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WHO推奨
ポジティブな出産体験のための分娩期ケア

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あの正常出産ガイドライン「WHOの59カ条」が、「推奨項目56」に刷新された。原著“WHO Recommendations:intrapartum care for a positive childbirth experience”は、WHOがGRADEアプローチを採用し、22年ぶりに改訂。本書はその翻訳本。推奨項目に沿った女性中心のケアを提供することで、産婦はポジティブな出産が体験できる。

分娩期ケアガイドライン翻訳チーム
発行 2021年03月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-04197-3
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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日本語版推薦のことば

 出産・出生は,お母さんにとっても,赤ちゃんにとっても,人生で最も重要な出来事の1つです。その多くが喜ばしい体験となる一方で,この出産・出生は,人生で最も命を落としやすい時期の1つでもあります。
 世界保健機関(WHO)では,今まで行われた研究を検証した上で,出産にかかわる医療行為の要・不要を明らかにして,基本的な方針をまとめています。この出産の基本的な方針は,作成されて以来,何度も修正を重ねながら世界中で利用されてきました。この基本的な方針のおかげで,多くの国で妊産婦や新生児の死亡率が下がりました。
 今回の基本的な方針では,初めて,「ポジティブな出産体験のための」という言葉が入りました。この言葉には,作成委員たちのある思いが込められています。
 現在,世界中の国で,現場で行われる医療行為が増え続けています。例えば,全出産に占める帝王切開の割合もその一例で,過半数を超える国も少なくありません。ただ,その要因は一様ではありません。
 医療の進歩により新たなリスクが明らかになることや,妊娠・出産の高齢化,生活習慣病関連など,背景にある妊婦自身のリスクが増えている場合もあります。また,医療提供側の要因としては,医療訴訟を懸念してという場合や,帝王切開であれば発生するさまざまな業務を管理しやすいという場合,また,大小含めてできるだけリスクを避けたいというあいまいな危機意識から,さらには,その方が医療提供側にとって収入になるからというような要素もあります。帝王切開はもちろん命を救うために行われる医療行為です。
 慣習的に医療行為をしたり,流行りの医療行為に偏ったり,避けたりするだけでは,本来の目標を見失う可能性があります。
 刻々と変化する出産のプロセスの中で,この「できるだけ安全で,できるだけ喜ばしい体験となる」という目標を常に意識しつつ,きめ細やかな状況観察に応じて,各医療行為の要・不要を継続的に柔軟に適宜判断していくことが重要になります。
 新しい「知」が増え,考えるべきことも増えている医療現場で常に目標を具体的に定め,出産に臨むお母さんやご家族と,医療スタッフの間で共有しておくことが大切だと思います。そこには,お母さんや赤ちゃんとのかかわりを含めた広い意味での医療行為もその大切さが増してきます。「ポジティブな出産体験のための」という言葉には,こういった思いが込められています。
 WHOによる出産のガイドライン「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」が日本語に翻訳されて出版される意義は,大きいと思います。作成委員を務めてきた1人として,翻訳にかかわられた皆さんの努力に深く感謝いたします。また,このガイドラインが,これからお産を迎える方々にとって,「手引き」となりますよう,心から願っています。

