章 とにかく全然わからないとき
  1 自己炎症疾患をどうするか
  2 機能性高体温症を積極診断する
  3 慢性活動性EBウイルス感染症を忘れない
  4 腫瘍の悪性度とは無関係な,血液腫瘍に伴う炎症病態

付章 こっそり読みたい「不明熱マニュアル 外伝」

索引

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「クニマニア」のみならず,「不明熱・不明炎症」を扱う全医師必携のバイブル
書評者: 鈴木 富雄 (大阪医大病院総合診療科科長)
 この書の「序」は次の文章で始まる。

 不明熱の臨床はざっくりと次の2つの問題を内包しています。

(1) 発熱へのアプローチが不適切で,本来不明熱ではない発熱が「不明熱」とされる
(2) 本当の不明熱は文字通り原因が「不明」なため,臨床では未知の事柄への対処を強いられる

 不明熱の診療を向上させるには「基本と応用」を押さえることが必要です。
 「基本」というのは(1)に,「応用」は(2)に対応する力にそれぞれ相当します。


 この書は主に(2)に関して“expert opinion”を世に発信し続けていた編者が,気鋭の執筆陣とともに,今回は(1),(2)の対処に関する記述を連結し,不明炎症(不明熱の定義には当てはまらないが持続する原因不明な炎症性病態)も含めて網羅した上で,臨床で実践しやすい形に編集したもので,コンパクトながらその実,全編480ページに及ぶ意欲作である。

 さて,この渾身の一冊に私達はどのように対峙したらよいのであろうか?

 初学者であれば,日常診療の中で疑問を抱いたときに,目次や索引を利用して辞書のように使用してみることをまずはお勧めする。実践の中での問題意識を持って該当ページを読み込むことにより,不明な病態を解き明かす必要な知識が自然に身についてくる。目の前の症例に即して詳細な記述を照らし合わせ,先人たちの知見を自らの血肉にしていく,その過程こそが極めて大切なのだ。

 経験豊富な指導医であれば,ぜひ一度まとまった時間を見つけて,8章の「診断に結びつく重要な特殊臨床症候」の記述だけでもよいので,アンダーラインを引きながら通読していただきたい。今までの診療の中で経験的に感じていたことや,ある程度までつかめていたが確信が得られなかった臨床的感覚が論理的な根拠を持って言語化され,クリニカルパールとして落とし込める喜びを感じられることであろう。

 この書は多数の著者での執筆となっており,執筆者たちの臨床的背景により記述内容の厚みや焦点の当て方にそれぞれの個性が感じられるが,その中でも編者であり最も多くの項目を執筆している國松淳和医師の担当部分のニッチな味付けは際立っており,マニュアルとなったこの書の中にも國松節はしっかりと息づいている。

 「基本」と「応用」の絶妙なバランスの上に立ったこの一冊は,評者のような「クニマニア」(勝手に名付けてみました)のみならず,初学者からベテラン指導医まで,「不明熱・不明炎症」を扱う全ての医師にとって欠かすことのできない必携のバイブルとして,長く愛されるものになるであろう。
通読後も折に触れて読んで使い倒していくべき本
書評者: 萩野 昇 (帝京大ちば総合医療センター第三内科学講座講師〔血液・リウマチ〕)
 COVID-19の波が世界を押し流している。まさしく「パンデミック」の風景であるが,このパンデミックは各社会が内包する脆弱性を片端から明らかにしつつある。わが国の診療現場においても,少なからぬ数の「システムエラー」が明白になったが,その一つに「日常診療において『発熱患者』に対してどのようにワークアップすればよいのか,きちんと理解して診療している医師は決して多くない」という不都合な事実がある。卒前の医学教育において,疾患ごと・臓器ごとの縦割りの教育(そのメリットが幾分かは存在することは,旧世代の医学教育を受けた者としては,一応留保をつけておきたいところではあるが)を受け,卒後の臨床現場では多くはon-the-job trainingの形で,教える側の医師の専門性に大きく偏った教育が施される現状であれば,今後もしばらくは慣性的に現状が維持されるのではないかと悲観せざるを得ない。

 そのような状況で出版された『不明熱・不明炎症レジデントマニュアル』は,「遷延する発熱=不明熱」ならびに「不明炎症」という,非常にありふれていながらぞんざいな扱いを受けてきた症候に対して,多くの分野の専門家が寄稿する形でまとめられた1冊であり,まさにwith COVID-19の一著としてふさわしい内容である。編集者の國松淳和先生はすでに類似テーマで『外来で診る不明熱―Dr. Kの発熱カレンダーでよくわかる不明熱のミカタ』(中山書店,2017),『「これって自己炎症性疾患?」と思ったら―疑い,捉え,実践する』(金芳堂,2018)などのスマッシュヒットを飛ばしておられるが,今回のレジデントマニュアルは過去の単著よりもやや基本的なレベルに読者対象を絞っており,「レジデント」が踏まえておくべき内容として適切と思われる。一方で,「コアな國松ファン」にとっては,やや食い足りない感じも否めないが,そういう読者に向けては國松節全開の10章「とにかく全然わからないとき」,付章「こっそり読みたい『不明熱マニュアル外伝』」が準備されている。ただし,付章については「コアな國松ファン」は立ち入り禁止の札が立っているので,そういう意味でも「こっそり読みたい」。

 章立てとして「検査(4章)」「疾患(5,7,9章)」「症候(6,8章)」と分けられているのも素晴らしい。疾患・症候がわざわざ2群に分けられていることからは,最初からまれな事象を考えるべきではなく,同時にまれな事象を見落としてはならないという編者のニッチな切り口がうかがえる。言い換えると,5章から9章に至るまでの流れには「病名がなくてもできること」があるだろうという編者の思想をバックグラウンドとして見てとることができる。

 「コアな國松ファン」であると同時に「不明熱・不明炎症屋」の端くれとして,自分ならどう書くだろう,と考えたとき,「状況による分類」をもう少し前面に打ち出すのではないか,と思った。つまり,本書では「渡航関連感染症」のみ「状況」が明記されているが,それ以外にも「高齢者・超高齢者」や「透析患者」「担がん患者」という切り口があっても良い。第2版以降に期待したい。

 総括すると,本書はレジデントマニュアルシリーズの他の本と同様,1回軽く通読して「脳内にOSをインストール」し,折に触れて(不明熱・不明炎症の患者を診療する度に)該当部分を読んで使い倒していくべき本である。お手元に置かれることを強くお薦めしたい。

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