 2021年1月
 京都大学 客員教授
 ガイドライン作成グループ(GDG)委員
 森 臨太郎

日本語版発刊に寄せて

 この本を,日本で出産にかかわる皆さまにお届けできることを,大変うれしく思います。エビデンスに基づいたケア,という言葉が使われるようになって久しいですが,学校で習ったことや職場で先輩からいわれたケアがエビデンスに基づいているのか考える暇もなく,日々の実践をされている方も多いかと思います。
 この本は,世界保健機関(WHO)が,いわゆる正常分娩の際に,どのようなケアがエビデンスに基づいたものなのかを,厳格な手順に沿って検証し,推奨項目としてまとめたものの和訳です。あるケアをしたとき,それをしないときと比べて産婦や児に何かしら有益なことがあれば,そのケアをすることにエビデンスがある,といえます。有益なことがある,というためには,まずは,あらかじめ決めておいたアウトカムに,そのケアをしたときとしないときとで統計学的な差が出るか,という点が重要です。つまり量的な視点です。どのようなケアを検証し,何をアウトカムとしたか,その統計学的な結果がどうだったかは,各推奨項目に詳しく述べられています。さらにこの検証過程では,質的な視点も重要視しました。つまり,そのケアを,産婦自身や医療従事者がどう捉えているか,ということです。本のタイトルに「ポジティブな出産体験のための」とあるのは,そのためです。長い間,女性にとって出産は命がけでした。今でもそれは変わりません。産婦や児が「生きるか死ぬか」の二択なら,当然「生きる」を選びます。まずは産婦や児が死なないこと,重篤な状態にならないことが,検証過程での一番重要な量的アウトカムです。その上で,「生きるか死ぬか」だけではなく,「どうよく生きるか」つまり質にも目を向けたのが,このWHOガイドラインの特徴です。ある特定のケアが,女性,家族,医療従事者が「よいお産だった」と思えることにつながっているか,というのを質的手法も使って検証し,そのケアを最終的に推奨するかどうかの判断に使いました。
 このような手順で検証された56個のケアは,4つの推奨カテゴリーに分類されています。1つ目は,このケアは,やらないときに比べて産婦や児に何らかの有益なことがあるので実施すべきである,というカテゴリーで,「推奨する」と表現されています。世界の全ての出産で,このケアは実践されるべき,という意味です。2つ目は,このケアをしても,産婦や児には有益でなく,時にはむしろ害があるので,実施すべきでない,というカテゴリー。これは「推奨しない」という表現なので,「やってもやらなくてもいい」と誤解されがちですが,「やるな」「今やっているのだったら,やめて」ということです。これも,世界の全ての出産に当てはまります。「推奨する」「推奨しない」いずれのカテゴリーも,その文章に続く「注釈」が大変重要なメッセージですので,たとえお時間がないときでも,そこは必ず目を通してください。3つ目のカテゴリーは,特定の状況や対象集団のみならやってもよい,というもの。どこでも誰にでもやるべきではなく,つまりWHOにとっては手放しで推奨できないケアです。具体的にどのような状況や対象集団ならやってもよいのか,これまたぜひ注意深く「注釈」や,できれば「エビデンスの要約と考察」までお読みください。最後のカテゴリーは,厳密な研究目的でのみやってもよい,というもの。これは「やるべき」か「やらないべき」か,つまりそのケアでどのような有益性または有害性があるのか,現時点ではエビデンスが不足していて判断できないということです。これらのカテゴリーに入るケアは,大規模研究によって新たなエビデンスが出てくるまで,一般の実践ではやらないでいただきたい,というのがメッセージです。
 WHOがこのガイドラインを作るために厳格な手順に沿って検証をしたのは2017年ですから,この56の推奨項目は,2017年時点のエビデンスに基づいたものです。それから今日まで,またこの先も,量的・質的共に,新しいデータが出続けます。それによって統計学的な結果が変わったり,世の中の変化に伴って産婦の考えが変わったりすることもあり得ます。その場合,WHOはガイドライン作成委員会を招集し,再び厳格な手順で特定の推奨項目を検証したのち,推奨結果を更新する場合があります。そのため,読者の皆さまには,この本を永遠の金科玉条とせず,WHOからの最新情報に常に目を光らせていただくようお願いします。
 エビデンスに基づいたケアが何かがわかって,「やるべき」「やめるべき」といわれても,それを医療従事者1人ひとりが,実際に日々の業務で実践することは,簡単ではありません。いわゆる,エビデンスと実践のギャップ,というものです。推奨項目をまとめるための厳格な手順の中には,このケアを実践するための(あるいはやめるための)ヒト・モノ・カネがどれくらい必要か,現場での実行可能性があるのか,それを導入することで社会的立場が異なる産婦の間での公正性にどのような影響が出るのか,などの検証も含まれています。その上で「やるべき」あるいは「やめるべき」と推奨しています。
 しかし,このガイドラインに限らず,WHOの推奨に強制性はありません。どの推奨項目を,どのように現場に取り入れるかは,その国や現場の判断に任されています。いざ取り入れる場合は,その推奨項目が現場でスムーズに実践できるよう,出産にかかわる全ての関係者が協力体制を組んだ上での,いろいろな準備が必要です。関係者とは,例えば現場チーム,医療施設の責任者,市町村・県・国の行政官,職能団体,医療従事者の教育に携わる関係者などです。国によっては法令の変更が必要になる場合もあるでしょう。もちろん一番重要な関係者は,産婦自身や産婦を支える身近な人々です。現場の医療従事者が1人でできることは限られています。この本が,そのような関係者が集まって何かを準備し始めるきっかけになるとうれしいです。
 なおWHOは,これ以外にも,産前ケア,産後ケア,分娩後異常出血の予防と治療など,出産にかかわるさまざまなガイドラインを出しています。これらの推奨項目に沿ったケアの実践を通して,日本と世界の全ての産婦と医療従事者にとって,出産がポジティブな体験になるよう願っています。

 2021年1月
 前WHO 西太平洋地域事務局リプロダクティブ・妊産婦・新生児・小児・思春期保健課 技官
 国立国際医療研究センター国際医療協力局 専門職
 永井真理

訳者まえがき

 世界保健機関(WHO)は,「持続可能な開発目標3」および新「女性,子供,青少年の健康のための国際戦略(2016~2030)」に従って,母子の救命という従来の目的に加え,母子が力強く成長し健康に生きるための潜在能力を最大限に引き出すことを目指して,本ガイドライン(WHO推奨:ポジティブな出産体験のための分娩期ケア)を発表しました。このような転換の背景には,出産のプロセスの医療化によって,出産のときに発揮される能力が弱められ,出産体験に悪影響を及ぼす傾向が明らかになったことがあります。これまでの分娩期ケアのままでは,母子が力強く成長し健康に生きることが阻まれてしまうのではないかと懸念されるようになったのです。日本においても,妊産婦死亡率や周産期死亡率は世界で最も低い国の1つであるにもかかわらず,近年の妊婦や産後の女性の自殺,産後うつ,乳幼児虐待などは社会的な課題となっています。このような課題の解決のためにも本ガイドラインが活用されることが大いに期待されます。
 本ガイドラインでは,人権に基づくアプローチに従って,産婦が自分の希望を伝えられるようエンパワーされることを前提とし,産婦がポジティブな出産体験を得られるようにすることを目的としています。ポジティブな出産体験とは,産婦がそれまで持っていた個人的な想いや期待を満たしたり,あるいはその期待を超えたりするような体験のことです。それは臨床的にも心理的にも安全な環境で,思いやりがあって技術的に優れたケア提供者や付き添い者から,実際的で,情緒的な支援を継続的に受けながら,健康な児を産むことを含みます。これは,ほとんどの産婦は生理的な出産を望んでおり,意思決定に参加して個人的な達成感やコントロール感を得たいと考えているという前提に基づいています。医療介入が必要であったり,産婦が介入を望むような場合も同様です。
 しかし,以上の説明だけでは,ポジティブな出産体験のための分娩期ケアの具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。そのような場合は,本ガイドラインを読み進める前に,自分のケアを振り返って,以下の3つを自分に問いかけてみてください。
1)産婦がそれまで持っていた個人的な想いや期待を話しやすくなるように,産婦に接しているか。例えば「忙しくて話を聴く暇はない」という態度を見せていないか。産婦の個人的な想いや期待を「わがまま」「こだわり」と否定的に捉えていないか。
2)ほとんどの産婦が生理的な出産を望んでいると思って産婦に接しているか。例えば「麻酔分娩を希望」と産婦が言ったとしても,実は生理的な出産についての知識や自分の産む力に自信がないからかもしれないと考え,産婦の話を聴いてそれらを確認しているか。
3)産婦が意思決定に参加して個人的な達成感やコントロール感を得たいと考えていると思って産婦に接しているか。例えば「この産婦は自分で産む気がない」「この産婦は自分で選択できない」と決めつけて接していないか。
 日本の分娩期ケアにおいても,ケア提供者(助産師,看護師,医師)には,産婦が自分の希望を伝えられるようエンパワーされているかということに常に敏感になるよう求められているのです。
 産婦が自分の希望を伝えられるようにするためのケアとして,「推奨項目1:産婦を尊重したケア」「推奨項目2:効果的なコミュニケーション」「推奨項目3:(産婦が選んだ人による)出産中の付き添い」「推奨項目4:(助産師主導の)継続ケア」の4つが大きな役割を果たすでしょう。これらは,推奨項目5以降の全てのケアの基盤として提示され,56の推奨項目は1つのケアパッケージとして実施されるべきとされています。
 例えば,推奨項目19は「健康な産婦が産痛緩和を求めた場合には,産婦の好みに合わせて,硬膜外麻酔(以下,麻酔)の使用が推奨されます」という内容です。日本でも麻酔使用が急速に広まっていることから,この項目を例に考えてみましょう。
 ある女性が麻酔を希望した場合,ケア提供者(助産師,看護師,医師)としてあなたはどのように対応すべきでしょうか。例として,3人のケア提供者の対応を以下に挙げます。
【ケア提供者A】本人が決めて求めたことだと判断し,入院に合わせて麻酔の準備をした。
【ケア提供者B】生理的な身体変化,麻酔の方法,副作用,実施時の観察と処置,児との接し方などを,麻酔を選択しない場合の陣痛中の楽な姿勢などと併せて説明し,分娩室にも案内した。
【ケア提供者C】毎回の妊婦健診で女性の表情や声の調子を注意深く観察しながら話を聴いた。また,女性の希望が支持されることを伝え,女性が安心して,気持ちを表出できているかを意識した。
 基盤となる4つのケアに従えば,ケア提供者B・C 両方のケアが満たされなければなりません。しかし,ケア提供者C のようなかかわりを持ちたくても,スキルの不十分さ,スタッフ不足や継続的にゆっくりかかわるための時間や空間の欠如,女性中心のケアの重要性に対する同僚や上司の無理解から,自分にはできない,無理と諦め,自尊感情を低下させているケア提供者がいるかもしれません。本ガイドラインではケア提供者への支援として,政策決定者や政府,また施設管理者が,医療制度によって,コミュニケーションスキルなどの研修,必要なスタッフや報酬,業務改善などを保障することを提言しています。そして,ケア提供者には,産婦がポジティブな出産を体験するために,施設管理者に対して状況を改善するよう交渉することが求められています。
 さらに,本ガイドラインでは推奨項目全体に対して国家的な支援を保障する必要があるとし,政策課題を設定し,政策立案と意思決定を進めること,保健医療のための公的資金を調達する方策を見直すことなどの大変革が提言されています。組織レベルにおいては,本ガイドラインに準拠した院内プロトコルの開発,医療者や他の関係者を対象とした行動変容戦略などが提言されています。
 本ガイドラインの活用方法を記します。「注釈」は,各項目の推奨理由,実践するためのヒント,ケア提供者や関係者に働きかける方法,労働環境の改善などを示唆しており,大変重要な項目です。「主な資源要件」の一覧表は,実践を戦略的に促進させることに役立ちます。「判断のまとめ」や「エビデンスの要約と考察」は,施設管理者,政策決定者,政府に働きかける際,交渉の説得材料として役立てることができます。また今回の日本語版作成にあたり,わかりにくい表現や専門用語,日本の現状と異なる点,ガイドライン発行後の最新情報についてなど,訳者注や巻末の用語解説で補足説明を行いました。本文と併せてご参照ください。
 WHO分娩期ケアモデル(本書204頁参照)が日本でも実施されれば,女性中心のケアによって多くの産婦がエンパワーされ,ポジティブな出産体験を得ることができるでしょう。それは,日本社会において母子がさらに力強く健康に生きることを意味します。本ガイドラインが,ケア提供者,施設管理者,政策決定者や政府の各レベルにおいて,大変革に向けた議論を呼び起こすことを願ってやみません。

 2021年1月
 訳者まえがきメンバー(五十音順):
 古宇田千恵 ドーリング景子 日隈ふみ子



 世界保健機関(WHO)が健康な妊婦とその赤ちゃんのケアのためのガイドライン「Care in Normal Birth:a practical guide」*1を発行してから20年以上が経ちました。前回のガイドライン発行以来,妊産婦サービスを取り巻く世界の状況は大きく変化しました。現在,世界の多くの地域で,医療施設で出産する女性が増えましたが,ケアの質が最適ではないために,望ましいアウトカムを達成できない状態が続いています。ある場所では介入の不足や手遅れが起き,別の場所では介入が過剰だったり尚早だったりしています。
 WHOはこれまで,各国のニーズに応じて,分娩管理の特定の側面や,妊産婦と新生児の死亡および健康障害の主な原因に対処するために,複数のガイドラインを発表してきました。以前の国際課題の焦点は女性と赤ちゃんの救命でしたが,徐々に拡大し,母子がたくましく生き,健康と安寧の潜在能力を最大限に達成することの保証も焦点になりました。これらの取り組みは,「女性・子供・青少年の健康のための国際戦略(2016~2030年)」や「全ての女性,全ての子供」運動によって増大しています。さらに,「持続可能な開発目標2030アジェンダ」の目標3は,全ての年齢層の全ての人々の健康な生活とウェルビーイングの推進を確実にするために世界で取り組むことを認めています。
 持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために,WHOは今後5年間の戦略的優先事項の1つとして,各国の保健システムを強化し,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた進捗状況の迅速な追跡を目指しています。WHOは,全ての人々とコミュニティがニーズに合致し,効果的,かつ良質で金銭的な負担の少ない,健康増進・疾病予防・治療的な医療サービスを確実に入手・使用できるように,国を支援しています。これらの取り組みのうちで絶対に欠かせない部分は,生殖,母性,新生児,小児,青年期などさまざまな健康の分野を横断する必須のサービスのパッケージをデザインすることです。そこから一連の基本的なサービス提供の指標を決め,各国のUHC の進捗状況をモニタリングできます。
 このガイドラインは,社会的・経済的な状況にかかわらず,全ての産婦と赤ちゃんに提供すべき必須の出産ケア実践についての新たな推奨項目と既存の推奨項目をまとめたものです。このガイドラインによって,出産が安全であるだけでなく,女性と家族にとって必ずポジティブな体験となるような出産中の一連のケア方式の提供が進むはずです。このガイドラインでは,女性中心のケアが全人的で人権に基づくアプローチによって出産ケアの質をどのように高められるかについて強調しています。このガイドラインの中で,それぞれの国の状況に合わせて改変することができる出産ケアの新たなモデルの概要を示すことによって,出産中の不必要な介入を減らし,コストを大幅に削減することが可能になるはずです。
 医療者の方々はこの推奨項目をぜひ採用し,現場に合わせて改変してください。そうすることで,女性とその新生児のためのケアが,人を中心とし,エビデンスに基づいた包括的なケアであるためのよい基盤ができるはずです。

 世界保健機関
 家族・女性・子供の健康グループ
 事務局長補佐
 Princess Nothemba Simelela

訳者注*1:邦訳は戸田律子(訳)『WHOの59カ条 お産のケア実践ガイド』農山漁村文化協会,1997年。

謝辞

 世界保健機関(WHO)のリプロダクティブヘルス・研究部門(RHR)と妊産婦・新生児・小児および青少年の健康部門(MCA)は,多くの方々や組織がこのガイドライン作成に貢献してくれたことに対し,心から感謝申し上げます。
 RHRのOlufemi Oladapo,Mercedes Bonet,A. Metin Gülmezogluが,このガイドライン作成にはじめに着手しました。Olufemi Oladapoがガイドライン作成プロジェクトのコーディネートを行いました。RHRのAna Pilar Betrán,Mercedes Bonet,A. Metin Gülmezoglu,Olufemi Oladapo,João Paulo Souza,Joshua Vogelと,MCAのMaurice Bucagu とAnayda PortelaがWHO本部運営グループのメンバーとしてガイドラインの作成プロセスを管理しました。WHO本部スタッフであるRajat Khosla,Frances McConville,Özge Tunçalpも,ガイドライン作成のさまざまな段階で貢献しました。WHO地域アドバイザーであるMavjuda Babamuradova,Karima Gholbzouri,Bremen De Mucio,Mari Nagai,Léopold Ouedraogoは,このガイドラインの技術的な相談役として貢献しました。
 ガイドライン作成グループのメンバーのHany Abdel-Aleem,Fernando Althabe,Melania Amorim,Michel Boulvain,Aparajita Gogoi,Tina Lavender,Silke Mader,Suellen Miller,Rintaro Mori,Hiromi Obara,Oladapo Olayemi,Robert Pattinson,Harshad Sanghvi,Mandisa Singata-Madliki,Jorge E. Tolosa,Hayfaa Wahabiにも,WHOより心から感謝します。また,Pisake Lumbiganon とJames Neilsonは技術的な相談のまとめ役となってくれました。
 ガイドライン作成プロセスの中で広く意見を求めた際に,世界中の多くの関係者から寄せられたフィードバックについても感謝を申し上げます。特に,このガイドラインで使われたコクラン系統的レビューの著者の方々には,レビューの執筆や更新における協力に感謝します。
 テクニカルワーキンググループのメンバーであるEdgardo Abalos,Debra Bick,Meghan Bohren,Monica Chamillard,Virginia Diaz,Soo Downe,Therese Dowswell,Kenneth Finlayson,Frances Kellie,Theresa Lawrie,Julia Pasquale,Elham Shakibazadeh,Gill Thomsonは,方法論の専門家として支援をしてくれました。Therese Dowswell とFrances Kellieは関連するコクラン系統的レビューの更新をコーディネートしてくれました。Edgardo Abalos,Monica Chamillard,Virginia Diaz,Julia Pasqualeは,上記のレビューのエビデンスの質評価を実施してくれました。Edgardo Abalos,Debra Bick,Meghan Bohren,Soo Downe,Kenneth Finlayson,Elham Shakibazadeh,Gill Thomsonは,ガイドラインに含めるための追加の系統的レビューを行うチームをまとめてくれました。Theresa Lawrieは全ての系統的レビューから得られたエビデンスプロファイルをダブルチェックしてくれました。Theresa Lawrieはまた,テクニカルワーキンググループの他のメンバーやWHO本部運営グループと共に,対応する要旨の記述と判断のまとめの枠組みを作成してくれました。Theresa LawrieとOlufemi Oladapoは,WHO本部運営グループやガイドライン作成グループにレビューを受ける前の最終ガイドライン文書の下書きをしてくれました。
 最終的な技術的相談のオブザーバーとして貢献してくれたさまざまな組織の代表者の方々,Diogo Ayres-de-Campos[International Federation of Gynecology and Obstetrics (FIGO)],Mechthild M. Gross[International Confederation of Midwives (ICM)],Petra ten Hoope-Bender[United Nations Population Fund(UNFPA)],Mary Ellen Stanton[United States Agency for International Development (USAID)],Alison Wright[Royal College of Obstetricians and Gynaecologists(RCOG)]にも感謝します。Blami Dao,Justus Hofmeyr,Caroline Homer,Vanora Hundley,Barbara Levy,Ashraf Nabhanは,外部レビューグループのメンバーとしてガイドライン文書の査読をしてくれました。
 このガイドラインの仕事はUSAIDと,WHOにより実行された協賛プログラムであるUNDP‒UNFPA‒UNICEF‒WHO‒World Bank の,人間の生殖に関する研究と研究トレーニング開発のための特別プログラムによる助成を受けました。助成団体の見解は,このガイドラインの内容に影響を与えていません。

 編 Green Ink(英国)

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訳者一覧
日本語版推薦のことば
日本語版発刊に寄せて
訳者まえがき

謝辞
ガイドライン作成に携わった外部専門家とWHO職員

1章 要約

2章 方法
 2.11 推奨項目の作成

3章 推奨項目とエビデンス
 3.1 分娩全体にわたって行われるケア
  3.1.1 産婦を尊重したケア(推奨項目1)
  3.1.2 効果的なコミュニケーション(推奨項目2)
  3.1.3 出産中の付き添い(推奨項目3)
  3.1.4 継続ケア(推奨項目4)
 3.2 分娩第1期
  3.2.1 分娩第1期潜伏期と活動期の定義(推奨項目5)
  3.2.2 分娩第1期の所要時間(推奨項目6)
  3.2.3 分娩第1期の進行(推奨項目7~9)
  3.2.4 出産のための入院基準(推奨項目10)
  3.2.5 入院時の骨盤計測(推奨項目11)
  3.2.6 入院時の慣例的な胎児のウェルビーイング評価(推奨項目12,13)
  3.2.7 会陰部または陰部の剃毛(推奨項目14)
  3.2.8 入院時の浣腸(推奨項目15)
  3.2.9 内診(推奨項目16)
  3.2.10 出産中の継続的な胎児心拍数陣痛モニタリング(CTG)(推奨項目17)
  3.2.11 出産中の胎児心拍数の間欠的聴診(推奨項目18)
  3.2.12 痛みの緩和を目的とした硬膜外麻酔の使用(推奨項目19)
  3.2.13 痛みの緩和を目的としたオピオイド系鎮痛薬の使用(推奨項目20)
  3.2.14 痛みの緩和を目的としたリラクゼーションの技法(推奨項目21)
  3.2.15 痛みの緩和を目的とした手技(推奨項目22)
  3.2.16 分娩遷延の予防を目的とした産痛緩和(推奨項目23)
  3.2.17 飲水と飲食(推奨項目24)
  3.2.18 産婦の姿勢や動き回ること(推奨項目25)
  3.2.19 腟の洗浄(推奨項目26)
  3.2.20 分娩の積極的管理(推奨項目27)
  3.2.21 慣例的な人工破膜(推奨項目28)
  3.2.22 早期の人工破膜とオキシトシン投与(推奨項目29)
  3.2.23 硬膜外麻酔を使用している産婦へのオキシトシン投与(推奨項目30)
  3.2.24 抗けいれん薬の投与(推奨項目31)
  3.2.25 分娩遷延を予防するための静脈内輸液(推奨項目32)
 3.3 分娩第2期
  3.3.1 分娩第2期の定義と所要時間(推奨項目33)
  3.3.2 硬膜外麻酔を使用していない産婦の分娩体位(推奨項目34)
  3.3.3 硬膜外麻酔を使用している産婦の分娩体位(推奨項目35)
  3.3.4 いきみ方(努責の方法)(推奨項目36)
  3.3.5 硬膜外麻酔を使用している産婦のいきみ方(努責の方法)(推奨項目37)
  3.3.6 会陰の創傷予防の手技(推奨項目38)
  3.3.7 会陰切開の方針(推奨項目39)
  3.3.8 子宮底の圧迫(推奨項目40)
 3.4 分娩第3期
  3.4.1 子宮収縮薬の予防的な投与(推奨項目41~43)
  3.4.4 臍帯遅延結紮(臍帯結紮を遅らせること)(推奨項目44)
  3.4.6 臍帯牽引(推奨項目45)
  3.4.7 子宮底マッサージ(推奨項目46)
 3.5 新生児のケア
  3.5.1 慣例的な鼻腔や口腔の吸引(推奨項目47)
  3.5.2 早期母子接触(推奨項目48)
  3.5.3 母乳育児(推奨項目49)
  3.5.4 出血性疾患の予防のためのビタミンK投与(推奨項目50)
  3.5.5 沐浴とその他の出生直後の新生児ケア(推奨項目51)
 3.6 産後早期の褥婦のケア
  3.6.1 子宮の硬さの評価(推奨項目52)
  3.6.2 合併症なく経腟分娩をした褥婦への抗生物質の投与(推奨項目53)
  3.6.3 会陰切開を受けた褥婦への慣例的な抗生物質の予防的投与(推奨項目54)
  3.6.4 定期的な産後の母体評価(推奨項目55)
  3.6.5 合併症のない経腟分娩後の退院(推奨項目56)

4章 本ガイドラインの実施:WHO分娩期ケアモデルの導入

5章 研究への示唆

6章 普及

7章 適応性についての課題
 7.1 本ガイドラインが分娩期ケアの構成に与える影響の予測
 7.2 ガイドラインによる影響のモニタリングと評価

8章 ガイドラインの更新

9章 文献

付録 用語解説
訳者あとがき
索引

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満を持しての発刊
書評者:佐藤 秀平(エルム女性クリニック院長)

 周産期にかかわる医療職の方々は,この書評を読むまでもなく,もう既に2021年3月に発行されるのを待ちわびて購入された方が多いと思います。満を持しての日本語訳版の発刊と言っても良いでしょう。原語版(英語)が2018年に発表されてから3年目にしてようやくでしたが,ボリュームの多い原語版だったので,読み切るのにも時間を要し,大きな話題になることも少ないままでこの3年が経過していました。私も今回,日本語版を読むに当たり,まずは原語版を一度読み通してみました。

 25年前の原語版タイトルは「Care in Normal Bith:a practical guide(正常分娩ケア:実践ガイド)」ですが,今回の分娩期ケアガイドラインを一通り読むことで,「ポジティブ」「出産体験」という用語を新たに用いた目的は,このガイドラインを通して貫かれていることに気が付くと思います。

 出産にかかわるガイドラインは,私たち,すなわち主に「異常妊娠や分娩」が守備範囲である医師がかかわっていることが大部分です。医師主導の場合だと,どうしても背後には「見落としを減らす」「医療訴訟を減らす」「ハイリスクへの対応」「医療介入による予後の改善」という,一部過剰な検査や処置に向かうことでの予後の改善,という幻想に歯止めがかけられず,研究のエンドポイントも,多くの正常分娩に対してのエンドポイントよりも,むしろ異常分娩に対するエンドポイントを設定した研究に主体が置かれてしまいがちです。しかし,多くの出産は,本来,生理的なものであり,しかも介入により,むしろ正常経過から逸脱してしまったりする場面が多くなることが,以前から指摘されていました。異常妊娠・分娩から見た経過は,確かに正常からの逸脱を発見することが重要ですが,しかし,医療行為によって,その逸脱が大きくなることに,実は多くの医師は気が付いていないということがあります。

 ちょうど,日本での産婦人科医師中心の日本産科婦人科学会の周産期委員会で,それまで分娩経過の評価を古典的なFriedman曲線から,Zhangらの定義に変更する提案がされましたが,これによって経過が異常とされた「生理的な分娩経過」の方の多くが帝王切開にならずに済むことが期待されます。

 本書でも触れられていますが,分娩監視装置(胎児心拍数モニタリング)などを継続的に使うことによる弊害は,多くの胎児心拍数モニタリングの教科書には全くと言っていいほど触れられていません。胎内の胎児の状態を唯一明らかにしてくれる情報(幻想)である胎児心拍数をモニタリングすることで,胎児の状態がre-assuring(安心できる状態)であることが安全に分娩できることの必須条件なのです。これによって生まれる児の予後が改善するであろう(幻想)という目的で,ほぼ全ての分娩で行われている検査法ですが,主に医師は,分娩時に装着されていなければ安心できない“non-reassuring doctor”に陥ってしまうのです。産科医療保障制度の再発防止に関する報告書にしても,さらには,助産実践能力習熟段階(CLoCMiP<24C7>)の講習・評価においても,この胎児心拍数モニタリングの異常所見の高い山脈を登頂することが求められている現状では,古式ゆかしきトラウべ聴診器を持ち出すことなど,医師や看護管理職の方たちの前では,とてもできそうにない行為となってしまっているのです。

 私も,学生さんや産婦さんに説明するときには,お産は百人百様,どのお産が正常というよりも,どのお産も個人差があるのが普通で,気を付けなければならないけれど,自然の仕組みをしっかりと守ってお産するのが正解です,と言っています。

 ガイドラインの中には,必ずしもどんな産婦さんでも当てはまることが書かれているわけでもありません。ですから,法律のような第〇条,という条文ではないはずです。WHO/UNICEFの「母乳育児がうまくいく10のステップ」もステップという名称に訳したのと同様に,今回の訳書には,初版のガイドラインのように56条というタイトルは不向きであり,56の推奨項目,として訳されているのは大きな前進です。

 また,現在,エビデンスの中には,まだ検討が不足している部分が多いまま取り残されてしまっていることもあります。例えば,今回の改訂で産痛緩和のことが積極的に取り入れられていますが,もう一人(あるいは複数)の生命,被観察者である新生児への影響や,母乳への影響,授乳への影響などの点は検討されていません。新生児への影響などがエビデンスとしても明らかになった場合は,また別の結論になっていく可能性もあります。また,子宮口が全開大になってからの経過が非常に長くなると,産後の弛緩出血のリスクが非常に高まります。それらのことについても触れられていないというのは,普段から出産や新生児,母乳育児を見ている立場から言えば,物足りなさも感じます。

 ガイドラインを読むときには,まとめられた推奨項目だけを読むのではなく,むしろ,編集をした委員たちの注釈部分を特に深く,そして参考文献を読むべきです。そのことによって,新たな臨床的疑問も湧き出てきます。その疑問を周産期に携わる若い世代の方々が,今後どのようにエビデンスを発見していくのか,普段から一人ひとりの産婦に向き合い,そして,産婦がポジティブな出産体験を得るために,自分たちができることを工夫するという繰り返し,臨床応用することが最も大事なことと言えるでしょう。

 最後にこの推奨項目は,さまざまなリスクのある妊娠や異常分娩においても,ある程度の参考とはなりますが,当てはまる部分は限られたものであることに留意しなければなりません。当然,リスクや異常を早期に発見されて正常分娩の対応と同じようにポジティブな出産体験に結び付けるという工夫も可能です。しかし,リスクを早期に発見し,そして異常を早期に発見することは,このガイドラインを守るために最も重要な役割にもなります。そこには,普段から出産に寄り添う医療職の正しい医学知識と多くの経験が必要とされます。どんなに優秀な人工知能を持ったコンピューターが現れようとも,その役割にとって代わることは不可能なのです。


ポジティブな出産体験とは何か? ケアを見直すきっかけをくれるガイドライン(雑誌『助産雑誌』より)
評者:増澤 祐子(東京医療保健大学 千葉看護学部 助教)

 2018年に,22年ぶりの改訂となるWHOの出産に関するガイドライン“WHO recommendations : intrapartum care for a positive childbirth experience”が出版された。私は,タイトルの“a positive childbirth experience”という言葉を見て,ガイドラインの作成者たちは,どのような思いを込めてこのタイトルを付けたのだろうかと,考えを巡らせたことを覚えている。その出版から3年後の2021年1月,日本語版翻訳書である『WHO推奨 ポジティブな出産体験のための分娩期ケア』(以下,本書)が出版された。待ちに待った日本語版の出版であった。

 世界の人口における英語のネイティブスピーカーはたった6%とされる。英語で書かれた情報を多言語に翻訳することで,多くの人に理解,活用してもらうことができる。多くの日本人がWHOのガイドラインの内容に触れるためには,日本語版翻訳書の出版はとても重要である。本書を手に取り,内容に触れることで,日本の助産ケアにこれからどのような変化がもたらされるだろうかと,心が躍った。それと同時に,このガイドラインの日本語訳を担当してくださった,分娩期ケアガイドライン翻訳チームの皆さんに,心から敬意を表した。私自身,コクランレビューのエビデンスを日本語で広める活動に5年以上関わっており,原文の意図を損なうことのないよう,そして,日本のコンテクストに合った用語や注釈を使用しながら,分かりやすい日本語にすることは簡単ではないと経験から知っているからである。

 200ページを超えるこのガイドラインには,出産をする女性にとっても,その女性をケアする医療従事者にとっても,とても大切な多くの情報が盛り込まれている。56項目の推奨項目に対して,こんなにページ数が多いことには理由がある。それは,ガイドラインの透明性を担保するために,GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチという方法を用いて作成されているためである。日本ではGRADEアプローチを用いて作成されたガイドラインはまだ少ないものの,本書では,用語だけではなく視覚的にも推奨内容が分かりやすいように工夫がなされている。そのため,GRADEアプローチを用いたガイドラインを初めて手に取る方にも,どのような内容について,どのような根拠をもとに判断がなされたのかが理解しやすくなっている。

 どのようにして推奨を導き出したのか,推奨を決定する際に考慮した項目は何か,介入の効果として用いたエビデンスについては,第2章に記載されている。読み飛ばしてしまいがちなこの章も,ぜひお読みいただきたい。介入の効果に用いられたエビデンスは,WHOのガイドラインのために,多くのコクランレビューワーがコクランレビューの更新,または執筆を行っている。私自身,この出産に関するガイドラインではない,別のWHOのガイドラインの改訂のため,たった1本であるが,コクランレビューの更新を経験した。限られた期間の中で,コクランのレビューグループだけではなく,WHOからのレビューコメントも受けて,修正を重ね,コクランレビューの更新の出版に至った。ガイドラインの推奨内容の決定に欠かせないエビデンスにも,多くの方の努力と思いが積み重なっている。

 第3章の各項目の「注釈」には,どのようなことを目的としているのかが記載されているが,それに加えて,ぜひ,「エビデンスの要約と考察」もお読みいただきたい。「価値」や「受け入れやすさ」の項目では,質的研究の系統的レビューの結果を用いて考察されていることが大きな特徴である。これらは,GRADEアプローチを用いたほかのガイドラインでは,患者の意向や希望を調査した研究が乏しく,記載が十分とは言えない項目である。これらの項目の記載が十分になされているのは,このガイドラインの注目すべき特徴の一つではないだろうか。

 数ページでありながらも,第4章には,このガイドラインの作成者の思いが詰まっている。「単に死なないというレベルではなく,力強く健康に生きるというレベル」を目標としたケアモデルをどう実施するか,さまざまな立場での考慮事項も記載されている。

 また研究者にとっては,今後さらなる取り組みが推奨される研究テーマが記載されている第5章は見逃せない。

 本書は,細かな注釈が記載されているため,この1冊で多くの情報が入手できるように工夫されている。「力強く健康に生きる」ために,「ポジティブな出産体験」となる分娩期ケアの普及のために,ぜひ,多くの医療従事者,政策決定の関係者,出産を予定される方に手に取っていただきたい一冊である。

(『助産雑誌』2021年7月号掲載)

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